【蠢きすぎる森その1】
「ファビアナ。昨日は、ゼーから何か聞き出せたか?」
ファビアナ「中々素直なやつでな、面白い情報をくれたよ。」
アニス「素直ね?4人で取り囲んで脅してたけどね。」
ファビアナ「ははは、ご愛敬だ!気にするなアニス。
シグレ、あいつも森の奥に入れなかったそうだ。原因はフォレス・・黒い奴だ。とにかく半端な数じゃなかったそうだ。」
「他の冒険者達と同じって事だな。」
ファビアナ「そうだ。だが面白い情報ってのは違うんだ。ゼーは森で黒い奴にしか遭遇してないって言うんだ。」
「んー良く解らないが、それっておかしな事なのか?」
アニス「明らかにおかしいのよ。南の森は良くも悪くも虫魔物がそこら中にいるような森なの。その虫魔物の底辺が黒い奴、虫魔物達は黒い奴を餌にしてるのよ。」
「あー見えてきた!餌を捕食する奴らがいないわけか。なら黒い奴の異常繁殖も解るな。
と言う事は、なんで黒い奴を捕食する奴らがいなくなったかだ。」
アニス「そう言うことね。」
実はツバキの一族からそれらしい事は聞いていた。但し、森の中の事は詳しく聞けていない。なぜならツバキの一族グレイパッセルと黒い奴が最悪に相性が悪いからだ。
黒い奴は昼も夜も構わず活動する。おまけに飛ぶ。グレイパッセルは黒い奴の格好の標的、餌にされてしまうらしく、虫の蠢く森は唯一と言って良いグレイパッセルの空白地帯になっている。
ファビアナ「着いたぞ。シグレあの辺の木陰に馬車を止めよう。」
虫の蠢く森はセグルド南門から歩いて1時間ほどの所から南に広がっている。
今日俺達は、俺の馬車にクラン全員を乗せ僅か10分ほどでやって来た。
因みに昨日の夜もエリザの変化は起こった。昨日はサクラが1番最後だったのでエリザの様子を見て貰っていたら、やはり俺とシユナがイチャイチャを始めるとエリザの体に変化が起こったそうだ。
エリザ自身も予感はあったらしく、結局シユナの後がエリザという順番が決まった夜だった。
うん。やっぱり美味しくいただきました。
「さあみんな装備を確認して行くぞ!」
「「「「「「「「「「・・・はい。」」」」」」」」」」
ティナやカタリナ達は馬車のリビングでサクラ達と随分盛り上がっていたらしいが、馬車を降りるなりどんよりした表情になっている。
「ファビアナ、このまま集団で良いのか?それとも何組かに分けて探索するのか?」
ファビアナ「このまま集団で行動する。人数を少なくして黒い奴に数で来られたら対応が難しくなる。」
「了解だ。じゃあ、各パーティーごとにあまり離れないようにして進もう。
ナナイ、ヒイラギは2つにわける。サクラ、アカネ、ツバキは俺と、ナナイはボタンが黒い奴を気にしないから、ボタンを先頭にフジナ、シユナ、エリザを頼む。」
ナナイ「了解。ボタンお願いね。」
ボタン「任せてナナ姉!」
エリザ「ナナイ、妾もおる。心配するな!」
「ロレン、ティナ!準備は?」
ロレン「良いぞ!」
ティナ「はい。大丈夫です!」
「ファビアナ。行こう!」
ファビアナの赤い連檄を先頭に俺のグループの後ろにナナイのグループが続く。その後ろにティナの紫蘭玉樹、最後がレナスの疾風でロレンは文字通り殿に着いた。
虫の蠢く森は、森と言っているが幹の太い木は少ない。その代わり2~3mほどに成長した草が生い茂っている。中には花を咲かせているのも有る。なるほど虫が好みそうな環境だ。
中に分け入って20分ほどして先頭のファビアナが止まった。
「ファビアナ、休憩か?」
ファビアナ「いや。やっぱりおかしい。ここまで魔物に出会ってない。」
「サクラ!何か感じるか?」
サクラ「はい・・・この先に何かいます。実はちょっと前から臭ってました。300mほど先です。こっちが風下なのでまだ気づかれてはいないと思います。」
「了解だ。」
サクラ「あっ・・・シグレ様。」
「なんだい?」
サクラ「沢山います。あの・・・沢山です。」
「沢山か。黒い奴みたいだな。」
ファビアナ「そうらしいね。でも1カ所に固まってるのは珍しいぞ。」
「確認だが、彼奴らは肉が好きなんだよな?」
ファビアナ「ああ。それも1番好きなのは死肉だ。死んだ魔物の肉はもちろんだが自分たちで殺した時も少し時間をおいてから貪り始めるんだ。」
「此処にいてくれ。俺が1人で行って仕掛けをしてくる。戻るまで待っててくれ。」
そう言い残して草の中に分け入った。
5分ほど進むと何やらカサカサと音がする。
『流石に聞き覚えのある嫌な音だな・・・』
音のする方に進みソーッと草の影から覗くと、テニスコート2面ほどのスペースに奴らがひしめき合っていた。
フォレストメンダー レベル2~3
『うわ・・・流石にこれは引くな。』
黒い奴、フォレストメンダーは1匹が30cmほどの巨大なゴキだ。それが中央に盛り上がるようにひしめき合って、さながらおしくらまんじゅう状態だ。
『何かに群がってるのか?まあいい、此処から動かないようにする為に・・・』
収納から我が家の備蓄用のオークを出し黒い奴の集団に放り投げていく。
『ほれ!大盤振る舞いだ!』
10匹分のオークを投げ入れてファビアナ達のところに戻った。
「奴らが俺達に向かってこないようにして来た。」
ファビアナ「どうやって?」
「餌を放り込んできただけさ。今ごろは貪りついてるよ。奴らが餌に夢中になってる間にケリを付ける。行こう!」
ファビアナ「了解だ。みんな近づいても声を出すなよ!」
「「「「「「「「「「・・・・・・はい。」」」」」」」」」」
自信なさげな声を確認して奴らのもとへと向かう。
―― カサカサカサ・・・・
ナナイ「う・・・この音が・・」
カタリナ「解る・・・嫌よね。」
「すぐそこだ。此処からは苦手なら直視しない方が良い。大丈夫って人はちょっと覗いてみな。」
ファビアナやボタン、ロレンなどが草をかき分けて覗く。
「さっきより増えてるな。倍になったかも知れない。」
「「「うわ!・・なにこれ・・ウッソ!・・こんな数初めてだぞ!・・流石にグロいな・・活きが良いの!」」」
「最後だけ何かおかしかったぞ・・・」
黒い奴らは投げ込んだオークの上にも大きな山を作っていた。
「じゃあやるか。エリザ、協力してくれ。」
エリザ「どうするんじゃ?」
「彼奴らからも養分は吸い取れるか?」
エリザ「出来るに決まっておろう。死んで土に還らん物があるか?
じゃが彼奴らを捕まえるのが厄介じゃ。数が多い上にちょこまかとすばしっこいからの。」
「解ってる。俺が奴らの動きを止めるから、その後で頼む。シユナ。」
シユナ「エリザ。お願いしますね。」
エリザ「良いじゃろ。シグレ、手並みを見せてみろ!」
草の中から黒い集団の縁に進み出た。俺が出て行っても餌に夢中の黒い奴らは気にもとめていない。
「どれ、やってみるか。【細氷】vr2だ!」
両手を差し出し、黒い奴らの全てを包むイメージで細氷を掛ける。
細氷のvr2は地面に降下していく細氷が触れた物から熱を奪い凍らせる。未だに絶対零度の細氷は作れていないが、効果範囲を限定すれば-200くらいは可能だ。
ただ、今回は経験上一番範囲が広いので細氷も-5度位が限界だが動きを止めるなら十分だろう。
アニス「綺麗!・・空気がキラキラ光ってる!」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
アニスの綺麗!に引かれてティナの紫蘭玉樹、レナスの疾風の女子達が覗きに来た。あっフジナもいる。
「「「「「「「「わーほんとに綺麗・・キャーーーーー!」」」」」」」」
だから言ったのに・・・
周囲の気温がドンドン下がっていく。
ファビアナ「寒い・・・シグレは何をしたんだ?」
ナナイは黒い集団に背を向けて地べたに座っていた。
ナナイ「シグレくんの魔法、【細氷】ね。解りやすく言えば空気を凍らすの。キラキラ光って見えるのは全て極々小さな氷よ。vr2って言ったから触れたら凍りつくから気をつけて。」
ファビアナ「もしかして、違う効果のもあるんですか?」
ナナイ「本来の細氷は呼吸で吸い込ませて体の中に入ると凍り始めるの。」
ファビアナ「体の中で凍り始める?」
ナナイ「そうよ。肺に辿り着いたあたりで凍りだすから呼吸が出来なくなって終わりね。」
ファビアナ「そんなの・・・呼吸をしただけで終わりなら、シグレと戦ったら息が出来ないじゃないですか。」
ナナイ「ふふ。1つだけ生き残る方法があるわよ。」
ファビアナ「どんな方法なんですか?姉さん!」
ナナイ「簡単よ。シグレくんと戦わなきゃ良いの。」
ファビアナ「・・・そんな気は無いですよ。」
黒い奴の周囲の気温が下がり黒光りしている背中に薄らと霜が降りた。
既に黒い奴の動きは止まっている。
「シユナ。エリザに!」
シユナ「エリザ。お願いします。」
エリザ「低温にして動きを止めたのか?やるではないかシグレ。なら妾も、ほれ!」
―― シュル、シュル、シュル・・・・・・
霜が降りた地面から無数の蔦が生えて黒い奴に絡みつ付いていく。
アニス「なにあれ!黒い奴がドンドン干涸らびて土が崩れるみたいに・・」
エリザ「動きが無いから楽じゃな。どれテンポを上げるか。」
―― シュル、シュル、シュル・・・・・・
ハノーク「これはどんな魔法なんだ?」
「エリザの緑魔法だ。魔物から養分を吸い取って土に返してるんだ。」
ガエン「返してるって・・・なんかとんでもないぞ!」
ステアム「シグレ、お前の妹・・・やばくないか?」
ロレン「骨喰の妹は、やっぱり普通じゃないんだな。」
15分後、全ての黒い奴が土に還った。
「出てきて良いいぞ!まあ、少し食い残しのオークがグロいけど良いだろ。」
サクラやティナ達が黒い奴がいた場所に入ってきた。
サクラ「あ、本当ですね、オークが・・・」
ナナイ「でもあいつより全然まし!」
「しかし、彼奴らはどこにでもいるんだな。流石火星にまでいた奴らだ。」
フジナ「火星?」
「ああ、俺も知らないとんでもない場所らしいよ。」
ロレン「シグレ!ファビアナ!こっちに来てくれ。」
ロレンに呼ばれた場所に行くと、ロレンがしゃがんで黒い奴の食べ残しを見ていた。
ファビアナ「どうした?」
ロレン「これ見てくれ。」
ロレンに言われファビアナとしゃがんで食べ残しを見た。
「・・・人か?」
ファビアナ「そうらしい。」
オークの死体の下に重なるように人だった物が残っていた。
「そうか。最初に俺が来た時に群がってたのはこれか。」
ロレン「ここにもオークを放ったのか?」
「いや、出来るだけ奥にと思って投げたからここのは違う。」
ファビアナ「シグレ!カードだ・・・見てくれ。」
ファビアナからカードを受け取る。
「ゼーか!」
ファビアナ「・・・汚名をそそぎたかったんだろうな。1人で朝早く来たんだろ。」
「オークで黒い奴の気を引いて先に行こうとしたのか。俺と同じことを考えたんだな。」
ロレン「シグレと違って収納が無かったのが拙かったな。重いオークが枷になって捕まったんだろ。無茶をする。」
冒険者は自分の命を対価に収入を得る。自分の力量を見誤ると待っているのは死だ。
朝、元気よくギルドを出た冒険者が帰ってこないなんて日常茶飯事だ。だから特別な繋がりでもない限り隣で酒を飲んでいた奴が死んでも特になにも思わない。いや、思わないようにならなきゃいけない。
それがナナイに教えて貰った冒険者の教訓の1つだ。
ティナ「何匹いたんでしょうね?」
「どうだろう?エリザ、感覚で何匹くらいだと思う?」
エリザ「ん?・・・400匹以上じゃな。」
「「「「「「「「「「400!」」」」」」」」」」
イデリナ「それを兄妹2人だけで片づけたのか・・・」
「俺は動きを止めただけだ。」
ティナ「それが出来るのがおかしいんです!でも、流石シグレ様!」
「えっ?ああ、しかしエリザのあの技は魔石も残らないからな。みんな、取り分が少なくなってすまないな。」
ファビアナ「問題ない。対処出来たことが重要なんだ。それにこの先に進めば金蔓はいるはずだからな。」
「それなんだが、普段ジャイアントスパイダーは何処にいるんだ?」
アニス「この先に左右が斜面になってる場所があるの。そこにジャイアントスパイダーの住む洞窟があるの。彼奴らは餌をとる以外はそこから出てこないのよ。」
「良し!準備が出来たら進もう!」
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