【正座で・・・】
馬車蔵に馬車を入れてまもなく、俺達は侯爵邸に呼ばれた。
「クレイマン殿。荷を王都の騎士団に渡すまでが依頼です。全員で此処を離れるわけにはいきません。」
クレイマン「此処の警備は儂が、セグルド騎士団がメンツに賭けて引き受ける。安心して屋敷に行ってくれ。」
「解りました。みんな用意は?」
サクラ「出来てます。」
「ルシエラさんとイルカルもだそうです。」
ルシエラ「きっとリーズの我が儘ね。侯爵様はリーズに甘いから。」
侯爵屋敷の応接間に通された。さすがセグルド領主の屋敷だ。13人が入っても余裕で座れるだけのソファセットが置かれていた。
―― カチャ!
エイステン「またせたね。」
リーズ「ルシエラ!」
―― パタパタパタ・・・
侯爵夫人が一目散にルシエラに駆け寄ってきた。一緒に入って来た侯爵のことは完全に無視だ。
リーズ「本当に治ったのね!良かった!本当に良かった!」
目に涙を浮かべ、ルシエラの手を取ってブンブンと振っている。
ルシエラ「あ、ちょ、リーズ様・・・」
リーズ「ご、ごめんなさい!ついつい嬉しくて。」
ルシエラ「ご心配をお掛けしました、リーズ様。今はこの通り快癒して、心から女神様の御使い様に感謝しています。」
リーズ「話は聞いたわ。貴方本当に――」
エイステン「リーズ!座ったらどうかな?」
リーズ「ああ、すいません。そうね。ごめんなさい。」
此処でようやく侯爵夫人が席に座り場が落ち着いた。
エイステン「改めて紹介しよう。僕の妻のリーズだ。」
リーズ「リーズ・アルバータスです。」
皆一斉に頭を下げた。
エイステン「シグレくんロレンくん、それからヒイラギとレナスの疾風には本当に良くやって貰った。ありがとう。」
「侯爵様。まだ王立騎士団に引き渡していません。それまで依頼は続いていますから。」
エイステン「そうなんだが、今この場くらいは良いだろ。君らを労わせてくれ。」
ロレン「ここまで来れたのは全てシグレのおかげです。此奴がいなければ最初の襲撃で終わってたかも知れません。」
エイステン「そうだね。シグレくん。君には本当に感謝してるよ。」
侯爵様から温かい言葉をいただいた直後だった。
リーズ「シグレさん。話は聞いています。ただ、私には貴方がそこまでの人にはまだ思えないんです。」
おっと!いきなり切り込まれたな。
どうも侯爵夫人は俺がお気に召さないらしい。
まあ良い評価が欲しいわけじゃないから全然構わないんだけどね。
エイステン「リーズ。それは――」
「奥様が言う通りです。侯爵様もロレンも持ち上げすぎです。ここまで来れたのはみんなの力が有ったからです。
それに、過分に評価されても依頼主との関係は依頼が終わるまでですから。」
エイステン「おいおい、そんな悲しい事を言うなよ。リーズの言葉が癇に障ったんなら謝る。僕は君が気に入ってるんだ。これからも付き合いは続けて欲しいな。」
侯爵様が意外な言葉を聞いたと驚きの顔をしている。
「侯爵様とは気が合いますが、どうやら奥様には嫌われているようです。面倒事と面倒な人とは関わらない。それが信条なんです。」
リーズ「ルシエラが何故貴方に着いていくのか、私はそれが納得いかないだけよ。」
なるほど、侯爵夫人に不評なのはルシエラが原因らしい。
その時だった。はぁーと溜息が聞こえた・・気がした。
ルシエラ「余計なお世話ですリーズ!いえ侯爵夫人!私はもう誰かに私の人生を決められるのにウンザリなの!
私にはシグレ様について行く理由がある。貴方が勝手に私の事を思うのは自由よ!でも、これからの私の生き方を貴方に納得して貰う必要はありません!」
ルシエラの声が広い応接間に響き渡った。
リーズ「ルシエラ・・・」
鳩が豆鉄砲を喰らった顔って言うのは今のリーズの顔かも知れない。
「侯爵様。馬車蔵に戻ります。明日鹵獲した馬車の検分をします。まだ中に盗品が有るかも知れませんから。」
エイステン「解った。そっちは任せるよ。・・・一応聞いておくが今日は屋敷で一緒に夕食と思っていたんだが、戻るよね?」
「はい。申し訳ありませんがご辞退させて下さい。ああ、ロレンは気にしなくて良いから。馬車の警護は引き受ける。」
カタリナ「私達も戻るわ。依頼の責任があるし、何よりこれは試験なんだから最後まで一緒よ。」
ロレン「そのつもりだ。じゃあ戻ろうか。」
―― 侯爵屋敷 応接間 ――
俺達が応接間を出た後もエイステンとリーズは応接間のソファに腰掛けていた。
エイステン「さて、どう読むべきかな・・・・・」
リーズ「これからC級になる冒険者にどうしてそこまで?」
エイステン「この後ゆっくり話そうと思っていたんだけど、彼は渡り人なんだ。」
リーズ「えっ?」
エイステン「ルシエラさんを治したのは彼なんだよ。彼女は全快した日、彼を見てるんだ。」
リーズ「どうして教えてくれなかったのよ!」
エイステン「だからサラケスからここに戻るまでに確信したんだって・・・」
リーズの勢いにエイステンがたじろいでいた。
リーズ「じゃあルシエラが彼に着いていきたいって言うのは治して貰ったから?」
エイステン「ルシエラさん、彼の手が触れたとき忘れていた涙が溢れたと言ったそうだ。女神様にいただいた残りの人生を彼のそばで、彼の為に使いたいとデランドにハッキリ言ったそうだよ。」
リーズ「ルシエラがそこまで・・・」
エイステン「それに、ルシエラさんにはシグレくんのそばが1番安全だと思うよ。ここに来るまで彼は3度の襲撃を防いでるんだ。
僕には情報の裏付けがあったとしか思えないんだけど、その情報をどうやって得ているのか見当も付かない。」
リーズ「でも、それはエイスの推理なんでしょ?」
エイステン「君から報告のあったリンデン公爵の屋敷の件。驚いた理由は昨日彼からリンデン公爵が関わってると聞かされたばかりだった事も有るんだ。」
リーズ「なんで?彼はなんで知ってたの?」
エイステン「彼の説明は、依頼を受けた直後からデランドの屋敷を見張ってる者を探したそうだ。そして見付けて後をつけた。見張りはリンデン公爵の屋敷に入ったそうだ。
相手も簡単に見つかることも、つけられるようなヘマもしないはずだ。でも彼はリンデン公爵に行きついた。
僕はこの話を彼から聞かされてある種の怖さを覚えたよ。敵にまわしたら丸裸にされるんじゃないかってね。」
リーズ「でも、でもただの護衛依頼にどうしてそこまで?」
エイステン「彼には護衛の中身と重要性を最初から説明してたからね。彼は面倒くさそうだったけど。」
リーズ「C級昇格の試験だったから。って事でしょ?」
エイステン「彼、ギルドのランクに興味がないんだ。昇級試験も最初は断ってたそうだ。
今回の事の発端はモーガン商会が襲われた事だ。ところが襲われたモーガン商会は子供を攫って牢に繋いで・・・まあそこからブルーまで来たわけだけど、ヴィリアムは彼といざこざを起こしてる。殺された日にね。」
リーズ「じゃあ、ヴィリアムは彼が?」
エイステン「そう。ヴィリアムは彼なんだ。それは間違いない。でもコルとサラケスはどう考えても無理・・・・・・・・」
エイステンが顎に手を当て俯き加減に考え込んでしまう。
リーズ「エイス。エイス!」
エイステン「えっ!ああごめん。えーと、商業ギルドでヴィリアムが彼の商品を横取りしようとしたんだ。たまたまグスタフ卿が居合わせてね、それまでの悪事も合わせてモーガン商会は商業ギルドの資格を失ったんだ。」
リーズ「それでどうして彼がヴィリアムを?逆なら解るけど?」
エイステン「その日の夕方、彼の馬車が魔法で襲われたそうだ。」
リーズ「馬車が?じゃあ留守で無事だったのね。」
エイステン「いや、中にいたそうだ。結構な風がぶつかる音と火の玉を見た者がいたそうだよ。それでも彼の馬車は無事だった。ほら君も見ただろあの馬車だよ。」
リーズ「でもどうしてヴィリアムだって解った・・・あっ!」
エイステン「そう!彼はヴィリアムが手を出すかも知れないと見張ってたんだ。」
リーズ「殺そうとしたからヴィリアムを殺した。あのヴィリアム・モーガンを?」
エイステン「あのヴィリアムを、だ!僕たちだったら面倒事を考えるけど彼にはそれがない。有るはずが無いんだよ。渡り人だから。」
リーズ「それなら、なんでこの依頼を受けたの?」
エイステン「彼が受けた理由はブルーを自分が穿り出しちゃった。だから面倒だけどしょうがないってところかな。
彼に接してると解るんだけど、彼はしょうがないで依頼を受けちゃうんだよ。」
リーズ「しょうがない?何それ?それだけ?」
エイステン「それだけ。しょうがないで動かせれば彼ほど心強い味方もいない。どう?面白いでしょ!」
リーズ「面白い?私に言わせればただの変人だけど。
エイス、ごめんなさい。ルシエラがどうすれば幸せなのか考えてたら気持ちが高ぶってしまって彼を認める気になれなかったの。」
エイステン「んーまあ、僕も要点しか君に鳥を送ってなかったからね。僕のせいでもあるから。それに、ああは言ってるけど何か意図があった気がするんだ。それが何かなんだけど・・・」
馬車に戻った俺達は紅茶を飲んでいた。
ナナイ「さて、シグレくん。正座しようか。」
「えっ?」
ニコニコ笑顔のナナイの目が笑ってない。恐い!
サクラ、アカネ、ツバキも同じ笑顔に同じ目だ。
『ヤバイ!これは洒落の通じない時だ!』
ボタン「シグ兄!素直にした方が良いよ。」
ボタンが優しく気遣ってくれる。それはつまり、俺にとって状況が良くないときだ。
俺は素直に馬車のリビングに正座をした。正座するしかなかったとも言うが・・・
ナナイ「昨日は何処に行ってたの?って言うか、コルとサラケスよね。」
サクラ「どうして1人で行ったんですか?」
アカネ「気がつかないと思ってたんですか?」
ツバキ「大体理由は解りますが説明を求めます。」
ボタン「シグ兄、言った方が良いよ。」
これは・・良い警官と悪い警官だ。良い警官、ボタンの優しさに触れ全て話そうと心を決めた。
「一晩中走り詰めだったから、みんなを寝かせてあげたくて・・・」
ナナイ「まあそんなところだとは思ってたけど。」
サクラ「それで私達の知らないところで何かあったら?」
アカネ「以前も言いましたよね?万が一が有るかも知れないって!」
ツバキ「また罰が必要ですか?」
「えっ罰!まって、まって!今回は――」
ナナイ「まあ良いわ。今回は体で剣を止めたわけじゃないし、私達の事を考えてくれた事は解るから。
でもね、今後は1人で行くにしても、必ず、絶対、私達に話してから行く事!」
「「「「良いですね!」」」」
ルシエラ「心配させたんです。しょうがありませんね。」
「はい・・・すいませんでした。あの、店屋物はカツ丼で!」
サクラ「カツ丼?なんですかそれ?」
「取調室の容疑者のご飯はカツ丼って――」
ナナイ「シグレくん!本気で反省してる?」
ナナイの目が吊り上がってる・・
「はい!ごめんなさい!ちょっと場を和ませようと、すいませんでした!」
ツバキ「まったくしょうがないですね。」
「あのー正座は直しても――」
「「「「まだ!」」」」
「はい・・・」
イルカル「罰ってなんですか?」
ボタン「ふふ、お風呂。すぐに解ると思うよ。」
サクラ「ついでですが、侯爵夫人の何が気に障ったんですか?」
アカネ「シグレ様が評価が悪い事を気にするわけはないし。」
ナナイ「私も気になってたんだけど。どうして?」
ツバキ「むしろ、上手く使ったようにも見えましたが?」
「バレてた?あれは――」
「「「「まだです!」」」」
しらっと正座を直そうと思ったら、甘くなかった。
ボタン「シグ兄、無理だって。」
ボタン、その可哀想な子を見るような目はやめて!癖になるから!
「侯爵だよ。今侯爵が考えているのはコルとサラケスの事だろうね。俺が直接やったのか、それとも俺には他に仲間がいるのかってね。」
ナナイ「シグレくんが絡んでると思ってる訳ね。」
「モーガンの件は俺が犯人だと思ってるはずなんだ。だから今回も俺だと思ってたけど、俺はマルド村にいたとロレンが証言しちゃった。とっても頭が良くて読み合いが大好きだから色々考えてるのさ。」
サクラ「シグレ様と似てますね。」
「そこさ。気は合うし話は早いんだけど、俺達の事を深く詮索させたくないとおもってさ。」
ルシエラ「距離を取りたかったんですか?」
「凄いね。ピンポン!」
ルシエラ「ピンポン?」
ボタン「正解って意味らしいよ。」
「距離感が大事だと解って欲しくてさ。侯爵が俺を利用したいなら場合によっては利用されようと思ってる。でも、そこはちゃんと考えてくれってことさ。侯爵夫人がルシエラさんの事で不機嫌だったのは解らなかったけどね。」
この後ルシエラから聞いた話によると、ルシエラとリーズは王都の王立高等学術院で同級生だったそうだ。性格は違ったが何故か気が合い、一言で言えば親友らしい。
当時2学年上にデランドやエイステン達がいて、卒業後何年かしてエイステンとリーズが結婚した。ルシエラも強引にだがデランドのラディス家に入り交流が続いていたそうだ。
リーズは良くも悪くも直情型で考える前に行動してしまう。ルシエラがラディス家で不遇な生活を強いられていた時もずいぶんとデランドに食ってかかっていたらしい。
当然ルシエラが大火傷を負った時は後先考えずマーリーズを問い詰めようと乗り込んだそうだ。
イルカル「ラディス家のメイド仲間に聞いた話では、それはもう大変な剣幕で、辺境伯夫人の部屋に行かないように侯爵様と辺境伯様が2人がかりで制するのに精一杯だったそうです。」
さっきのリーズを思い出せば然もありなんといったところだ。
こんな話を聞きながら1時間、しっかり正座をさせられた。
この日は馬車で夕食をとりまだ依頼中なので俺とサクラ達は交代で馬車のソファで眠った。
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