【服屋のアンマリー】
アニスに拉致され拡張馬車に家具を納めた。細かな配置はパーティーの男達を使うというので俺はもっぱら指示された部屋の中に家具を入れていく。
ようやく全ての家具を出してアニスに開放され、クランハウスに戻るとエイステンとアムガルド家の家宰コールがダイニングで珈琲を飲んでいた。
「おはようございます。来ていたんですね。呼んでくれれば良かったのに?」
エイステン「おはようシグレくん。馬車の中だというから待ってる間に珈琲を楽しませて貰ったよ。」
コール「おはようございます。シグレ様。」
「おはようございます、コールさん。で、淹れたての珈琲はいかがですか?」
コール「淹れている間の沸き立つ香りが良いですな。」
「と言う事は、お眼鏡に叶いましたか?」
コール「十分すぎるほどに。これは大きな商売になります。」
すると70歳を越える老体がスッと立ち上がった。
コール「此度はこのような大商いに当アムガルド商会をご指名頂き、総店主グスタフ・アムガルドに代わりお礼申し上げます。」
綺麗なお辞儀だった。腰を折る動作にまるで無駄がない。
エイステン「ではコール殿。お知恵を借りたいんだが、条件は昨日言った通りなんだ。どう進めたら良いかな?」
「その前に、シユナ!一緒に隣で話を聞いてくれ。これから話が纏まったらうちの窓口をシユナにしますので。」
シユナがやって来て隣に座った。当然のようにエリザが付いてきてシユナの隣に座り、ちゃっかりツバキに珈琲を淹れさせている。
シユナ「宜しくお願いします。」
コール「ではシユナ殿、以後宜しくお願いします。
さて、まずシグレ様に商業ギルドに珈琲の製法を届けて頂きます。そして昨日侯爵様がシグレ様から言われた〈特許〉なるものをそのまま認めさせます。」
「可能なんですか?」
コール「なに、珈琲についての一切の権利はシグレ様の物であることを商業ギルドが認めれば良いだけです。
シグレ様の権利を〈特許〉とし、その特許の中身である珈琲製法の使用権を侯爵様に有料で貸借する。この金銭を〈特許仕様料〉とさせます。」
「とにかく、俺と侯爵家の利益が守られるならそれで良いよ。ただ1つ修正して欲しい。珈琲の権利と言うより赤の木の実を煎って使った商品にして欲しい。」
エイステン「・・・そうか大事なのは原料と製法ってことか。」
「そうです。ですから、赤の木の実を煎って使用した商品は全て芙蓉峰に使用料を支払うことと一文を付けて欲しい。」
コール「なるほど。なら商業ギルドには〈特許〉を条文化させ権利の保護に使わせましょう。今後も役に立ちそうです。」
「俺の世界の厳密な解釈なんて要らないですね。この世界の特許は、人や商会の権利をある程度守ってくれるもの、そう思えるだけでも十分ですよ。」
エイステン「次は僕か。土地を確保して専門に栽培する者達を雇えば良いかな?」
コール「それについては、侯爵様は赤の木の実を買い取る布令を出すだけで良いかと思います。」
「勝手に作らせて納品までさせるわけか。赤の木の実は今は使い道が無いから、良い稼ぎになると解れば村を上げて作り出すところが出てくるわけですね?」
コール「流石ですな。お布令には買い取りする際の質の基準も書かれると宜しいかと思います。」
エイステン「なるほど。質と買い取り金額を明記しよう。大事なのは侯爵家が価格を保証することだ。」
コール「はい。買い取りは当商会を窓口とし、焙煎と言いましたか、それも当商会で行います。相当な数が見込まれますので新たに多くを雇うことになりますが、それ以上の大商いになるかと。」
「ならなかったら逃げなきゃいけないな。」
コール「ほっほっほ、ご安心を!間違いなく大商いになります。では、此処から金額の話になります。
まず、先日のお話しから小売価格を1kg銀貨3枚にします。」
『日本円で3000円位か。100gで300円と考えればこんな物なのかな。』
「なら、儲けの配分は俺が大銅貨3枚。そうだな侯爵が大銅貨8枚、コールさんの所が大銅貨9枚、残りの銀貨1枚分が豆の買取額だ。」
コール「ご説明頂いても宜しいですか?」
「俺の儲けは昨日1割と言った。だから大銅貨3枚。侯爵家の儲けの大銅貨8枚は、儲けるために俺に使用料を払うんだからこのくらいの儲けは必要だろ?
そのかわり、もし珈琲で問題が発生したら全て侯爵家でお願いするよ。俺は、特許を貸してるだけだから。」
エイステン「もちろんだ。儲けだけ貰って無責任では要られないからね。納得出来る話だよ。」
「アムガルド商会が大銅貨9枚なのは少しでも経費に充てて貰うためだ。経費を引けば侯爵家より儲けは減るが、そこは権利の使用権を持つ侯爵家より儲けちゃおかしな話になる。
最後に買い取り金額は、個人や村で持ってくるにしても旨味がないと集まらない。なら此処を1番厚くしないといけない。」
エイステン「良い配分だと思うけど、うちの儲けも大銅貨5枚にして大銅貨3枚分は買い取り分にしよう。シグレくんが言う通り数が出れば儲けは増える。その為には豆を作って貰う必要がある。作りたいと思わせる大きな旨みが必要だろ?」
コール「ほっほっほ・・・当商会の儲けからも大銅貨2枚を買い取りにします。」
「それじゃ人件費の分が出ないだろ?」
コール「大丈夫です。もともとの試算では大銅貨6枚のつもりでした。ありがたいことにシグレ様から大銅貨1枚分多くなるご提案を頂きましたので非常に助かります。」
「喰えない爺さまだな。」
コール「この老骨、煮ても焼いても美味くはありませんよ。
最後に、権利関係をハッキリさせるためにも珈琲に商品名を付けたいのですが?」
「なら〈アルバータスコーヒー〉だ。侯爵、侯爵家の家紋を付けないか?樽や袋、このアルバータスコーヒーに関わる物に侯爵家の紋を入れるんだ。そうすれば例え偽物が出ても区別出来る。」
エイステン「・・・良いね。構わない。貴族家の紋を偽造するのは重罪だ。それに紋を付けるだけで当家の権利が明確になる。」
コール「良いアイデアですな。商品に箔が付く。侯爵家の紋の入った樽を作らせましょう。大口の購入にはその樽ごと売った後、樽は必ず回収とします。まあ、侯爵様の紋が入った樽を粗末には出来ませんが。」
「侯爵、コールさん。アルバータスコーヒーとは別に赤の木の実を煎って使わせてくれと言ってきたら特許の使用料の内4割を商業ギルドに、残りを侯爵と俺で折半でどうかな?
商業ギルドの分は使用料その他の交渉窓口の対価として、侯爵の分はこの特許の使用権をアルバータス侯爵家が持っている事を示す為だ。」
エイステン「珈琲、赤の木の実を煎った特許に関しては全て当家にか・・・悪くない。シグレくん、使用料は安くて良いんだろ?」
「もちろん。使用料で儲けるつもりはないよ。権利関係をハッキリさせたいだけさ。」
エイステン「コール殿、僕も使用料は安くしてほしい。ただし、商業ギルドには商品の吟味、特に使用を許可した後でも質が落ちたら取り上げて欲しい。」
コール「なるほど特許を使った商品は取り締まりが出来るわけですな。承りました。」
一通りの話を終え午後2時に商業ギルドで手続きを進めることになりエイステンとコールが帰った。
エリザ「お主はどうして物怖じしないのじゃ?」
「えっ!そうか?あの爺さんの圧力に圧倒されてたけど?」
シユナ「コール殿とこれほど対等に商談をする方を初めて見ました。以前、名のある商人があの方を前にして可哀想なくらい萎縮していたのを見た事がありますから。」
「俺が弱気になる理由がないからね。条件が嫌なら俺は商売相手を替えるだけ。そうなればどっちが損かってことさ。」
エイステン達を見送っていると、サクラ達とカタリナやティナ達、クランの女達がお風呂場から出てきた。
「まさかみんなでお風呂に入ってたの?」
ティナ「シグレ様!これ凄いです!」
「えっ?なんだっけ?」
カタリナ「このショーツ?凄く良いね!」
「ああ、みんなで試してたのか。」
サクラ「はい。実際見せた方が良いと思ってお風呂場で。」
ファビアナ「シグレ、あのこうなってるのも良いな!」
ファビアナがやったのは○マネチ!だ。
イデリナ「ファビアナ殿!そのような仕草をするな!」
ファビアナ「良いじゃないか。イデリナもぐいっとした奴が良いって言ってたじゃないか!」
再びファビアナの○マネチ!が炸裂した。
ブリエレ「言ってました!でもどうやって処理しようかって悩んでました!」
イデリナ「ぶ、ブリエレ!き、貴様・・・」
ファビアナ「シグレ。サクラ達の脇の下、お前がそってるんだってな?」
「えっ!ああそうだけど・・・」
ファビアナ「汗臭くならないそうだから私達も剃ることにしたんだ。」
「お、おう。良いんじゃないか・・・ティナも?」
ティナ「はい・・・」
真っ赤になって俯いてしまった。
お昼を外で食べることにして俺達ヒイラギは街に出ることにした。因みにロレン達とティナ達もだ。それぞれ別々に買い物と言うことになった。
残ったのはファビアナの赤い連檄だけだ。と言うのもアニスが馬車から出てこないからだ。
ファビアナがブツブツ言ってたが逆にお前は何故此処にいる?馬車に行けよって話なので放っておいた。
まずはサクラ達に服を買う。店の善し悪しは俺にはわからないのでブラブラ歩きながらサクラ達が店を物色している。
フジナ「あ、この店の名前?」
「どうしたフジナ?」
フジナ「先日無くなったと思っていた店と同じ名前なんです。」
「移転したのかもね。入ってみるか。」
中に入るとなろう定番の口紅を付けたマッチョなお兄さんがいた。
『デカい!筋肉で横にもデカいがボタンより確実にデカい。2m以上あるな・・・』
「あら!いらっしゃーい!ようこそアンマリーの洋服店へ!チュ!」
『チュって何だチュって・・・』
フジナ「やっぱり、アンマリーでしたか!」
アンマリー「・・・あら?あら!あらあら!ルシエラちゃんじゃないの。あなたルシエラちゃんよね?えっ?火傷は?治ったの?」
フジナ「はい。治ったんです!女神様のお使いが治して下さったの。そうだ名前を変えたの。フジナよ!フジナ。イルカルも今はシユナです。」
シユナ「アンマリーさん、暫くでした。」
アンマリー「あらあら、イルカルちゃんも、そうフジナちゃんとシユナちゃんね。そう、良かったわ―― ガシ!」
筋肉マッチョがフジナとシユナにぶっとい腕で抱きついて泣いている。2人とも嫌がってはいないので知った仲なのは間違いなさそうだ。
フジナ「アンマリー、紹介するわね、私のご主人様、シグレ様と仲間よ。」
アンマリー「ご主人様?そう言えばその首の奴隷紋・・・おい小僧!どういう事だ?」
「えっ?・・・」
恐い!ぶっとく低い声が腹の底に響いてきた。
フジナ「ああ誤解しないでアンマリー。私もシユナも望んでシグレ様の奴隷になったの。それに奴隷と言っても形だけなの。みんなシグレ様の奥さん、お嫁さんなのよ。」
アンマリー「・・・たしかにフジナちゃんもシユナちゃんも幸せそうなお顔をしてるわね。10年前は笑いを忘れてたものね。そうかシグレちゃんのおかげなのね?ごめんね小僧なんて言って!
それによく見ると私の好みじゃない!ヤーネー!もう!」
「・・・はい?えっ?あ、俺ノーマルなんで。」
アンマリー「ふふ、可愛い!チュッ!」
『やめろ!投げキッスなんて・・・』
アンマリー レベル65 お歳はヒミツ! 人族の男のはず
『おいおい今までで1番レベル高くねえか?それより、ヒミツって何だよ!それに男のはずって、解析鑑定仕事しろよ!』
〈要求を拒否します!〉
『何だよ!久々に解説が出たと思えば拒否しますって!』
エリザ「凄い迫力じゃな。」
「エリザ、逆らうなよ。何故か勝てる気がしない。」
エリザ「実は妾もじゃ。どうも此奴はいかん気がする。」
フジナ「シグレ様。アンマリーはコールの3番目の息子なんですよ。」
「えっ!あのじいさんの?」
アンマリー「フジナちゃーーーん!娘よ!む・す・め!」
『うぉ・・その低音はやめろ!』
フジナ「・・・そう、娘なんです。」
シユナ「シグレ様、アンマリーさんは元A級の冒険者なんですよ。」
ナナイ「あっ思い出した!私の前に斧使いって呼ばれてた人が〈貴人の斧使いアンマリー〉じゃなかったかな?」
『貴人って絶対〈奇人〉だな。』
アンマリー「シグレちゃん。何か失礼なこと考えてない?」
「いえ全然!全然考えてないっす!」
アンマリー「懐かしい名前ね。それじゃ貴方がナナイちゃん?」
「あれ?今誰かナナイの名前言ったか?」
みんな一斉にブンブンと首を振った。
アンマリー「ふふ、やめても色々情報は入ってくるのよ。私の後に斧使いって呼ばれたのがダークエルフのナナイちゃんなんでしょ?それに2日前にアラクネを納品したクランがいたって言うじゃない。
団長はハーレムパーティーヒイラギのリーダー〈骨喰〉シ・グ・レ!
ごめんなさーーーい!実は知ってたのウフ!」
「ウフって・・・そうですか・・えーとフジナ、服はどうする?」
フジナ「シグレ様。アンマリーの服は間違いありません!時々最先端過ぎますが1点物でみんなにあうものを選んでくれます。」
アンマリー「そうよ。お洋服のことは任せて。お洋服の店を開くためにあの堅物と命のやりとりをして家を出てきたんだから。キャ!言っちゃった!」
「命のやりとり?・・マジだな・・・みんな選んで貰ったら。」
アンマリー「ふふ、任せて!最高に可愛くしてあげるから!」
―― 20分後 ――
アンマリー「あら?あらあら!ねえねえ?なにこの下着?」
「ん?・・・」
アンマリー「あらーーみんな同じの穿いてるのね!あ、ちょっと、角度が違うじゃなーい!」
「ちょっと待て!おいアンマリー!お前、人の嫁の着替えっていうか下着姿見てんじゃねえ!」
―― ツカツカツカ・・
うゎ目の前にぶっとい眉毛の筋肉マッチョの顔が・・近い!
アンマリー「何か言ったシグレちゃん?プロのお針子はちゃんと自分で着付けするの。目の前で着てもらわなかったら、直せねえだろうが!」
震える、声で店が震えてますって・・
「だって嫁の下着姿を他の男に――」
アンマリー「乙女!私はお・と・め!乙女が女性の下着姿を見て問題ある?」
すると更衣室からサクラ達が顔だけ出した。
サクラ「シグレ様。不思議とアンマリーさんからイヤらしさを感じません。」
アカネ「大丈夫みたいです。」
フジナ「すいませんシグレ様。昔からこうしてきたので。でも彼女なら大丈夫です。」
「ははは、そうですか。もうなんかいいや・・・」
大変励みになりますので評価やブクマを宜しくお願いします。




