⁑キーファー社スピーカー(2)
「俺にそんな訳の分からない力がある訳無いだろ」
キーファーに呼び出されたエルンは、試作スピーカーを前にして、溜息をつきながら言い放った。
「だってお前、色々治せるじゃないか」
「そりゃまあ…そうだけど…」
「だったら、この音も治きっと治せる筈だ」
「…そんなの、やった事が無い」
「だから…今これから…試してみてくれって!」
「…」
ぐいぐいとキーファーに詰め寄られて…エルンは、戸惑いを隠せない表情をしていた。
キーファーは更に強い口調で続けた。
「ダメ元でも構わない…お願いだから、やってみてくれないか!?」
「…」
「しかも、あの例のリューイの音だ…お前だって、あれを聞いて…既にパワーアップ出来たんだろ?」
それを聞いて、エルンは少し表情を変えた。
「確かに…そうだな」
「…」
キーファーは、必死な表情で大きく頷いた。
「お前も…早くその、偽物コンビの音を聴きたいだろ?…頼むから、力を貸してくれ…」
「…わかった、やってみるよ」
エルンは、諦めたように小さく頷くと…その、試作スピーカーに向かって、そっと両手を翳した。
キーファーは、安堵の溜息をつきながら、元の再生機械を手に取った。
「流すよ」
「ん」
すぐに割と大音量で…例のメロディーが流れてきた。
あまり良くない音で…
「…」
それを聞いてエルンは、納得したように呟いた。
「ああ…なるほどな…」
エルンでさえ納得してしまうくらい…やっぱりその音は、残念な感じだった。
「これをあの…イヤホンから聞こえる状態に近付けたいって事か…」
「そう…そうなんだ!!」
エルンは、それを聞きながら目を閉じた。
ほどなく…
彼の身体から、陽炎のようなものが湧き上がった。
そして彼は…何かを探るように、スピーカーに翳した手を、あちこちに動かしていった。
「…」
キーファーは固唾を飲んで、その様子を見守った。
とにかくエルンには…「音」っていう、形の無い物を、治したり変えたりするっていう感覚が、全く分からなかったのだ。
それをまず…
形のあるものとして捉える事が出来れば…
彼は必死に、その…あまり良くない音のメロディーを聞きながら、自分のコアを最大限に発動させた。
「…っ」
しばらくすると…その、大音量で繰り返し流れるメロディーが…少しずつ…クリアになっていった。
「おおお…いいぞ、その調子だ…」
キーファーは目を爛々と輝かせて、力強くスピーカーに手を翳すエルンを凝視した。
「…んんんっ」
エルンは、更に両手に力を込めていった。
やがてそれは…
限りなく理想に近い音になった…!
「…すごい…」
「ふうー…こんな感じか?」
エルンは、静かに目を開けて…両手を下ろした。
「素晴らしいよ、エルン!…さすがだ!!」
キーファーの歓喜の叫びを聞いたエルンは…疲れ切った様子で、側にあった椅子にドッカリと腰を下ろした。
「あああ…ありがとうエルン!」
キーファーは、そんな彼の両肩を、ガッチリと掴んで続けた。
「そしたら早速、その力で小っちゃいエルンをリドリーに作ってもらおう」
「うえっ…まだやるのか、これ…」
「ああ、頼むよ」
キーファーは、まだまだ休んでいたい様子のエルンの腕を引っ張って、無理矢理立たせると…そのまま引っ張って工房を飛び出していった。
エレベーターの前まで引き摺られていったところで、エルンが呟いた。
「あーあ…こんなときこそ、リューイが飛ばしてくれたらいいのにな…」
「そうだな…」
クスッと笑いながら、キーファーはエルンの肩を叩きながら続けた。
「悪いな…無理言って」
「まー仕方ないさ…俺も早くあれを完成させて欲しいからな…」
デベロッパー階に着いて、長い廊下を並んで歩きながら…キーファーはニヤッと笑いながら言った。
「エルンがもうちょっと頑張ってくれたら…今日中に偽物コンビの音を、ヴィンセントの所で聞かせてやる…」
「本当だな?」
「ああ」
「あーあー…今度は何をやらされるんだ?」
2人の姿を見た途端に、リドリーは…面倒臭そうに笑いながら言った。
「いい心構えだ」
しれっとそう言いながら、キーファーは、エルンをリドリーの前に突き出した。
「進化した小っちゃいエルンを作ってくれ」
「全く…次から次へと…」
リドリーは…いつものように、キーボードの前に座ると…エルンを自分の後ろに立たせた。
「お前がまた機械屋に舞い戻って、良かったんだか悪かったんだか…」
ブツブツとぼやきながらも…彼は目をキラッと輝かせながら、その機械のスイッチを入れた。
「で?…今度はどういう機械を作るつもりなんだ?」
そう訊くリドリーに向かって…キーファーは、勿体ぶったように答えた。
「仕事終わったら、ヴィンセントの所に来い」
「はあ?」
「そうだな、今日は鑑賞会だ」
エルンは、キッパリと続けた。
「これだけ頑張ってやるんだから…絶対に、リドリーの仕事が終わるまでに完成させてくれよ!」
「…わ、わかった…」
結果…自分で自分の首を絞めちゃったな…
若干、後悔の念に苛まれるキーファーの胸の中で…青白い炎がまた、クスクスと笑った。




