⁑日本酒(2)
「どうですか、リューイさん…」
「…うーん…何をどうしたら良いんだろうな」
「これじゃあダメですか?」
「いや…ダメじゃないです…確かにちゃんと日本酒になってます…でも…」
僕は迷った。
ヴィンセントさんが、あんなに頑張ってくれたのに…
これじゃあワンカップだよ…なんて、ハッキリ言ってしまっていいものか…
「あくまで試作だからな」
そんな僕の迷いを吹き飛ばすように、ノエルが言った。
「エールだってワインだって…何度も失敗したんだ…逆に、もっとどうして欲しいのか、教えてくれ」
「そうですよ、リューイさん、変な気を遣わないでくださいね…どうせ作るなら、美味しい方がいいに決まってますから」
「…すいません」
僕は申し訳ない気持ちになりながらも…改善点を探るために、それを何度も味見した。
「確かにこれも日本酒ではあるんですけど…何ていうか、薄くて混ぜ物が入ってる味がします」
「発酵が足りないんだろうか…機械を調整してみよう…ワインやエールより、もっと強い力が要るのかもしれない」
ノエルはブツブツ言いながら、その機械の横に付いているスイッチに手を翳した。
「ライスの状態は、これで大丈夫なんですか?」
「そうだな…もうひと押し熟成させられそうか?」
「はい、やってみます」
「量を増やしたらどうですかね」
「量を増やすっていうか、濃くしたいわけだから、密度を上げれば良いんだろうな」
「あー…そう言う事ですね」
「それも、この機械で調整出来るハズだ…とにかく、もう1回やってみよう」
そんなワケで…腰を据えて試作に取り組むべく…僕は、ヴィンセントの店から、割と大量のタイ米を、そこへ運んだ。
酵母パワーの要領を覚えたヴィンセントは、それらを一気に熟成させていった。
「さっきより強めににやってみました」
「こーれは…確かに強そうですねー」
ノエルは…その、さっきよりも強そうな臭いを放っている醪を再び機械に入れた。
「かなり強くして、濃度も上げた…あまり量が取れないかもしれないけどな」
そしてまた…試作の日本酒が出来上がった。
僕らはまたそれを味見した。
「…こーれは流石に濃くないか?」
「これはこれで悪くないですけど…かなり上級者向けですね…」
さすがに強力過ぎた。
日本酒の風味はあるものの…何て言うか…
何十年も寝かせた、古酒のような味だった。
いやまあ…そんなの飲んだ事は無いんだけど…
「でも、さっきのよりは…あのキーファーさんのお酒に近い気がしますね」
「通り越しちゃった感じかな…もう少し濃度を下げればいいのか…ヴィンセントさんのパワーを控えたらいいのか…」
「どっちも試してみよう」
そんな心強いノエルさんのひと声もあり…僕らは何度も試作品を作っては、味見を繰り返した。
「うん…美味しいですね」
「あーでも、僕にはちょっと濃いかな」
「俺も、もう少し甘さ控えめがいいな」
パティシエみたいな名前のくせに…
もし日本だったら…何処ぞの地方の、個性的な日本酒ってラベルを貼ればそれでいいレベルには、十分に到達していた。
ただ…製造ラインに乗せる、唯一の味となると…折り合いをつけるのが、とても難しかったのだ。
いつの間にか…僕は、ポーッとしてきてしまった。
「…何か、よく分からなくなってきました…どれも美味しい気がします」
「そうだなー」
「…僕もです」
そう言う2人も、顔が真っ赤になっていた。
要は、酔っ払ってしまったのだー
そうだった…
利き酒をするときは…いちいちホントに飲んじゃダメだったよなー
もう完全に手遅れだけど…
「言ったら、全部美味しいです…日本酒にも色々種類があって…日本人は、時と場合に応じて、色々な味の日本酒を楽しむんですよ!」
「そーなんですか…?」
「最初に出来たのは、サラリーマンが、仕事帰りの電車の中で飲む味でした」
「はあ?」
「その次のは…何か特別な儀式のときに飲む味かなあ…皇族御用達とか、すっごい高いやつ!」
「……」
「何か、ワケの分からない事を喋り出したな…」
酔っ払って、語りが暴走しだした僕を見て…ノエルはヴィンセントに向かって、コソコソと言った。
「あーそうなんです…今のリューイさん、テンションが上がると…僕らの知らない言葉を話すんです」
目の前に並んだ、試作品をちびちび飲み返しながら、僕はニンマリしながら言った。
「何か、楽しいですねー」
「…」
「正確な判断は、今日はもう無理だな…」
「…キーファーさんを…呼びましょう」
ハッと思い立って、ヴィンセントが言った。
「キーファーって?」
「本物の日本酒を隠し持ってる頑固職人〜」
「……」
と言うわけで…
ほどなく、キーファーとカイトが現れた。
まあ、僕が連れてきたんだけど…
「ああ…よかった、カイトさんも来てくれたんですねー」
ヴィンセントが、ホッとした感じで言った。
「知らんが、運ばれた…」
若干、眉間に皺を寄せながら、カイトは言った。
あーうっかりカイトも呼んじゃったー
えへへー
そんなご機嫌な僕らの様子を見て…2人は溜息をつきながら言った。
「すっかり出来上がってるな…」
「一体何の集まりなんだ?」
「日本酒飲み比べ大会〜」
言いながら…
僕は人目も憚らずに、カイトに抱き付いた。
「…っ」
「おいリューイ…皆見てんだぞ…」
「……」
「リューイ?」
「…」
僕はほどなく、カイトに縋り付いたまま…
ズルズルと寝落ちてしまった。
「あーあー」
「そんなに飲んだのか…」
「んーまあ…結構飲んじゃいました…」
「あはははっ…ヴィンセントが、そんなに顔赤くなってるの、初めて見たわ」
キーファーは笑いながら言った。
「どうするか…」
カイトが真剣な顔で呟いた。
「どうやって…ここから帰る?」
「…!」
「…!!!」
そこにいる全員の顔が、青くなった…




