⁑ 部屋で食事をしてみたが…
買い物を終えて、僕らは48階に戻ってきた。
僕はまた、自分の部屋と思う扉の前に立った。
「うーん惜しいな…1つ行き過ぎた」
「…」
僕は1つ手前の扉の横のボタンに手を翳した。
シュッと扉が開いた。
「!!!」
と、開いた扉の先の、ちょっと広い空間に…
さっき僕がピピッとした商品が、全部届いていた。
「ええー何で、どうして、どうやって!?」
「それもコアの力で、それぞれの部屋に空間移動できるように技術が開発されたんだよ」
「…スゴいなあー」
僕は心の底から呟いた。
いやもうホントに、何とかえもんの道具でしょ
「エルン…ちょっと来てくれないか?」
急に、フォーンから声が聞こえた。
「了解、すぐ行く」
エルンはフォーンに向かって答えた。
「…」
「じゃあ悪いけど、俺はこれで」
僕は慌てて訊いた。
「あ、すいません、これ、あの電子レンジに入れたらいいんですか?」
「…」
つい勝手に電子レンジと言ってしまった僕に、
エルンは、ふふっと笑いながら答えた。
「そう、袋を開けて…あの機械に入れて、手を翳せば出来上がり」
「…色々ありがとうございました」
僕は頭を下げて、彼にお礼を言った。
エルンは黙って、手を振って出て行った。
「ふぅー」
僕はとりあえず、そこに届いていた食料品を、全部キッチンに運んだ。
エルンに選んでもらった、このステーションに関する本は、プライベートルームに持っていった。
音楽が…無いのか…
その事実は、僕の一抹の希望さえ打ちのめした。
せめて、音楽があれば…
ちょっとは経験が活かせたかもしれないのに…
大人しく訓練に励むしかないのかー
「〜♪」
僕はまた、自分の曲を口ずさんだ。
こんなに簡単に歌えるのに…
この世界の人たちは、何で「歌う」事を知らないんだろう…
僕はそのまま、いろんな歌を口ずさみながら…
届いた物の中から、適当に選んでレンジに入れた。
またも30秒もかからないうちに、シューっと出来上がった物がせり出てきた。
湯気が立っていて、とても美味しそうだった。
「…いただきます」
戸棚からフォークを探し出して、僕はキッチンのテーブルで、それを黙々と食べた。
うん…美味しいけど…
やっぱり何かつまんないな…
色々困るけど、やっぱり昨日みたいに、お店で食べる方がマシなのかも…
ほどなく食べ終わってしまった僕は、また困った事に気付いた。
ゴミ箱ってどれだ?
てか、ゴミはどうするんだろう…
色々見回したり、そこら辺をバタバタ開けたりして…
僕はキッチンの隅にある、壁に取り付けられた、パカッと開くダッシュボードのような物を見付けた。
開けてみると、そこは暗い穴になっていた…
何だコレ…
ブラックホールみたいだな…
不気味なその穴を、バタンと閉じて…
僕はフォーンに向かった。
どうしよう…
エルンは何だか忙しそうだったし…
僕はしばらく考えて…フォーンに手を翳すと…
小さい声で、言ってみた。
「…カイト、いますか?」
「なんだ?どーした?」
すぐに返事が返ってきた。
「あの…聞きたい事があるんですけど…」
「うん、なに?」
「ゴミはどうしたらいいですか?」
「…ゴミ?」
カイトは、はあ?っていう感じで返してきた。
あーあれか、またゴミってのが通じないのか?
仕方なく僕はまた、とても丁寧に言い直した。
「食事したあとのトレーを、どこに捨てたらいいのか教えてください」
「…」
フォーンの向こうで、彼の溜息が聞こえた。
「今そっち行く」
そう言ってカイトは、プツンとフォーンを切った。
僕は手を翳して扉を開けた。
ほどなくカイトが、隣から出てきた。
「ストアに行ってきたのか…」
僕の部屋に入りながら、彼が言った。
「あ、はい…エルンに連れてってもらいました」
カイトは、キッチンの…さっきのブラックホールに続くダッシュボードを開けた。
「トレーとか、使わなくなった物は、全部ここに入れて」
やっぱここか…
「回収されて…また新しく作り変えられる」
「そうなんですか!」
素晴らしいリサイクルシステムだ!
「ありがとうございます…」
「他に何か、わかんない事ある?」
うーん…ほぼほぼ、わかんない事しか無いですけど
「シャワーの使い方とかわかる?」
「あ…いいえ」
まあどうせ、
そこは手を翳せば何とかなる気がしますが…
カイトは浴室に僕を誘った。
「このボタンでお湯が出る…ソープはこっち」
やっぱりね…
そしてふと、思い立って…僕は訊いた。
この…服の洗濯は、どうしたらいいですか?
「ああ…脱いだ服はここ…」
洗面所の脇にも、横空きのダッシュボードのようなドアがあった。
「だいたい1時間くらいで、洗浄される」
言いながら彼がそこを開けると…
既に綺麗になって乾燥した服が入っていた。
「…」
カイトは、そっとそれを…手に取った。
「あの…前の日に…お前が着てた服だ…」
カイトは、そう呟くと…僕が見ているのも忘れて…
その服に自分の顔を埋めた。
「…」
「…あっ…ごめん、悪かった、これもう一回ここに入れとくな…」
慌てて彼は、またそれをそこに戻した。
「じゃあまた…わかんない事あったら言って…」
そう言って帰ろうとしたカイトに、
僕はまた、思い出して訊いた。
「あ、あの…明日は、何時に訓練に行ったらいいんですかね…」
「…」
「…その…時間は、何で見たらいいんですか?」
カイトはまた、溜息をついた。
「それもわかんないのか…」
「?」
「わかった…俺が行くときに、また声かける」
「…」
「そしたら支度して、ルイスの所に行ったらいい」
「…わかりました、よろしくお願いします」
そして、扉を開けて…別れ際に、彼は言った。
「その…時間も、実はみんな、自分の体内で感じられる筈なんだ」
「…えっ」
僕の返事を待たずに、シューっと扉が閉まった。
「…」
この世界は、基本…体内時計なのかー
それは…無いと非常に困るな…




