⁑理系男子の階(1)
その日僕は、ウィルフリードに呼ばれて、初めて降りる階に足を踏み入れた。
エレベーターから、廊下を進んでいくと…いつも戦闘部隊が訓練いている体育館くらいの規模の、吹き抜けのスペースが広がっていた。
そこには、大小様々な色々な形の機械が並び…それの幾つかは、ガタンガタンと大きな音を立てて稼働していた。
「ここは…何をする場所なんですか?」
「コンストラクター…要は、外壁や内装を始めとした、このステーションの建設建築を担っている所だ」
「…なるほど」
いつもの体育館で…訓練中にうっかり壁を破壊してしまう事があったりしたけど…そのうちちゃんと修復されてたのは、ここの人達のおかげだったんだな…
僕らは、その…作業中の工場の中を通り抜けて、奥にある会議室のような部屋に入った。
そこには、先日会ったフリッツと、初めて会う人物が2人…そしてよく知ってるリカルドも来ていた。
「…!!」
しかもリカルドは…こないだ中華街で買った、派手なシャツを着ていた。
「リカルド、似合うなそれ…」
ウィルフリードが、何でもない感じで言った。
「でしょ?」
「…」
いいんだ…?
別に服装自由なのか…
だったら僕も、毎日このパツパツじゃなくてもいいんじゃないのか?
「戦闘部隊さんは制服あるから残念だねー」
「…」
そんな僕の思いを見通したように、リカルドは、ふふんと笑いながら言った。
僕は若干ムッとしながら…彼の隣に座った。
「おそらく今のリューイは初めてだろう?」
ウィルフリードが、知らない2人に言った。
「今のリューイって?」
「ああ、記憶がどうとかって言ってたよな…」
「僕の事も完全に忘れてましたからね…」
溜息をつきながらフリッツが言った。
「そうだったのか…色々大変だったな、リューイ…俺はアルバート…よろしく」
「何か変な感じー…俺はサバ…アルバートはここのリーダーで、僕はその一番弟子」
「…」
ここ、割と師弟関係多いんだな…
「…そういう関係なんだよー」
そんな風に思った僕の耳元で、隣のリカルドがらボソッと囁いた。
「…っ」
あ、そーゆう事ですか…
そーゆう関係の方々も、割と多いんだなー
「よ、よろしくお願いします…」
いかにも理系男子っぽい、シュッとした2人に向かって…とりあえず僕は、ペコッと頭を下げた。
「でも、リューイのアイデアなんでしょ?…地下の外壁を強化しようって話…」
サバと名乗った人物は、どちらかというと軽いイメージだった。リカルドほどでは無いが…
「…あ、はい…まあ…」
そうか、言い出しっぺだから、また呼ばれちゃったんだな…
「リューイは、例の黒いステーションのコアの断末魔を見届けた、唯一の人物だからな」
ウィルフリードが言った。
「そうだったのか…」
アルバートと呼ばれた人物は…サバとは対照的に、落ち着いた貫禄を醸し出していた。
「記憶を失くした上に、そんな壮絶な体験をしたのか…それは、大変だったな…」
「…」
その低い声が…
思わずキュンとするほど心地良かった。
「そのときの事…辛いかもしれないけど、彼らにも話して聞かせてくれない?」
リカルドが言った。
「…わかりました」
そして僕はまた…例の黒いステーションに突入した後の事を、2人に語って聞かせた。
「モニターで見たよ…その、触手みたいなヤツ!」
サバが、若干震えながら言った。
「あれを…間近で見てたのか…」
フリッツも、深妙な表情で言った。
「何としても…ウチのコアを、同じ目に遭わせたくないと…強く思いました…」
下を向いてくちびるを噛みしめる僕を見ながら、そこにいる誰もが大きく頷いた。
「あの黒いステーションの外壁は、どんな金属で作られていたのかな」
「ていうか、その触手の方が何かが知りたいな…」
「ごめんねーそういうのは、俺らの力じゃ分析出来ないんだよねー」
リカルドが申し訳なさそうに言った。
「我々の出来る限りの中で、最大級の守備力を目指そう」
「ま、それしか無いですね」
「ちなみに、タングステンは…いつでも使えるようにしておきました」
フリッツがしれっと言った。
「大改修工事になりそうだな…」
「久々のデカい仕事だね」
理系男子2人は、ワクワクしたように、目をキラキラと輝かせていた。
「その…タングステンってヤツに…こないだの守備能力を混ぜ込むとかってのは、難しいんですか?」
ふと思い付いて、僕は提案した。
「…金属にコアのパワーを?」
「そういう事に…なりますか」
「うーん…」
「そしたら、その…タングステンよりも強い金属に…なりそうな気がするんですけど…」
あくまで、素人考えだけどな…
「考えた事も無かったが…確かに一理あるな」
甘く響く低音ボイスで、アルバートが言った。
「まあ、コアの力で物質を変化させる事は出来るからね…実際、ここの生活は、全てコアの力で成り立っているわけだから」
そっか…
太陽のコアで植物を育てたり…
電気を点けたり…
たぶん、水もコアの力で浄化されてるんだろうな…
フリッツは、僕に説明するように続けた。
「言ったら、その硬い金属を…加工するための機械を動かすのもコアの力だからね…」
「なるほど…そういう事なんですね」
「ただ…その金属そのものに、融合させるってのは…」
「…」
「残念ながら、僕にはその方法が思い付かない」
「…」
皆が黙ってしまったのを見て…
リカルドが、ニヤッと笑いながら言った。
「例の、厄介事担当係に持ち込みますか」
「…っ」
それってもしかして…
のんびり二胡を練習しようと思ってる人とかですかね




