⁑楽しい交流前夜
「指が痛い…」
「あー…そうだよね…あんまり無理しない方がいいんじゃない?…明日はまた出動なんだから」
例の、中国みたいなステーションとの交流の前夜…いつものように僕の部屋でエールを飲みながら…カイトは、あの後すぐにキーファーが作ってくれた、太い弦が2本張られたベースを…練習していた。
無理だと豪語していたのが嘘のように、カイトはとても筋が良かった。
まあ、しっかりフレットに、アルファベットが書かれているので、譜面に書かれた通りの場所を押さえて、弦を指で弾けば良いだけなのだが…
ちなみに譜面は…例の黒板の小さい版を、キーファーにヒョイッと作ってもらって…チョークで書いた。
譜面といっても…
lC lC lF lC l
みたいな感じで、コードのアルファベットを並べて書いただけのものだ。
それでもカイトは…すぐに、コードを覚えた。
コードと音程の関係も、すぐに理解した。
それどころか…僕が鼻歌を歌っているのを聞いて
「お前の歌はCばっかりなんだな…」
なんて事まで言い出すようになったのだ!!
僕にも無い絶対音感を…カイトは、サラッとマスターしてしまったのだ…
指が痛いと言いながらも…予想以上に出来てしまった事が嬉しくて、弾くのが楽しくてしょうがないように見えた。
「カイトの方が、すっかり上手くなっちゃったな」
エールを飲みながら、僕は溜息をついて言った。
「お前も練習しろよ」
「はあー…まさかの本物カイトの口から、そんな台詞が出るなんてー」
言いながら僕は、少し離れた場所に置いてあったギターを…スッと手元に持ってきた。
「そのくらい、歩いて取りに行けよ」
「折角の便利チート能力、使わなきゃ勿体ない…」
「えっ…何能力だって?」
「あはははっ…何でもない」
笑いながら僕は、それをチャラーンと弾いた。
「一緒に…合わせてみようか」
「ああ…」
そして僕らは…チューリップのうたを、演奏した。
「これさ…書いてないけど、合う音だったら、もっと弾いてもいいのか?」
曲が終わってから、カイトが言い出した。
「あ、もちろん…」
「じゃ、もう1回やってみてもいい?」
僕らは再び…チューリップを弾いた。
カイトは、難しい顔をしながら…コードの中のおとを探って、弾き足していた。
すごい…アドリブが出来てる!
ちゃんと合ってる!!
「どうだ…この方が、何て言うか、賑やかな感じになるよな」
「うん、なるなる!…カイト、すごいね」
ヒロが転移してきちゃうくらいだもんな…
カイトは、実は元々、音楽的な才能を持っているのかもしれない…
ていうか…
まあ元々、ヒロが創ったキャラなんだけど…
それから僕らは、簡単な童謡を何曲か合わせた。
カイトは、どの曲も…譜面に無い音を探りながら、更に複雑なリフを編み出していった。
こんな事なら、4弦でもよかったなー
そのうち…またキーファーさんにお願いしよう
そんな事を企みながら…エールもそこそこ飲んで、楽しくセッションを終えた僕らは…ようやくベッドに入った。
「カイトがこんなに弾けるようになるとは思ってなかったなー」
暗くなった天井を見つめながら、僕は呟いた。
「俺もだ」
ふふっと笑いながら、彼は続けた。
「ヴィンセントに怒られたおかげだな…」
「そうなの?」
「なんで無理って決めつけるんですかーって」
「あはははっ…」
カイトが、ヴィンセントの口真似ながら言ったのを聞いて、僕は大声で笑った。
ひとしきり笑いが治まってから…僕はそっとカイトの手を取った。
何度もベースを練習して、少し硬くなっていたその指先を…僕はそっと自分の指で撫でた。
「ヴィンセントさんに感謝だな…」
「…」
「まさか…この世界で、誰かと音楽を分かち合えるなんて…これっぽっちも思ってなかった…」
「…」
「しかも…カイトに…」
呟くように言いながら…僕は、その彼の指を自分のくちびるにあてた。
「…っ」
「ホントに…嬉しい…」
次の瞬間…カイトは、たまらないような表情で、バサッと身体を起こすと…勢いよく僕の上に覆いかぶさるように、僕の身体を抱きしめた。
「俺の力じゃない…」
「えっ?」
「俺の中のお前が…力を出させてくれてんだ」
「…」
そして彼は、少し頭を上げて…僕をじっと見下ろした。
「ホントに…嬉しい?」
「うん…ものすごく…嬉しい…」
「そうか…」
ホッとしたように…彼はまた、僕に口付けた。
「…んっ…」
それによって…僕らのコアはまた眩しく輝き…お互いの身体を行き来ししながら、更にパワーを増していくのだった。
口を離れて、肩を抱かれながら…僕は言った。
「もう少し練習したら…」
「…うん?」
「ヨハンさんの店で、皆の前で一緒に演奏しよう?」
「…!」
「…ね?」
「…」
「…あれ?」
カイトは黙ったまま…
上を向いて、目を閉じてしまった。




