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【デュラト聖教】

―― ギィーー!


 正門らしき大きな扉が開き、法衣のような物を来た男が現れた。

「どうしました?」


「司祭様!旅の物が覗いていたので追い払っておりました。」


「覗いていたは大げさだな。珍しい建物だったから此処で見上げてただけだろ?」


「貴様、司祭様に嘘をつくな!」

「嘘つきならお前だろ。」


「な、なんだと――」

「待ちなさい!此の建物がそんなに珍しいですか?」


「ええ、円形の屋根なんて初めて見ました。どうやって支えてるのか非常に興味がありますね。」


「はは、面白いところに興味がお有りのようですね。ああ申し遅れました。デュラト聖教コル院の司祭を務めますオネッロです。」


「冒険者をしています。シグレと言います。」

 俺が名告るとオネッロ司祭の目頭が動いた。


オネッロ「そんなに興味がお有りなら見学されますか?」

「えっ!良いんですか?嬉しいな!」


「司祭様!異教徒を入れては――」

オネッロ「構いませんよ。光の神デュラト様の御心に触れて貰う良い機会でもあります。ささ、どうぞ。」


 オネッロに誘われて寺院の中に入った。

 中に入って改めて驚いた。


「柱がない!どうやって建てたんだ?・・・そう言えば島の開発をしてた歳食ったアイドルが木枠を作って石材を円形に組んでたな。木枠の上に石を乗せて出来てから木組みを外してたはずだ。」


オネッロ「よくお解りですね。木組みを外すのは慎重にしないと崩れるそうですよ。」


「小さな小屋程度なら木枠を燃やして無くすって手も有るらしいが、この大きさだと一つ一つ外していくしかないか・・・手の込んだ事をするもんだ。

 ありがとうございました。良い物を見せて貰いました。」


オネッロ「いやいや、何かありましたらまたお越し下さい。出来ればミサにおいで下されば幸いですが。」


「ありがたいお話しですが、旅の途中で明日ここを発つのでまたの機会に。」

 中を見せて貰ったお礼にと結構な寄付を置いて寺院を出た。


 デュラト聖教の寺院から中央広場に抜けていく。


ロレン「シグレは面白い物に興味があるんだな?」


「えっ?あんな屋根が崩れないで建ってるんだ、面白いって思わないか?」


ロレン「そうか?俺には良く解らないよ。」


サクラ「あのお寺、微かにですが甘酸っぱい嫌な臭いがしていました。好きになれない臭いです。」


ルシエラ「ブルーポピの香りに似てましたね。」

 ルシエラからの驚きの言葉だった。

ロレン「ブルーポピってあれだろ、ブルーの原料だろ?」


「ルシエラさんはどうして解るんですか?」


ルシエラ「私は薬師でしたから。薬草の臭いは敏感なんです。」

「そうですか・・・」


カタリナ「あっねえねえ、あれじゃない!子爵様が言ってたスイーツの店。」

 うん。事情を知らないカタリナが脳天気に話題を変えてくれた。


アカネ「そうみたいですね。行きましょうシグレ様!」

 アカネが気を利かせてカタリナに乗る。

「ああ、はいはい。」



 食べた!凄まじくスイーツを食べた!女子達が!

 俺とロレンは呆然と見てるしかなかった。


サクラ「さあ帰って夕食の用意をしましょう。」

「えっ?まだ食べるの?」


カタリナ「何言ってるの?シグレくん、夕飯食べ無いの?」


ロレン「今あんなに食べたのに?」


アージア「何言ってるのよ!食べたのはスイーツよ!」

「「「「「別腹です!」」」」」

 何この大合唱。



 ヴィコル子爵の屋敷に戻りサクラを同伴させて侯爵と子爵に面会を求めた。


エイステン「お帰り。どうだったスイーツは?」


「とっても美味しかった・・・ようです。ねっサクラ?」

サクラ「はい!」

 うん。良い笑顔だ。可愛いぞサクラ!


ノーベルト「その様子だと、男2人は圧倒されて帰ってきたな?」

「はい・・・」

 子爵は経験者のようだ。相手は奥さんかな?


―― トントン!カチャ!

「失礼します。」


 メイドが紅茶を配って退室していく。

エイステン「それで話は何かな?」


「はい。その前に、侯爵様。子爵様は何処まで?」


エイステン「協力を得るために全て話してある。ああ、僕の義弟だ。ヴィコル家は妻の生家なんだ。」


「ストミール殿は?」

 子爵の横には常にストミールが居る。これはまあ、当然だな。


エイステン「僕のクレイマンと同じだよ。信用して貰って構わない。」


「わかりました。まず、クレイマン殿に扉の外に立っていて貰いたいんですが?」


エイステン「・・・大事な事のようだね。クレイマン頼む!」

クレイマン「はい!お任せを!」



「お聞きしたいのはデュラト聖教の事です。」


ノーベルト「変わった寺院だったろ?」


「はい。思わず見入っていたらオネッロという司祭が見学させてくれました。」


ノーベルト「ほう、珍しいな。彼らは信者でなければ滅多に中には入れないんだが。」


「それで、彼らの布教はどのように行っているんですか?」


ノーベルト「いや。表だった布教は殆どしていないよ。」

「布教はしてない・・・」


 意外な答えだ。どんな宗教でも寺院を造るのは布教活動の拠点とするためだ。その布教をしていないなんて考えられない。


エイステン「公王国にデュラト聖教の寺院は幾つかあるが殆ど布教活動はしていないんだ。布教の為と言うより物資の仕入拠点の役割が大きいみたいだよ。」


「それなら、セグルドではなくなぜコルに?物資調達なら公王国ではセグルドが一番適地のはずだ・・・」

 頭に浮かんだ疑問が呟きになって漏れた。

 その呟きを聞いたエイステンの表情が曇る。

エイステン「そう言われれば、確かに・・・」


ノーベルト「あ、兄上?此処もまさしくそんな感じです。布教は、むしろトラブルを避ける為に極力控えてる感じですね。」


「トラブルを避ける・・・本当は目立たないようにしてるんじゃないんですか?」

エイステン「目立たないように?どういうことだい?」


 エイステンの問いかけに答えるため本題に入る。


「さっき寺院に入った時サクラが甘酸っぱい嫌な臭いがしたと言ったんです。それを聞いたルシエラさんがブルーポピの臭いに似ていると。」

エイステン「何だって?」


 途端にエイステンの表情が険しい物になる。普段穏やかな、ほぼ笑顔のエイステンから想像し辛い表情だ。


「ルシエラさんは薬師だった経験から薬草の臭いに敏感だと言ってました。サクラ。」


サクラ「本当に僅かなんです。司祭様と地下からしてました。それと、さっき紅茶を持ってきたメイドさんも同じ臭いがしました。」


ノーベルト「えっ?・・・彼女はデュラト聖教ではないはずだが?」


エイステン「シグレくん。最初から解ってクレイマンを見張りに?」


「いえ。正直メイドは意外でした。ブルーポピの話題になるので念のためにと思っただけです。」


エイステン「ノーベルト。彼女は長いのかい?」


ノーベルト「最近雇ったメイドです。前回侯爵様が来た後メイドが1人事故で亡くなって急遽雇ったんです。でも身元はちゃんと調べたはずです。ですが、デュラト聖教のことは聞いていません。」


エイステン「身元を調べたのは?」

ノーベルト「ストミール?」

ストミール「はい。私の配下のシーメンです。」


エイステン「公王国では信教の自由は認めている。何も隠す事はないはずだ。なのに何故隠したんだ?そのシーメンはデュラト聖教の信者なのかい?」


ストミール「奴は騎士隊に入って2年ほど経ちますが、そんな話し聞いた事がありません。」

ノーベルト「2年?2年と言えばデュラト聖教の寺院が出来た頃だ。」


「ただ隠していたかっただけなら問題ありませんが、ブルーポピの臭いをさせているのは気になりますね。」


エイステン「シグレくんはデュラト聖教が気になると言いに来たんだろ?随分ややこしくなってしまったね。」


「はい。さっさとセグルドに走れば良かったですね。多少無理をして走り続ければ明日の夜にはセグルドに入れましたからね。」


エイステン「・・・・僕もそう思えてきたよ。あぁ、リーズに会いたい!」

 なんだ、突然!エイステンも禁断症状か?

ノーベルト「義兄上、侯爵様!」


エイステン「だってもう十日もリーズと離れてるんだよ。そうだ、今から出ようか!シグレくん、どうかな?」

 正直、エイステンのこの提案は想定外だ。だが、悪くない。


「そうですね。それも良いですね。」


エイステン「じゃあそう言うことで。ノーベルト、色々無駄にさせて悪いけど予定変更だ。」


ノーベルト「えーと・・・本気ですか義兄上?」

 うん。子爵は十分面食らってるな。


エイステン「ノーベルト、すまないが面倒を掛ける。シグレくん用意をしてくれ。そうだな、五の鐘の30分前で?」


「了解です!みんなに伝えておきます。」


ノーベルト「えっ?五の鐘?義兄上、時間が?ああもう!」



 サクラと馬車蔵に戻った。


「サクラ、ロレンの馬車に行ってくる。みんなに伝えてくれ!」

サクラ「はい!用意させます。」


 ロレンの馬車に向かい予定変更を告げた。出発時間は5時30分だ。




サクラ「シグレ様。もうすぐ時間になります。」


「了解。みんな準備は?」

「「「「「大丈夫です!」」」」」


「ロレン、準備は?」

ロレン「いつでも良いぞ!」


「ナナイの準備も良さそう?」

アカネ「出来てます。」


ツバキ「シグレ様。ナナイが扉を開けます。」



―― ガコン!

 ナナイが馬車蔵の大きなかんぬきを外し扉を開けていく。


クレイマン「ルアルディ!バレンティン!屋敷の門へ!ザールとボトスは東門を開けさせておけ!話は付いてるはずだ。話が届いていなかったら侯爵家の名を出していい!」

「「「「はい!」」」」

 騎乗した4名の騎士が先行して馬車蔵を出た。


クレイマン「出る!」

ロレン「続きます。アージア!」

アージア「了解!」

「ナナイ馬車に乗れ!」

ナナイ「はーい!よいしょ!」


 クレイマンが馬車蔵から侯爵の馬車を出す。

 子爵邸の玄関ではエイステンが入り口を向き子爵に挨拶をしていた。


エイステン「ノーベルト!今度埋め合わせするから!後を頼む。」

ノーベルト「お任せを!ご無事で!」


 エイステンが駆け足で馬車に乗り込み屋敷の門を走り抜けていく。

 その後ろをロレンと俺達が続いていく。



―― ヴィコル屋敷 ――


シーメン「ストミール殿!侯爵様は?何があったんですか?」


ストミール「緊急対応だ!これより屋敷の警戒を強化するため門を閉める!警戒を解くまで誰も屋敷を出る事を禁止する!」

シーメン「えっ、えっ?・・・」




 コルの街は夕食時で通りには人も馬車も少ない。

 子爵の屋敷から南北に延びる通りに出て南に向かい、東西に走る大通りに差し掛かり左に馬を向けた。


 街の東門には先に出た2人の騎士が門の扉の前で俺達の通過を待っている。


クレイマン「緊急時だ!通る!」

 クレイマンが馬車を止めずに門を抜ける。それに俺達も続いていく。


 デュラト聖教が絡んでいたとして俺達の予定が変わった事がいつバレるのか。

まあ時間の問題だろうが慌てさせる事は出来る。



―― デュラト聖教 コル院 ――


「司祭様。子爵の屋敷の者から連絡があり、侯爵一行が街を出たそうです。」


オネッロ「街を出た?いつです?」


「はい。すでに2時間は過ぎています。」


オネッロ「随分報告に時間が掛かってますね?」


「2人とも屋敷から出られなかったそうです。」


オネッロ「・・・どう言うつもりで1日早めた?マルド村に鳥を飛ばしなさい。」


「はい。ですが日が落ちましたので、鳥は明日の早朝にならないと――」

オネッロ「今飛ばすんです!そして明日の朝にもです!」


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