⁑キーファー社スピーカー(3)
無事…小っちゃいもうひとつのエルンを作り終えたリドリーは、自分の仕事を終えてから…約束通り、ヴィンセントの店を訪れた。
「リドリーさん、お疲れ様です」
「お疲れ様…調子はどう?」
ヴィンセントは、彼に向かって力強く言った。
「この間は、ありがとうございました。リドリーさんから頂いた、あのメダルのおかげで…僕なんかの微かなコアも、すごく強く感じる事が出来ました!」
それを聞いてリドリーは…とても嬉しそうに笑った。
「本当に?…それは良かった…そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」
「もうすぐ、ヴィンセントの分のイヤホンも出来るからねー」
先に来て、既にエールを飲んでいたエルンが言った。
「あーあの、リューイさんの音が出る機械ですよね、すっごく楽しみです!」
「キーファーは?」
エルンの隣に腰掛けながら、リドリーは訊いた。
「まだだ」
「いくらなんでも納期が早過ぎたんじゃないのか?」
エルンは、自分のエールをガブガブと飲みながら言い放った。
「…俺が、あーんなに頑張ったんだから、あいつもそんくらいやってくれなきゃ困る!」
「…」
(もう出来上がってんのか…)
エルンは既に、酔っ払い親父化してるらしい…
ヴィンセントは、リドリーにもエールを出した。
「ありがとう」
そして彼らは、小さく乾杯した。
と…急に、カウンターのテーブルの端っこに、ドスンと鈍い音がして、試作スピーカーが現れた!
「えっ!?」
「な、何だ!!」
3人がビックリしている所へ…今度は、シュッとキーファーが現れた。
「キーファー…お前、いつの間にそんな事が出来る様になったんだ!?」
エルンは目を丸くして、叫ぶように言った。
「あ、いや…俺じゃない」
キーファーは、ちょっとバツが悪そうに続けた。
「リューイに頼んだんだ…」
「なーんだ…」
「リューイは、そんな遠隔操作も出来んのか!?」
今度はリドリーが目を丸くした。
「なー…やっぱあいつは凄いな…」
キーファーは、その試作スピーカーを持ち上げて、邪魔にならない場所を探して、店の中をキョロキョロと見回した。
「一緒に運んでもらおうと思って、リューイを呼んだんだ…そしたら『わかった、そこからここへ運べばいいんだねー』なんて、軽〜く言いやがって…」
そして彼は、とりあえずカウンターのテーブルの壁際に、それをセットした。
「『ついでにキーファーさんも運んであげますよー』って、こっちが良いとも悪いとも言わないうちに、勝手に飛ばしてくれやがった」
ブツブツとぼやきながら…彼はそれのスイッチを入れた。
「俺は、自分の足で歩いて来るのが好きなのに…」
「まあまあ…結果、完成品と一緒にキーファーさんが来てくれて良かったですよ」
ヴィンセントが、取りなすように言いながら…彼の分のエールを出した。
「リューイさんは、今日は来ないんですか?」
「昨日の機械をいじくるのに忙しいらしい」
「…なるほど」
「あの様子じゃ…カイトも放っとかれて、拗ねてんじゃないのかー?」
「あはははっ…そうかもな…」
「呼んでみるか」
「おおーそうしよう」
そして酔っ払い親父達は…カイトを呼び出した。
カイトは、若干ムスッとした表情で…
普通に歩いてやってきた。
「おーカイト、今日はリューイは一緒じゃないのか?」
酔っ払い親父エルンが、からかうように言った。
「…」
カイトは黙って、キーファーの隣に座った。
ヴィンセントがすぐにエールを出した。
「悪いな、カイト…俺があんな道具を作ったばっかりに」
「別に…」
彼らは、再び乾杯した。
「そんなに夢中になってんのか、リューイは…」
「ああ…ものすごく楽しそうだ」
カイトは、エールをゴクゴクと飲みながら続けた。
「何がそんなに楽しいのか…俺にはサッパリ分からないけどな…」
「あはははっ…まー作っておいて何だが…俺にもよく分からんのだけど」
カイトは、ジョッキを置くと…少し微笑んで、頬を赤らめながら…呟くように言った。
「それでも…あいつが、あんなに楽しそうに目を輝かせてるのを見ると、こっちまで…何だか嬉しい気持ちになるな…」
「はあーーっ…惚気かよー」
酔っ払い親父エルンが、叫んだ。
「放っとかれて、さぞかし淋しいだろうと思って呼んでやったのになー」
「独り身のエルンには、そーいうのが分かんないんだろ?」
キーファーが言った。
「何だよな、お前もテディが戻ってきたからって…知ったような事言いやがってー」
「えっ?…テディが戻ってきたって!?」
「それ、ホントですか!?」
リドリーとヴィンセントが、驚いて聞き返した。
「戻ってきたっていうか…」
キーファーは、先日の件を…彼らに語って聞かせた。
「そんな事があったのか…」
「じゃあ…テディは、今もキーファーさんの中にいるってさなんですか!?」
言われてキーファーは、ヴィンセントに向かって右手を差し出した。
「…」
ヴィンセントは、そっと彼の手を握った。
キーファーの手から…スッと青白い光が、ヴィンセントに向かって流れていった。
「…!!」
ヴィンセントは目を丸くして、ビクッと身体を震わせると…ほどなく、目を潤ませた。
「…テディ…」
旧友との再会に…
ヴィンセントはしばらくの間、感慨に耽っていた。




