【巨大ベッド】
セグルドの南東区にあるエイステンの屋敷を出て、俺達は南門前の馬車溜まりに場所を確保した。
馬車を止めた俺達が最初に向かったのはレストランだ。サラケスと違いセグルドは小洒落た店が多かったので、女子達が選んだ店の個室でゆっくり食事を楽しむ事にした。
「あーーやっと終わった!もう長期の護衛依頼は受けたくない!」
ロレン「そうか?俺は面白かったけどな。」
「そう言えば護衛の報酬ってどの位出るんだろ?」
ナナイ「安いわよ。依頼主によるけど相場は1人1日銀貨5枚ね。」
「そんな物なの?」
ナナイ「そうよ!あっこれ美味しい!
野営が基本で宿泊費は出ない。雇い主によっては食料を現物で支給するけど決まって美味しくないのよね。
サクラこれ美味しいよ!
だから自前で用意する方が多いの。結局割が合わないわね。」
「そんなんでよくみんな受けるね?」
ナナイ「自分が向かう場所の護衛を見付けて小遣い稼ぎしながら行くのよ。」
「でも、そんな都合良く冒険者もいないだろ?依頼が成立しないんじゃないの?」
ナナイ「冒険者って結構出入りが激しいからそうでもないのよ。
あっ、アカネそれ頂戴!
それに、一番の理由は依頼中に討伐した魔物の素材よ。当然、全部冒険者の物になるの。盗賊を撃退すれば剥ぎ取り分が儲けになるしね。」
「あー、納得!」
ナナイ「もちろん気前の良い依頼主もいるのよ。商店が幾つか集まって大きな商隊を組むときなんかがそうね。
あっ!ボタンそれ持ってかないでー!」
ボタン「ナナ姉!早い者勝ち!」
ロレン「ははは、シグレこの後どうする?」
「ああ、ベッドがないのも落ち着かないだろ?先にそっちに行こうか。
悪いけどその後行きたいところがあるからギルドは明日でも良いか?」
カタリナ「良いわよ!家具が入らないと落ち着かなかったの。助かるわ。」
食事が終わって家具屋に行くと凄い物が有った。
「ウソ!同じサイズだ・・・」
大門屋敷と同じ天蓋付き20m幅のベッドが売り場の真ん中に鎮座していた。細部の作りもかなりの高級品だ。
呆気にとられてみているとスッと店員が横に立った。
店員「興味がお有りですか?
ある貴族様に頼まれて作った物です。最高の素材を使って意匠を凝らし、マットも特注で作らせました。もちろんこのベッドに合うようにシーツも枕も寝具は全て特別製です。」
「特注品なのになんでここに有るの?」
痛いところを突かれて店員の視線が泳ぐ。
店員「・・・建物の中に入らなかったんです。入り口を通らず、ならばとお部屋のある2階のバルコニーからもダメでした。」
「・・・そりゃまた。」
『なんで最初に測らなかったの?』『私に言われましても・・』目で店員と会話しちゃったよ。
「因みに幾ら?」
店員「はい。もとは白金貨100枚でしたがどうにも買い手が付かず今は白金貨60枚です。因みに輸送費も入れてです。」
「もう一声頑張らないか?」
店員「なら・・・55枚では?」
「うちにトリプルキングサイズ2つ分のベッドがあるんだけどそれを引き取ってくれるなら白金貨50枚で買うよ。輸送も俺がする。どう?」
店員「ほ、本当ですか?それでお願いします!中古でもそのサイズのベッドは需要があるので売れるんです。輸送費を持って頂けるなら是非!
ただ、お引き渡しに時間が掛かります。なにせ此処から出すのが手間な物で。」
「それなら心配ないよ。俺の収納に入れるから。はいっと!」
その場で収納に入れると店員、後で聞いたら店長の顎が外れた。
「白金貨50枚だよね。―― はい。うちのベッドは明日にでも持ってくるよ。」
店長「ああ、はい。ありがとうございます!」
俺がとんでもベッドを買っている間、ロレン達のベッド選びは難航していたらしい。
5人で使うから広い方が良いとトリプルキングサイズを主張するカタリナ達4人に、なんでそうなると抵抗するロレン1人。
そこにうちの女子がカタリナ達の援護に加わりロレンは集中砲火をあびた。結果、ロレンの撃沈で幕を閉じたようだ。
燃え尽きたロレンが売り場のベッドに腰掛け項垂れている。
うん。頑張れ!ロレン!
ギアド達が使っていた家具を収納から出して引き取ってもらい、カタリナ達が買った家具を収納に仕舞うと再び店長の顎が外れた。
馬車溜まりに戻り、ロレンの馬車に家具を搬入して俺達は自分の馬車に戻った。
「ルシエラさん。お母さんのお墓に行きましょう。そこまでが俺が受けた依頼です。」
ルシエラ「お願いします。」
ルシエラさんのお母さんのお墓はエイステンの屋敷と同じ南東区、ルシエラさんの生家アムガルド邸の敷地内にある。
ルシエラ「もともとこの一帯はセグルドの旧市街なんです。セグルドの街は此の地区に商人が集まって大きく発展していきました。アムガルド家は〈セグルド始まりの四商人〉の家なんです。」
「凄い歴史を感じるな。」
ルシエラ「そうですね。歴史だけは公王国以前からですから。ああ、見えました。あれがアムガルドの屋敷です。」
大きい!デランドやエイステンの屋敷に匹敵する大きさだ。
大きな門の前で馬車を止める。
ルシエラ「ルシエラです。責任者の方を呼んでください。」
門番「えっ、ルシエラ様?辺境伯夫人・・・お、お待ちください。」
門番の1人が屋敷に走った。5分後ボールやポールを白髪にしてサンタのような白髭を蓄えた老人がやって来た。
コール「ルシエラ様!ああ、お綺麗なままのルシエラ様が・・・」
ルシエラ「コール殿。お久しぶりです。母のお墓に行きたいのですが入れて頂けませんか?」
コール「何をそのような他人行儀に。もちろんでございます。ささ、どうぞ!門を開けろ!急げ!」
コールの一声で、門番が焦る仕草で大きな両開きの門を開けた。
ルシエラ「シグレ様。庭の先のあの大きな木に向かって頂けますか?」
「ツバキ。」
ツバキ「はい。」
庭の奥に大きな木がそびえ立っている。指定されるままその木の側に馬車を進めた。
大きな木の前は墓地になっていた。アムガルド一族の墓所らしい。
馬車から降りるといつの間にかコールが横に来ている。
コール アムガルド家家宰 レベル64 75歳
『ウソ!75歳?それに、レベル高すぎだろ!』
コール「こちらです。ルシエラ様。」
一族の墓所の奥にわりと新しく見える墓石があった。
墓石に向かおうとするルシエラを引き留めて収納から花を出して渡した。
突然出した花にルシエラが驚きの表情を見せる。
ルシエラ「わざわざお花を用意してくださったんですか?」
「サラケスで旅の物を買ってる時に目に付いたんだ。花の名前は解らないんだが、俺の国のカーネーションに似てたから。」
ルシエラ「カーネーション?」
「俺の国で子供が母親に贈る花なんだ。その花の持つ言葉があるんだが・・・忘れた。はは。」
ルシエラ「シグレ様。ありがとうございます。」
ボタン「女心は解らないのに平気でこういう事はするんだよね。」
アカネ「そうなのよ。」
ナナイ「で、持ってかれちゃうのよね。」
イルカル「シグレ様・・・」
ツバキ「此処にもいました。」
サクラ「それがシグレ様です。」
ルシエラが墓石に花を添え膝を折る。
ルシエラ「お母様。ご心配をお掛けしました。出来ればこの姿を生きているお母様にお見せしたかった。
お母様。お父様、いえグスタフとは縁を切りました。もう良いですよね?ルシエラはこれから自由に生きます。シグレ様のお側でこの恩を返したいと思います。お母様・・・」
ルシエラが祈りを捧げて下がる。
カーネーションを1輪ずつ俺から受け取り、サクラ達も順番に献花していった。
最後に俺が献花し墓前に手を合わせる。
『直接お目に掛かれませんでしたが、これからルシエラは俺が責任を持って守ると誓います。安心して、安らかにお眠り下さい。』
ルシエラ「シグレ様。ありがとうございました。これで心残りはなくなりました。」
コール「ルシエラ様。お屋敷へどうぞ。」
献花の間離れたところにいたコールがいつの間にかルシエラの後ろに立っていた。
『この爺、いつ動いた?まるで気配が無かったぞ。』
ルシエラ「コール殿。お墓まで入れて頂き感謝します。屋敷への招待は無用です。私はもうアムガルド家とは縁を切りましたから。」
コール「そうですか。もはやこの老体も何も言える立場ではございませんでしたか。お許しを。
ルシエラ様。ルナンダ様のお墓へはいつでもお越し下さい。縁を切ったとは言え親子なのですから。」
ルシエラ「ありがとうございます。心に留めておきます。」
馬車を進めて屋敷を出た。
「しかし、あの老人とんでもないな。気配は無いし、俺には押し潰しそうな威圧を向けてたよ。」
ルシエラ「コールは、ボールの父親です。アムガルド家が此の地に店を構えてから表に裏にと仕えている一族の長なんです。
今は75歳くらいですが、それでもその辺の冒険者では歯が立たないと思いますよ。」
―― アムガルド屋敷 ――
閉められた門扉の内側にコールが立って離れていく馬車を見ていた。
門番「コール様。どうかされたんですか?」
コール「何でもない。」
『終始、儂の威圧を耐えきったか。ボールの報告通りらしい。関われば寿命が縮まりそうだな。
うん。もそっと長生きしたいし、儂はなるべくほっとこう!』
この時のコールの思いがフラグだったのか、この出会いを機に俺とコールは深く関わって行くことになる。
「ルシエラさん、これで良かったんですか?」
ルシエラ「はい。これでルシエラとはさよなら出来ます。依頼も終わりですねシグレ様。」
「そうだね。じゃあルシエラ、奴隷契約をしよう。奴隷商の所に行こうか?」
ルシエラ・イルカル「「はい!」」
「ところで、奴隷商はどの辺にあるか知ってるかな?」
ルシエラ「この先にレンドン商会があります。」
「レンドン商会?ネールのレンドン商会と当然関係があるんだよね?」
ルシエラ「はい。ネールのトルドは此処から独立したんです。此処は彼の父ラズルさんがやっている老舗の奴隷商会です。」
「トルドさんって言うんだ。初めて知ったよ。」
ルシエラ「彼とは幼なじみなんです。尤も私の方が5つ上なんですが姉のように慕ってくれて、火傷をしてからも色々と手を尽くしてくれていたのは知っていました。」
『姉のように慕ってか。そう思ってるのはルシエラだけかな。トルドのルシエラへのこだわりが解った気がするな。』
「そうか・・・出来ればレンドン商会以外が良いな。何か面倒くさくなりそうだからさ。」
ルシエラ「それなら・・・昔と変わってなければ・・・」
その後、ルシエラの記憶を頼りに奴隷商を見付けルシエラとイルカルは本人達の希望通り〈フジナ〉と〈シユナ〉になった。
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