【夜襲 表】
―― ヴィリアム モーガン屋敷 ――
ヴィリアム「くそくそくそ!何が資格剥奪だ!巫山戯るな!」
執事「旦那様。落ち着かれて下さい。」
ヴィリアム「これが落ち着かずにいられるか!くそ、グスタフの奴・・・」
執事「しかし、旦那様これからどうされますか?既に先ほど資格は消され、その旨の通告も公王国商業ギルド全ての支部に通達されました。」
ヴィリアム「解っておる!―― ドン! 忌々しいがこうなっては公王国内では商売は出来ん。こんな時のためにゲスキア王国に店を持たせたんだ。」
執事「ではアルーニ様のところに?グスタフ様からは呼び出しがあるまでこの屋敷から出るなと――」
ヴィリアム「知ったことか!儂が捕まるなど有り得ん!ヤミン、グスタフの監視を見付けろ。時を見てサラケスを出るぞ!」
ヤミン「承知しました。」
ヴィリアム「そうだヤミン。あのシグレとぬかす小僧の居場所も探れ。探って今日中に始末しろ。儂に逆らったこと命で償わせてやる!」
「はぁー、せっかく気分良かったのにな。」
商業ギルドのいざこざの後、納品した紙の代金を受け取って俺達は馬車に戻ってきていた。
ツバキ「大門屋敷へはどうしますか?」
「なんか気分が削がれちゃったから今日は買ってきたこの銅の鍋で米を炊くよ。」
ナナイ「お米を炊くってどうやるの?」
「気分を変えて説明しますか。まずこのコップすり切り一杯が1合ね。」
コップは適当な量のコップを雑貨店で見付けていた。
サクラ「1合?」
「お米を量る時の量だよ。そうだな今日は余ったらお握りにするか。」
コップ6杯の米を鍋に入れ水を加えて研いでいく。最近の日本の米は精米技術が良くなって殆ど洗わなくて良いらしいが、ここはしっかりと洗っておく。
「こうやって水を換えて、最後はこの辺まで水を入れる。後は最低30分そのまま浸しておく。」
アカネ「この時間は必要なんですね?」
「ああ、米が水を吸わないと炊いた時に芯が残るんだ。良し、この間に生姜焼きのタレを作ろう。」
ツバキ「その生姜焼きも興味深かったんです。」
「まずは生姜をこうしておろし器でする・・・・・終わったら今度はニンニクだ。」
ナナイ「ニンニクもするの?」
「そう・・・ふんふんふん・・・良し!このショウガとニンニクを纏めてここに、ジャジャジャジャーン!お醤油!」
サクラ「ハイハイ。落ち着いて下さいね。」
アカネ「シグレ様。なにげにテンション高いですよ。」
「はーい!醤油を少しずつ入れて――ペロ! うん!こんな物かな。」
ナナイ「どれどれ?・・・ああなんか良い感じ。」
「これに、ハイオークの肉を薄切りにして少し漬けておこうか。後は焼く時にタマネギを使うからこうして――ザクザクザク--薄切りにしておけば準備完了かな。」
サクラ「じゃあ仕上げはまだ先ですね。シグレ様。商業ギルドの件で聞いて良いですか?」
「なんだい?」
サクラ「あのグランドマスターさんは最初から味方だって解ってたんですか?」
「いや、むしろ向こう側かと思ってたよ。」
アカネ「じゃあ、あの流れはまったく偶然なんですか?」
「そうだね。あのギルマスのアンジェラやヴィリアムだっけ?彼奴の出方を見て今後の方針を考えようと思ったんだけど、正直意外な展開だったよ。」
ツバキ「今後の方針と言えば、シグレ様。ヴィリアムの手のものがこの馬車を見張っています。」
サクラ「じゃあこの気配がそうかな。ちょっと前から厩舎の辺りに2人居て動きが無いんです。」
「ツバキ。ヴィリアムの屋敷は解る?」
ツバキ「調べてあります。」
「おそらく今日にも襲撃するつもりなんだろうな。」
ナナイ「今日?随分せっかちね。」
「俺達がいなくなった後商業ギルドから資格剥奪を喰らってるだろうし、あの手合いは逆恨みするタイプだ。怒り心頭だと思うよ。」
アカネ「どうしますか?」
「襲撃させるさ。向こうが襲撃すれば俺達が手を出しても犯罪者にはならないからね。ツバキ、悪いが屋敷に飛んでくれないか。正門付近で良い。」
ツバキ「承知しました。行って参ります。」
「やられたらやり返す!倍返しだ!」
サクラ「なんかの決め言葉ですか?」
「はは。そう。俺の国で流行ってた決め台詞さ!」
ツバキが戻ってきたところで料理を再開。米の鍋を魔導コンロに掛け米を炊いた。
炊き上がったら暫く蒸らす。その間にフライパンにツバキが見つけたオリーブオイルを引く。
熱したフライパンにタマネギを入れ程良く炒めたところで漬けておいたオーク肉とタレを投入し炒める。完成間近に追いタレをして出来上がり。
お湯を沸かしていた鍋に市場で見付けた椎茸っぽいキノコを水に浸して取りだした出汁を入れ味噌を溶いていく。そして出汁取りに使ったキノコを刻んで入れて味噌汁のできあがりだ。
「まあ、こんな物かな。みんなで今日買ってきた器のこっちにご飯。お米を炊いた奴ね。こっちには味噌汁を入れて。」
お皿に生姜焼きをとりわけ配膳していく。
「さあ食べようか。いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
因みに我が家は俺の影響で全員『いただきます』と『ごちそうさま』だ。
「おおーー!美味い!生姜焼きだ!・・・ああーご飯だ!美味い!」
ナナイ「シグレくん。落ち着いて。でも本当に美味いわね。この生姜焼き、最高!」
アカネ「本当!この生姜焼きに、ご飯?これがピッタリ!」
ボタン「ご飯が・・もぐもぐ・・美味しい・・もぐもぐ・・です。」
ツバキ「ボタン。食べながら話さない。いっぱい有るからゆっくり食べなさい。」
ボタン「ハー・・・もぐもぐ・・・ーイ!」
サクラ「本当に美味しい!シグレ様って料理も出来たんですね?」
「ん?ああ、俺は向こうの世界で孤児だったからね。何でも自分でやってたから。凝った料理は出来ないけど普通に食べるくらいの物は作ってたんだ。」
ボタン「シグ兄!この味噌汁も美味しいよ!」
「ボタン美味いか?いっぱい食べろよ。そうだ、この醤油だけど肉との相性が最高なんだ。明日はこの醤油にタマネギを擦って入れてステーキのタレにしてみてよ。美味いぞ!」
ボタン「あっ、私やってみる!任せて!」
「ツバキ。デュラト聖道国ってどんな国?」
ツバキ「100年ほど前、開祖エボン・カルトが起こしたデュラト聖教の信者が暮らす国です。主神は光の神聖神デュラト。この世界の神は唯一聖神デュラトだと主張しています。
カールスブルク公王国とデュラト聖道国に跨がるローデリア山脈の北側にあって人の往来は唯一の陸路ミサロニア帝国に通じる山道を行くか海路船で行くしかありません。」
ナナイ「なかば隔絶された国なの。だから情報も少ないわね。」
「聖神デュラトがこの世界唯一の神?まあ、イサドラ様がほっといてるんだ、悪さをしなかったら何を信じても自由ってことだろ。」
サクラ「シグレ様。見張りが増えたようです。」
ツバキ「魔法使いだと思います。先ほど覗いてきた時、魔法使いが揃ったら馬車に向かえと言ってましたので。」
「魔法で攻撃するわけだ。人数を出して取り囲んだら目立ちすぎるもんな。」
アカネ「どうしますか?」
「予定通りさ。好きにさせる。この馬車には不壊属性が施されてる。魔法が効かなかったら奴らも驚くだろうね。」
ボタン「でもこんな時間に仕掛けてくるの?」
「この時間だからだよ。外にはそこそこ人はいるけどあふれかえってるわけじゃない。むしろ魔法を放つだけなら適当に気配を誤魔化せると思ってるんじゃないかな。」
サクラ「動いています。二手に分かれました。」
「ほっといて俺達は食事を楽しもう。」
「「「「「はい。はーい。」」」」」
―― 馬車の外 ――
建物の陰、人目に付かない場所にローブで顔を隠した男が2人。1人はシグレ達の馬車を見て、もう1人は周りを警戒していた。
シグレ達の馬車から2台離れた馬車の陰にもローブで顔を隠した男と警戒役の男の姿があった。
2人の男が自分たちの手をシグレの馬車に向ける。
魔法使いA「・・・・・風よあの馬車を断て!」
―― ビュォ!
魔法使いB「・・・・・飛べ!火の玉!」
―― ボン!
―― ビューー・・ガン!
―― ビューー・・ドン!
魔法使いA「ふふふ・・・・ん?」
魔法使いB「燃えろ!・・・・えっ?」
「おい!どうした?」
魔法使いA「いや待て。もう一度・・・・・・・・・風よ!」
―― ビューーー・・ガン!
「何やってる?燃えてないぞ!」
魔法使いB「解ってる!・・・・・・・・・・火の玉!」
―― ビューーー・・ガン!
魔法使いA「あれ?」
「人が来る。早くしろ!」
魔法使いA「ええい!・・・・・・・風!」
「おいどうしたんだ?」
魔法使いB「解ってるって!・・・・・・・火!」
―― ガン!
魔法使いB「・・・あの馬車なんで燃えないんだ?」
「拙い!人が集まってきた!逃げるぞ!」
「何だ?さっきから何の音だ?」
「風がぶつかる音がしたぞ!」
「いや、さっき火の玉も飛んでたはずだ!」
「何だって?何処だ?何処が燃えてる?」
「其れがあの馬車にぶつかってたんだが燃えて・・・ないんだ。」
魔法使いA「クソ!何なんだあの馬車は!行くぞ!」
「あ、ああ・・」
―― カチャ!
「あれ?みなさん俺の馬車の周りに集まってどうしたんですか?」
「えっ?今この馬車に魔法の火の玉が打ち込まれたって・・・」
「火の玉!えっ?うちの馬車にですか?」
「ああ、そうなんだが・・・何ともないのか?」
「はい。ご飯を食べてましたけど。」
「ご飯?・・・良いんじゃないか・・・なにも無かったんなら。ははははは・・・」
「そうですね。ははははは・・・」




