⁑フリッツ慰労会(2)
全員が絶賛したお刺身のあとは天ぷらが出た。
その日の旬の野菜と…まだ残っていた海老の天ぷらも混ざっていた。
当然それも、日本酒が進んだ。
そして最後に…ヴィンセントさんの、今のパワーの真骨頂とも言えるであろう料理が出た!
「こ、これは…」
以前、カツ丼が出た事があった。
その時と同じ器に盛られたそれは…またも僕にとっては、あまりにも懐かしい代物だった。
「牛丼ですよね…」
「…ぎゅうどん…かどうかは分かりませんが…」
「でも、またあの肉を、変化させたんですよね!?」
「んーまあ…そうです」
「こないだの感じで、少し変化させたものを、薄くスライスして…そのライスとお酒に合う味付けにしてみました」
あーそれこそ、まさに牛丼だよー!
心の中で叫びながら…僕はそれを、ガツガツと食べた。
「あああー美味しいーー!」
何とか家の牛丼と、味は似ていたが…
そもそもの肉の味が、何倍も美味しかった。
日本酒をちびちびと飲みながら、僕はあっという間にそれを完食してしまった。
「本当に、肉が美味いな」
「ヴィンセントさん、すごいですねー」
キーファーとフリッツも、絶賛だった。
カイトも激しく頷きながら、黙々と食べていた。
「何だ?…ものすごく良い匂いだな…」
そこへ、ようやくリドリーが…鼻をクンクンさせながら入ってきた。
「おう、遅かったな…調子はどうだ?」
もぐもぐしながらキーファーは訊いた。
「ああ、出来たよ」
リドリーは彼の隣に座りながら、しれっと答えた。
「って言うか、何それ…何食べてんの?」
自分の調子の事より、そっちの方が気になって仕方ないといった様子だった。
「大丈夫、お前の分もあるよ…たぶん」
「もちろんありますよ…」
そう言って笑ったヴィンセントは、リドリーにエールを出してながら続けた。
「お疲れ様でした…何が出来たんですか?」
ホッと安心したリドリーは…そのジョッキを皆に向かって高々と掲げながら、ドヤ顔で答えた。
「フリッツが取り出してくれた、史上最強金属の…量産システムだ」
「もう量産システムまで出来たのか!?」
「ああ」
「本当ですか!?」
「リドリーさん、流石です!」
「…まあ、史上最強ってのは、言い過ぎだけどな…」
リドリーは、エールをゴクゴクと飲んでから続けた。
「既にファクトリーで稼動させてきた…そのあとの着工は、コンストラクター次第って所だな」
「じゃあ今日は、フリッツさんだけでなくて、リドリーさんにとっても慰労会ですね」
「おいおいおい…だったら俺もだろう!」
思わずそう言った僕に向かって、キーファーが勢いよく突っ込んできた。
「あ、そうでした」
「あはははっ…」
そんなリドリーにも、その日の美味しい料理の数々と、それに合う日本酒が出された。
もちろん刺身にも驚いていたが…
何よりも…さっきから気になって仕方がなかった、牛丼を見て…彼はまるで子どものように、目をキラキラと輝かせていた。
大きなひと口を頬張って…
彼はほうーっとした表情で言った。
「こんなに美味しいものが、世の中にあるのか…」
「…」
そんなにか…
思いながらも…僕の頭に…地球時代に、初めて何とか家の牛丼を食べたときの事が蘇った。
「この酒も美味いなぁ…」
「だろう?」
キーファーは、ニヤッと笑いながら…リドリーの肩に手を回した。
「美味いよな」
「ああ…」
「これな…他所のステーションの酒なんだ」
「だろうな」
「もうすぐ…在庫が無くなっちゃうんだよ」
「…そうか、残念だな」
「残念だろ?…もっとあったら良いと思うだろ?」
「ああ、思う」
「よし来た!」
「…?」
「作ってくれるってさ」
えっ…それで交渉成立ですか!?
「だって、小っちゃい俺や、小っちゃいエルンを作れたんだから…小っちゃいヴィンセントくらい何て事ないだろ?」
「…まあな」
答えながらリドリーは、ヴィンセントの方を見た。
「…っ」
ヴィンセントは、とても困ったような顔をしていた。
「そんな…だって僕は、そのお酒の作り方なんて分かりませんから…む…っ」
無理です、と言おうとして…彼はハッと口をつぐんだ。
「リューイ、この酒の作り方知ってるか?」
キーファーが、勢いよく僕に言った。
うわっ…矛先がこっちに回ってきちゃった…
思いながら僕は、おずおずと答えた。
「本格的な作り方はよく分かりませんけど…お米から作るってのは知ってます」
「お米って…」
「それです…その、牛肉の下にあるやつ」
僕は、リドリーの食べかけの牛丼を指差して言った。
「ええっ!?」
「そうなのか!?」
「それを…たぶん、麹菌とか酵母とかで熟成したり発酵させたりして…作るんだったと思います」
「…」
「ワインやエールが作れるって事は、発酵の技術はあるんですよね?…そしたら、お米を…発酵前の醪の状態に変化させる事が出来れば、後は既存の工程でイケるんじゃないかな…」
あくまでもザックリなイメージだけどな…
「……」
当然…皆、ポカーンとしてしまった…




