表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/172

⁑日本酒完成披露会(1)

ついにその日が来た。

ついに…我らが日本酒が、フードファクトリーで作られる事になった!


これで、キーファーさんの隠し在庫が無くなっても…あの懐かしく美味しい故郷の味を、いつでも飲めるようになるって事だ。



僕は、達成感でいっぱいだった。

コアを自由に使えるようになったときよりも…

何なら、キーファーさんに楽器を作ってもらったときよりも…


そんな事言ったら、キーファーさんが激怒するから…絶対口には出さないけど。



僕とカイトは、楽器を担いで…まだ他に誰もお客のいないヨハンの店に行った。


「おう、リューイにカイト…調子はどうだ?」

「今日はよろしくお願いします」


僕は、まるで地球にいたときの、ライブハウスのスタッフに挨拶するような気持ちで、そう言った。


「今日はカイトも一緒にやってくれるんだって?」

「…あ、ああ」


カイトは…相当ガチガチに緊張していた。



「何か…大丈夫か?カイト…」

そんな彼を見て…ヨハンが少し心配そうに訊いた。


「大丈夫ですよ…とりあえずエールください」

「そうか?…わかった」



ヨハンが出してくれたエールを勧めながら、僕はカイトの肩を叩いた。


「他の人が来る前に…ちょっと音出してみる?」

「…あ、ああ」


僕は、慣れた感じで、ステージにキーファー社製のドラムマシンとスピーカーをセッティングしていった。


そして試しに音を鳴らしてみた。



「おおおー何だ、この音は!」

ヨハンは驚いて声を上げた。


僕は、ふふんって感じでドヤ顔で言った。


「驚くのはまだ早いですよ…ほらカイト、来て」

「…」


若干渋々な様子で…カイトは楽器を持って、ステージに上がってきた。


「ほおーカイト、様になってるな…カッコいいぞ」

「…っ」


カイトは顔を赤らめながらも、満更でもない表情をしていた。


いいぞヨハンさん、もっと誉めてー

カイトの調子上げちゃってー



「じゃあ、やってみるよ?」

「…わ、わかった」


僕は、ドラムマシンのスイッチを押した。


そして流れてきたリズムに合わせて…僕らは曲を弾き始めた。



「…!!」


ヨハンの、更なる驚きようは、僕から見ても分かりやすいくらいだった。

彼は目を、丸く大きく見開いて…興奮したような表情で、僕らの演奏に聞き入っていた。



「素晴らしい…本当に素晴らしいよ!!」

曲が終わったところで、ヨハンは…ものすごい勢いで拍手をしながら、叫ぶように言った。


「ありがとうございます…」

「いや本当に…この前リューイがやったときも素晴らしいと思ったが…カイトと、その妙な機械が加わったら、何倍も良くなった」


「ね、カイト…すごいでしょ」

「…ああ、カイトがまた、素晴らしい…」


「…」


カイトは少しホッとした様子だった。

本番と同じ条件の中…無事、曲を弾き終えた事で、少しは緊張が治まったのだろう。


しかも…ヨハンがいっぱい誉めて、囃し立ててくれたおかげで、順調に調子も上向いているに違いなかった。



「こんな感じで…こないだやった曲を、やろうと思ってます」

「いいよいいよ…皆、本当に驚くと思うよ」


ヨハンは興奮冷めやらぬ様子で続けた。


「いやあ…感動したよ…こんな素晴らしいものを、誰よりも先に聞かせてもらえるとは…なんて役得なんだ」

「ふふっ…ありがとうございます…」



それから僕らは、もう何曲か合わせてみた。

ヨハンは…ちゃっかり自分もエールを飲みながら、ずっと僕らの演奏に聞き入っていた。



「これくらいにしておこうか…」

「ああ」


パチパチパチパチ…


ヨハンがまた、大きな拍手を送ってくれた。


楽器をステージに置いてテーブルに戻った僕らに、ヨハンがエールのおかわりを出してくれた。


「リューイはもちろんだが…カイトにこんな事が出来るとは…本当に驚いたよ」

「…」


照れ屋さんのカイトは、すっかり顔を赤くしていた。

それでも、店に入って来たときのガチガチな感じは、もう無くなっていた。


調子が上がってホントによかったー



そこへ、ヴィンセントが入ってきた。


「おうヴィンセント、お疲れ」

「ヨハン、今日はよろしくお願いします…料理、もう届いてると思うんだけど」

「そうか、ありがとう…」


言い合いながら、2人は店の奥へと入っていった。



「どう、カイト…ヨハンさんもあんなに喜んでくれたし…少しは緊張ほぐれたんじゃない?」


「うーん…あんまり…」

「あはははっ…」


そう言いながらも…カイトの横顔は、清々しい表情に見えた。


「…」


僕は思わず…

LIVE前の、煙草を吸うヒロの横顔を思い出した。


あの頃は、僕の方が緊張してたけどな…



まさか、こんな風に…全く別の世界にやってきて…

しかも元々音楽なんか無い世界で…

またこうして誰かと一緒に、音楽を奏でる事が出来る日が来るなんて…


まあ、言ったら…ヒロが創った世界なんだけどね



僕は、エールを飲みながら…彼の言葉を思い出した。


そう言えば…

ヒロはどこまで書き進んでるんだろうなー



ひとりでふふっと笑う僕を…

カイトは穏やかに、愛おしそうに見つめていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ