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【護衛依頼4日目】

 馬車の外に出ると最後の見張り番のサクラとボタンが焚火台の側で背伸びをしていた。


「サクラ。おはよう。ん・・・」

サクラ「ん・・・おはようございます。シグレ様。」


ボタン「おはようシグ兄。ん・・・」

「ん・・・おはよう。ボタン。」


サクラ「今日はコルの街までですね。」


「ああ、今日は何事もなく行きたいね。」


ボタン「コルの街で少しノンビリ出来ると良いのにね?」


「賛成だな。その為には少し早足で行きたいね。侯爵に話してみるよ。行ってくる。」

「「行ってらっしゃーい!」」


 外で素振りをしていたロレンと侯爵の馬車に向かい、出来るだけ早くコルの街に入りたいと話すと侯爵もそのつもりだったようで簡単に了承を得た。


 ウクの野営地からコルの街までは70km。何事もなければノンビリ進んでも夕方の4時にはコルの街に着く。

 俺達はいつもより早めの出発と馬車の速度を少し上げて軽快に進んでいたが、そんな時に限って


サクラ「右手前方にグリーンウルフが10匹います。」


「襲ってきそう?」

サクラ「はい。飛び出してきそうです。」


「サクラ、2台を追い越して前に出よう!ツバキ、屋根を開けて応戦の準備を。馬車を止めたくない雷で仕留めてくれ!」

「はい!」


 オウコとコハクを加速させるとあっと言う間に侯爵の馬車に並ぶ。


クレイマン「どうした?」

「グリーンウルフです。前方に出て来るので前に出ます。馬車を止めないで下さい!」

クレイマン「了解した!」


 侯爵の馬車を抜き先頭に出る。ツバキは馬車のルーフから半身を出して準備を終えている。


「ツバキ、グリーンウルフは?」

「森から駆けだしてきてます。」


「ツバキの間合いで攻撃して良いよ!」

「はい!」


「「「「「・・・ガウガウガウ」」」」」


―― ドンドンドン!

「「「「「キャンキャンキャン・・・・」」」」」


ツバキ「終わりました!」


「ご苦労さん!サクラ、馬車を戻して。」

サクラ「了解です。」


「はぁーー、10匹程度で何をするつもりなんだよ・・・」

サクラ「グリーンウルフですから。魔物ですから。」


「人間の襲撃がないだろうと思えば魔物が元気だし。まったく!」

ナナイ「愚痴らないの。サクラ交代よ。」


 馭者がナナイに代わってから1時間後お昼休憩に入った。


エイステン「良く魔物の襲撃が解ったね?」


「サクラの能力です。気配探知と嗅覚で俺なんかじゃ比較にならないくらい索敵範囲が広いんです。」


エイステン「君のパーティーはメンバーも優秀なんだね。」


「ありがとうございます。みんなに伝えておきます。」



 打ち合わせを終えロレンと馬車に戻る。


「そうだ。ロレン、あの盗賊の馬車なんだけどロレン達が使わないか?」


ロレン「えっ?売ったら良いお金になるんじゃないのか?」


「拡張空間付きの馬車がタダで手に入ったんだ、せっかくだから使えよ。あのバトルホースも。」


ロレン「良いのか?そりゃ拡張空間付きの馬車が有ったらとは思ってたけど・・・少しでもお金をやろうか?」


「要らないよ。ただ、セグルドまで行ったら中を確認する必要がある。出てきた物によっては侯爵に渡す必要もあるからな。それに彼奴らが使ったベッドを使いたいか?」


ロレン「それは嫌だな。」


「ははは。だろ?きっと要らない物もいっぱい有るぞ。興味もあるから掃除を手伝うよ。

 それにな、女は大きなベッドが好きなんだ。奮発してカタリナ達を喜ばせてやれよ。サービスが良くなるぞ!」


ロレン「そうか?そうだな!シグレがそう言ってくれるなら!ありがとう!おーーーい!みんなーー・・・」


「ほんと?」「良いの?」「やったー!」「シグレくん大好き!」


アカネ「どうしたんですか?隣がやけに盛り上がってますが?」

「あのギアドの拡張馬車をロレンに使えって行ったのさ。」


ナナイ「なるほどね。でも中に何があるか解らないわよ。」


「それも言ってあるんだ。依頼が終わったら中を確認しよう。ついでに掃除も手伝ってやるさ。」

ツバキ「それなら喜ぶのは当たり前ですね。」


サクラ「あのバトルホースも?」

「丁度良いからね。」


ボタン「アージアさんが早速バトルホースの手入れをしてます。」

「ハハ気が早くて良いね!」



 昼休憩が終わり再び馬車を走らせる。

 午後は魔物の襲撃もなく快適に進んでいる。今の馭者はアカネだ。


アカネ「シグレ様。ずっとお尻を触ってますね。」

「ダメ?ダメだった?」


アカネ「いいえ。むしろ嬉しいですけど。お尻だけで良いんですか?」


「あぁぁ・・・だってお尻しか触れないじゃん!本当は色々触りたいけど・・・色々いっぱいあぁぁ・・・」


 大っぴらにアカネ達に触れない、おまけにイチャイチャもお預けで身悶えしてしまった!


イルカル「シグレ様はどうされたんですか?アカネさん交代します。」

 今日からイルカルも馭者をする事になっていた。


アカネ「禁断症状です。」

イルカル「禁断症状?」


「あぁぁ・・・だって2日もおっぱい充電してないんだよ!イチャイチャは3日!あぁぁーーーー!」

 ついに絶叫してしまった!


アカネ「ハイハイ!落ち着いて下さいね。私達も寂しいんですから。イルカル、良かったらお尻触らせてあげてね!」

イルカル「はい。お任せを。」


「はぁーー・・もう長期の護衛なんて絶対受けない!」


イルカル「・・・シグレ様。お話ししたい事があるんです。」

「ん?なに?」


イルカル「はい・・・・・」

「言いにくい事?」


イルカル「・・・本当は、私はシグレ様には相応しくないんです。」

「相応しくない?どうして?」


イルカル「私は・・・奴隷でした。それも正規の奴隷ではありません。攫われて不当な隷属魔法で縛られ成人を待たずに――」

「だから相応しくないの?」


イルカル「酷い扱いを受けました。来る日も来る日も弄ばれました。身も心もボロボロになり、使えなくなったと、壊れた道具のように道端に棄てられた私を偶々通りかかったルシエラ様が拾って下さったんです。」

「そうか。」


イルカル「ルシエラ様が差し出して下さった手が温かくて、何も聞かずボロボロだった私に食事を下さいました。

 そして、レンドン様にお願いして不当な奴隷契約を解除して下さり、私を侍女としてお側に置いて下さったんです。

 ルシエラ様が初めて私に温もりを教えてくださいました。そして2人目がシグレ様です。あの時の手の温もりを忘れろと言われても私の頭にしっかりと残っているんです。

 ルシエラ様がラディス家を出て()()()()()()()()()()()と仰った時、即座に私も着いて行きますと言いました。私もお仕えしたいと。

 ですが・・・いざシグレ様のお側に居ると、自分の過去が、ボロボロになるまで弄ばれた・・・」


 綺麗な翡翠色の瞳から涙が溢れている。うん。女の人の涙は反則だよね。苦手だ・・・


「名前をね、ずっと考えてるんだ。俺はどうも名前を付けるのが下手でさ。

 サクラ、アカネ、ツバキ、ボタン。全部前の世界の花の名前なんだ。どんなに考えても結局そうなっちゃうんだよな。

 今考えてるのはルシエラさんが〈フジナ〉()()()()()()()。藤の花って俺の世界では気品を感じさせるんだけど。そこがルシエラさんかなってさ。

 イルカルは〈シユナ〉()()()()()()()()()()。百合って白い花なんだ。どうしてもイルカルのイメージが白なんだよね・・・どうかな?」


 翡翠の瞳に涙を湛えたままイルカルが俺を見る。

 だから、反則ですってば!


イルカル「・・・お名前をいただいても宜しいんですか?私をみなさんと同じように可愛がっていただけるんですか?」


「むしろ何が問題なのか解らないよ。それより俺はエッチだからさ。つき合うのが大変かもよ?」


―― カタン!

 馭者席の窓が開いた。


サクラ「そうよ。最近5人でも大変って思ってたの。」

アカネ「そうそう。シグレ様、どんどん夜が強くなってるから。」

ナナイ「何かと思って黙って聞いてたけど馬鹿ねイルカルは!」

ツバキ「そうですね。大馬鹿ですね。」

ボタン「仕方ないよ。これからシグ兄を知れば解るから。」


イルカル「みなさん・・・」


ルシエラ「フジナ。良い名前です。イルカル、これからは対等なんですからね。フジナと呼んでくださいね。」


イルカル「そんな、私にはルシエラ様を呼び捨てなんて無理です!」

ボタン「なら私みたいにフジ姉って呼んだら?」

イルカル「それは・・ではフジ姉様で。それ以上は無理です。」


「良いじゃないか。フジ姉様。イルカルはそれで良いよ。」

「「「「「異議なーし!」」」」」


サクラ「シグレ様。グリーンウルフです。左後方から13匹です。」


「ああーもう!13匹で何が出来るんだよーーー!」


 せっかく良い感じだったところを邪魔された腹いせに氷の槍30連で爆撃してやった。


ボタン「とばっちり受けて魔物も可哀想。」



 結局、その後もちょこちょこと現れる魔物、グリーンウルフを迎撃しながら馬車を走らせ四の鐘の前に俺達はコルの街に入った。


 コル街道の中心都市コルは、街の規模はネールとほぼ同じで公王国では平均的な大きさの街だ。


「たった4日なのにこんなに人を見るのは随分久しぶりって感じだな。」


サクラ「そうですね。これから何処に向かうんですか?」


「領主、ヴィコル子爵の屋敷さ。侯爵は子爵の屋敷に泊まる。俺達はいつも通り馬車蔵の中だ。」


サクラ「その方が気楽で良いですけどね。」


「ははまったくだ。見えてきた。あの屋敷がそうらしい。」


 サラケスの辺境伯邸には遥かに及ばないが大門屋敷よりは大きな屋敷が建っている。

 門が開けられ中に入る。屋敷の玄関前で侯爵の馬車が止まると30後半に見える金髪のイケメンが馬車の扉の前に立った。


エイステン「ノーベルト。すまないがまたお世話になるよ。」


ノーベルト「お世話だなんて、侯爵様ならいつでも大歓迎ですよ。」


エイステン「ところで連絡は来てるよね?」


ノーベルト「はい。面倒な話になりましたね。」


エイステン「しょうがないよ。で、早速馬車を隠したいんだが?」


ノーベルト「そうですね。ストミール!馬車を案内してくれ。」


 屋敷の騎士の指示に従い馬車を屋敷横の馬車蔵に入れる。やはりオウコやコハクはそのまま繋いでおく。


「これで良いか。ロレン?」

ロレン「ああこっちも良いぞ。」


エイステン「シグレくん。ロレンくん。ちょっと良いかな?」

「はい。何でしょう。」


エイステン「ノーベルト。彼がヒイラギのシグレくん。そしてレナスの疾風のロレンくんだ。シグレくん、ロレンくん。コルの領主ノーベルト・ヴィコル子爵だ。」


ノーベルト・ヴィコル 子爵 レベル36 38歳


 改めて見ると金持ちのボンボン風だが結構なイケメンだ。うん。やっぱり許せんな!


「ヒイラギのシグレです。」

ロレン「レナスの疾風、ロレンです。」


ノーベルト「ノーベルト・ヴィコルだ。ここまでご苦労だったね。今日の見張りは私の名誉に賭けて勤めさせる。せめて今日だけでも少しはゆっくりしてくれ。」


「お心遣いありがとうございます。お言葉に甘えて外の警備はお任せします。俺達は馬車で寝泊まりをしていますので、馬車蔵の中はお任せ下さい。」


ノーベルト「そうなのか?屋敷に泊まって貰うつもりだったんだが?」

エイステン「彼らは依頼への責任がある。無理強いはしない方が良い。」


ノーベルト「そうですか。ならそうしよう。」

 何でだろう?子爵が残念そうに肩を落としている。


「そうだ!子爵様、少しの間此処をお任せしても良いですか?街の様子を確認してきたいんですが?」


ノーベルト「おお、そうか!構わないよ。警備は責任を持って務めさせよう。」

 おっ、少し元気になった。


ノーベルト「そうだ中央広場の横に美味しいスイーツの店がある。行ってみると良い。それぐらいは大丈夫だろ?」


「ありがとうございます。では、みんなで行ってきて構いませんか?

ノーベルト「ああ、それが良い!」


 どうやらボンボン気質なのか頼られるのが好きらしい。

 用意を整え、俺達ヒイラギとレナスの疾風はコルの街に出た。


ロレン「シグレ。門は東西と南の3門らしい。」


「何かあったらセグルドを目指さなきゃいけないから、そうなると必然東門だな。子爵の屋敷からは南に向かって大通りに出て左だ。」


ロレン「ところで、ルシエラさんだっけ?辺境伯夫人を一緒に連れてきて大丈夫なのか?」


「狙われてるわけじゃないからね。こういう時に息抜きをして貰わないと。」


ロレン「なら、子爵様に教えて貰ったスイーツ店でも行くか?」

「そうしよ――」

「「「「「「「「サンセーイ!」」」」」」」」

 大きな声に驚き振り返ると女子達が満面の笑顔で手を上げていた。


 街を歩き中央広場に差し掛かろうとした時、右手にこの世界では初めて見る円形の屋根をした建物が目に入った。


「変わった建物だな?」


ルシエラ「あれはデュラト聖教の寺院ですね。」

「デュラト聖教?公王国にもデュラト聖教が来てるんだ。」


ナナイ「多くはないけど寺院は幾つか有るわよ。公王国では宗教は何を信じても良い事になってるから。」


「ふーんそうなんだ。ちょっと見てって良いかな?」


ナナイ「良いけど何か気になった?」

「ああ、建物がね。独特だなって思って。」


 路地に入り進んで行くと突然寺院の前で開けた。

『尖塔まである。見ればみるほど○スラムのモスクだ。』

 正門に近づき見上げてしまった。


「誰だ?何をしてる?」

 寺院の前で雑用をしていたらしい男が声を掛けてきた。


「ああすいません。旅の物です。珍しい様式の建物だったので見学してました。」


「此処はデュラト聖教の寺院だ。関係のない者は帰れ!」

 なんて言うか、にべもない。


「ああすいま――」

―― ギィーー!

「どうしました?」


 正門らしき扉が開き、法衣のような物を来た男が現れた。


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