⁑日本酒完成披露会(1)
ついにその日が来た。
ついに…我らが日本酒が、フードファクトリーで作られる事になった!
これで、キーファーさんの隠し在庫が無くなっても…あの懐かしく美味しい故郷の味を、いつでも飲めるようになるって事だ。
僕は、達成感でいっぱいだった。
コアを自由に使えるようになったときよりも…
何なら、キーファーさんに楽器を作ってもらったときよりも…
そんな事言ったら、キーファーさんが激怒するから…絶対口には出さないけど。
僕とカイトは、楽器を担いで…まだ他に誰もお客のいないヨハンの店に行った。
「おう、リューイにカイト…調子はどうだ?」
「今日はよろしくお願いします」
僕は、まるで地球にいたときの、ライブハウスのスタッフに挨拶するような気持ちで、そう言った。
「今日はカイトも一緒にやってくれるんだって?」
「…あ、ああ」
カイトは…相当ガチガチに緊張していた。
「何か…大丈夫か?カイト…」
そんな彼を見て…ヨハンが少し心配そうに訊いた。
「大丈夫ですよ…とりあえずエールください」
「そうか?…わかった」
ヨハンが出してくれたエールを勧めながら、僕はカイトの肩を叩いた。
「他の人が来る前に…ちょっと音出してみる?」
「…あ、ああ」
僕は、慣れた感じで、ステージにキーファー社製のドラムマシンとスピーカーをセッティングしていった。
そして試しに音を鳴らしてみた。
「おおおー何だ、この音は!」
ヨハンは驚いて声を上げた。
僕は、ふふんって感じでドヤ顔で言った。
「驚くのはまだ早いですよ…ほらカイト、来て」
「…」
若干渋々な様子で…カイトは楽器を持って、ステージに上がってきた。
「ほおーカイト、様になってるな…カッコいいぞ」
「…っ」
カイトは顔を赤らめながらも、満更でもない表情をしていた。
いいぞヨハンさん、もっと誉めてー
カイトの調子上げちゃってー
「じゃあ、やってみるよ?」
「…わ、わかった」
僕は、ドラムマシンのスイッチを押した。
そして流れてきたリズムに合わせて…僕らは曲を弾き始めた。
「…!!」
ヨハンの、更なる驚きようは、僕から見ても分かりやすいくらいだった。
彼は目を、丸く大きく見開いて…興奮したような表情で、僕らの演奏に聞き入っていた。
「素晴らしい…本当に素晴らしいよ!!」
曲が終わったところで、ヨハンは…ものすごい勢いで拍手をしながら、叫ぶように言った。
「ありがとうございます…」
「いや本当に…この前リューイがやったときも素晴らしいと思ったが…カイトと、その妙な機械が加わったら、何倍も良くなった」
「ね、カイト…すごいでしょ」
「…ああ、カイトがまた、素晴らしい…」
「…」
カイトは少しホッとした様子だった。
本番と同じ条件の中…無事、曲を弾き終えた事で、少しは緊張が治まったのだろう。
しかも…ヨハンがいっぱい誉めて、囃し立ててくれたおかげで、順調に調子も上向いているに違いなかった。
「こんな感じで…こないだやった曲を、やろうと思ってます」
「いいよいいよ…皆、本当に驚くと思うよ」
ヨハンは興奮冷めやらぬ様子で続けた。
「いやあ…感動したよ…こんな素晴らしいものを、誰よりも先に聞かせてもらえるとは…なんて役得なんだ」
「ふふっ…ありがとうございます…」
それから僕らは、もう何曲か合わせてみた。
ヨハンは…ちゃっかり自分もエールを飲みながら、ずっと僕らの演奏に聞き入っていた。
「これくらいにしておこうか…」
「ああ」
パチパチパチパチ…
ヨハンがまた、大きな拍手を送ってくれた。
楽器をステージに置いてテーブルに戻った僕らに、ヨハンがエールのおかわりを出してくれた。
「リューイはもちろんだが…カイトにこんな事が出来るとは…本当に驚いたよ」
「…」
照れ屋さんのカイトは、すっかり顔を赤くしていた。
それでも、店に入って来たときのガチガチな感じは、もう無くなっていた。
調子が上がってホントによかったー
そこへ、ヴィンセントが入ってきた。
「おうヴィンセント、お疲れ」
「ヨハン、今日はよろしくお願いします…料理、もう届いてると思うんだけど」
「そうか、ありがとう…」
言い合いながら、2人は店の奥へと入っていった。
「どう、カイト…ヨハンさんもあんなに喜んでくれたし…少しは緊張ほぐれたんじゃない?」
「うーん…あんまり…」
「あはははっ…」
そう言いながらも…カイトの横顔は、清々しい表情に見えた。
「…」
僕は思わず…
LIVE前の、煙草を吸うヒロの横顔を思い出した。
あの頃は、僕の方が緊張してたけどな…
まさか、こんな風に…全く別の世界にやってきて…
しかも元々音楽なんか無い世界で…
またこうして誰かと一緒に、音楽を奏でる事が出来る日が来るなんて…
まあ、言ったら…ヒロが創った世界なんだけどね
僕は、エールを飲みながら…彼の言葉を思い出した。
そう言えば…
ヒロはどこまで書き進んでるんだろうなー
ひとりでふふっと笑う僕を…
カイトは穏やかに、愛おしそうに見つめていた。




