【依頼内容】
昨日俺達は冒険者ギルドサラケス支部のギルドマスターに呼び出され、強制的にC級昇格の試験を受けることにされた。
試験の内容は護衛依頼をこなすこと。それじゃあと依頼ボードから護衛依頼を探そうとしたら指名依頼が来ているという。
なぜD級のヒイラギに指名依頼が?と訝しんで聞くと指名主は
オットマー『ラディス辺境伯だ。明日二の鐘で屋敷を訪ねろ。』
だってさ。
今、俺達はラディス辺境伯の屋敷に向かっている。
今朝は、最近体にしっかり栄養が廻りFよりのEカップになったボタンのおっぱいで英気を養い楽しくツバキに怒られたのに・・・
「足取りも重きゃ気分も重い。人を利用するにも早すぎだろ。」
ナナイ「まあまあ。まずは話を聞きましょ。」
当然だが、ラディス辺境伯、領主の屋敷に辿り着くまでの警備は厳しい。北東区の高級住宅地の更に奥に位置する貴族が屋敷を構えるエリア、そこに入るためだけの門があり警備が常駐している。
門番に名前と目的の屋敷と来訪の理由を告げる。門番には俺が来ることは伝わっていたらしくスンナリと門を通り抜けることが出来た。
「あーあ。誰だお前は!帰れ!って言われたらすぐ帰ったのに。」
ツバキ「子供みたいな駄々はこねないでくださいね。」
「はーい。」
ボタン「さすがツバ姉!」
貴族街を歩いて行くと、一際高い塀が続いている。その塀に沿って歩くこと数分突然門が現れた。
大型馬車が2台並んで通れる大きな門扉の向こうに4人の衛兵がいた。
「誰か?」
「冒険者パーティーヒイラギのシグレと言います。ラディス辺境伯とお約束をしています。」
「確認を―― 待て!―― ハ!」
「私が聞いている。ヒイラギのシグレだな。付いてきなさい。」
年嵩の衛兵、騎士に話が通っていたようで門扉を開けてもらい中に入った。
大きな屋敷の大きな玄関扉から中に入り、騎士からメイドに案内が代わり応接間らしき部屋に通された。
「デカい屋敷だ。」
サクラ「そうですね。」
アカネ「大門屋敷の倍?もっと大きいですね。」
ナナイ「こんな屋敷が敷地内にまだあったわね。」
ツバキ「門からは他に2棟見えました。」
ボタン「この部屋も広い・・・」
メイドが運んできた紅茶を飲みクッキーを頬張りながら待っていると扉が開く。
デランド「済まん。待たせたな。」
「おはようございます。ラディス辺境伯様。」
「「「「「おはようございます!」」」」」
全員で立ち上がって挨拶をした。
デランド「ああ、おはよう。まあ座ってくれ。」
「ラディス辺境伯様。指名依頼のお話を聞きに来ました。」
デランド「様?何だあらたまって?もう少し砕けて良いんだぞ。」
「我々は冒険者。依頼というのであれば仕事として対応させていただきます。」
デランド「はぁ、そうきたか・・・解った解った。早速仕事を頼むのは悪かった。だがどうしても信用出来る者に頼みたかったんだ。少し気を許して話を聞け。」
「はぁーー、解りましたよ。」
デランド「シグレ。護衛を頼みたい。目的地はセグルドだ。」
「何を護衛するんですか?」
デランド「それなんだが――」
―― カチャ!
「遅れて申し訳ない。」
デランド「丁度良かった。シグレ紹介しよう、セグルド領主エイステン・アルバータス侯爵だ。」
エイステン「エイステン・アルバータスだ。宜しく。」
エイステン・アルバータス 侯爵 レベル16 43歳
名告りを上げた侯爵は白い歯を見せて優しげに微笑んでいた。上級貴族でありながらどこか粗野な雰囲気のデランドとは対照的に、その立ち居振る舞いは貴族として完成された感がある。
辺境伯家のメイドの先触れも無く応接室に現れたと言う事実はデランドとエイステンの付き合いの深さを示している。
それにしても、歳を感じさせない爽やかな笑顔が癪に障る。うん。イケメン滅ぶべし!
「冒険者、ヒイラギのシグレです。」
立ち上がり挨拶を返してサクラ達を紹介していく。
「ここに居るのはパーティーメンバーのサクラ、アカネ、ナナイ、ツバキ、ボタンです。」
サクラ達も名前を呼ばれた順にエイステンに挨拶をしていく。
エイステン「なるほど、聞いていた通りみんな綺麗だね。」
デランド「エイステン。手を出すなよ。死ぬぞ。」
エイステン「出すかバカ!僕はお前と違ってリーズ一筋だ!」
デランド「ははは、そうだったな。」
笑いながらデランドが座れと合図をしてくる。
ソファに座ると仕切り直しと言わんばかりにデランドが続けた。
デランド「さて、シグレ。護衛というのはこのアルバータス侯爵とその荷だ。」
「侯爵様と荷?・・・失礼ですが、侯爵様ともなれば護衛の騎士を連れてきてるんじゃないんですか?」
エイステン「5人ほど連れてきてるだけど足りなくなったんだ。」
「荷?ですか。」
デランド「そうだ。荷の中身はこの間死んだヴィリアム・モーガンの店と別邸から押収した物だ。」
本宅の金庫に有った物は俺達が全て持ち帰った。確かに魔導石や魔導弓と言った希少品も有ったが同じ物が店や別宅で見つかったとして護衛を増やすほどなのか?
他に目に付いた物と言えば不法奴隷として攫われてきた子供達だが流石に奴隷を荷とは表現しないはずだ。
「何か特殊な物でも出てきたんですか?」
デランド「察しが良いな。ここ数年盗まれたと報告が上がっていた物が別邸に転がっていた。中には公王家の物も有る。その盗品ともう1つ、こっちの方が厄介でな。」
―― ゴソゴソ ―― トン!
デランドが横に置いていた鞄から小さな香水サイズの瓶を出してテーブルに載せた。
「これは?見事な青色ですね。」
ナナイ「〈ブルー〉!」
デランド「そうだ。原料名は〈ブルーポピ〉、薬は通称〈ブルー〉と呼ばれてる。」
「芥子?阿片、麻薬か!」
デランド「正解だ。此奴はブルーの原液だ。あの莫迦はブルーポピの葉を何処で集めたのか20kgも隠し持っていた。その他にブルーの原液をこのサイズで30本だ。此奴を希釈した物をこの国に撒かれたら手が付けられん。」
「なら焼いてしまえば良い。俺が焼きましょう!」
エイステン「そうもいかないんだ。ブルーポピは確かにブルーの、麻薬の原料だが――」
「使い方で良薬にもなるわけですね。」
例えば附子とも呼ばれるトリカブトは、毒性を抜けば漢方薬として古くから使われている。鎮痛剤として効果が有るほかに新陳代謝を促進したり心不全の予防になると言われている。いわゆる表裏一体という奴だ。
エイステン「その通り。麻痺用のポーションや特殊なポーションには必要不可欠な薬草でもある。簡単に手に入らない薬草が大量に有るんだ。無駄には出来ないよ。」
デランド「モーガンのセグルド支店からも10kg発見された。セグルドは葉っぱだけだったがな。
そこでだ、サラケスで見つかった盗品とこのブルーポピを1度セグルドに集めて王都に運ぶことになった。
王都に運ぶのは王立騎士団だ。王立騎士団はその為だけにセグルドに派遣されてくる。」
「ここまで、サラケスまで来て貰えないんですか?」
デランド「時間が掛かる。王都からセグルドへ7日。セグルドからここまで7日だ。」
「来て帰って28日か。王都から王立騎士団が出る日に会わせて俺達がセグルドに行けば往復14日。半分てことか。」
デランド「そう言うことだ。昨日エイステン、商業ギルドのグスタフ殿、冒険者ギルドのオットマーを入れた4人で対策を考えてな、雑談をした時にオットマーがお前をC級にしたいと話した時に思いついたんだ。」
「しかし、俺なんかじゃなくA級のパーティーに頼んだ方が良くないですか?」
デランド「言ったろ、プルーポピの存在は信用出来る者にしか話せない。」
「そんなに簡単に俺を信用しちゃって良いんですか?」
デランド「信用出来るさ。なにせお前と知り合えたのは女神様のお導きだ。そうだろ?」
デランドが何でも知ってるぞ的なドヤ顔で俺を見る。
デランド「それに、お前はD級だが実力はオットマーの保証付きだ。そうだゴブリンロードの後オークキングも倒したそうじゃないか?」
「でも、護衛は初めてですよ。」
デランド「そこはB級のナナイがいる。サラケスで〈斧使い〉ナナイの名を知らん者は少ないぞ。」
ナナイを見るとエヘヘと言った笑いをしている。
「解りましたよ。引き受けます。」
デランド「正直に言おう。シグレ、やばい依頼になるかも知れん。」
「このブルーの取引相手でしょ?王都から騎士団まで動くんです、やばくないはず無いですね。」
デランド「ヴィリアムは卸の商人だ。ヴィリアムが死んだことは取引相手にも伝わってるはず。そうなると――」
「回収に動く。騒動を起こしても手放すのは惜しいってことですね?」
デランド「お前を選んだのは何も思いつきだけじゃない。お前のその歳に似合わない察しの良さと思慮深さが決め手だ。」
「評価して貰えるのも嬉しいやら・・・依頼は王立騎士団に引き渡すまでですか?」
エイステン「それで良い。」
「そもそも王都の人間が信用出来るんですか?」
エイステン「もっともだね。ブルーポピは全て王宮薬師院の蔵とは名ばかりの金庫に保管する。そこまで運ぶのは王立騎士団第2中隊。隊長はヘンウッド侯爵だよ。」
「ヘンウッド?ティナのお父さんか!」
デランド「俺達が考え得る限り1番信用出来る奴だ。奴とは昨日何度となく通信の魔道具で手はずを整えた。おかげで魔力を浪費してうちの魔法使いは今日も使い物にならん。」
エイステン「シグレくん。もう1組パーティーを参加させる。」
「もう1組?」
エイステン「丁度良くC級昇格の申請をしそうなパーティーが居るらしい。そのパーティーとヒイラギでC級昇格試験を装って貰う。まあ、敵さんにはバレバレだろうけどね。」
「お付きの騎士もいる侯爵とその荷物の護衛なら試験にはもってこいか。それより、こちらも隠す気は無いってことですね。いや、出来ればあぶり出したいって事ですか?」
エイステン「デランドの言う通り頭の回転が速いな。どう、家の婿に来ない?」
デランド「待て待て!お前の娘はまだ12歳だろ?だったら家の娘にしろ!」
エイステン「お前の娘こそまだ8歳じゃないか!」
「はぁーー、申し訳ありませんが謹んでご辞退させてください。」
表情は変わらないが、サクラ達から漂う雰囲気が変わった?機嫌が良くなった気がする。
「ところで出発はいつですか?」
デランド「ん?ああ、お前達の出発は2日後だ。騎士団の王都出発が3日後。お前達がセグルドに着いた次の日に騎士団がセグルドに入る手筈だ。」
「やられた・・・」
ナナイ「どうしたの?」
「さっき余計なことを言っちゃった。」
ナナイ「なになに?良く解らないんだけど。」
「セグルドに付いてから1晩、俺達で荷を見張らなきゃいけない。さっき騎士団に渡すまでって俺から確認しちゃったからね。」
エイステン「ふふ、言質は取ったよ。本来護衛依頼は目的の街に着いたら終わりだからね。セグルドの騎士団とリーズが居れば大丈夫だとは思うけど、どうせならそのまま警備に当たって欲しかったんだ。いやー、良かった、良かった!」
しかし、この侯爵は何故か終始和やかだ。こうして話すのが好きなのか、とにかく楽しそうに嫌みなく笑顔でいるのが癇に障る。
クソ!イケメンは嫌いだ!
「リーズって奥様じゃなかったですか?」
デランド「此奴の奥さん、リーズは女傑でな。剣を持たせればエイステンが100人居ても歯がたたん。まあ此奴が弱すぎるんだが。」
『確かに、43歳でレベル16はどうなんだろ・・・』
エイステン「僕は学者肌なんだよ!知性派なの!お前やライナーのような武闘派じゃないんだよ!」
デランド「まったく、リーズもこんな弱っちい奴の何処が気に入ったんだか。」
エイステン「リーズが守ってくれるって言ったんだよ!我が家はそれで上手くいってるの!ほっといて!」
デランド「ハイハイ!わかったよ。」
エイステン「ハイは1回!」
公王国でも上位の貴族の遣り取りにしては漫才を見せられているようで苦笑してしまった。
デランド「ところでシグレ。個人的にもう1つ運んで貰いたい者が有る。」
「何ですか?」
デランド「ポール!」
暫くすると応接室の扉が開いた。
―― カチャ!
「失礼します。」
入ってきたのはルシエラだった。




