【アデラの葉】
アンマリー「全部で白金貨1枚と金貨5枚よ。」
「はいよ!」
―― ガシッ!
「な、なんだ!」
収納から硬貨を取り出して払うとデカい手で手首を掴まれた。まるで万力で掴まれてるみたいだ。
アンマリー「シグレちゃん!あのお嫁ちゃん達の下着のこと教えなさい!」
獲物を狙う狩人の眼だ。逃げられない・・・
「・・・アンマリー、秘密を守れるか?」
アンマリー「舐めないで!」
アンマリーの真剣な眼差しが・・・痛い!手も痛い!
「解った。話す!話すから手を、手首を放してくれ!」
アンマリー「キャ!私ったら、つい我を忘れてたわ!ごめんね、チュ!」
手首は離して貰ったが、タトゥーか!って位に真っ赤な手形が付いてしまった。
「スゲー力だな・・・」
アンマリーが店の扉の外に外出中の札を下げ、俺達は店の奥に案内された。
売り場より広いスペースに裁縫道具と生地の反物が並べられている。大きな作業台には裁断された生地が広げられていた。
アンマリー「ちょっと待ってね。紅茶を入れるわ!」
ツバキ・シユナ「お手伝いします。」
ツバキとシユナはメイドをしていた経験からか、こういう時の反応が速い。
アンマリー「さて、あのアラクネの糸で作ったショーツって言ったかしら、教えてシグレちゃん!」
「やっぱりアラクネだって気づいてたんだ。」
アンマリー「もちろんよ。私に知らない生地素材は無いわ。私は生地のためだけにあの蠢く森の奥に入り続けたのよ。あのにっくき黒い奴を何万匹と殺してね。」
「サクラ達が穿いてるショーツは全て俺が錬金で作ってる。」
そう言って収納から何点かショーツを出してアンマリーの前に広げた。
アンマリーがそのショーツを手に取って、引っ張って覗いて穴が開くほど見始めた。
アンマリー「これを錬金?・・・貴方何者なのシグレちゃん?この出来は上位の職人、錬金術師じゃないと無理よ。」
「へぇーそうなんだ?じゃあ錬金が出来ることを話してないのは正解だったかな。」
アンマリー「そこはまあ良いわ。私にとって重要なのは、このショーツが女性を綺麗にするってことよ。私は女性を綺麗にする物が好きなの。」
「なぁ、アンマリー。このショーツを売ってくれないか?」
アンマリー「これを売るつもりなの?1つ2つじゃないんでしょ?アラクネの糸をどこから調達するつもり?」
大量生産の問題点にすぐ気がつく当たり、アンマリーはさすがだ。
「それは心配ない。まあ詳しくは言えないけどね。」
アンマリー「そこも深く追求しないわ。で、幾らで売るつもりなの?」
「売値は大銀貨5枚だ。最初は、こっちの全体を隠す角度の大きなノーマルと呼んでるものから売る。」
アンマリー「高い!けど、素材がアラクネの糸だって知ったらむしろ安いわね。ねぇ、私の儲けは?」
「大銀貨3枚。」
アンマリー「不思議なことをするわね。普通は貴方が大銀貨3枚なんじゃない?」
「そうなんだが、出来るだけ俺の名前を出したくない。だから全て任せたい。例えば大量に購入したい者には卸をして欲しい。」
アンマリー「シグレちゃん。私は商人じゃないのお針子、職人よ!私は自分の作ったお洋服で女性を綺麗に着飾るのが好きなの。
このショーツの卸をしてたら大好きなお針子の仕事が出来なくなっちゃう。」
「そうか、ならこの話は忘れてくれ。」
アンマリー「ふふ、まあまってよ。卸はしたくないけど此処でこのショーツは是非売りたいの。だってサクラちゃん達とってもセクシーだったんだもの!
ああ・・・キュンってしちゃうわ!」
マッチョお姉の目をハートにするその顔はやめてくれ・・・
アンマリー「ねえシグレちゃん。私がショーツを扱う商人を紹介しちゃダメ?」
「アンマリーの紹介なら構わない。」
アンマリー「あら、随分即決ね。」
「自分の直感は大事にしてる。特に信用出来る者とそうでない者はね。」
アンマリー「なら私はシグレちゃんに好かれちゃったのね?うーん綺麗な乙女の宿命ね!
ウフ!ゾクゾクしちゃう!」
「いやそこは・・・儲けは俺が大銀貨2枚、その商人が大銀貨1枚と銀貨5枚、残りが小売りだ。」
アンマリー「あら、シグレちゃんって策士なのね。私が卸をしたら儲けを半分にすると思ってたわけね?」
「そうだ。売値は妥当な額だ。だから売値は変えないで卸すと思ってた。」
アンマリー「もう、フジナちゃん!貴方の旦那様中々喰えない男ね。下半身がムズムズしてきちゃう!ウフ!」
体に悪寒が走る・・・うん。今襲われたら逃げ切るれる自信が無い。
フジナ「ダメですからねアンマリー!シグレ様はダメですよ!」
ナイス!フジナ、ナイスフォロー!
アンマリー「あん。フジナちゃんのいけず!」
「ふう・・ノーマルが浸透したらミディアムと呼んでる角度の奴とハイレグ、1番角度の狭い奴を出す。売値は大銀貨7枚。大銀貨2枚分の儲けは俺と商人で折半だ。」
アンマリー「扱う商人にも悪い話じゃないわね。でもあの角度の厳しいのは売る前に説明が必要よ。お手入れのね。」
さすがと言ったら良いのか、微妙な問題にもしっかり気づいてたようだ。
「そこはしょうがないよ。」
アンマリー「まあ、綺麗になりたい乙女ならなんとかするけどね。美の追求は手間を惜しんじゃダメなのよ。ウフ!
そうね、簡単に毛が抜ける薬でも有れば良いのにね。」
フジナ「あっ!アデラの葉が有ります!」
どうやらフジナの薬師の知識の中に良さそうな情報が有るようだ。
「フジナ、そのアデラの葉ってなに?」
フジナ「簡単に言えば毛の成長を止める成分を持ってるんです。突然何人もの頭頂部が禿げる事件が起きた場所があって、王宮薬師院に調査依頼が入った事があったんです。調査の結果、禿げた人の多くがアデラと言う木の葉を頭にこすっていました。何でもスーッと頭が冷えたような感覚が気持ち良かったとかで。
そこでアデラの葉を調べたら毛が抜ける成分が含まれている事が解ったんです。もっとも3ヶ月もすれば徐々に生えてきましたから、まったく生えなくなるわけじゃないんです。」
「それは使えそうだな。そのアデラの葉は・・・」
そう言ってエリザを見た。
エリザ「高いぞ!報酬は――」
「この後スイーツ食べ放題!」
エリザ「良かろう!」
「フジナ。アデラの葉から軟膏とか塗り薬のような物を作れないか?」
フジナ「任せて下さい!」
「アンマリー、もし毛を簡単に抜く軟膏とか薬が出来たらそれもここに置いてくれるか?」
アンマリー「良いわよ。むしろ頑張って作って。絶対売れるから!」
「アンマリー、ショーツの方はさっきの条件で良いなら商人を紹介してくれ。ただ問題がある。俺は明後日この街を発つんだ。今日明日でなんとかなるかな?」
アンマリー「もう、せっかちさんね!でもそういうときも素敵よねウフフ!今日の夕方にはなんとかするわ。」
「ならクランハウスに連れてきてくれないか。2時に商業ギルドで約束があるから4時なら間違いない。」
アンマリー「了解!クランハウスは元のモーガンの馬車置き場でしょ?」
「なんで知ってるんだ?」
アンマリー「ふふ、昨日のうちにあの馬車置き場がクラン芙蓉峰の物になった事はセグルド中に知れ渡ってるわよ。そこらの商店の売り子が話してるくらいなんだから。」
「商業ギルドか・・・意図的だろうな。まったく喰えない爺さんだ。」
アンマリー「爺さん?あの堅物の事ね。シグレちゃん、あれは1も2もなくアムガルド家のためにしか動かない男よ。私とは水と油なのフフ。」
「肝に銘じておくよ。ついでだ、アンマリーどこか美味しいスイーツの店を知ってたら教えてくれないか?」
アンマリー「あら!スイーツ店の事を私に聞くわけ?しょうがないわね、良く聞きなさいよ最近1番のお薦めは・・」
サクラ「シグレ様。これスッゴク美味しいです!」
アカネ「いくらでも食べられそう!」
エリザ「シグレ!さっき食べ放題と言ったからな!おかわりじゃ!妾、次はボタンと同じ奴じゃ!」
ボタン「じゃあ私もエリザが食べてる奴おかわり!」
「はいはい・・・」
アンマリーのスイーツ店の話がとんでもなかった。店とお薦め品の名前が出てくる出てくる。サクラ達がまた事細かく聞くから・・・
ようやくお店に辿り着いたらサクラ達はお昼はスイーツだけで良いと言い出すし。結局サンドイッチを食べてるのは俺一人だし。
ナナイ「ああ、これも美味しい!」
ツバキ「アンマリーさんのお薦めは間違いないですね。」
フジナ「アンマリーは昔から甘味に五月蠅かったの!」
シユナ「あ、私まだいけそうです。」
「好きなだけ食べて下さい・・・」
2時に商業ギルドに着き、人数が多いのでシユナだけ連れて中に入ると既にエイステンとコールは揃っていた。
商業ギルドでの用事はあっと言う間に終わった。午前中に詰めた話をエイステンとコールが既に文書にしていたからだ。
エイステンの公布の内容、商業ギルドと交わす契約書を確認して名前を書いて契約の魔法を掛けて終わりだ。
契約書を交わし終わったところでエイステンが王都の話を始めた。
エイステン「王宮が大変らしい。」
コール「話は聞いています。」
「リンデン公爵が姿を消した件ですか?」
俺もサラッと話題に乗っかってみた。
エイステン「おいおい。コール殿は解るが君にまで王都の情報が筒抜けなのかい?」
「侯爵には今更でしょ?大丈夫だとは思いますがヘンウッド侯爵への通信の手段は有りますか?」
エイステン「どういう事だい?まさか襲撃?」
「リンデン公爵がサラケスの屋敷の一件で自棄になってるようです。自領に戻るついでに襲撃をさせたいみたいですよ。」
エイステン「・・・急いだ方が良いかな?」
「今日中であれば十分でしょう。襲撃は王都への最後の野営中のようです。リンデン公爵の頭では明日の夜ですが、ヘンウッド侯爵の行軍速度なら今日が最後の野営でしょうから。
リンデン公爵はヘンウッド侯爵の行軍の速さを知らなかったみたいですね。」
コール「何故そこまで詳しく言い切れるのです?」
「ああ、手段は明かせませんが、情報に明るいとだけ言っておきます。」
エイステン「相変わらず恐れ入るよ。だが君が言うなら間違いないな。うん、連絡は出来るか・・・」
コール「お待ちを!シグレ様を疑う気は有りませんが、ただあまりに情報が具体的すぎます!確認を行わなくて宜しいのですか?」
エイステン「コール殿の言い分はもっともだよ。でも、僕は彼の情報の確かさで命を救われたと思ってるから、真偽を確かめる必要を感じないんだ。」
コール「そこまで・・・」
老人の目に刺し殺されそうだ。
「1日留まって夜襲をさせるか。戦闘を避けて明日の午前中に王都に入ってしまうか。そこはヘンウッド侯爵の判断ですね。どっちにしてもティナのお父さんが後れを取るとは思えませんけどね。」
コールの雰囲気が明らかに変わっている。どうやら俺の値踏みを間違っていたらしい。
コール「その情報をいつ?」
「昨日です。」
俺にはこの世界の至る所にツバキ一族のネットワークがある。サラケスでリンデン公爵の屋敷を夜襲してからツバキにリンデン公爵を監視して貰っていただけだ。
コール「何故もっと早く知らせなかったのですか?」
「正確には昨日の夜だね。コールさん、依頼でもなければ頼まれたわけでもないからですよ。
コールさんに言っておきます。俺が情報を集めるのは降りかかる火の粉を払うためです。」
コール「火の粉も、降りかからねばほっておくと言うことですかな?」
「その通りです。俺や俺の嫁達に危険の無い火の粉に興味はありませんよ。もう1つ言えば、自分で火を付けて廻るつもりもない。」
コール「なるほど、心得ておきましょう。」
コールの何が凄いと言って、質問されてから俺と目を合わせ瞬きはおろか視線すら逸らしていない。
『ほんと、大した爺さまだよ。』
エイステン「まあまあコール殿。こうは言ってもシグレくんはライナー、ヘンウッド侯爵が本当に危険なら知らせていたさ。なにせ、ティナちゃんの父親だからね。
知らせなかったんじゃなくて、知らせる必要が無いと思ったんだろ?」
「そう買い被られても困りますけどね。ヘンウッド侯爵は思いつきで夜襲を掛けてなんとかなる相手じゃありませんよ。」
エイステン「ははは、まったくだ。ところでさっき嫁って言ってたね。」
まったく此の侯爵様は抜け目がない。
「嫁です。パーティーメンバーは1人残らず俺の嫁です。ああ、エリザは妹です。くれぐれも誤解しないで下さいね。」
何故かシユナが隣で俯いて真っ赤になっている。
『元々が白いからハッキリ解るな。』
クランハウスに戻る途中、薬師ギルドに行きフジナの会員登録の確認をした。
薬師ギルドは免許制で1度登録すれば死ぬまで有効らしいが、一応念のためとフジナが使う薬師道具を調達するためだ。
薬師が使う道具は薬師ギルドでしか買えないらしい。ギルドの収入源なんだろう。
大門屋敷にも有った気がするが、この際だから一通り揃えることにした。
「そうだよね。理科の実験器具になるよね。」
フジナ「理科?」
この世界、ガラス製品はあるが種類は少なく高い。そのガラスで作られたビーカーやフラスコ等々、見なれた理科の実験器具が目の前に並んでいる。それを片っ端から金に糸目を付けず購入していく。
フジナ「あのシグレ様。本当に宜しいのですか?皆高い物ばかりですが?」
「気にしない気にしない。後で足りない物が出てくるより良いでしょ。」
総額白金貨3枚になったが良いものも見付けた。口の広い三角フラスコに持ちやすいように木の取っ手が付いた物だ。見た瞬間『珈琲サーバーだー!』と叫んでしまった。
当然1番大きなのを買った。これで淹れた珈琲の量が一目で解る!
そして、ニコニコしながらクランハウスに帰ると、顎が外れた!
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