⁑日本酒完成披露会(3)
「そろそろ、いいかな…」
ヨハンが、僕とカイトのテーブルに来て言った。
「わかりました…行くよ、カイト」
だいぶ飲み進んで、いい感じに酔っ払ってテンションの上がっていた僕は、カイトの腕を掴んで言った。
「あ、ああ…」
あーカイトは、アルコール速攻で分解しちゃうからな…あんまり酔ってないかもしれないなー
緊張した面持ちの彼は…手元の日本酒のグラスをグイッと空けた。
「…よしっ」
気合いを入れた様子のカイトは、スクッと立ち上がって…僕よりも先にステージに向かった。
その後ろ姿を見て、僕はクスッと笑った。
「それでは皆さま…これより、リューイとカイトの特別ステージをお届けいたします!」
ヨハンが皆に向かって、声を張り上げた。
「おおー!」
「待ってましたー」
「頑張れカイト!」
大きな拍手と共に、声援が湧き上がった。
「何が始まるんだ?」
理系男子とフリッツは、目を丸くしていた。
「まあ見ててくださいよ…」
ヨハンが、彼らに向かってニヤッと笑いながら続けた。
「忘れられない日になりますよ」
「…」
「えーそれでは、皆さま…お耳汚しではありますが、これから僕とカイトのパフォーマンスを、お楽しみください」
「何だって?」
「あー…リューイさん、既によく分からない言葉の域に達しちゃってるみたいですね…」
拍手が静まったところで…僕は、例のドラムマシンのボタンを押した。
スピーカーから流れるリズムに乗せて…僕らは静かに、大きなのっぽの古時計を…弾き語り始めた。
「…」
「……」
リズムと、カイトのベースが加わったその演奏は…前回以上に深みを増し、観客を釘付けにしていった。
誰もが、そこにまるで、大きな古時計の絵が見えてくるように錯覚していたに違いなかった。
曲が終わり…余韻が冷めての…ようやく大きな拍手が沸き起こった。
「ありがとうございます…今日は、こんな感じで何曲か演奏させて頂きますが…主役はあくまで日本酒ですので、どうぞ皆さん…飲みながら楽しんでください」
ポローンとギターを鳴らしながら、僕は続けた。
「ちなみに今日歌う曲は…日本酒の故郷で、子ども達がよく歌っている曲ばかりです」
それを聞いたキーファーは、大きく頷いていた。
そして僕らは、前回同様…日本の童謡を何曲か続けて演奏していった。
飲みながら…って言ったにも関わらず…皆、飲むことを忘れたかのように、演奏に集中してくれていた。
最後の曲になった。
「次の曲は、日本の曲ではありません…僕が知ってる地球っていう星にある…このステーションと、とてもよく似ている国の歌です」
僕はポロポロとギターを鳴らしながら続けた。
「このステーションの未来永劫を願って…やっぱり最後は、この曲を歌いたいと思います」
パチパチパチパチ…
拍手が静まったところで…僕らは演奏を始めた。
「Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me〜♪」
この世界でいうなら…神様はやっぱりコアなのかな…
そんな事を考えながら…
僕は、目の中の本物のコアの輝きに向けて、祈るように歌い上げた。
「'Tis grace hath brought me safe thus far And grace will lead me home〜♪」
演奏が終わった。
「素晴らしい!」
「リューイ、カイト…素晴らしかったよ!」
「いやー良かったー」
大きな声援と鳴り止まない拍手の中…僕とカイトは、立ち上がって…皆に向かって頭を下げた。
僕はチラッとカイトの方を見た。
少し汗ばみながら、頬を赤らめた彼は…とても満足そうな表情を浮かべていた。
「いやー本っ当に素晴らしかった!」
「リューイさんもですけど、カイトさんも、物凄く良かったです!」
ヴィンセントは、珍しく若干ドヤ顔で、カイトに向かって続けた。
「全然、無理なんかじゃ無かったじゃないですか!」
「はは…」
「ヴィンセントに怒られたおかげだな」
キーファーはカイトの肩を叩きながら続けた。
「あの機械と一緒に合わせる事で、こんなに素晴らしい音が出来るなんてな…俺には想像つかなかったよ」
「あれも全部、師匠が作ったんですか?」
「そうさ!」
今度はキーファーがドヤ顔になった。
「本当にありがとうございます…何もかも、キーファーさんのおかげですよ」
僕は、彼の両手を握りしめながら言った。
「こちらこそだ…最初は、何が何だかワケが分からなかったけどな…お役に立てて嬉しいよ」
そう言う彼の胸の青い炎も…とても嬉しそうに、鮮やかに燃え上がっていた。
「次は…キーファーさんの番ですね」
「え、ええ?」
「キーファーさんの、二胡ステージですよ」
「いやーあれはむ…」
「まさか、無理とか言わないですよね?」
「…っ」
「あれだけ他人の事けしかけたんだから…自分が出来ないなんて、言うわけないよな…」
カイトもニヤッと笑いながら続けた。
「……」
黙ってしまったキーファーの、胸の青い炎は…
そーれはもう、可笑しくて仕方ないっていう感じで…小刻みに震えながら、チラチラと舞い上がっていた。




