⁑LIVEに向けて
その翌日の訓練後…
僕らは、タウンには行かず…先日買った(コアと交換して貰った)ワインで乾杯していた。
カイトは、終始ご機嫌斜めだった。
斜めと言うよりは…緊張のせいで、いつになく口数が少なくなっていると言ったらいいか。
「はあー」
ヴィンセントの店から、便利機能で宅配してもらった、美味しいつまみにも手を付けず…カイトは大きな溜息をついた。
「人前で演奏するの…そんなに嫌?」
僕は、心の中でクスクスと笑いながらも、真面目な顔で訊いた。
「…嫌じゃ無いさ…ただ…」
カイトは、ワインをゴクゴクと飲みながら続けた。
「そんな事は初めてだから…どうしたらいいのか、よく分からない」
僕は、彼を諭すように言った。
「誰にだって、何だって初めてがあるでしょ?」
「…」
「僕だって…初めて訓練に連れて行かれたときは、本当にどうしようって思ってたんだよ」
「…」
「カイトのベースは、とても上手だと思う…何なら、僕よりもずっと素質があると思うんだ」
「そんな事はないだろ」
「ううん、カイトは…僕が地球で、何年もかかってやっと覚えた事を…あっという間に理解した」
「…」
「しかも、体内メトロノームも持ってるから、テンポもリズムも正確だし…」
「…何を持ってて、何が正確だって?」
「…とにかく…僕よりスゴいって事!」
「…」
それでもなかなか、腹を決められない様子のカイトに向かって、僕は静かな口調で続けた。
「カイトは…ここで僕が訓練して、割とスムーズに強くなったのを見て、どう思った?」
「ああ…スゴいと思った…少し羨ましいくらいだった」
「そうでしょ!」
言いながら僕は、彼の手をそっと握った。
「僕も、それと同じ気持ちなんだよ…カイトが、スムーズに上手に弾けるようになった事を、羨ましいくらいに思ってるんだよ」
「…」
「ね、やってみよう?」
「…」
カイトは…大きく溜息をつきながら、ついに観念したように言った。
「…わかった…お前がそこまで言うなら…」
「ああーよかった…」
僕はそのままバサッとカイトに抱きついた。
「ありがとう…ホントに嬉しいよ」
「…」
彼は、僕の髪を撫でながら…ふふっと笑った。
「そうだな…お前が、そんな風に喜んでくれるのが…俺にとってもいちばんだからな…」
「…」
僕は、ゆっくり腕を緩めると…カイトの顔を見つめた。
そして、そっと彼に口付けた。
口を離れたカイトは、ニヤッと笑って続けた。
「その代わり…しっかりご褒美もらうからな」
「…はいはい」
笑いながら答えると、僕はパッと彼から離れた。
「その前に、練習するよ」
「…ご褒美の後に練習じゃダメなのか?」
「ダメ!」
「……」
それから僕らは、楽器を取り出してきて…ポロポロと弾き始めた。
ときどきワインを飲みながら…キーファー社製ドラムマシンに合わせて、何度も何度も曲を繰り返した。
カイトのベースとドラムマシンの、一体化した安定したリズム隊のメロディーに支えられて…前回と比べたら、何十倍も深みのあるハーモニーが織りなされていた。
それに乗せて、僕はとても気持ち良く歌い続けた。
「これ、もう1回やってもいいか?」
「もちろん…」
何だかんだ言ってた割に…カイトはすっかり練習に夢中になっていた。
僕らはとても長い時間…飽きる事なく弾き続けた。
そんな風に…酒を飲みながら、誰かと一緒に音楽を奏でられる事が…僕にはとても懐かしく、そして楽しくてたまらなかった。
この世界で…
また、こんな感覚を味わう事が出来るなんて…
しかも、大好きなカイトと…
「…」
「本当に…嬉しそうだな…」
曲を歌い終わって、満面の笑みでワインをゴクゴクと飲む僕の横顔を見ながら、カイトは小さい声で呟いた。
「何か言った?」
「あ、いや…何でもない…」
(こんな顔が見れるなら…)
カイトは少し頬を赤らめながら…続けた。
「今日はもう遅い…そろそろ最後にしよう」
「そうだね…」
そして僕らは、最後にアメージンググレイスを合わせた。
「良い曲だ…」
「うん…あ、カイトもちゃんと曲って言った」
「曲だろ…で、歌」
カイトは、僕のくちびるを指差しながら言った。
「うん…そうそう…」
カイトはそのまま、その手で僕の顎を掴むと…今指差したくちびるに…自分のくちびるを重ねた。
「…ん…」
「曲は俺でも弾けるけど…歌は、お前しか歌えない」
口を離れたカイトは、穏やかに微笑みながら言った。
「そんな事は無いと思うよ…きっと皆やった事が無いってだけで、本当は上手いかもしれない」
「俺には無理だ…」
「…」
言ってからカイトは、ハッとした表情になった。
「そーいう事言うと…やらせたくなっちゃうなー」
「いや、無理だ…本っ当に、無理だ!」
「…っ」
「頼む、これ以上は…勘弁してくれ…」
「……」
本当に、本気で必死にそう言う彼を見て…
僕は可笑しくてたまらなかった。
「しょうがないな…わかった…」
「…っ」
カイトは、心の底からホッとしたような表情を見せた。
僕は、クスクスと笑いながら思った。
実は、ベースも…
録音して流すって手もあるんだけどね…
気付いてないみたいだから、黙っておこうかな




