⁑キーファー社製MTR(2)
それから僕は、2つ目のボタンを押すと…テーブルカホンの音に合わせて…ギターでコードを弾いていった。
ちゃんと例のイヤホンでモニターできた。
更に3つ目に、グラス楽器でイントロのメロディーを重ねて…4つ目に、歌を録音した。
やっぱりベースが欲しいな…
合わせた音を聞きながら…僕は思った。
いやでもスゴい!
本当に、ちゃんと録音できた!
僕は早速それを、6つ目のトラックに纏めた。
シンプルで、拙い感じは否めなかったが…こういう風にしたいっていうのは伝わるだろう…
僕は更にそれを…自分の録音再生機に落とした。
割と時間が経ってしまった…
僕はそれを持って、急いでヴィンセントの店に移動した。
「おおおーっ…リューイさん…」
振り向いたら、カイトの隣に僕が座っていたもんだから…ヴィンセントは、とてもビックリしていた。
「ホントになー…ひと言断って欲しいよなー」
「おーお疲れリューイ、遅かったじゃないか…どうだったよ調子は…」
カウンターに並んでいた2人が、エールを片手に、捲し立てるように言った。
「…」
あー既に酔っ払ってる感じですね…
「聞いてみますか?」
僕は、自分の機械を取り出して言った。
「聞く聞く!」
「早く再生してみてくれ」
僕は、その機械の…再生スイッチを入れると…真ん中に座っていたカイトの前に置いた。
さっき録音した曲が流れてきた。
チューリップ…
咲いた〜咲いた〜ってやつだけどね
「これはまた…前よりもっと素晴らしいですね」
それをひと通り聞いて、エールを出しながら、ヴィンセントが言った。
「何て表現したらいいのかわかんないですけど…音に膨らみがあって…そこにリューイさんの歌が乗っていて…」
彼は、必死で言葉を探しながら続けた。
「…とにかく…聞いてて、もの凄く気持ちいいです!」
「…こんの風に…なるのか…」
キーファーは、まるで一気に酔いが冷めたような表情で…その機械を手に取って、何度も何度も再生を繰り返した。
何度も、その拙いチューリップが流れるうちに…僕はだんだん恥ずかしくなってきてしまった。
「もうそのくらいにしてください…今度、もっとちゃんとしたのを作ってきますから〜」
「…この、ドンドンってのは何の音だ?」
人の話を全く聞かずに、キーファーが言った。
「テーブルを叩いた音です」
言いながら僕は席を立って…キーファーの手から、その機械を奪い取った。
「ああーもっと聞かせてくれよ…」
「だから…また、もっとちゃんとしたのを作りますってば」
「十分ちゃんとしてるじゃないか…」
「まだまだ全然です…」
言いながら僕は席に戻ると、エールをゴクゴクと飲みながら続けた。
「さっき言った4弦の楽器の低い音が加わると、もっとちゃんとします」
「そうなのか…?」
キーファーが、予想以上に食い付き気味だったので、僕は試しに言ってみた。
「あと…この、ドンドンっていう音が…もっとちゃんと出る楽器も…あったらいいなあ…」
「…そんなのは簡単だろ?」
すっかり黙っていたカイトが、口を挟んだ。
「叩いて音が出る物を、いっぱい集めたらいいんじゃないのか?」
いやまあ…言ったら、そうなんですけど…
「なるほど…いろんな物を叩いた音を記録して、それをボタンで出せるようにすればいいのか!」
「…」
「それならすぐに作れそうだな」
えっ…そうなんですか?
「よし、わかった…その、弦が少ないヤツと…ドンドンが出るヤツ…作ってみるか」
「ホントですか…ありがとうございます!」
言ってみるもんだな…
思いながら…僕は、ジョッキのエールを飲み干した。
「はい、どうぞ…」
ヴィンセントが、僕の前に料理を出してくれた。
白いドロッとしたものが…まだグツグツしながら、勢いよく湯気を立てていた。
「こーれは…また、僕の大好きなヤツですね!」
僕はそのグツグツに、フォークを指して…中の様子を探った。
大きめに切った玉ねぎと、例の魚が…たっぷりのホワイトソースに絡まっていた。
「いただきます…」
「熱いので気を付けてくださいね」
「俺はさっき、口を火傷した…」
「あはははっ…」
僕はそれをすくって…念入りにふうふうしてから、少しずつ口に入れた。
「うっわあ〜…」
僕はホワイトソースが大好きだった。
ヴィンセントが作った、そのシンプルなソースは…僕にとっては、まさに理想的だった。
しかも大好きな白身魚入りって…何だよもう…
「……」
僕は夢中で、次々とふうふうしながら食べた。
言葉を失うほどに…美味しかった
「…お口に合います?」
僕が無言になってしまったので、少し心配になったヴィンセントが言った。
「どストライクです…」
「は?」
「何だって?」
「まーた偽物が、ワケの分かんない事言ってるわ…」
キーファーに言われて…僕は丁寧に言い直した。
「あーえっと…今まで出会ったホワイトソースの中で…僕の口にいちばん合うって事です」
「ホントですか!?…よかった〜」
って言うか…ヴィンセントさんの、その…食べる相手を喜ばせる能力…ホントにスゴいと思う…
「ヴィンセントさんって…何でこんなに僕の好きな物を知ってるんですか?」
僕は訊いてしまった。
「うーん別に…作りながらリューイさんの事を考えたときに…何となく、リューイさんだったら、こういう味が好きなんじゃないかなーって…ほんのり思うだけなんですけどね」
「…」
やっぱり、ヴィンセントさんは、そういう能力に長けてるって事なんだろうなー
今度リカルドさんに分析してもらおう…




