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【禁断症状】

ロレン「なら、俺にやらせて下さい。」

 そう言い残してロレンがアルノルに近づいていく。


ロレン「〈レナスの疾風〉ロレンだ。」


カタリナ「ちょ、ロレン?」

シュゼ「まって!」

アージア「大丈夫なの?」

ロレーヌ「お兄ちゃん!」

 レナスの疾風の女達の戸惑う声が聞こえてくる。


エイステン「こうしよう、ロレンくんに勝ったら生かして連れて帰るよ。」


ロレン「だそうだ。行くぞ!」


 ロレンがアルノルに斬りかかる。

 アルノルは躱しながら帯剣していた剣を抜いた。


―― キン!カン!ギン!・・

 数合斬り合いが続いた。


アルノル「まだまだだな。」


ロレン「自覚してるよ。怪我をしていてもあんたは強い。だが引けない時もある!」


アルノル「なるほど。〈牙折り〉のアルノルだ。」


―― キン!キン!・・・

 アルノルは馬車が横転した時左肩を痛めている。回復魔法は使えないらしくポーションも持ち合わせていないようだ。

 剣は右手でしか振っていない。それでもロレンの剣を捌き時に攻勢に出る力量がある。


ロレン「クッ・・どうだ!」

―― ガキン! ポト!


ロレン「なんだ?」

 ロレンの剣が折れた。咄嗟にロレンがアルノルから距離を取る。


「牙折り、剣を折る技か。」


「「「「ロレン!お兄ちゃん!」」」」

 カタリナ達から悲痛とも言える声が飛んだ!


 それから暫くロレンが折れた剣でアルノルの攻撃を何とか躱し続ける。


アルノル「これで――」

―― シュッ! トス!

―― バッ!


 ロレンに踏み込もうとしたアルノルの前に剣を投げつけた。咄嗟にアルノルが後ろに下がる。


アルノル「・・・・・」

 剣の投げ込んだ先、アルノルが俺を睨んでいた。


「村人を人質に取ろうとした奴が今更卑怯とか言うなよ?」

アルノル「貴様・・・」


「ロレン!その剣を使え!」


 ロレンが投げつけた剣を掴んだ。


ロレン「黒銀(こくぎん)の剣!・・・なんだ此の感覚は?」


「ロレン!引導を渡してやれ!」


アルノル「何度剣を換えても同じだ!」


―― キン!キン!・・・

 新しい剣を手にしてロレンが勢いづいた。徐々にアルノルを押していく。


―― バギッ!

 大きな音がしてアルノルの剣の鍔が砕け、アルノルが再び後ろに距離を取る。


ロレン「技は見た。いや技じゃない!その鍔に仕掛けがあった。そうだろ?」


「鍔?確かにさっきロレンの剣を鍔で受けた時剣が折れたような?」


アルノル「・・・きさま何故剣速が上がった?」


ロレン「この剣がいいんだろ?動きも軽くなった気がするよ!――ギン!」

―― ガキン! ボト!


「今度はお前の剣が切れ、折れたな。」

アルノル「く・・・」

 アルノルの剣が半ばから切り落とされている。


ロレン「終わりだ!」

―― ザン! ズッ!

アルノル「う・・あ・・・」


 切られた腹から血を流しアルノルがゆっくりと倒れた。


ロレン「ふーーー!はぁはぁ・・・」

 疲れか、緊張から解放されたからかロレンが片膝を付いて大きく息をしている。


「「「「ロレン!お兄ちゃん!」」」」

 名前を叫びながらカタリナ達が駆け寄ってくる。


「お疲れ。やるじゃないか!」


ロレン「いやこの剣のおかげだ。ああ、ありがとう。助かった。返すよ。」


「気に入ったなら売ろうか?」

ロレン「えっ!良いのか?」


「ああ。白金貨1枚でどうだ?タダでやるって言ったら気にするだろ。」


ロレン「カタリナ!」

カタリナ「はいはい。良いわよ。欲しいんでしょ?どうせ剣が折れて買わなきゃいけないんだし。その代わり働いて貰うわよ。」


ロレン「ヨッシャー!あっ、お金はカタリナから貰ってくれ!」

「ははは、了解した。カタリナ、依頼が終わってからで良いぞ。」

カタリナ「シグレくん。2回に分けて良い?」

 カタリナはしっかり者の良い奥さんになりそうだ。


エイステン「ははは、その金額ならこの依頼が上手く行けば別手当が出ると思うよ。まあ出なかったら僕が必要経費としてデランドに言ってやるよ。しかし、ロレンくんも良いね!うん、良いよ君たち。」


ナナイ「侯爵様。シグレくん。こっちに!」


 ナナイに呼ばれて行くと、騎士達が男達の死体を並べていた。


「どうしたナナイ?」


ナナイ「此奴ら全員同じペンダントをしてる。」


エイステン「ペンダント?」

 侯爵が首に掛かったペンダントを見て頷いた。


エイステン「この紋はデュラト聖教の物だ。繋がったね。」


 男達は五芒星の中にクロス十字のペンダントを首に掛けていた。

『五芒星に十字架かよ。デュラト教の開祖は間違いなく渡り人だな。』


サクラ「シグレ様。シグレ様が切った男もペンダントをしてます。」

アージア「ロレンの切った男も同じペンダントをしてるよ。」


クレイマン「侯爵様!馬車の中の鞄にこれが。」

 小さな香水の瓶のような入れ物に薄い青色の液体が入っている。


エイステン「ブルーだね。」


「色が薄い。」

エイステン「希釈した物さ。デランドが見せたのは原液、出回るのはこっちなんだ。」


クレイマン「それと、ハイポーションが20本も入ってました。」

エイステン「あらら、1本くらい身に付けてれば左肩も治せただろうに。」

 まったくだ。


エイステン「死体は焼こう。馬車もダメそうだね。シグレくん焼いてくれるかな。」


「了解です。アカネ頼む。」

アカネ「はい!」

ロレーヌ「アカネさん、手伝います。」


エイステン「さてこれからどうしようか?」


「セグルドに行くか、マルド村に戻るかですね。」


エイステン「マルド村に戻る?」


「予定では明後日着ですからね。1日ゆっくりしてもまだ1日早い。それに、村の中に残ってる奴がいるかもしれません。サクラが居れば臭いで探し出せます。」


エイステン「そうだね。良し!準備が出来たらマルド村に戻ろう。今日はマルド村に泊まって明日セグルドに入る!クレイマン。準備を進めてくれ!」

クレイマン「承知しました!」



 俺達は二の鐘の前にマルド村に戻った。

 侯爵の1日早い、それも午前中の到着に村長が右往左往していたが無事にマルド村の侯爵屋敷に入る事が出来た。


 屋敷の馬車蔵に馬車を入れ遅くなった朝食の準備を始めた。その間、俺とサクラは侯爵の屋敷に入り使用人の中にブルーポピの臭いのする者を探した。幸いな事に屋敷の使用人にデュラト聖教徒は居なかった。


 朝食の後、馬車蔵の警護をロレン達に任せ俺達ヒイラギとルシエラさん、イルカルは村内の散策に出かけた。

 もちろん散策というのは名目で、サクラの鼻を頼りに襲撃者達の残党を探すためだ。その結果、ニムの野営地から夜通し駆けてきた馬車と宿屋の使用人の中に紛れ込んでいた猫人族の女信者を見付けた。


 猫人族の女信者は報告を受けた侯爵がクレイマンに指示して拘束し村の自警団に預けている。

 宿屋の主人によれば2日ほど前に紹介されて雇ったらしい。紹介したのはアルノルだ。

 アルノルはセグルドとコルを頻繁に行き来していたらしく、宿の主人は商人だと思っていたそうだ。使用人が1人辞めていたところに世話になった人の娘を雇って欲しいと頼まれたらしい。


 女信者は緊急時の連絡をするように指示されていた。ただし、その報告が誰に向けたものか詳しい事は一切解らず、拘束時には既にアルノルが侯爵の馬車を追って行ったという紙を鳥に持たせ飛ばした後だった。

 結局女信者は詳しい事は何も知らないと見做されたが、念のため侯爵の騎士が来た後セグルドに移送される事になった。


 俺達が落ち着いたのは四の鐘が鳴る頃だった。


「結局こんな時間までバタバタしちゃったな。みんな少しゆっくりしよう。」

サクラ「そうですね。」



 それから1時間ほど馬車のソファで寛いでいた時だった。


ツバキ「外が騒がしいです。何かあったんでしょうか?」


「様子を見てくる。ナナイ。此処を頼む。サクラ、念のため一緒に来てくれ。」

サクラ「はい!」


 サクラと一緒に馬車の外に出るとロレンも様子の異変を感じて出てきていた。

 3人で馬車蔵の外に出ると屋敷から侯爵とクレイマン、そして村長が出てきたところだった。


「侯爵様!何かあったんですか?」

エイステン「良かった。今呼びに行こうと思っていたんだ。あの女信者の様子がおかしいそうだ。」


「様子が変?」


 村長屋敷に併設されている村の自警団の建物に入り女信者の入っている牢に行くと、手を錠で拘束された状態で唸りながら頻りに喉を掻きむしっていた。


ロレン「どうしたんですか?」


「わかりません。少し前から少しずつおかしくなって暴れ始めたので仕方なく手に錠を填めたんですが今は此の状態なんです。」


「これは・・・サクラ。急いでルシエラさんを呼んできてくれ。」

サクラ「はい。」

 サクラが馬車に駆けだしていった。


エイステン「村長。悪いが席を外してくれ。自警団の者もだ。」


村長「解りました。外におりますので。」

 村長と見張りの自警団2人が建物から出て行った。


「侯爵様。禁断症状じゃないですか?」


エイステン「ああ、僕もそう思う。しかし何故信者の彼女がブルーを吸引してるんだ?」


「えっ?」

エイステン「えっ?」


「侯爵様はデュラト聖教がブルーを何に使っていると考えていたんですか?」


エイステン「もちろん売って儲けるためだよ。彼らの資金源だろ?違うのかい?」


「俺はブルーを使って信者を集めてると思ってました。」


エイステン「信者を?ブルーで?」

 エイステンは何それ?と言った表情だ。


「俺の国にも沢山の宗教があります。神をでっち上げて信者を集め寄進と言ってお金だけを集めるインチキ宗教も数え切れないほど有ります。

 中でも最悪なのが麻薬を使って洗脳して信者にする奴らです。俺の国ではそうやって作り上げた集団を〈カルト〉と呼んでました。」


エイステン「カルト?カルト・・・聞いた事が、あっ!エボン・カルト、デュラト聖教の開祖だ!」


ルシエラ「シグレ様!お呼びですか?」

 そんな会話をしていたところにルシエラがやって来た。


「ルシエラさん。彼女を見て下さい。」

 拘束牢の中で藻掻いている女信者を指さした。


ルシエラ「禁断症状のようですね。この臭いは、ブルーで間違いないです。」


「此の女をこのままにしておいたら?」


ルシエラ「私が王宮薬師院に居る頃はまだブルーの効果を完全に消す薬は存在していませんでした。侯爵様、聞いた事はお有りですか?」


エイステン「いや今もないはずだね。」


ルシエラ「なら中毒の度合いになりますが、軽ければ数日苦しめば何とか正常に戻る事もあります。ですが、重ければ回復は見込めません。」


エイステン「ずっとブルーを吸引し続けるしかないのかい?」


ルシエラ「はい。死ぬまでブルーを手放せなくなります。更に酷い状態になると薬に体と心が蝕まれてただ息をしている人形のような状態になります。考える事も動く事も出来なくなるんです。」


エイステン「それは悲惨だね。治す手段がない・・・ああ、失われた古代魔法にはどんな状態異常も治す【浄化】と言う魔法があったそうだが、無くなった物を言ってもしょうがないね。」


『浄化魔法・・・・』


 結局女信者はそのまま拘束牢に入れておくしかなかった。後は女信者の運次第と思うしかない。


 セグルドから警備の騎士がやって来たのはそれから1時間後だった。


読んでいただいたみなさんに感謝です!

ブクマが200を越えました。

日々増えていくブクマやPVがとても励みになっています。


宜しければ今後のもモチベ向上のためにも評価やブクマを宜しくお願いします。

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