【珈琲その2】
「どういう事なんだ?」
朝食をとりながら、昨日の夜のエリザの変化について問いただした。
エリザ「モグモグ――妾にも解らん。」
「聞いた事も無いのか?」
エリザ「最高位では――モグモグ――シルフィーが召喚に応じて契約をした事があった。その時の――モグモグ――話は聞いておるがこんな事は――モグモグ――無かったはずじゃ。」
俺の腹の上で目覚めたエリザが、幼女体型に戻った自分の体を見て『妾のタワンタワンがー』と大騒ぎだったが戻った物はしょうがない。
結局なぜあんなことが起こったかはエリザにも解らないなら定番のファンタジー!で片付けるしかない。
エリザ「――モグモグ――シグレ。」
「なんだ?」
エリザ「妾はどうじゃった?――モグモグ――」
「・・・サクラ達と変わらない。」
エリザ「ん?――モグモグ――」
「・・・最高だったよ。」
エリザ「――モグモグ――シグレ。」
「なんだよ?」
エリザ「妹に手を出しおって。鬼畜じゃの!」
「なっ、お、お前が・・・・・」
サクラ「はいはい。朝からじゃれないでください。」
「じゃれてない!此奴が――」
ナナイ「落ち着いてね、旦那様。」
ツバキ「エリザもお口に食べ物を入れて話さない!」
エリザ「はーい!」
エリザ「赤の木の・・・種か?」
「ああ、これが珈琲の生豆だ!」
朝食を食べた後、俺達はセグルドの市場に来た。一昨日約束した珈琲の生豆を引き取るためだ。
野菜売りのおばちゃんは頭陀袋3つ分の生豆を集めてくれていた。
約束通り1袋大銀貨4枚、金貨1枚に大銀貨2枚払うと孫にお土産を買って帰ると大喜びしていた。
そして馬車に戻った俺はさっそく頭陀袋を開けている。
エリザ「珈琲?」
「赤の木を、俺の世界ではコーヒーの木って言うんだ。」
エリザ「で、この豆をどうするんじゃ?」
「ああ、これを煎って砕いて紅茶のようにお湯を注いで飲むんだ。」
エリザ「ほう、変わったものを飲みたがるな。」
「俺の居た世界では普通の飲み物さ。ただもう少しこの生豆を乾燥させたいんだよな。」
ツバキ「乾燥ですか?」
フジナ「どうやって?天日干しですか?」
「ああ、まだ中の水分が多いはずなんだ。フジナの言う通り、少し天日に当てて乾燥させた方が良いと思うんだけど、んー大門屋敷でやるか・・・」
エリザ「乾燥させれば良いのか?」
―― ジャラ!
エリザがマメを掬い小さな掌に乗せた。そしてほんの数秒後。
エリザ「こんなものか?」
「えっ?」
エリザから受け取った生豆は水分が抜けていた。
「凄いな・・こんな事も出来るのか?」
エリザ「ふふん!どうじゃ!」
また無い胸を張って反り返っている。
「はは。なあエリザ、もう少し水分を残せるか?これだと抜きすぎなんだ。協力してくれたらエリザもきっと気に入ると思うんだが?」
エリザ「しょうがないの。―― ジャラ・・・こんなのものか?」
それから2度ほど掌に取った豆で乾燥具合を調整し、程良い加減でOKを出すとエリザが一気に全ての生豆を乾燥させてしまった。
珈琲が飲めるようになるまでもう少し時間が掛かると思っていたが、エリザのおかげで一気に解決してしまった。
こうなったら今日の物にしたい!
「良し雑貨屋に行こう!」
サクラ「どんな物を買うんですか?」
「そうだな。まず、浅くても良いから広口の鍋。それとマメを細かく砕くためには何が良いかな・・・」
アカネ「石臼じゃダメなんですか?」
「アカネ!それ採用!後は濾し器だな。」
ナナイ「紅茶用の布を使った濾し器は?カップの上に直接置いて使うんだけど。」
「そんなのがあるの?」
ナナイ「今はポットが主流だけど、昔は布の濾し器しかなかったらしいわよ。ただ、今でも使ってる人がいるから売ってるはずよ。」
「うん、いいね。これで必要な物の目星が付いたよ。」
ボタン「シグ兄!スッゴク良い香り!」
雑貨屋で必要な物を購入して、さっそく俺はコーヒー豆の焙煎を始めた。
焙煎用に中華鍋のような広口の鍋と大きな木べらを購入して只今魔導コンロを弱火にして絶賛焙煎中だ!
サクラ「ほんと!スッゴク良い臭いです!旦那様!」
そうそう、昨夜からパーティーボックス内と言うか身内しか居ない場所では旦那様呼びになった。但し、ボタンは今まで通りが良いらしく、ナナイはその時の気分で呼んでいる。どっちでも良いので好きにさせてるけど。
くどいが旦那様呼びはまわりに知り合いがいないとき限定だ。
だって、ロレンやその他に聞かれたら恥ずかしいじゃないか・・・
アカネ「旦那様。どの位煎るんですか?」
「まあ、好みなんだけどね。煎り方で標準のミディアム、少し長く煎るシティ、それより長く煎るとフレンチって言うんだ。」
ツバキ「旦那様。何が変わるんですか?」
「苦さだね。そうだ今から言って置くけど、珈琲は苦いからね。その苦さが、長く煎るほど苦くなるんだ。」
ナナイ「へー、シグレくんはどういうのが好みなの?」
「俺はガッツリ苦いのが好きなんだ。でもみんなは初めてだから厳しいかも知れないな。焙煎の感覚がわかってきたから、今煎ってるのをシティにして終わったらミディアムとフレンチも作ってみようか。」
エリザ「シグレ。確かに良い香りじゃな。早く飲んでみたいぞ!」
「まてまて!俺だって早く飲みたいんだ。でも美味しく飲むためには手間を惜しんじゃダメなんだよ。」
結局、弱火でジックリ時間を掛けてミディアム、シティ、フレンチの3種類を作った。
「そうだな、初めてだからミディアムから飲んでみるか。」
煎った豆を石臼に入れ挽いていく。
―― ゴリゴリゴリ・・・
「良い感じに挽けてるな。これを雑貨屋で購入してきた大きめの紅茶ポットの上にセットした布の濾し器にいれてお湯を注ぐ。」
お湯を注ぐ為に使っている注ぎ口の細くなった銅製のポットも雑貨屋にあった。探せば結構揃う物だ。
布の濾し器に入っている豆にお湯を注ぐと豆が膨れ盛り上がってくる。それに合わせて、あの独特の香りが鼻に届く。
フジナ「あ・・・凄く良い香りが立ってきました!」
シユナ「初めての香りですが、良い香りです。」
「だろ?良い感じだな。豆が膨れて香りが立ったらゆっくりお湯を注いでいく。」
程良くポットに一杯になったので9個のマグカップに分ける。
この世界、エギンバラ初の珈琲の完成だ!
「良し!出来た!さあみんな遠慮無くどうぞ!
どれ、俺も飲んでみるか。味がどうなってるか気になるし・・・」
―― ゴク・・・・・
「あ・・・あ・・珈琲だ・・」
泣きそうだ。ちゃんと珈琲だ。
「美味い!」
サクラ「クンクン・・・香りは凄く強いですが、じゃあ頂きます。――ゴク!―― 苦い・・・」
「だろうね。アカネは?」
アカネ「・・・苦いです。」
「「「「苦い・・・」」」」
「そうだよね。因みにこの状態がブラック。俺のような好きな人間はブラックで飲みます。で、苦いのが苦手な人は、まずこのミルクを入れてみて。」
ミルクと言ってるが何かの乳、牛乳のような物だ。
サクラ「あっ!これなら大丈夫です。」
アカネ「私も!」
「まだ苦い人はいる?」
ボタン「・・・はい。」
ボタンがゆっくり手を上げた。
うん。まだ若いからね。大人の味は厳しそうだ。
「じゃあボタンは砂糖も入れてみて。ミルクと砂糖の量を自分の好みで調整して飲むのが普通だから。」
それから各々ミルクだけとか砂糖だけとか色々試して自分好みの加減を見付けたようだ。
「どう・・・あれ?そう言えばエリザがずっと大人しいな?」
カップの珈琲を渡してからずっと大人しいエリザに視線を向けると、1人寛いだ様子で珈琲を飲んでいる。
エリザ「ん?妾はブラック?と言ったか。このままで良いぞ。
シグレ、気に入ったぞ!うん。美味いな!」
「さすが体は子供でも、中身はバ――」
エリザ「何か言ったか?」
「言ってません!」
エイステン「シグレくん。ティナちゃんから聞いたよクランを立ち上げたんだって? 今回クランで依頼を受けてくれるって聞いたけど?」
「まず話を聞いてからですね。どんな状況なんですか?」
昼食を食べた後、俺達はアルバータス侯爵邸に来ていた。
南の森、虫の蠢く森のジャイアントスパイダーの討伐依頼の状況を聞くためだ。案内された応接間ではティナ達も同席している。
エイステン「その前に、ライナーは昨日無事にセグルドを発ったよ。後は奴の仕事だ。正直ホッとしたよ。」
「そうですね。ようやくって感じですね。」
エイステン「さて、正直困ってる。ジャイアントスパイダーの糸袋は紡績に必要不可欠なんだが、僕がサラケスに行ってる間納品されてなかったんだ。」
「納品出来なかった理由は?」
エイステン「いつもジャイアントスパイダーを狩っていた冒険者達が失敗してるんだ。」
「森には入ったけど狩れなかったって事ですね。原因は解ってるんですか?」
エイステン「簡単に言えば森のわりと浅いところからジャイアントスパイダーの生息地まで入れていない。その理由がフォレストメンダーらしい。」
「「「「「「キャーー!」」」」」」
『メンダー?なろう定番のゴキブリじゃないのか?・・・ああ、そう言えばタイとか向こうの国は同種をメンダーって言ってたな。やっぱりゴキか。』
エイステン「・・・失礼。女性は名前を聞くのも嫌がるよね。嫌われ者の黒光りでおっきいのが異常繁殖してるらしい。」
「黒光りでおっきいの・・・黒い奴にしましょうか。」
ナナイ「唯の虫系の魔物なら何とかなるんだけど、あいつだけは黒い奴だけは生理的に・・・ああ考えたくも無いわ。」
「しかし、なんでそんなに繁殖してるんですか?」
エイステン「それが解らないんだよ。もともと蠢く森の代名詞みたいな奴なんだけど、他の虫の魔物とバランスは取れてたんだ。だから、その調査もお願いしたいんだ。」
ナナイ「ねえ・・・シグレくん、本当に受けるの?」
「受けようと思う。まあみんなは嫌かも知れないけど、この先ダンジョンにだっているんでしょ?なら此処でどんな物か経験しておきたいからね。」
「「「「「「「「・・・・・・はい。」」」」」」」
「イデリナもダメなのか?」
イデリナ「わ、私だって女だぞ!あれは・・・無理・・」
「侯爵様、正式な依頼をギルドに出してください。なんとかやってみますよ。」
エイステン「そうか!本当に助かる。報酬は正規の物に加えて別にも用意するから。期待しててくれ!」
「いや、正規の物だけで十分ですよ。」
エイステン「まあまあ。ところでシグレくん。最初から気になっていたんだが、その子は何処の誰ちゃんなのかな?」
「あ、やっぱり気がつきました?」
エイステン「目の前でこれだけ優雅にお茶を飲んで御菓子を食べてるんだよ?そりゃ気づくでしょ!」
「えーと、俺の妹です。歳の離れた妹。な?エリザ!」
エリザ「エリザベス。エリザって呼んで!」
エイステン「エリザちゃんか・・・シグレくんの妹?へーそうなの。へー・・・君は本当に面白いね。エリザちゃん宜しくね。」
エリザ「はーい。」
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