⁑日本酒完成に向けて
同じ日…ヴィンセントは、再びフードファクトリー階の、ノエルの元を訪れていた。
ヴィンセントは…昨夜の様子と皆の意見を、ノエルに語って聞かせた。
「…そうか…そうだよな」
ノエルは、溜息をつきながらも…さも思惑通りな表情で、ふふっと笑った。
「僕も、どちらも捨て難いと思います」
「俺は全然構わないよ…どうせ最終的に、作るのは機械が勝手にやってくれるわけだし…」
彼は、ニヤッとしながら続けた。
「言ったら、2種類の醪のコアを作れるかどうかは…ヴィンセント次第だからな…」
「あー…昨夜もそんな事を言われました…やっぱり、そう言う事なんですよね」
半ばの諦めと、未知の作業への不安が織り混ざっての…ヴィンセントの表情は複雑だった。
「これからデベロッパーに、掛け合いに行くか」
「そうですね…リドリーさんには昨夜のうちに話してありますし」
「そうなのか?」
「はい…リドリーさんも、かなり乗り気でした」
それから彼らは、連れ立って…デベロッパー階の、リドリーの部屋を訪れた。
「ノエル、久しぶりだな…調子はどう?」
「ああ、絶好調だ」
ノエルとリドリーは、言い合いながら握手を交わした。
「で、あれだよな…昨夜の酒の話だろう?」
リドリーは言いながら、ヴィンセントの方を見た。
「はい…お願いできますか?」
「例によって…今度はヴィンセントを小ちゃくすればいいんだろう?」
「…??」
「ヴィンセントの力を凝縮するっていうか…ヴィンセントの力で作った、醪っていう酒の原料のコアを作って欲しいわけだ」
いまいち理解が追いつかないヴィンセントに代わって、ノエルが口を挟んだ。
「…なるほど、ワインやエールと同じ事だな」
「そうだ」
「わかった…やってみよう」
「…」
「大丈夫…出来るよ」
緊張で、スッカリ余裕の無い表情で固くなっているヴィンセントの肩を…リドリーは、優しく叩きながら続けた。
「リューイの音が、ついてるだろ?」
「…っ」
そしてヴィンセントは、リドリーの指示の元…例のメロディーを聞きながら、持てる力を最大限に発揮した。
その日、見学も終えたカイトと僕は…再びヴィンセントの店を訪れた。
僕らのすぐ後に、キーファーもやってきた。
「お疲れ様です、キーファーさん」
「で、どうなった?」
キーファーは、日本酒製造の進み具合が、気になって気になってしょうがない様子だった。
ヴィンセントは、勿体ぶった感じで、皆にエールを出してから…ニコッと微笑んで言った。
「今、リドリーさんが、原料のコアを作ってくれているところです」
「本当か!」
「やったー!」
僕らは手を叩いて喜んだ。
「じゃあ今日は…ヴィンセントさんもお疲れ様だったんですねー」
「あはは…まあ、はい…」
彼はまた、枝豆を出しながら続けた。
「なので、今日は残り物しか無くて、すいません」
「全然大丈夫です…むしろそんな、お疲れのところに押し掛けてすいません…何なら、またカップラーメン持ってきましょうか?」
「あ、それもいいですね」
「持ってこい、リューイ」
「はいはいはい…」
僕はすぐに…部屋からシュッと、カップラーメンを4つ持ってきた。
「今日はヴィンセント慰労会だな」
カイトの掛け声で、僕らは再びジョッキを掲げた。
ほどなく、皆でカップラーメンを啜りながら…ヴィンセントが切り出した。
「その…ちょっとご相談があるんですけど…」
「何ですか?」
「何か作って欲しいのか??」
「あ、いえ…その、日本酒っていうのが完成したら…ヨハンの所で、お披露目会をやれたらいいなと思ってるんですよ」
「おお、いいね」
「また、オールスター勢揃いの会ですね!」
「何が勢揃いだって?」
「あはは…いやその、前に僕が歌ったときみたいに、みーんなが集まるって事ですよね」
「そうそう、そうなんです…そういう会にしたいと思ってるんです」
ヴィンセントは、続けた。
「で、もしよろしかったら…そのときに、またリューイさんに歌ってもらえないからと、思ってるんですけど…」
「いいですよ…」
僕はしれっと続けた。
「今度は、カイトと2人でやります」
「…!!!」
それを聞いたカイトは、飲んでいたエールを吐き出しそうな勢いで、驚いた。
「本当ですか!?」
「おおーカイト、例の2本のやつ、出来るようになったのか!?」
「無理だ…」
カイトは反射的にうっかり言ってしまった。
「ああっ…無理って言ったなー?」
すかさずキーファーが突っ込んだ。
「…っ」
僕は冷静に、両者を窘めるように続けた。
「無理じゃないよ…今のカイトなら、全然大丈夫」
「いやいやいやいや…」
「おい、カイト」
完全に逃げ腰のカイトに向かって…キーファーは、少し怒ったような声で言った。
「ヴィンセントだって、無理って言ってたのを、頑張ってやり遂げたんだぞ?」
「そ…それとこれとは、ワケが違うだろ」
「違いませんよ…カイトさん」
「そーだ、カイト…俺だって、あのニコってやつ、地道に練習してんだぜ」
そーなのか…
テディさん…さぞや喧しい事だろうな…
思いながら…
僕は、カイトの腕を掴みながら穏やかな口調で、説得するように言った。
「カイト、やってみようよ…せっかくあんなに上手に弾けるようになったんだもん…皆にも聞かせなきゃ、もったいないよ」
「……」
皆の…期待と責めの入り混じったような、強い視線に晒されたカイトは…居た堪れなくなった様子で、絞り出すような声で言った。
「わ、わかったから…もうこの話は終わりにしよう」
そしてカイトは…
また勢いよく、カップラーメンを啜った。




