⁑キーファー社スピーカー(1)
その後…ほろ酔い気分で自分の工房に戻ったキーファーは、作業台の前に座った。
今度はこいつを仕上げないとな…
そして、台の上に転がされていた、スピーカー的な機械を手に取った。
彼の身体から、ホワ〜ッと青い光が滲み出た。
それは、酔って帰ってきた彼を窘めつつ、労わるように…優しく彼の身体を包み込んだ。
「悪いな…テディ…」
顔を上げないまま、キーファーが呟いた。
その光に引き出されるように…キーファーの身体からも、陽炎のようなものが滲み出た。
彼は壁にぶち当たっていた。
もともと、イヤホンに飛ばせるシステムは出来ているので…飛ばされた先のイヤホンの部分を、大きくすればいいだけの話なのだが…
確かに、音は大きくなった。
このままこれで完成としてもいいのかもしれない。
しかし…どうも音が良くない。大きくなった分、何というか…ひとつひとつの音が、太く粗くなってしまって、あのイヤホンで聞くのと明らかに違う…要は音質が低下してしまうのだ。
何をどう修正したらいいものか…
雑音を削ったり、残響を加える事は出来た。だが、元の音そのものが良くなければ、その効果も意味がない。
(仕方ない…またリューイに相談だな…)
「ふうー」
キーファーは、大きな溜息をつくと…立ち上がって寝室に向かっていった。
ベッドに寝転んだ彼を…
青い光が、相変わらず優しく包んでいた。
翌日の訓練後…僕とカイトは、ファクトリー階に居いた。カイトは武器のメンテナンスのため、カジミアの工房に…そして僕はキーファーの元を訪れていた。
「イコライザーか、コンプレッサーかな…」
「は???」
「まー元々、マイクとかラインで録った音源でもないからねー」
「…」
キーファーの質問に、僕はそう答えた。
彼はもちろん、ポカーンとしてしまったが…
「それにしても…ホントに、ちゃんとスピーカーですよ、これ!」
僕は、彼が作った機械を触りながら続けた。
それは、拡声器を大きくしたような物を、網目で表面が覆われているっていう…まさに僕が知っているスピーカーと、限りなく似ていた。
しかし、そこから流れる例のメロディーは…確かに音量は大きくはなっていたが…何というか、モヤモヤとして、粗くて雑な音になってしまっているのは否めなかった。
「まあ、元の音が大して良くないから…それ大きくしたって良い音になるハズがないよね…」
「…どうやって修正したかいいんだ?…その何とかサーってヤツは、どういう仕組みなんだ?」
「うーん…」
僕は考え込んでしまった。
所詮、何とかフォンのマイクで録った音だからなー
そう考えると…あのMTRで録った音も、スピーカーから出すには耐えられないかもしれないよな…
もし、イコライザーやコンプレッサーがあったとしても、この音質を上げるのは限界があるだろう。
かと言って…これ以上、集音マイクやラインで録音する仕組みをここで再現してもらうってのは、相当面倒臭い事になりそうだし…それを上手くキーファーさんに説明出来る気もしない。
それよりは…ここの世界に在るコア能力で、それに代わる効果が得られるものを探す方が手っ取り早いよな…
飛ばす…記録する…再生する…
攻撃する…髪型を変える…
僕は、ここの人たちが、日頃使っている能力を…次々と思い浮かべてみた。
「うーん」
音を良くするんだから…もしかして、髪型を変える能力が使えるかもしれないな…
変えるっていうか…音を…治す…
「あっ…」
僕は思い付いた。
「エルンの治癒能力で…治せないかな…」
「あーどうだろうか…」
「だって、ケガを治したり、髪型を変えたり出来るって事は…音を治す事も、出来たりするんじゃないの?」
「…ま、試してみる価値はありそうだな」
キーファーは立ち上がると…いったん奥へ行って、先日使ったメダルのような物を持って戻ってきた。
「これに小っちゃいエルンが入ってるハズだ…」
彼は、それを分解すると、中から例のUSBを取り出した。
「これを…この、飛ばした先に仕込んでみるか…」
「そんな事が、出来ちゃうんですねー」
今度は僕の方が、ちょっとポカーンだった…
「すぐには難しいな…ボチボチやってみる…ま、上手くいくかどうかはわからんけどな…」
「…」
「これがダメでも…エルンなら、これに特化した力を持ち合わせてる可能性あるしな…」
「あーそうだと…いいんですけど」
「とにかくありがとう、ちょっと希望が見えてきた」
「よろしくお願いします」
そして僕は…そこを出て、カイトのいるカジミアの工房へと…さすがに、歩いて向かった。
相変わらずゴチャゴチャした工房の…奥の部屋に、2人が向き合って座っていた。
カイトは僕の姿を見付けると、すぐに声をかけてきた。
「おう、どうだった…そっちの調子は?」
「うん、キーファーさん…頑張ってくれてた」
「そうか…」
「リューイ久しぶり…先日は大変だったね、お疲れ様…調子はどう?」
「ありがとうございます…僕は元気です」
そういえば、ここの人たちって…
二言めには必ず、調子はどう?って言うよな…
「ケガとか無かったの?」
「はい」
カジミアは席を立つと…僕の分のお茶を淹れてくれながら、続けた。
「リューイのソードの様子も見ておきたいな」
「あーそうですよね…ちょっと待ってください」
僕は…自分のソードくんの位置を確認した。
あーでも、ソードくんは、いきなり移動させたら機嫌を損ねそうだよな…
「…」
僕は小声で、離れたソードくんに向かって言った。
「カジミアさんの所に来てもらっていいですか…?」
「…」
頭の中に浮かんだソードくんが、キラッと光ったような気がした。
それを確認して、僕はソードくんを持ってきた。
「おおおー!」
シュッとテーブルの上に現れたソードくんを見て、カジミアは思わず声を上げた。
「さすが、鮮やかなもんだねー」
そして彼は、ソードくんを手に取った。
「うん…また進化してるみたいだね」
「すごく助けられましたから…」
その様子を見ていたカイトは、大きく溜息をついた。
「俺の事は断り無しにすっ飛ばすくせに…何でそいつはそんなに丁寧な扱いなんだよ」
「…」
あっ…(汗




