【身分証明】
レナスの疾風と昼を食べ終え、俺達は馬車に戻ってきた。
ツバキ「シグレ様。紅茶を飲みますか?」
「ああ頼むよ。さて・・・・・ナナイ、馬車護衛の注意点は?」
ナナイ「索敵ね。周囲の状況をいかに早く掴むかが基本よ。後は距離かな。商隊の馬車を歩いて警護するときもあるけど、こっちも馬車の時は付かず離れずが基本ね。」
「だよな。となると・・・やっぱり情報だな。ツバキ。」
ツバキ「はい。何でもどうぞ。」
「セグルドまでの街道と町や村の監視を頼む。それとサラケスとセグルドの門も監視して欲しい。」
ツバキ「門をですか?」
「大人数を乗せた馬車が門を出たら教えて欲しい。それと街道周辺は今日と明日で違いがあったらすぐ報告してくれ。どんな些細な事でも良い。」
ツバキ「承知しました。」
「それと辺境伯の屋敷に監視がいないか探って欲しい。」
ツバキ「お任せ下さい。」
サクラ「辺境伯のお屋敷を監視ですか?」
「ああ。本気で襲うつもりなら見張ってるさ。向こうも情報が欲しいだろうからね。」
ナナイ「シグレくん。今日はもうダンジョンには行かないでしょ?」
「そうだね。何か気分が乗らないし。」
ナナイ「なら買い出しに行かない。」
「そうだね。行こうか!」
用意を整え馬車を出ようとしたところでサクラが馬車に近づく気配を感じた。
―― トントン!
「どちら様でしょう?」
「ルシエラです。」
―― カチャ!
ドアを開けるとニコニコ笑顔のルシエラとイルカルが立っていた。
「どうしたんですか?」
ルシエラ「お願いが有りまして。2時間という約束で出てきました。」
「はぁ・・まあ中にどうぞ。」
さすがに歩いては来ないだろうと廻りを確認したら、馭者席にポールの乗った馬車が止まっている。
ポールと目が合い軽く会釈を交わしてしまった。
ルシエラ「まあ素敵な馬車!」
「あのー、お願いというのは?」
ルシエラ「はい。私もイルカルも辺境伯家を出ると身分証が無いんです。」
「身分証?辺境伯が証明してくれるんじゃないんですか?」
ルシエラ「ええ、辺境伯様からは後見となって証明書を作ると言われたんですが、嫌なんです。あの方の力を借りたくないんです。」
ハッキリ言いきってるけど!
辺境伯、何があったの?あんた余っ程嫌われてるよ!
「はぁ・・・それでどうして俺のところに?」
ルシエラ「シグレ様。私達を冒険者ギルドに連れて行ってくれませんか?」
「冒険者ギルド?冒険者になるんですか?」
ルシエラ「いけませんか?」
うっ!・・・
「いや、いけなくはないと思いますけど、商業ギルドではなくて?」
ルシエラ「はい。いけませんか?」
ううっ!・・・
やっぱりこの人は押しが強い。なんて言うか・・・圧力がハンパない。
サクラ「ルシエラ・・さんで良いですか?」
ルシエラ「ご遠慮なくルシエラと呼んでください。」
サクラ「呼び捨てはまだ・・冒険者ギルドですね。ご案内します。」
「えっ?サクラ――」
アカネ「丁度今出ようとしていたんです。一緒に行きましょう。」
ナナイ「そうね。行こうかシグレくん。」
ツバキ「そうですね。時間が勿体ないです。行きましょう。」
ボタン「ほらシグ兄!」
「ああ・・・はい。」
外に出て辺境伯家の馬車に乗っているポールに事情を話した。
ナナイ「随分執事さんと長く話してたけど?」
「ああ、行き先を話したらどうせ付いていかなくちゃいけないから馬車に乗ってくださいってさ。」
ルシエラ「そうですね。そうしましょう。」
辺境伯家の馬車に乗り冒険者ギルドに向かう。
ジャネット「あれ、どうしたんですかシグレさん?ギルマスと打ち合わせですか?」
「いや違うんだ。冒険者登録をしたい人を連れてきたんだ。」
ジャネット「えっ?また綺麗な人を1度に2人も・・・」
「なにそのジト目は?違うからね。うちのメンバーじゃないからね。ハーレムなんて言わないように!」
ジャネット「そう言うことにしておきますね。こちらにどうぞ!」
ジャネットから説明を聞き手続きを進めていく2人をカウンターに一番近いテーブルに座って待つ事にした。
「ねえねえ、本気で冒険者になる気なのかな?」
小声でサクラに話しかけた。
サクラ「当然本気ですね。」
アカネ「パーティーは6人だよね?」
ナナイ「それなんだけど、クラン申請すれば良いのよ。」
アカネ「クランというのは?」
ボタン「アカ姉、パーティーが複数集まった集団の事だよ。」
ツバキ「別パーティー扱いにするんですね?」
ナナイ「そう。クランの代表はシグレくんで、もう1つヒイラギを作るの。」
「えーと、みんな何の話をしてるのかな?」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「えっ?なんで一斉にジト目で見るの?」
ナナイ「まあクランの件は様子を見ましょう。シグレくん、終わったみたいよ。」
登録が終わり掌にカードを出したルシエラがニコニコしながらやって来た。
ルシエラ「シグレ様。登録が終わりました。私もイルカルもF級ですが宜しくお願いします。」
イルカル「特典の魔法も恙なく終えましたので宜しくお願い致します。」
「はい、宜しくお願いします。えっ?」
2人の勢い押されて返事を返した俺に反してサクラ達は冷静に会話を始めてしまう。
サクラ「ルシエラさんは武器は何を使うんですか?」
ルシエラ「これでも【剣術】スキルを持ってるんです。」
アカネ「イルカルさんは?」
イルカル「私は弓です。」
ナナイ「エルフは弓が定番ね。あっ魔法は?」
イルカル「実は・・・」
ナナイ「ゴメンゴメン!まだ早かったね。」
ツバキ「そうですね。まだ状況についていけない方も居ますから。」
ボタン「どうしてこういうのは遅いのかな・・・」
なに何なの?俺だけひとり会話に加われないんだけど・・・
ルシエラ「みなさんありがとうございます。取り敢えず今日は約束なので戻りますね。」
サクラ「そうですね。今日はその方が良いですね。」
「アカネ、そうだ!荷物は?・・ルシエラ、身の回りの物と・・イルカル、拡張鞄に・・ナナイ、馬車に積んじゃえば・・ツバキ、今は必要な物だけ・・ボタン、セグルドに行ってから・・」
サクラ「明後日早朝行きますから。」
ルシエラ「はい。宜しくお願いします。」
まるっきり1人蚊帳の外に置かれた会話が終わっていた。
気づくと冒険者ギルドの外に出てルシエラ達は馬車に乗って戻って行く。
んー、何があった?
ルシエラを見送った後必要な物を買い込んで再び馬車に戻った。
ツバキ「シグレ様。辺境伯様の屋敷を監視している者がいます。」
「やっぱりいた?」
ツバキ「二手に分かれて見張っているようです。どうしますか?」
「そのまま見張らせて。そいつらが戻る場所を確認して欲しい。」
ツバキ「承知しました。それと、サラケスもセグルドもまだどちらの門からもこれと言っておかしな馬車は出ていないようです。」
「て事はこれからか・・・みんな!今日はどこかにご飯を食べに行こう。」
「「「「「はい!はーい!」」」」」
夕食のために俺達がやって来たのはお昼を食べた金の鹿邸のような小洒落たところではなく、まるで飾りっ気の無い冒険者御用達の店だ。
空いていた10人掛けの丸テーブルを占領しお任せを頼む。この手の店ではその日のお任せを頼むのが1番はずれが少ない。
出てきたのは何かのシチューだ。
「どれ・・・美味い!この店当たりかも。」
サクラ「本当!美味しいです。」
アカネ「いけますね!」
ナナイ「そう言えばこの店昔から有った気がするな。」
ツバキ「潰れていないのは美味しいからですね。」
ボタン「これは・・・ホーンボアの肉かな?」
ゆっくり会話をしながら食べているといつの間にか廻りのテーブルは全て埋まっている。
熱心に話し込んでいる隣のテーブルの男達の会話に耳をそばだてた。
「おい!モーガン商会から盗品が出てきた話をしってるか?」
「何だそりゃ?」
「この間店主が殺されただろ?モーガンの奴、裏で盗品まで扱ってたらしい。」
「あんなに儲けててか?」
「セグルドの支店でも盗品が出たらしいんだ。それでだ・・誰にも言うなよ?」
「何だよもったいぶって。」
「サラケスの盗品をセグルドに運んでそこから王都に持って行くらしい。」
「セグルドに?盗賊に襲われたら目も当てられねえな。」
「それが、セグルドには王都から騎士団が中隊規模で受け取りに来るそうだ。」
「中隊って・・・そんなに価値がある物なのか?」
「ああ、王家の物が有ったらしいぞ。」
「じゃあ、狙うんならセグルドまでだな。って、やりゃしねえけどよ!ははは・・・」
「でもよ、そんなお宝なら1度は見てえもんだと思わねえか?」
「違えねえ!ハハハハハ・・・」
サクラ「シグレ様。笑ってますがどうしたんですか?」
どうやら俺は笑っていたらしい。
「ああ、帰ってから話すよ。それより、あの新型のショーツの感想は?」
アカネ「それこそ帰ってからお話しします!こんなところで話せません!」
また怒られちゃった。
馬車に戻りお風呂で洗いっこをして湯船に浸かる。
「ふーーー!お風呂も暫くゆっくり入れなくなるね。」
ナナイ「そうね。時間は掛けられないわね。」
サクラ「シグレ様。さっきはどうして笑ってたんですか?」
「そうだったね。予想通り辺境伯が仕掛けてたからさ。」
アカネ「仕掛けてた?」
「隣のテーブルに居た冒険者達の会話は聞こえてた?」
ナナイ「ところどころ聞こえてたけど、情報が漏れてるみたいね。」
「漏れてるんじゃ無いよ。漏らしてるのさ。ほら、辺境伯の屋敷で隠す気は無い、出来ればあぶり出したいって言っただろ?
今日はあの店だけじゃなく他でも噂が飛んでるはずさ。」
ナナイ「それを確かめるためにご飯を食べに行ったのね。」
ツバキ「そう言うことですか。」
「ちゃんと王都の騎士団がセグルドに行く事まで話してて噴き出しそうになったよ。」
ボタン「それじゃ、私達を襲えって言ってるみたい。」
「そう言ってるのさ。」
そう、デランドは出来れば俺達を襲わせてブルーに関わる賊を駆逐したいんだ。そして、アルバータス侯爵もそれを理解して輸送を引き受けている。なら、何事も無くセグルドに着くのは逆に良くないって事になる。だから、デランドは事前に情報を漏らした。間違いが無いように。
「狙いはサラケスからセグルドの間だって触れ回ってるのさ。まあ信頼されてるからだと考えよう。」
そこまで俺を買ってくれなくても良いんだけどな。
ボタン「でも簡単に信じるのかな?」
「敵も莫迦じゃなければわざと噂を流したと気づくさ。だから騎士団の話が本物だって解っちゃう。
1個中隊の騎士団と俺達、どっちを襲うって聞かれたら俺達って答えると思わないか?」
ナナイ「シグレくん。本気で信用されてるみたいね?」
「そうみたいだね。」
まったく、ありがた迷惑な話だ。
サクラ「でも、私達はなにも心配してませんよ。だってシグレ様に絶対の信頼を寄せてますから。」
アカネ「と言う事で新型のショーツですが、問題ないと思いますよ。」
新型のショーツは無駄毛処理を除けばサクラ達に好評だった。
角度が3タイプのどれが好みか聞くと、意外なことに全員がハイカット、いわゆるハイレグが良いらしい。
更に意外だったのはローカットが受け入れられなかったことだ。これはサクラ達が特別エロいからでは無く、理由はノーマルと差別化が微妙、まあ大して変わらないから面白みが無いらしい。
ハイレグが好評だったのは冒険者としての側面が大きかった。サクラ達は魔物狩りをしていると非常に汗を掻くため、通気性が良く蒸れないと言うのがハイレグが支持された理由だ。因みにミディアムカットからノーマルショーツとは明らかに通気性が違うらしい。
サクラとボタンは普段パンツを穿いているし、アカネ達も何故か普及していたスパッツを穿いているため通気性は殊更大事らしい。
あぁ、普段着はミディアムまでになった。普段着はハイレグ禁止!これは俺の要望だ。
サクラ達のスカートの中が間違って見えたなんて考えたくも無いし絶対阻止するが、万が一の時に許容できる限界がミディアムだと言う事を熱弁して納得させた。
駄目出しを貰ったのはオールレースのデザインだ。いかに夜の仲良し専用と言っても色々改善して欲しいと言われてしまった。
まあ良いけどね。ふふ、この手の事にかける俺の情熱を舐めるなよ!




