【マルド村の夜】
ブクマ200達成記念に本日は2話掲載です。
当初からの予定だったマルド村侯爵屋敷の警護騎士がセグルドから到着した。
俺とロレンは侯爵に呼ばれ打ち合わせの為に屋敷に行った。
「では、明日は今日来た騎士も護衛に加わってセグルドに行くんですね。」
エイステン「仰々しくはなるがここまで来たらもう関係ないだろ。あの状態でこれ以上何が聞けるとも思えないけどあの信者の子も連れて行くから護衛は多い方が良いだろうしね。」
「了解しました。」
ロレン「俺も問題ありません。」
「侯爵様。ルシエラさんの事で少しお話しがあります。」
エイステン「ん?そうかい。ならシグレくんはこのまま残ってくれ。」
ロレン「じゃあ俺は戻るよ。」
エイステン「今度はなんだい?ルシエラさんの事じゃないんだろ?」
どうやら侯爵様にはお見通しのようだ。
「伝えておいた方が良いと思った事が有ります。」
エイステン「何かあんまり聞きたくないけど、そうはいかないよね。」
侯爵が、はぁーと冗談のように溜息をつく。
俺が伝えたかった事、それは
「今回の件にリンデン公爵が関わっていると思います。」
公王国の上位貴族がこの件に関わっているという事実だ。
エイステンの表情から余裕が消えた。
いつになく真剣な視線が俺を刺している。
エイステン「その根拠は?」
「この依頼を受けた直後、ラディス辺境伯家の屋敷の周りを探らせました。見張りがいると思ったからです。案の定見張りを発見して奴らがどこから来てるのかつけました。」
エイステン「リンデン公爵の屋敷だった。と?」
「そうです。」
エイステン「まったく・・・困った御方だ。」
リンデン公爵家。現在公王国に存在する三公爵の一家であり、最も古い事を誇りとしている。
公王国では時の王の兄弟が望めば公爵家を興す事が出来る。しかし王家の血筋となる公爵家が多くなれば王位の継承で問題を起こす者が出てくる。そこで公爵家には厳格な決め事が定められていた。
まず、公爵家を継げるのは直系の男子のみで、娘は婿を取っても公爵家を継ぐ事が出来ない。
次に、平民にさえ一夫多妻が認められている公王国で公爵のみ妃は1人、側室も認められていない。なぜなら、王家にとって出来るだけ1代で消えて欲しい爵位だからだ。
リンデン公爵家は妃がよく死ぬ事で有名な公爵家だ。まあ、そう言うことだよね。妃が死ななければ次の妃を娶れない。男子を産まない妃はいらないって事だ。
エイステン「今のリンデン公爵妃は分領した男爵家の者だ。本来公爵ともなれば妃は伯爵以上から貰うんだが、既に2人妃が亡くなっててね。もう分別の有る貴族家からの妃は考えられないんだよ。」
「と言う事は、男子ができなかったんですね?」
エイステン「ああ、ルシエラさんと因縁のあるマーリーズが長女。最初の妃の子さ。次女が2人目の妃。今年成人を迎えるのが三女さ。」
「あらら・・・結局全部女の子ですか。」
エイステン「女の子が続いてリンデン公爵は最初にマーリーズをブレンダンと結婚させようとしたんだ。公王の次男さ。
マーリーズを嫁がせてブレンダンに公爵家を興させれば次の展開が出来ると思ったんだろうね。
ところがブレンダンが交流会に来たミサロニア帝国公爵の娘に一目惚れしてね、公王も皇帝も乗り乗りで話が進んじゃったんだ。
ああ、公王国と帝国は友好国なんだ。今の公王も皇帝も大国同士で争う事がいやなのさ。現状維持で十分だって思ってる。僕も同感だよ。
そこで、思惑の外れたリンデン公爵が次に目を付けたのがラディス辺境伯家の長男さ。
辺境伯って言うのは特殊でね、公王国では公爵家と爵位は同格なんだ。プライドの高いリンデン公爵も辺境伯家なら申し分ないと思ったんだろうね。辺境伯家に長女マーリーズを輿入れさせてマーリーズの子供と公王家との婚姻で公爵家を繋げたいって考えたらしい。」
声には出さなかったが、何とも壮大というか面倒な事を考えるもんだと呆れてしまった。
「そこまで公爵と言う爵位はいいものなんですね。」
エイステン「いや、リンデン公爵が手放したくないのは爵位じゃなくて領地さ。あの方は領地にとんでもない執着があるからね。」
「侯爵から警備の騎士が合流したから今日の夜はゆっくりしろと言われたよ。」
ナナイ「お風呂に入るくらいは出来そう?」
「そうしたいけど、気を抜かない方が良いだろうね。みんなは交代で入ってくれ。俺は浄化ですませてソファに寝るよ。」
サクラ「じゃあ私達も一緒に!」
「昨日は夜通しだったからみんなはちゃんと休んで!明日は今日来た騎士達が護衛についてセグルドに向かうから、俺はその時少しゆっくりするよ。」
アカネ「でも・・・」
ナナイ「解ったわ!サクラもアカネもシグレくんの言いつけに従いましょ。良いわね?」
「「・・・はい。」」
ツバキ「さ、夕食の準備を始めましょうか。」
ボタン「はーい。」
―― 午後9時30分 コルの街 デュラト聖教コル院 ――
「司祭様。お呼びですか?」
オネッロ「アルノルからは?」
「まだ何も。」
オネッロ「どうなってるんです!何が起こってるか調べなさい!」
「はい。すぐに。」
オネッロ「まったく。たかだか馬車から草を奪うだけの事に何をやってるんです!」
―― ギー!パタン!
寺院内の聖堂、ドームの真下。そこにオネッロが入ってくる。
聖堂何には蝋燭がともされていた。
デュラト聖教に聖像はない。信者は光の神をもしたとされる印、五芒星に十字架の書かれた柱に向かって祈りを捧げる。
オネッロが聖堂に入ると柱の前に佇む人影があった。
オネッロ「誰です?」
「あの時ドームの構造に気を取られて此の柱を見てなかったよ。此の印も見逃してた。」
居るはずのない者をみてオネッロの目が見開かれた。
オネッロ「・・・今朝はマルド村にいたはずでは?」
「やっぱり猫人族の女信者の鳥は此処に飛んできてたのか。」
オネッロ「どうやってここに入った、シグレ!」
寺院に入れたのはお前だろ!と声に出しそうになって堪えた。
「地下を見せて貰ったよ。大広間にざっと30人。全員薬の中毒者だった。他にも牢の中に子供が居たが攫ってきたのか?」
オネッロ「この中を見たのか?」
「俺は認識阻害の魔法が使える。この中を自由に歩いても俺に気づける奴はいない。」
オネッロ「古代魔法をだと・・・1人か?」
「そうだ。みんな夜通し馬車を走らせて疲れてるからな。1人で来た。」
オネッロ「なら話は早いな。バグ!」
「はい!」
バグと呼ばれた男がオネッロの影から姿を現した。
「影から?影に潜む技、影使いか!面白いな!」
オネッロ「お前はなんにでも興味があるのだな。だがそれも終わる。バグに殺されるのだからな。」
「影使いは、さしあたってデュラト教の暗部――」
―― キン!キン!
話もさせてくれないようだ。
「暗部ってとこか?」
オネッロ「随分余裕ですね?バグ、どうです?」
「もんだいありません。」
―― キン!キン!・・トス!
「ん?動けない。」
バグの投げたナイフが俺の影を刺していた。
バグ「〈影縛り〉だ。」
「なるほど、これは拙いな。なあ、どうせ俺は死ぬんだろ?なら教えてくれ。これはスキルか、それとも魔法か?」
バグ「【影術】はスキルだ!」
バグと呼ばれた男が動けない俺の胸に短剣を向けて踏み込んでくる。
―― ガク! ダン!
突然バグが胸を押さえ膝を着く。
バグ「な?・・ぐ、ぐるじ・・・」
オネッロ「どうした!速くしろ!奴を殺しなさい!お前の価値は人を殺す事、その価値を示しなさい!」
「無理だ。もう勝負は付いてる。それとオネッロ司祭、あんたもだ。」
―― ガタ!
オネッロも膝を着く。
オネッロ「なんだ・・胸が・・・」
「【細氷】極低温って言ってもわからないか。あんたもバグも肺が凍り付いて呼吸が出来ないのさ。」
オネッロ「ばか・・な・・」
「剣をさげてた奴は全部殺した。眠ってるのはあんたらにブルーで縛られた信者とその予備軍だ。
バグも・・・死んだな。あんたがさっき指示してた男も既に死んでるよ。あんたが最後だ、オネッロ司祭。」
オネッロ「デュラト様の・・・天罰・・が・・くだるぞ・・。」
「その言葉はエセ宗教者のフラグだぞ。・・もう逝ったか。さて、せっかくのドームだけど【雷】!」
―― ドン! ガラ・・ガラガラ・・・
―― ヴィコル子爵邸 ――
―― ドンドン!
ストミール「子爵様!ノーベルト様!」
――ドンドン!
ノーベルト「ハイハイ!ふぁ・・どうしたのさ、ストミール。こんな時間に?」
ストミール「今、デュラト聖教の寺院が激しい音の後崩壊したと報告がありました。」
ノーベルト「なんだって?・・・ストミール、僕も行く!準備ができ次第現場に向う!騎士を出来るだけ寺院に集合させてくれ。」
ストミール「承知しました。」
―― デュラト聖教寺院前 ――
ノーベルト「これはまた派手に壊れてるな。ストミール、人命救助だ!遠慮しないで中に入れ!」
ストミール「はい!聞いたなお前達!これは人命救助だ!速やかに中に入って怪我人を救助しろ!」
「「「「「はい!」」」」」
シーメン「ま、待って下さい。勝手に入っては・・・」
ストミール「なんだシーメン。お前は人命救助は必要がないというのか?」
シーメン「そう言うことでは・・・」
ノーベルト「地下が有るかも知れない!探してくれ!」
シーメン「地下・・・」
「子爵様!地下への階段があります!」
ノーベルト「今行く!」
シーメン「まてーー!入るなーーー!」
ストミール「シーメン!」
―― ガン!
ストミールがシーメンの後頭部を剣の柄で殴っていた。
ストミール「地が出たか!誰か!此奴を拘束しろ!手足を縛って逃がすなよ!」
ノーベルトが地下に降りていくと20m四方の広間に鎖で拘束された30人ほどの男女が床に倒れ伏していた。
ノーベルト「なんだ此処は?それにこの臭い・・・」
ストミール「子爵様!こちらに!」
ノーベルト「これはブルーの吸引器。」
「子爵様!こちらに子供が捕まっています!」
ノーベルト「ええいなんなんだデュラト聖教は!領主権限で此の寺院を封鎖する!検分がすむまで誰も入れるな!それと司祭を探せ!」
ストミール「承知しました!」
―― 午後11時 サラケス ――
「火事だーーーー!」
「火事だぞーー!貴族街で屋敷が燃えてるぞ!」
―― ラディス辺境伯邸 ――
ポール「お館様!お館様!」
デランド「どうした?」
ポール「リンデン公爵様のお屋敷が燃えています。」
――ガバ!
デランドがベッドから飛び起きた。
デランド「なんだと!人は出したのか?」
ポール「はい。既に警邏隊は向かっています。」
デランド「儂も行く。用意を!」
ポール「既にこちらに。」
―― サラケス リンデン公爵屋敷 ――
デランド「状況は?」
騎士「火は消えました。燃えていたのは屋敷の庭の樹木だけです。ただ、屋敷の一部が壊されていました。」
デランド「モーガンと同じじゃないか。」
騎士「屋敷に数人の死体が見えましたので許可も取らずに中に入りました。」
デランド「構わん!他には?」
騎士「死体の中に屋敷の家宰がいました。それとまた――」
デランド「地下室か?」
騎士「はい。ブルーと吸引器、それと攫われたと思しき男女が10人ほど。あと――」
デランド「まだあるのか!」
騎士「壁にデュラト聖教の印が書かれています。」
デランド「なんだと!案内しろ!」
―― 同時刻 マルド村 自警団小屋 ――
女信者「ああ・・ぐ・・あああ・・・」
「はぁー、一晩これにつき合わなきゃいけないのかよ。」
「文句言うな。これで手当が貰えるんだ。ふぁー・・・」
「おいおい、説教して・・・寝るな・・よ・・・」
「【浄化】!」
女信者「うぁ・・・・ぁ・・ふう、ふう・・・」
「なるほど。浄化で中毒症状は消せるのか。他にも出来るかも知れないな。」
励みになりますので、評価やブクマを宜しくお願いします。




