表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/172

⁑フードファクトリー

それから数日後…どこからともなく、鈍い重低音が、地響きのように聞こえてくるようになった。

地下のコア部屋の改修工事が始まったんだろう…



その日、訓練を終えた僕は…

カイトと分かれて、ヴィンセントと一緒に、初めて来る階に降り立っていた。


Food Factory と書いてあった。



「…ここで…ワインやエールを作ってるんですね…」

辺りをキョロキョロと見回しながら、僕は言った。


「はい…もちろんそれだけでなく、調味料や卵…ストアに置いてある食品なんかも、全てここで作ってるんですよ」



そこはまさに、僕が知ってるイメージの中の、食品工場だった。

長い廊下の両側に、透明なガラスで仕切られた大きな部屋が幾つもあり…それぞれの場所で、違う物が作られているようだった。


「ここのリーダーは、食品に関する知識がすごいんです…僕も昔は、色々な事を教えてもらいました」

「そうなんですね…」


なるほど…そんなに知識のある人なら、もしかしたら日本酒の作り方も知ってるかもしれないな…



その廊下をずっと進んで、かなり奥の方まで行った所で、ヴィンセントは、とある部屋のドアのフォーンに向かって言った。


「ノエルさん…ヴィンセントです」


ノエル!?

クリスマスケーキみたいな名前だな…

専門はパティシエさんなのか?


シュッとドアが開いた。


「よう、ヴィンセント…調子はどうだ?」

「おかげさまで、毎日料理が楽しいです」

「それはよかった」


そこに立っていたのは…

パティシエというよりは…何ていうか、洋食屋の若旦那みたいなイメージの…若干ふくよかな、気の良さそうな青年だった。


「彼が、ここのリーダーの、ノエルさんです」

ヴィンセントは、そう言って、彼を僕に紹介した。


「…初めまして」


僕はすぐにそう言って、彼に向かって頭を下げた。


「俺はリューイを知ってるけどな…」


あ、またそのパターンですか…


「でも…こんな風に、ちゃんと会うのは初めてだ」

「そうかもしれませんね」


「だいたい、戦闘部隊のやつらが、わざわざこの階に来るなんて…まず無いからな」

「このリューイさんは、特別に食べ物や料理の事に詳しいんですよ!」


「いやいや…そんな詳しくはないです…ただ単に、食べる事が好きっていうだけです!」

僕は慌てて、両手をブンブン振って言った。



「で…今日は、ワインとエールの製造工程を見たいって言ってたよな?」

「はい」


「案内する…」

「よろしくお願いします」


そして僕らは、ノエルと呼ばれた人物の後について、フードファクトリー階を進んでいった。



「どちらも、基本的な作り方は同じだ…原料が違うんだ」

「やっぱり…ブドウと麦ですか?」

「へえ…よく知ってるな…」


ノエルは、少し驚いた表情で続けた。


「と言っても、どちらも実物があるわけでは無いんだ…だから、本当の原料の名前を知ってる者は、滅多にいない」

「僕も…恥ずかしながら、タウンに店を構えるまで知りませんでした…」



「…どう言う事ですか?」


「ブドウのコアと、麦のコアがあるんだ」

「えええーっ!?」


「それを、コアの力で…発酵させているんだ」

「…!」


そ、そんな所まで…コアの作用なんですねーー!



ノエルは、とある場所で立ち止まると…ガラスの向こうを指差しながら続けた。

「今はエールを作っている所だ」


「おおおー!」


そこにはまさに…大量のエールの瓶が、ベルトコンベアーに乗って流れているっていう…僕の中の、ビール工場の一角のイメージそのものだった!



ノエルは、その隣にあるドアを開けた。

狭いその部屋には、リドリーの部屋にあるような、ひと昔前のコンピューター的な機械が置いてあった。


「これが、コアで発酵させるための機械…で、今ここに入っているのが、麦のコアだ」

「…」



それを見て、僕は思わず呟いた。


「じゃあ…ここに、醪のコアを入れれば…この発酵機で、日本酒が作れるんじゃないのかな…」


「えっ…何を入れて…何を作るって!?」



僕は、ノエルに向かって続けた。


「実は…日本酒っていう…ワインともエールとも違うお酒を、作って頂けないかなと…思ってるんですよ」


「にほんしゅ…それは、どういう酒なんだ?」

「他所のステーションのお酒です」



「まあ、言ったら…ワインもエールも、元々は他所の酒だったんだけどな」

「そうなんですか!?」


「ああ…これは絶対に、ここのステーションの皆の口に合うと思って、俺が製造システムを作ったんだ」

「……」



それを聞いた僕は…改めて敬意の籠った眼差しで、ノエルを見つめながら言った。


「じゃあ、僕らが毎晩のように、エールが飲めるのは、元を辿れば、ノエルさんのおかげなんですね!」

「そう言う事なんですよ」



僕は、思わずノエルの両手を取ると…

力強くギュッと握った。


「あ、ありがとうございます…ノエルさん!」

「えっ…な、なんだよ…」


ここにエールがあるおかげで…

僕がどんなに元気づけられた事か!!



ノエルは、少し顔を赤らめて、ゴホゴホと咳払いをしながら言った。


「で、その…にほんしゅっていうのは、どこのステーションの、どういう酒なのか、教えてくれないか?」


「あ、あーそうでした」

僕は、ハッと思い出して…彼の両手を離した。



ノエルは、その部屋の隅にある戸棚を開けると…中から大きな箱を取り出した。


「桜のステーション…って、何て言えば伝わりますかね…」

僕はヴィンセントに訊いた。


「ああ…あの、ソイソースがあった所です」

「おお、あそこね!」



ノエルはすぐに理解した様子で…その大きな箱を開けると、中を探った。


僕らもその箱を覗いてみた。

中は、幾つもの仕切りに分けられていて…それぞれに小さい瓶が何本も並んでいた。



「一応ね、交流のあった先で見つけた物は、サンプルとして保存してあるんだ」

 

言いながら彼は、その中から小さい瓶を取り出して…蓋を開けて僕に手渡した。


「もしかして…これじゃないかな?」

「…」



僕とヴィンセントは…

その中に入った液体の匂いを嗅いでみた。


「…そうです、これです!!」

「本当だ…」



「わかった…少し待ってて」


そう言うとノエルは…その瓶に両手を翳した。

ほどなく…彼の身体から、ユラユラと陽炎のようなものが湧き上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ