⁑キーファー社製MTR(1)
それから数日後…(いや、数十時間後と言うべきか)
僕はキーファーに呼ばれて、彼の工房を訪れた。
もちろん…カイトもついてきた。
「キーファーさーん、お疲れ様でーす!」
僕は、店の奥の方にいる彼に、大声で声をかけた。
「だから、そんな叫ばなくても聞こえるって…」
いつもの感じで、のそのそと出てきた彼は…ノートパソコンくらいの大きさの、銀色の機械を手に持っていた。
「…もしかして…それって…」
僕は、目を大きく見開いた。
「ああ…お前の言うところの…色んな音を別々に記録して、後で混ぜるっていう機械の、試作品だ…」
キーファーは言いながら、それをテーブルの上に置いた。
「…!!!」
それはまさに…地球で言うところの、マルチトラックレコーダーに…限りなく酷似していた。
ただ…僕が見慣れていた、縦にトラックが並んでいる感じではなく…四角いボタンのようなものが、6つ並んでいて… それぞれのに、音量を調節するフェーダーがついていた。
「とりあえず…5つの音を別々に録れる」
「この…四角いボタンですか?」
「そうだ…で、それぞれの音量を調節しながら混ぜた音を…この、右下の1つにまとめられる」
なるほど…6つのボタンのうち、その右下の1つだけが、他よりひと回り大きかった。
「音は、例の耳に付けるヤツから聞こえる筈だ。この規模だから、あんまり離れると届かないけどな…どうせお前が聞くだけだから問題ないだろ…」
「はい、全然それでいいです!」
「あと…お前が言ってた、余計な音を消すとかそういうのは…」
彼は、その並んだボタンの上に…いくつか並んでいる、更に小さい3つのつまみを指差しながら続けた。
「ここに、俺が思い付く限りの機能を入れといた…雑音を消すのと、音をハッキリさせるのと…残響くらいだけどな」
おおおー
エフェクター機能も搭載してんのか!!
「で、ここに…例の小ちゃいヤツをセットすると…」
彼は、その機械の側面に…あの録音再生機をカチッと差し込んだ。
「この…デカいボタンに記録された音が…こっちに流れるっていう仕組みだ」
「…!!!」
すごい…
まさにホントにMTRだ…
「キーファーさん、すごいです!…まさに、僕が思っていた通りの機械です!」
僕は興奮して叫んだ。
しかも5つも重ねられるなんて言われたら…もっと色んな楽器が欲しくなっちゃうなー
うっかり欲が出てしまった僕は…若干、言い辛い感じで…切り出した。
「あ、あの…キーファーさん…」
「ん?」
「前に作って頂いた…6弦の楽器、あるじゃないですか…」
「あの、お前がこないだ使ったヤツだろ?」
「はい…それを…弦の1本1本をもっと太くして、4本にするっていうの…作れませんか?」
「…??」
「要は…同じ音で、もっと低くて太い音が出るようにしたいんです」
「うーん…」
キーファーは、また少し考えながら続けた。
「4本にすると…その分、出せる音が減ってしまうけど…いいのか?」
「いいんです…何なら2本でもいいくらいです…音の数より、とにかく低い音が欲しいんです」
「まあ、あの形は1回作ったからな…弦を太くするだけだったら、たぶん出来ると思うけど…」
「ホントですか!?…是非お願いします!」
「…わかったわかった…全く、また面倒臭い事ばっかり言いやがって…」
そう言いながらも…キーファーの目が、メラメラと創作意欲に燃えているのは…僕にもよくわかった。
ゆくゆくは、ドラムマシンも欲しいなー
まーでも、あんまり一度に頼むと、さすがに嫌がられそうだしな…それはまた今度にしとくか…
そんな事も考えながら、僕は言った。
「ありがとうございます、これ…早速持って帰って試してみてもいいですか?」
「もちろん、どうぞどうぞ」
僕は、いそいそと、その機械を両手で持ち上げると…カイトの方を振り向いた。
「カイトは先にタウンに行ってていいよ…僕は、これを試してから行くから」
「…あ、ああ…わかった」
カイトの返事を最後まで聞くより前に…僕はさっさと部屋へすっ飛んでいってしまった。
「…楽しそうだな…俺にはサッパリわからんが…」
残されたカイトは、少し寂しそうに…でも、可笑しそうに微笑みながら呟いた。
「まー俺も、あれをどうやって使うのかまではわからん」
キーファーも続けた。
「ただ…あいつのおかげで、全く退屈しなくて済みそうなのは、確かだな」
「あははは…それは間違いない」
彼らは、顔を見合わせながら笑った。
「しょうがない…2人でタウン行くか…」
「そうしよう…」
「…歩いて行くか」
「ああ…」
そして2人は…タウンの、ヴィンセントの店に向かった。
部屋に戻った僕は…早速そのMTRをキッチンのテーブルに置くと…前に作ってもらったグラス製楽器とギターを持ってきた。
ドラムの代わりは…
とりあえず、テーブルを叩けばいいか…
試しにテーブルを叩いてみると…叩く場所や強さによって、まるでカホンのように、割と変化をつけられる事が分かった。
何の曲がいいかな…
とりあえず…簡単な、やっぱり童謡にするか…
とにかく試してみたかった。
とりあえずとりあえずな感じで…
僕は、1つ目のボタンを押して…テーブルカホンで、リズムを録音していった。




