表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/172

⁑二胡

「リューイ来てるか?」


キーファーの声が響いた。


「来てますよ、カイトさんも一緒です」

ヴィンセントがすぐに応えた。


「俺を連れてけって頼んでくれる?」

「あ、はい」


「…聞こえてますよ」

言いながら僕はすぐに、キーファーをシュッと連れてきた。


知っていて、居場所も分かっている人や物を移動させる事は、いつの間にか何でもないくらいに簡単に出来るようになっていた。


鉛筆で漢字を書くっていう、久しぶりの懐かしい遊びに夢中になっていた僕は…ふと、ここに来たばかりの、コアを感じる訓練に勤しんでいた頃の事を思い出した。



「キーファーさん、何ですか、それ!?」

ヴィンセントが叫ぶように言ったのを聞いて、僕はハッと顔を上げた。


「…!!!」

「それって…さっきの、アレじゃないのか?」

カイトも驚いて言った。



「ふふーん」


若干ドヤ顔でニヤッと笑ったキーファーの手には…まさかの、二胡が握られていた。


「どうしたんですか、それ!」

「リューイに言われて俺が作ったヤツに、あまりにも似てたもんだから…」


「買った…いや、もらったんですか!?」

「だいぶコアを使ったけどな…」


そりゃーそうだろう…

地球で買おうと思ったって、10万は下らないだろうからなー


「もしかして、リューイなら使えるんじゃないかと思ってさ」


言いながら彼は、それを僕に差し出した。


「…」


僕はそれを受け取りながら…申し訳なさそうな表情で言った。


「残念だけど…これは、あれとは全然弾き方が違うんです…僕には弾けません」

「そうなのか!?」


「弓が付いてたでしょう?」

「ああ…これか?」


キーファーは、細い弓も僕に手渡した。


「これは、僕のみたいに弦を弾くんじゃなくて…弦をこれで擦って音を出すんです」



言いながら僕は、試しにそれを弾いてみた。


ギイィィ…


変な音が出た。


「あすこの人が出した音と、全然違うな…」

カイトが思わずそう言った。


「…でしょ?…あんなに良い音を出せるようになるには…それこそ何万時間かかるかわかりませんよ…」



「そうなのか…」

キーファーが、少し残念そうにシュンとしてしまったので、僕は慌てて録音機を取り出した。


「実は、あのお店の人に弾いてもらったのを、しっかり録音してきたんです!」

「そうか…リューイも行ったのか…」


「本物の二胡の演奏を、是非聞いてください」


言いながら僕は、カウンターの隅に置きっ放しのスピーカーに向けて、それを再生した。



ほどなく、美しい二胡のメロディーが、とても良い音で流れてきた。


「おおお…」

「何て素晴らしい音なんですか…」



キーファーとヴィンセントは、目を閉じて、その音色に聞き入っていた。


その間に…僕はまたノートに「二胡」と書いた。



曲が終わって、ポーッとしている彼らに向かって、僕はその文字を見せた。


「二胡って言うんですよ、それ」

「にこ…?」


「それで、にこって読むのか?」

「はい」


「ってリューイ、それはまた何だ!?」

キーファーが、ノートと鉛筆を見て、更に驚いた様子で言った。


「これは僕がもらってきたんです」

「ちょっと見せてくれ…」


キーファーは、僕の手からノートと鉛筆を受け取ると…ペラペラと捲りながら、それをしみじみと眺めた。


「この…細い棒で書くのか?」

「そうです」


「画期的だな」

「今まで無かったのがおかしいです」


「しかも何だ、この…訳の分からない文字は…」

「かんじって言うんですって…ほら、この袋に書いてあるのと同じ言語なんですって!」


ヴィンセントが、さっきの搾菜の袋を見せながら続けた。



「たぶん、桜のステーションで使ってるのと、同じ言葉だと思いますよ」


僕はキーファーの隣に行って、鉛筆を取ると…彼の目の前で、ノートに「桜」と書いた。


「これで、さくらって読みます」

「…へええー」


また僕は…さっき3人の名前を書いたその後ろに…「キーファー」を付け足した。


「これが、キーファー」

「……」


「この、棒線みたいなのが、2つもあるな…」

横から覗き込んだカイトが言った。


「リューイにもあるのに、俺には無い」


何かちょっと悔しそうだった。


「あ、でも僕とカイトさん…最後の文字が同じですよ…それに、リューイさんの最後の文字と、カイトさんの真ん中も同じだし」

「…あ、本当だ…そうだな」


ヴィンセントに宥めるように言われて…カイトは気を取り直していた。



何そんな事で勝負してんだか…

子どもじゃあるまいし


「俺も…使ってみてもいいか?」

「もちろんです…どうぞ、書いてみてください」


キーファーは、受け取った鉛筆を…まるで持ち方を知らない乳児のように、辿々しく握った。


「何だよ、全然思うように書けないな」


そっか…本当に、生まれて初めて持ったんだ…

あの、チョークみたいなのと鉛筆は、そう言えば、持ち方が全然違うもんな…


「その…フォークを使うときのように、持ってみてください」


「…こうか?」

言われてキーファーは、必死でフォーク持ちにしてみた。


「な、なるほど…確かに、ちょっとはマシになったな」


そしてキーファーは…面白そうに、線やら円やらを、殴り書きしていった。


それはまさに…

乳児の落書きにしか見えなかったが…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ