⁑鑑賞会
その晩も…
ヴィンセントが作る、エールに合う美味しい料理をつまみに、賑やかしく飲み進む彼らは…滞りなく酔っ払いオッサン化していった。
「エルン、そろそろ聞かせてくれよ…」
「そうだった…本来の目的を忘れる所だった…」
言いながらエルンは、自分の再生機を取り出した。
「普通に再生すればいいのか?」
「ああ…この距離なら、勝手に飛んで、そこから音が出るはずだ」
「よし…じゃあ皆…よーく聞いてくれよ」
エルンは、勿体ぶるように…ゆっくり、そのスイッチを入れた。
「…」
ほどなく…出来立てホヤホヤの、試作スピーカーから…ヒロのギターに合わせて僕が歌った、アメイジンググレイスが、流れた。
「…!!」
その場にいた全員が…そのハーモニーに感嘆し、言葉を失っていた。
ヴィンセントは、目に涙を浮かべた。
エルンも…まさにお望み通り…エールを飲みながらそれに浸って、同じく目を潤ませていた。
曲が終わった。
「…何て言ったらいいのか…」
シーンとしてしまった皆に向かって、ヴィンセントが口火を切った。
「掻き乱されるくらいに、心に響く音ですね…」
「あの道具で…こんな音が出るのか…」
キーファーも呟いた。
「しかも、それを偽物カイトが出したんだ!」
エルンが豪語した。
「…」
カイトは…感動しながらも…少し、面白く無さそうな表情をしていた。
「しかも、良い音だな」
リドリーがしみじみ言った。
「だろ??」
エルンとキーファーが、声を揃えて言った。
「音も素晴らしいけど…この機械も素晴らしいです!」
「もう1回流してくれよ」
「そうだな…」
そしてエルンは、今度は…ヒロと僕との会話の部分から、再生した。
「カイトの声だけどな…」
「それが、中身が違うんだよ」
「カイトさんは、全然覚えてないんですか?」
「ああ…」
カイトはまた、ブスッとした顔で、エールをゴクゴクと飲んだ。
エルンは更に、捲し立てるように続けた。
「その偽物は…俺らの事を知ってたんだ!」
「そうなんですか!?」
「キーファーが頑固職人だって事もね」
「…っ…ゲホッ…ゲホッ…」
「そいつが…この世界を創った…って…リューイが言ってたな…」
カイトがボソッと言った。
「えええー!?」
「どーいう事だ、それ??」
「さあね…その辺は、俺にもよくわからん…」
「…」
エルンは、酔った頭で…必死に、ヒロと僕とのやり取りを思い出した。
「あーそういえば…確かに、そんな事を言ってたな…」
「そうなのか?」
「結末がどうとかって話もしてたような…」
「…じゃあ、何だ?…俺達は、そいつの思うままに動かされてるって事か?」
「うーん…それが、そうでもないみたいなんだよね」
彼は…ヒロが、自分の腕に巻かれた機械を見て驚いていた事を、皆に語った。
キーファーが作ったギターに驚いていた事も…
「どーいう事なのか…更に分からんな…」
「それでもリューイは、妙に納得してたな…」
そしてまた…
2人のアメイジンググレイスが、流れ始めた。
「それでもだ…」
エルンは、改まったように言った。
「一緒にこんなに良い音を出せるくらいだから…この2人は、相当に通じ合っているんだなと…そのときは思ったんだ」
「…」
「それでもリューイは…その、通じ合ってる筈の偽物より…本物のカイトの方が好きなんだってのが…あのとき、俺にはしみじみ分かった!」
「…」
カイトは黙っていた。
そしてじわじわと…頬を赤らめていった。
「もしかしたら…カイトさんも…やれば出来るんじゃないですか?」
ヴィンセントが言った。
「いや全然無理だ」
カイトは即答した。
「無理じゃないですよ…僕を含めて、皆…無理だと思ってた事が、リューイさんのおかげで、出来るようになってるじゃないですか!」
「…」
「そうだ、やってみろよ、カイト!」
「そしたら、偽物なんかより…ずっと通じ合えるようになるんじゃないのか?」
「いや、十分通じ合ってるし」
うっかり言ってしまったカイトは…ハッとして更に顔を赤くした。
「そう言えば、もっと太い弦ってヤツを、リューイに頼まれてたっけな」
キーファーは、思い出しながら続けた。
「2本の弦でもいいって言ってた…2本だけだったら、もしかしたらカイトでも扱えるんじゃないのか?」
「いやー無理だろ」
カイトはまた即答した。
「だから、何でそんなすぐに、無理って決めつけるんですか!?」
「…」
いつになく声を上げるヴィンセントに…カイトは若干押され気味で、返事を詰まらせた。
「今日のヴィンセントは厳しいなー」
酔っ払い親父エルンは…ちょっぴり面白そうに、揶揄うように言った。
「…すいません」
ヴィンセントは、小さく溜息をつきながら続けた。
「だって…もしカイトさんが…こんな風に一緒に音を出してくれたら…リューイさん、すっごく喜ぶと思うんです…」
「…」
「でもきっとリューイさんは…カイトさんが無理って言うに決まってるって思ってるから、敢えて言わないでしょうけどね」
「…」
「本当は一緒にやりたいんじゃないんですか?…偽物じゃなくて、本物のカイトさんと!」
「…」
懇々と言い包められて…
カイトはすっかり黙ってしまった。
「ヴィンセントの言う通りだな…」
「通じ合ってんなら、尚更だ」
「頑張れー」
「…っ」
無責任な酔っ払いオッサンたちにも追い討ちをかけられて…カイトはすっかり拗ねてしまった。




