【クランハウス】
アラクネをギルドに納品して、馬車を馬車溜まりに固定してから買い物を済ませようやく一息ついている。
―― カチャ!
ツバキ「シグレ様。珈琲です。」
「ありがとうツバキ。ああ、こうやって珈琲が飲める日が来るなんて ――ゴク!―― 美味い!」
ツバキ「それは良かったです。夕食の準備が出来るまでゆっくりして下さいね。」
「ありがとう。」
エリザ「ツバキ、妾にも珈琲じゃ!」
ツバキ「はい ――カチャ! ここに置きますね。」
エリザ「済まんな!――ゴク! ふー美味いな。ひと仕事終えた後の珈琲は良いの!」
「何処のおやじだよ・・・」
「夕食を食べながら聞いて欲しいんだけど。実はパーティーのメンバー枠が増えたんだ。」
サクラ「メンバー枠が?じゃあ新しいメンバーが増やせますね旦那様。ふふ。」
アカネ「新しいお嫁さんが増えるんですね?」
「それなんだけど、実はもうメンバーにしますかって名前も出てるんだ?」
ナナイ「あれ?でも奴隷契約しないといけないんじゃないの?」
「そう思ってたんだけど、どうもその相手が特殊らしい。」
フジナ「特殊な相手ですか?」
「エリザなんだ。」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
実はアラクネと戦った後、頭の中で『スキル【パーティー】のメンバー枠が増えました』とアナウンスがあった。こんな事は初めてで、今まではメンバー枠が増えても自分から確認するまでは気づかなかったから。
アナウンスの後には既にエリザの名前が候補にあったし、どうやらスキル?に必ずエリザをパーティーに加えろと言われてる気がする。まぁ、気のせいかも知れないが。
みんなの視線がエリザに集中している。
エリザ「なんじゃ?」
エリザはご飯に集中していたようだ。
結論から言うと、この後エリザは俺のスキル【パーティー】のメンバーになった。
エリザが加わっていつも通り俺達の身体能力にはメンバーが増えた身体能力値向上の恩恵があった。
ただ、エリザは特殊なパーティーメンバーらしく、エリザのステータスには【通信】と【セルフボックス】そして【パーティーボックス】のスキルしか貼り付ける事が出来なかった。
それでも、今まではシユナと一緒ならパーティーボックスにも入れたが、自分で呼び出せるようになったので随分楽になる。
むしろステータスより重要なのは俺との繋がりについてだった。
俺自身はスキル【パーティー】のメンバーは全て嫁、たとえこれからメンバー枠が増えても嫁候補以外を加えるつもりはなかった。
だから、エリザが俺の嫁になる気があるのか、そこをエリザに確認する必要があった。と言っても、既に夜のエリザとはイチャイチャしまくってるんだけどね。
エリザ「いつ果てるとも知らん妾の生の中で、ほんのいっとき人の妻であるのも面白かろう。」
「じゃあ、俺の嫁で良いんだな?」
エリザ「シグレが死ぬまで、シグレの嫁でいてやる。そのかわり、可愛がるんじゃぞ。」
「約束する。今からエリザは俺の嫁だ。エリザ右手を出してくれ。」
今ではお約束になった転移のリングをエリザの指にはめた。これで転移のリングは打ち止めだ。
エリザ「これは?そう言えばシユナもみんなもはめておるな。」
「転移の指輪、そのゲストリングだ。これをはめてると俺のマスターリングと一緒に転移が出来る。
まあ、転移が出来るって事と俺の嫁である証でもある。」
エリザ「シグレの嫁の証か・・・悪くないの。」
「あっ、外向きには妹な!昼のその外見で嫁なんて言ったら変に見られるから!」
エリザ「せっかく良い雰囲気じゃったのに!締まらん奴じゃ!」
「「「「「「「ふふふ・・・・・」」」」」」」
こうして家事を一切やらない嫁が一人増えた。
もちろんその後はお風呂に入り、全員を洗い倒してベッドで覚醒したエリザも美味しくいただいちゃいました。
―― カチャ!
エイステン「みんなおはよう!」
「おはようございます。エイステン卿。」
ロレン「おはようございます。」
ファビアナ「侯爵様。おはようございます。赤い連檄のファビアナです。」
俺達はアルバータス侯爵の屋敷に来ていた。 応接間に通されると既に侯爵とティナが待っていた。
エイステン「ファビアナさんとは初めてだったね。エイステン・アルバータスだ。これから宜しく頼むよ。
ところで他のみんなは?3人で来たのかい?」
「人数が多いので俺の馬車の中にいます。」
エイステン「なんだ、入ってくれて良かったのに。
さて、シグレくんさっそく依頼を達成してくれてありがとう。本当に助かったよ。」
「ギルドに戻ったら今日来て欲しいって伝言がありましたけど、俺達が依頼を達成出来てなかったらどうしてたんですか?」
エイステン「こうして達成してるじゃないか。僕は君達ならやってくれると信じてたからね。何の心配もして無かったよ。
森の異変の原因も聞いたよ。アラクネが産卵に来てたそうだね?」
「70cm位に育った幼体が20匹と親の番が2組いました。」
エイステン「昨日の夜、商業ギルドで緊急理事会を開いたんだ。その時アムガルド家のコール殿が子供時代に1度アラクネの産卵に遭遇したと言っていたよ。」
「ああ、あのとんでもない爺さんですか?」
エイステン「はは、とんでもないか。まったくだ。あのご老体の子供時代だからね、僕ら世代じゃ経験者がいないのもしょうがないよ。まあこれで森も正常に戻るだろう。
と言う事で、特別報酬の話をしよう。」
「報酬は正統な依頼料と素材の買い取り料で十分ですよ。」
エイステン「まあまあ、そう言わないで。実は僕が個人的に支払おうと思ってたんだが商業ギルドから特別報酬を提供したいと申し出があってね。僕の一存で受けることにしたんだ。」
わざわざ商業ギルドが特別報酬を提供してきたと聞いてロレン達も各々顔を見合わせている。
「なんで商業ギルドが?」
エイステン「それだけ今回の件が切迫してたってことさ。村ごと縫製員として雇って紡績業をしている商会もあるんだ。どこもあと3日も遅かったら生産は止まっていたらしい。
そこにあの大量のジャイアントスパイダーの納品に希少なアラクネとその幼体だ。商業ギルドとしてはどう考えると思う?」
「・・・使えそうなクランが現れた。今のうちに取り込んでおこう。ですか?」
エイステン「その通り!商人は利を考える。目の前の利もあれば先の利もある。今回彼らは君たちクラン〈芙蓉峰〉にこの先の利を感じ取ってるのさ。
それに、特別報酬の提案者がアムガルド家のご老体だったんだ。商業ギルドセグルド支部の最高実力者の発案だよ?誰も反対なんか出来ないよ。」
「またあのじいさんですか。」
エイステン「まあまあ。それに君たちにも悪い報酬じゃないと思うよ。何より商業ギルドの懐はなにも痛まないんだ。彼らは商人だからね、ちゃっかりしたものさ。」
ツバキ「どうやら着いたようですね。」
「ああそうみたいだね。みんな!着いたよ!」
俺達はエイステンの案内で特別報酬があるという場所にやって来た。
此処はセグルドの北東に位置する通称商業区。大きな通りには大店が建ち並び、その路地筋には中小の店がひしめき合っている。
セグルド中の商品が集まる場所であり、公王国経済の心臓部とも言えるところだ。
そして、商業区の大通りから僅かに奥に入ったところに目的の場所があった。
この世界定番の土壁と鉄の門扉に囲まれた陸上競技場より大きな敷地の中に、屋敷と馬車蔵が一体になった巨大な建物と大きな厩舎があった。
エイステンの馬車が屋敷の入り口付近で止まった。俺の馬車もその後ろに止める。
エイステン「此処だよ。」
「ここに報酬があるんですか?」
エイステン「ははは、此処が報酬さ。この敷地と中の物全部を君たちに報酬として譲渡するそうだ。ここを君たちのクランハウスにすると良い!」
「「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」」
あまりに規模の大きな報酬に、クランメンバー全員が呆気にとられていた。
エイステン「ここはモーガン商会の馬車置き場だったんだ。」
「モーガン商会の?」
エイステン「周りを見てご覧。此処と同じような馬車置き場が他に4つ有るだろ?セグルドでも超が付く大店の馬車置き場さ。ああ、因みに右端がアムガルド商会の馬車置き場ね。
此処は大通りに近いだろ?馬車の出し入れに時間を掛けないように、セグルドの街が出来たばかりの頃ここに馬車置き場を作ったのさ。それが今は超が付く一等地ってわけ。」
「そんな一等地の物件をどうして俺達に?」
エイステン「詳しく話そう。その前に中に入ろうか。」
大きな建物に入ると男と女が出迎えた。
「侯爵様!」
入り口扉の中に立っていた男は身長が140位で筋肉質。ボワボワの髪に顔中が髭で目が良く確認出来ない、なろう定番の容姿をしたドワーフだ。
その後ろに身長は10cmほど高い女性のドワーフがいる。髪はふさふさだが、それ以外は毛深そうには見えない。
エイステン「やあロブランさん。紹介するよ、彼が此処の所有者になる冒険者クラン芙蓉峰の団長、シグレくんだ。
シグレくん、ロブランさんとエルネスさんご夫婦だ。今一時的に此処の管理人をして貰ってるんだ。」
「クラン芙蓉峰のシグレです。」
ロブラン「ロブラン・ドブルじゃ。」
エルネス「妻のエルネス・ドブルです。」
エイステン「ロブランさんリビングを借りるよ。」
「なんですか、この広さは!」
ファビアナ「凄いね!」
「「「「「「「「なに此処・・・」」」」」」」」
ロブランに案内され、リビングと言われた場所に入ったがとにかく広かった。
エイステン「この建物は従業員の待機所兼寮、共同生活をしていたところなんだ。だからキッチンにダイニングというか食堂も広いだろ?」
リビングと呼ばれたところにはソファとテーブルが何台もおかれ1度に4~50人は座ってもまだ余裕が有るかもしれない。
リビングの奥の食堂も片側5人の10人掛けのテーブルセットが横に2列、縦に3列で1度に60人が食事出来る。
ロレン「圧巻だな!」
エイステン「このへんで良いか。座って話そう。」
エイステンがリビング中央のソファに腰掛けた。
「そうですね。そうだ、ツバキ!キッチンを借りて珈琲を入れてくれないか。」
ツバキ「はい。畏まりました。」
カタリナ「良いですね!馬車でご馳走になって気に入っちゃったんです。ツバキさん。手伝いますよ。」
アニス「私も手伝う!」
ツバキは俺のためにいつでも珈琲をいれられるように、自分の収納に珈琲セットを仕舞ってくれている。
エイステン「この馬車置き場はモーガンの関係者が逮捕された後色々話が拗れてね、僕が承認して商業ギルドセグルド支部が仮の権利者になったんだ。
シグレくん、夜討ち朝駆けって解る?」
「知ってます。相手のことを考えず時間に関係なく尋ねてくることですよね?」
エイステン「そう。引き合いがね、僕が居なかった間凄かったらしい。それでリーズが切れて腕力で黙らせたんだが、僕が戻ると・・わかるだろ?」
「領主の悲哀ですね。」
エイステン「ああ解って貰えて嬉しいよ。セグルド内の土地を売る場合は適正価格と決まっていてオークションに掛けることも出来ない。それならと抽選にしても文句が出るのは目に見えてるし、ほとほと扱いに困っていたんだ。」
「あーーーそう言うことか。」
ティナ「何か気づいたんですか、シグレ様?」
ツバキ「シグレ様。珈琲です。」
そこにタイミング良くツバキがコーヒーを持ってきた。
「ありがとうツバキ。みんなにも配ってあげて。」
ツバキ「はい。用意しています。」
エリザ「ツバキ、妾にもじゃ。」
ツバキ「はいはい。」
「――ゴク!ふー。あ、エイステン卿、苦かったらこのミルクか砂糖を入れて下さい。
ティナの質問に答えると、エイステン卿と商業ギルドは俺に面倒事を押しつけたのさ。」
ロレン「あー、解った!どこかの商人に売れば他の商人の妬みや批判が湧く。それならまったく関係ない芙蓉峰に報酬として与えてしまえって事か。」
「そう言うこと。簡単に言えばこの土地が欲しかったら芙蓉峰、まあ団長の俺と交渉しろってことさ。つまり、まるまるぶん投げたんだよ。」
ティナ「おじ様、そうなんですか?」
エイステン「ん?ティナちゃん、おじさんがそんな悪い人に見えるかい?」
ティナ「はい!父も悪巧みはおじ様には適わないって言ってました。」
エイステン「はい。って、ははは、ライナーはちゃんと教育してるね。
理由がもう1つあってね、此処に馬車置き場を並べてる4商会が他の商店に売りたくないのさ。」
「商人の格ですか?下らないな。」
エイステン「察しが良いね。僕も本当に下らないと思うよ。
ところでシグレくん、この珈琲?面白い飲み物だね。確かに苦いが香りが良くて癖になりそうだ。」
「気に入って貰えて良かったです。」
この侯爵様は対応が早い。珈琲が来ると香りを嗅いで軽く一口飲み、俺の砂糖やミルクを入れるという話を聞いて少しずつ確かめながら飲んでいた。どうやら、かなり興味があるらしい。
ファビアナ「おいシグレ、格って何のことだ?」
ナナイ「冒険者のランクって考えれば良いんじゃない。」
ロレン「老舗大店の面子や誇りってとこですか。新興の商店に並んだと思われたくないって事ですね。」
エイステン「君も相変わらず理解が早いね、ロレンくん。」
フジナ「なら、あの大通りのお店も売ってないんですか?」
エイステン「ルシエラ、ああフジナさんだったね。お店は売ったよ。」
「大通りの目立つ場所で虚勢を張ってるうちは大したことは無いんだよ、フジナ。
裏に何を抱えてるか、見えないところがかえって格を見せつけることもあるんだ。」
エイステン「驚いたな・・君は本当に17歳なのかい?」
「言ったでしょ。これで結構苦労人なんだって。」
ファビアナ「どういう事だ?もっと解りやすく言ってくれ。」
「大きくて豪華な箱と小さくて質素に見える箱があったら、ファビアナはどっちを選ぶ?」
ファビアナ「そりゃ、大きな箱だ!たくさん入ってる気がするじゃないか。」
「それが見た目さ。実際箱を開けたら大きな箱の中はカスカスで銀貨が10枚しかなかった。
ところが小さな箱の中には白金貨がこれでもかってくらいに詰め込まれてるなんてことが良くあるのさ。」
ファビアナ「ああ、そう言うことか!」
「解りました。この報酬は受け取ります。その代わり、もう敬語は使いませんよ!こんな面倒な物と面倒事を押しつけるんですから良いですよね?」
エイステン「んーそれで良いならお安く済んじゃったね。
交渉が成立したところで、ひとつお願いが有るんだ。」
「・・・・・なんですか?」
今度は何を言い出すのかとついつい身構えてしまう。
エイステン「まあまあ、お願いというのはロブランさん夫妻のことなんだ。
ドワーフでもドブル一族は優秀な職人として有名なんだが、訳があって行く場所がないんだ。どうだろうクランハウスの管理人として雇ってくれないかな?」
「良いですよ。」
エイステン「そうだよね、詳しい説明もしない・・・・えっ?随分あっさり承諾したね?」
「これだけの建物、誰かが普段から常駐しないと大変だよ!俺は拠点を決めたくはないし、ロレンやティナも今のところ決めてる節もない。
ファビアナの赤い連檄はセグルドを拠点にしてるけど、そのファビアナ達だって依頼が有れば帰ってこないことも有るんだ。
逆に管理人を探す手間が省けて助かったくらいだよ。」
エイステン「それは良かった。これで僕の方はスッキリしたかな。シグレくん、この書類にサインをして血を1滴頼むよ。」
渡された書類にサインをして親指を切って書類に押すと、書類が淡く光り2枚になった。
エイステン「さあこれで良い。1枚は持っててくれ。さて、後はロブランさんに任せて僕は行っても良いかな?」
「いや、俺も1つ話があるんだ。」
エイステン「うーん・・・いい話かい?」
今度はエイステンが身構える。さて、どうしてくれようか。
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