⁑鑑賞会のあと
僕は、自分の部屋にいた。
キーファー社製のMTRを試す事に、すっかり夢中になっていた。
次から次へと、色々な曲を録音した。
テーブルカホンに、ギターとグラス製楽器を重ねてオケを作り、歌を乗せていった。
まー大概は童謡なんだけど…
「ふうー」
ひと段落ついた所で、僕は立ち上がって伸びをした。
エールが飲みたいな…
そして、ハッと思い出した。
そういえば、カイトはどうしてるだろう?
しまった…放ったらかし過ぎたかな…
「…」
僕は、カイトを探った。
あ、なんだ…皆一緒に飲んでんのか。
ホッと胸を撫で下ろして…僕は、便利機能を使って、ヴィンセントにエールを頼んだ。
「何だよリューイ、すっ飛んで来いよー」
フォーンから、酔っ払い親父の声が響いた。
あー
この声のテンションから察するに…相当メンドクサイ感じになってんじゃないの?
僕が返事に渋っていると、またも声が響いた。
「キーファーが新兵器持ってきてるぞー」
「えっ?」
もしかして、スピーカー完成したのか!?
「わ、わかりました、すぐ行きます」
そう答えて…僕は、テーブルの上もそのままに、急いでヴィンセントの店にすっ飛んだ。
「うわー満席じゃないですか…」
カウンターにズラッと並んだオッサン達が、一斉に僕の方を振り向いた眺めは、なかなかに壮観だった…
「詰めて詰めて…」
イスをずらしてもらっての…僕はその…スピーカーがデンッと置かれた場所に、小さくなって座った。
「お疲れ様です、リューイさん」
ヴィンセントがエールを出してくれた。
「ありがとうございます…」
そして、僕を交えて…本日何度目かの乾杯になった。
「今日は、ちなみに…どういう会なんですか?」
「鑑賞会だ!」
「…何を鑑賞してるんですか?」
「ふふっ…これだ」
言いながらエルンは、再びアメイジンググレイスを流した。
「えっ…これ…録ってたんですか!?」
「言ったら、これを皆に聞かせるためにって…納期を急いでもらったんだ」
「いやー大変だったよ…」
「次から次へと、よくもまあ…面倒なもんを持ち込んでくれるよなー」
あー
オッサン達の愚痴大会になってるー
そんな愚痴を聞き流しながら…僕は、そのスピーカーから流れてくる音に耳を澄ませた。
ヒロのギターが、とても良い音で響いていた。
「すごく良い音になりましたね!」
「だろう?」
キーファーが、ドヤ顔で答えた。
「俺のおかげだからー!」
エルンがすかさず、勢いよく突っ込んできた。
「そうなんですね…やっぱりエルンの治癒能力は素晴らしいですね」
「だろ?」
今度はエルンがドヤ顔になった。
「おいおい、俺がすっごく頑張ったって事も、忘れないでくれよな」
今度はリドリーが割り込んできた。
「…」
リドリーさんも、割とメンドクサイ酔っ払いになっちゃうんだなー
ちょっと思いながらも僕は、素直にお礼を言った。
「本当にありがとうございました…皆さんの力のおかげで…またひとつ、僕の理想が叶いました」
「…ホントに不思議だよな」
キーファーが、しみじみと呟いた。
「偽物がいなかったら…こんなワケの分からない道具を作ろうなんて、これっぽっちも思い付かなかっただろうに…」
「そうだな…リューイは、この世界に…新たな文明を持たらしてくれた」
「そんな大袈裟な…」
「それに…俺たち皆の力を底上げしてくれたしな…」
「だからそれは…僕だけの力じゃないです。まさに今ここにいる皆さんが、それぞれの力を貸してくれたからこそです」
「本物の人選は…間違い無かったって事か…」
密かにだいぶ酔っ払った感じのカイトが、小さい声で呟いた。
「えっ…本物が何だって?」
「…ん、何でもない」
カイトは、スッと話題を逸らすと…
僕の頭を撫でながら続けた。
「なあ…俺にも出来るようになるのか?…その、偽物がやったみたいに…」
「ええっ!?」
彼のその言葉を聞いて、僕は飛び上がって驚いた。
まさかの、カイトの口から、そんな発言が飛び出そうとは…微塵も思ってなかった。
「あの人のレベルまで上手になるには、毎日すごく練習しても、何年もかかると思うけど…」
「何年?」
「あ、えーっと…」
365×24は8000くらいか?
って事は…3年として、24000時間か
「20000時間か30000時間くらい…」
僕は言い直した。
「そんなにか…」
理解して頂けたようだ。
「でもリューイ…弦が2本でもいいって言ってた…それだったら、もう少し簡単なんじゃないのか?」
キーファーが言った。
「…」
なるほど…
確かに、ベースだったら…ちょっとは難易度下がるかもしれないな…
単音でいいし…フレットに番号か記号をふっておけば、わかりやすいだろうし…
「…」
そこで僕はまた、確認しなければならなかった。
「あの…数字とか、アルファベットとかは…読めるんですよね?」
「読めるに決まってるだろ!」
「エレベーターにも書いてあるじゃないかー」
「俺が、あの面倒臭いコアのデータ化を、どうやってると思ってんだ!」
オッサンたちは、馬鹿にすんな!といった勢いで…捲し立てた。
「…す、すいません」
あーよかった。
でもだったら何で、紙とかペンは無いのかな…




