⁑日本酒(3)
「そうだな…俺は、コレかコレで迷うな…微妙に違うけど、どっちも美味い」
「俺はどれも美味いと思う…」
「そうか…カイトの味覚は雑だからな」
とりあえず寝落ちた僕を椅子の上に寝かせて…
キーファーとカイトによる、利き酒大会が続いていた。
「俺も…キーファーと同じ意見だな…最終的に決めるなら、この2つのどっちかだと思う…たぶん」
ゴクゴクと水を飲みながら、少しは落ち着いた様子で、ノエルは続けた。
「だが…もう少し、データを取りたいところだな」
「エルンやリカルドにも、味見させたらいい」
「そうですね…とりあえず、この2種類の試作を…他の皆に飲んでもらって意見を聞きましょう」
そう言うヴィンセントの顔色も…さっきよりは、だいぶ普通になってきた。
「よし、分かった…」
そう言ってノエルは…その選ばれた2種類を作って、ワインの瓶に詰めると、それをヴィンセントに手渡した。
「ありがとうございます、ノエルさん…早速皆さんに味見してもらいますね」
「そんな酔っ払いで、これから店を開けるのか?」
「あー…そう…ですね…」
「明日にしよう…皆に声をかけておくよ」
キーファーは、続けた。
「リューイがあんなだから、カイトも行けないし…明日改めて飲み比べよう…俺の隠し在庫も持っていくから、また美味いつまみを用意しといてくれ」
「ふふっ…分かりました」
うっかり自分でも、隠し在庫って言ってしまった事に、キーファーは気付いていない様子だった。
「リューイ、おい…リューイ…」
カイトは、僕の身体をゆすった。
「……」
残念ながら、僕は…目覚める兆しが無かった。
「背負って帰るんだな」
「…」
ニヤニヤしながらそう言うキーファーを尻目に…カイトは致し方なく、僕の身体をしっかりと抱き上げた。
「リューイさんの、移動能力のありがたみを…しみじみ感じますね」
「ここの所、ちょっとそれに甘え過ぎてたな…」
「気を付けて帰れよ」
「ノエルさん、お世話になりました…本当にありがとうございました」
「いやいや、こちらこそありがとう…新たな美味い酒を味わえて、楽しかったよ」
ノエルは嬉しそうに続けた。
「早く、完成させたいな…」
「はい…」
そして、ノエルに見送られて…彼らは、フードファクトリー階を後にした。
エレベーターの中で、キーファーがまた、ニヤニヤしながら言った。
「部屋まで一緒に行ってやるよ…両手が使えないから、ひとりじゃドアを開けるのも大変だろ」
「…っ」
僕を抱きかかえたカイトと、キーファーとヴィンセントは、連れ立って戦闘部隊階の、カイトの部屋の前まで来た。
「すまなかったな、ありがとう…」
「ゆっくり休んでくださいね…明日また、お待ちしてますから」
「おやすみ…」
何とかドアを開けられたカイトは、2人に会釈をして、部屋に入っていった。
そして、スーッとドアが閉まった。
「リューイさんが酔い潰れるの…初めて見ました」
「そうだな…本物は、間違いなくそんな事にはならなかったもんな」
2人は、笑い合いながら…長い廊下を戻っていった。
「偽物は、面白いな…」
そう呟くキーファーの胸で、青い炎が、何か思うところがあるかのように、メラッと輝いた。
部屋に入ったカイトは…
何はともあれ、僕をベッドに寝かせた。
「…ん…」
その衝撃で、僕は薄っすら意識を取り戻した。
「大丈夫か?」
「うーん…」
心配そうに見下ろすカイトの顔が、僕の目に映った。
「…頭が…痛い…」
小さい声で言いながら…僕は、あれ?っと思った。
おかしいな…コアの力で、アルコールが分解出来るんじゃなかったっけ??
それでも、そのとき僕は…頭がガンガン痛かった。
まさに飲み会で、調子に乗って日本酒を飲み過ぎた後のようだった。
あー
痛いけど…この感覚、懐かしい…
「しょうがないな…」
ふっと笑って言いながら…カイトは、僕の胸の辺りに片手を翳した。
翳したその手から、よくある感じの陽炎のようなものが、ユラユラと湧き出て…それが、僕の胸の辺りにじわじわと浸透していった。
「…」
みるみる、頭の痛みが引いていった。
「ふうー」
僕は大きな溜息をついた。
「少しは、良くなった?」
「うん…すごく良くなった…」
カイトは、安心したような表情でいったんその場を離れると…コップに水を汲んで戻ってきた。
「ありがとう…」
僕はそれを受け取って…ゴクゴクと飲んだ。
何とか落ち着いて…
僕らは改めて、並んでベッドに横になった。
僕は、カイトの方を向いて言った。
「カイトも…治癒能力持ってたんだね…」
「あ、いや…そうじゃない」
「だって、頭痛いの…治してくれたじゃない」
「あれは…治癒じゃない…」
カイトは、少し恥ずかしそうに続けた。
「俺のは…アルコールを分解出来るだけだ」
「えええーっ!?」
そ、そんなものに特化した力があるんですか!?
「俺も…最近気付いたんだけどな…」
「…」
「いや、肝臓がどうこうって…ヴィンセントに言われただろ?」
「うん…」
「で、それを…何となく、いつもの集中する時間に意識するようになったら…どうやら、そういう力があるらしい事が、自分で分かってきたんだ」
「…」
「で、少し訓練してみたら…それを自在に使えるように…なった…」
「…」
「言ったら…あの音のおかげで…だな」
「…っ」
「だから、今俺の肝臓は…最強だ」
「……」
キッパリ言い切るカイトを見て…
僕は半ば呆然としてしまった。
カイトってば…
公の訓練の時間に、何を訓練してんのよ




