⁑漢字
続いてヴィンセントは…搾菜の乗った豆腐を出しながら、僕に訊いた。
「この…上に乗ってるのも知ってますか?」
「たぶん…ザーサイですよね…」
「ザーサイ…って読むんですか…これ」
彼は…漢字で「搾菜」と書いてある袋を見せてくれた。
「そうです!」
「…ホントか?…お前ホントに、これ読めんのか?」
疑わしそうに僕を見たカイトに向かって、僕は逆に言ってやった。
「漢字は読めないんだね?」
「は?…かんじって何だ」
「うーん…説明するのが難しいな…」
面倒くさそうに言いながら…僕はさっそく、搾菜豆腐も食べてみた。
「美味しい…これも絶対、カイトが好きでしょ」
「うん、美味い」
カイトは、また迷う事無く、ガツガツ食べていた。
ホント分かりやすーい…
そのうちカウンターの中から、ジューッという音と共に、何とも言えない香ばしい良い香りが漂ってきた。
そしてほどなく…おそらく本日のメインメニューであろう一品が、僕らの前に出された。
「こーれーは…!!!」
赤いドロッとした、若干粒々なタレに絡まったそれは…この世界に来てしまったからには、二度と出逢う事は無いだろうと思っていた食材だった。
「エビチリですね!!!」
「はい…エビって言ってました…前に、あのステーションに行ったときに、初めてもらってみたら、もの凄く美味しかったので…今回はいっぱい仕入れてきました」
「うわあー嬉しいなあ〜」
僕らはさっそく、そのエビチリを食べた。
「あああ〜美味しいー!!!」
「うん…美味い、すごく美味いな…」
カイトの口にも、それは合ったらしい。
それがまた、当然だが、紹興酒と最高に合うのだった…
「まさか…ここでエビが食べられるなんて…」
「エビも…地球にあったんですか?」
「はい、ありました」
「そうなんですね…他に、どんな風にして食べるんですか?」
「エビの種類にもよりますけど…エビフライとか天ぷらとか…小さいのは、グラタンやピザにも合いますねー」
「…」
ヴィンセントは、若干ポカーンとしてしまった…
そっか…もしかして…
料理の名前っていう認識が無いのかもしれないな…
なので僕はまたいつものように…丁寧に言い直した。
「僕が好きな、魚の揚げたものとか…前に出してもらった、野菜に衣をつけて揚げるとか…あとは、やっぱり僕の大好きな白いソースに絡めたのとか…」
言いながら、僕はふと思った。
ピザは…そう言えば、出た事が無いな…
どう説明したらいいもんだか
「なるほど…確かに合いそうです!」
とりあえずそこまでは理解して頂けたらしい
ま、そこまででいいか…
「明日はそれにしますから、また是非来てください」
「ホントですか…楽しみにしてます!」
あらかた食べ進んでから、僕はふと思い立って…部屋から、さっきカイトに削ってもらった鉛筆と、ノートを1冊…持ってきた。
「それは…何ですか?」
「今日、買って…いや、もらってきたんです」
そして僕は…そのノートを開くと…最初のページに『海老』の文字を書いて、2人に突き付けるように見せた。
「何だこれ…」
「何て読むんですか?」
「エビです!」
「へええー」
「ホントか!?」
僕は調子に乗って…次々と文字を書いてみせた。
「これも…漢字か?…何て読むんだ?」
「これは、漢字じゃなくてカタカナって言うんだ」
「リューイ、カイト、ヴィンセント…」
「えっ…それで、そう読むんですか!?」
2人は本当にポカーンと目を丸くしていた。
本当に、この人たち…日本語を全然知らないんだ…
「これは読める?」
僕は、簡単な英語も書いてみた。
「fish drink eat 」
「読めます」
やっぱり英語圏なんだな…
おそらく、ヒロが考えた自動翻訳機能が勝手に作動して喋れてるんだろうなー
fish 魚
drink 飲み物
eat 食べる
僕は、それぞれの日本語訳を、横に書いた。
「リューイさん、すごいですね…他所のステーションの人みたいですよ」
「あーたぶん…例の桜のステーションも、同じ言葉を使ってたんじゃないかな…」
と、ヴィンセントは…ハッと思い出したように、戸棚の奥をゴソゴソと漁った。
「まだ残ってました…確かに、似たような文字が書いてありますね、これ…」
彼が出してきた、とても見覚えのある商品をサッと見て…僕はすぐに、それの名前を書いた。
昆布
切干大根
「すごい、合ってます!」
続いて僕は、豆腐とか…紅葉とか…紹興酒とか…
そこら辺に目に付いたものを、どんどん漢字で書いては、ヴィンセントに見せていった。
彼がいちいち感心してくれるので、僕はどんどんドヤ顔になっていった。
「ふうん…」
そんな僕らの様子を見て…カイトが呟くように言った。
「なるほどね、そうやって遊ぶもんなんだ、それ」
「…」
いや、遊ぶもんでは…決してないんですけど…
思いながら僕は…
ある言葉を書いて、それをカイトに見せた。
「何て読むんだ?」
眉間に皺を寄せる彼に向かって、僕は、ふふっと笑いながら言った。
「教えない」
「…何だよ」
パタンと閉じたノートに…僕はこう書いていた。
カイト大好き




