⁑利き酒大会
翌日、約束通り…
僕らはヴィンセントの店に集まった。
エルンとリカルド…リドリーも呼ばれていた。
またもカウンターは満席になっていた。
「レオの調子はどう?」
「ああ、ちょうどさっき…ジョシュアに付き添われて自分の部屋に戻ったところだ。そろそろ訓練に復帰してもいいんじゃないかな」
「そうか、よかった…」
「ふうーおかげで、ようやく俺も、安心してワインが飲める…」
「すいません、お先に飲んじゃって」
「いやいや…それは全然いいんだ…リューイ達も大変だったんだし…」
「しかもエルンさん、すいません…今日はワインの日じゃないんですよ」
「えっ…そうなの?」
「何か、美味い酒の味見をして欲しいんだってさー」
「美味い酒?」
ヴィンセントは、カウンターに…3本の瓶を並べた。
「あ、それって…あれだろ?…キーファーが隠し持ってたやつだ!」
エルンが思い出して言った。
「だから、隠してる訳じゃないって言ってんのに」
「そうか…今日はそれを飲ませてもらえるのか」
それはそれで、ちょっと嬉しそうに、エルンの目がパーッと輝いた。
「ただ飲むんじゃなくて…どれがいちばん美味しいか、意見を聞かせて頂きたいんです」
言いながらヴィンセントは…ズラッと並べた小さいグラスに、その3本の日本酒を、順々に注いでいった。
「実はね、エルンさん…キーファーさんの隠し在庫が、残り少なくなってきちゃったんですよ」
「だから、その隠しってのやめろって!」
いちいち突っ込むキーファーの事は気にも留めず、僕は続けた。
「で、この度…ヴィンセントさんとノエルさんに協力してもらって…ここで日本酒を製造してもらえる事になったんです」
「へええー…本当か!?」
「それで…今日は皆さんに、試作品の味見に、協力して頂こうって言う日なんです」
「なるほど…」
「そう言う事なら喜んで協力するー」
それからヴィンセントは…小さめのプレートに、3つの小鉢が乗ったものを、それぞれの前に出した。
「そのお酒に合いそうな物も用意しました」
「うわあー…」
僕はまた、それを見て…目をキラキラと輝かせた。
ひとつは、ナスの揚げ浸し…きっと、太陽のコアのおかげで、美味しいナスが出来たんだろう…
もうひとつは…こないだは鞘ごと出てきた枝豆が、今日は玉子焼きの中に入っていた。大根おろしも添えられていた。
そして…
進化したヴィンセントさんの作った、お刺身!!
「ひとつは、キーファーさんが待ってきてくれたものです…で、こっちの2つが試作品」
彼は、日本酒のグラスも…皆の前に並べた。
「キーファーさんのがいちばん美味しいのは間違いないと思います…この、どっちが皆さんのお口に合うか…飲み比べてみてください」
「よ、よーし…わかった」
エルンは、とても真剣な表情で、その並んだ3つのグラスを睨み付けた。
「そんなの…違いが、俺に分かるかな…」
リドリーは、少し自信なさげに呟いた。
「別にそんな難しく考えんなよー」
隣のリカルドがリドリーの肩を叩いた。
「美味いか不味いかくらい、わかんだろー」
「はい、本当に…そんな感じで、気楽に味わってください」
ヴィンセントも言った。
「いただきます…」
そう言って僕は、何はともあれ…その3種盛りを味見していった。
「ああ〜美味しいー」
他の面々も、後に続いた。
「うん…美味いな」
「こーれは、この酒が、ものすごく合うな…」
「やっぱりコレがいちばん美味いな」
カイトが、その中のひとつのグラスを持ちながら言った。
「コレがキーファーのだろ?」
「えっ…違うよカイト…」
「ええっ!?」
カイトは、とても驚いた表情でグラスを見た。
「カイトは本当に味覚が雑だな…」
ププッと笑いながら、キーファーも、美味しいつまみを食べながら、3つのグラスを丁寧に味見していった。
「…」
キーファーの表情が、だんだん真剣になっていった。
「全部美味いー!」
「そうだな、俺もそう思う…」
リカルドとリドリーが言った。
「それぞれ微妙に違うけど、それぞれ美味いな…」
エルンも言った。
「ワインもそうだ…ここで作られるワインも悪くないけど、他所のステーションのワインは、いちいち味が違って、それが美味いんだ…」
「確かに…エルンの言う通りだな…」
すっかり難しい顔になって、少しずつ味わっていたキーファーが続けた。
「酒だけ味わう分には、俺のがいちばんかもしれないが…この、料理と合わせると…むしろこっちの方が美味い気がするな…」
「だろ?」
カイトは、それみろと言った表情で言った。
「リューイさんはどうですか?」
「…」
僕も、悩んでしまった。
キーファーの言う通りだと思った。
キーファーの日本酒も、もちろん美味しかった。
だが、飲み比べてみると…試作品の、どちらかというと辛口に仕上がったやつの方が、より料理に合う気がした。
かと言って…若干甘口の方も、悪くなかった。
「これは…選べませんね…」
「…」
散々悩んで…僕は言った。
「両方、商品化する事は出来ないんですかね?」
「そうだ、どっちも良いー」
「…そうだな…俺も、そう思うな」
皆、口々に言いながら…ヴィンセントの方を見た。
ヴィンセントは、少し困ったような顔で言った。
「出来ない事は…無いと思いますけど…」
「要は、小っちゃいヴィンセントの…1号と2号を作ればいいんだろ?」
「そうですね…」
「ヴィンセントとリドリーが、ちょっと頑張れば済む話なんじゃないのか?」
「…」
「えっ…俺もか…」
リドリーは、少しハッとした様子で呟きながら、ヴィンセントと顔を見合わせた。
その他5人は…期待に満ちた、キラキラした眼差しで、2人を見つめていた。




