⁑シメのラーメン
中華色満載の美味しい料理をつまみに紹興酒を飲みながら…僕らは何度も二胡の演奏を聞いた。
「いやー美味かった…この美しい音のおかげで、何倍も美味く感じたな」
「じゃあ、毎日流しておきましょうかね」
「あ、いやもちろん…無くてもヴィンセントの料理は美味いけどな」
キーファーは慌てて言い直した。
「でも、本当に…そう言う効果もあるのかもしれませんね…実際、地球の…こういうお料理を食べるお店には、必ず音楽が流れていましたから」
「そうなんですね…」
そして僕は、例のものを思い出した。
「そうだ、最後にシメで…カップラーメンを食べてみましょうか!」
「何で何を食べるって!?!?」
キーファーが…また変な事を言い出したっていう表情で訊いた。
「リューイさんが持ってきてくれた…コレですね」
ヴィンセントは…さっきのカップラーメンを取り出すと…そのパッケージをしみじみ見ながら続けた。
「確かにここにも漢字がいっぱいですね…リューイさん、読んでください」
「…」
残念ながら、あまりに中国語な漢字ばかりだったもんだから…さすがに僕にも読めなかった…
ただ、数字の3だけは理解した。
「お湯を入れて、3分経ったら出来上がりです」
さも…その中国語を解読したような空気を醸し出しながら…僕は、その作り方を説明した。
「えええーっ…そんな簡単でいいんですか!?」
「そんな簡単なんです…カイトでも作れるっていうのが、このカップラーメンのコンセプトですから」
ヴィンセントは、さっそく封を開けて…半分まで開けた容器に、お湯を入れていった。
「見た感じ…ストアにあるものと、少し似てますね」
「あ、確かにあれもカイトでも作れますもんね」
「いちいち俺を出してくんな」
「…いい匂いだな」
まさにカップラーメンの…あの、香ばしい感じの匂いが、辺りに漂っていた。
「そろそろ3分ですね!」
3分を、容易く身体で計れた。
この世界に来て…こんなに体内時計が便利だと感じた事が、他にあっただろうか…!!
「あとは…蓋を完全に剥がして、よくかき混ぜたら出来上がりです」
ヴィンセントは、言われた通りに、それをグルグルとかき混ぜながら言った。
「…こんな感じですか?」
「はい、いいと思います!」
それから彼は、小鉢を4つ出して…そのカップラーメンの中身を、上手に4等分に取り分けながら呟いた。
「確かにこれは、カイトさんが好きそうですね」
「ですよね!」
以前に、ここで…カイトに出された、唐辛子たっぷりのラーメンに…その赤い汁の感じが、とても似ていた。
「いただきます…」
そして僕らは、それを一斉に食べ始めた。
「うん、かなり美味いな」
「美味い美味い!」
「あーこれはホントに、カイトさん好みの味ですね」
それはまさに…
僕が知っているカップラーメンだった。
さすがにこんな、中国製の赤い汁の辛いのは、地球で食べた事は無かったが…それでもその麺は、とても懐かしい食感だった。
少し郷愁に耽りながら…僕はその味を噛み締めた。
食べ物って…本当に大事なんだな…
僕はしみじみ思った。
ヴィンセントさんは、いつも僕の口に合う料理を出してくれる…
大好きな魚のフライや、ホワイトソースはもちろん…懐かしい日本食から、世界の色んな料理まで…
彼のおかげで…この世界で、食べ物に対するストレスは、ひとつも感じた事が無かった。
あのストアのごはんも、決して不味くは無いけど…あればっかりだったら、ここでの今の僕は無かったかもしれない。
「ヴィンセントさん…ありがとうございます」
「え、だってこれは、リューイさんのお土産じゃないですか!」
「いや…改めて…ヴィンセントさんの料理のありがた味を、ひしひしと感じました」
「…そんな急に、どうしたんですか」
「ここで、美味しいものを食べさせてもらえるおかげで…僕は、偽物人生を生きていけてるんだなって…」
「偽物人生…っ」
キーファーが吹き出しながら続けた。
「…確かにな…美味い物を食べられるってのが…当たり前の事だと思ってたけど…そうでない世界や、ステーションが…あるのかもしれないな」
「そうですよ!」
僕は力強く続けた。
「地球には…食べ物が少なくて、生き延びる事さえ難しい国もありました」
「…そうなんですね」
「数あるステーションの中にも…きっと似たような環境で、いつもお腹を空かせている人たちが、いるのかもしれません」
「…」
「僕たちは、恵まれてるって事なんですね…」
「そんなこと…考えた事も無かったな…」
何となく…深妙な雰囲気になってしまった。
僕はちょっと慌てて、続けた。
「しかも、カイトみたいな人しかいなかったら…毎日カップラーメンしか食べられないですからね」
「あーなるほど、ヴィンセントがいてこその…俺たちは恵まれてるって事なんだな…」
「そういう事です!」
「だから、いちいち何で俺を出してくるかなー」
カイトが、また拗ねてしまった。




