【変なおっさん】
「シグレ様!やっぱりシグレ様ですね!」
声を掛けてきたのはティナだった。
「あれ?ティナじゃないか!ティナ達もここでご飯を?」
ティナ「はい。知り合いに誘われて。遠目にみなさんのお顔が見えたのでつい来てしまいました。」
「そうか。俺達もギルドのジャネットさんに教えて貰って来たんだ。」
「ティナ。こちらの方達は?」
ティナ「ああすいません突然席を離れてしまって。さっき話していた冒険者のシグレ様です。シグレ様こちらはラ――」
「デランドだ!君がヒイラギのシグレくんか。ティナから色々聞いたよ。」
突然ティナの後ろから顔を出した40代に見えるイケメンおやじに挨拶され握手の手を差し出された。
「ヒイラギのシグレです。始めまして。ここに居るのはメンバーのサクラ、アカネ、ナナイ(ん?)、ツバキ、ボタンです。」
1人ひとり紹介していくと、デランドと名乗ったおっさんが一瞬ナナイに目線を送っていた。
デランド「そうか。この女性達が有名なヒイラギのメンバーか。初めましてデランドです。」
「「「「「初めまして。」」」」」
ティナ「お食事の所をお邪魔しちゃってすいませんシグレ様。今度はご一緒しましょうね。」
「そうだね。そのうち――」
デランド「せっかくだ。これから一緒に食卓を囲もうじゃないか。見たところ食事は終わってこれからデザートかな?実はここは顔が利くんだ、お近づきのしるしに奢らせてくれ。」
「ああ、お気遣いなく。もう本当にデザートを食べたら帰るところなので。」
デランド「まあそう言うな。若いもんが遠慮しちゃいかん。おい君!ここのデザートを私の席に運んでくれ。」
店員「畏まりました。ラ――」
デランド「頼むよ!じゃあ向こうに行こうか。」
「えっ?いやだから――」
デランド「まあまあ、ほら女性陣も立ってたって!」
結局デランドに押し切られてしまった。
俺の向かいでティナがすまなそうな視線を向けている。
デランド「すまんな無理矢理誘って。儂とティナの父親とは古い友人でな。ティナが百層宮に修行に来てたのは知ってたんだが、我が家も色々あって中々会えなかったんだ。
今日バッタリ会ったらネールのスタンピードの鎮圧に行ってたと聞いて無事に戻ってきたお祝いがてら話を聞かせて貰ってたんだ。」
「そうですか。しかし、イデリナ!随分大人しいって言うか・・・慎ましやかに見えるのは気のせいか?」
イデリナ「な、何を言ってる!私はいつもこんな感じだ・・・」
「そうか?昨日も今朝の食事の時も口いっぱいに頬張りながら笑ってたじゃないか。」
イデリナ「ふ、巫山戯るな!侯爵家に仕える騎士が食べながら笑うなど・・するはず無いだろ・・・」
デランド「ははは、気にするなイデリナ。冒険者ならそんなものだ。儂も冒険者をしていた時期があってな、その時は仲間と飲んで食べて騒いだもんだ。」
イデリナ「ラ・・デランド様も冒険者をされてたんですか?」
デランド「ああ、若いころにな。23歳で家を継いだがな。」
「冒険者のランクは?」
デランド「C級だった。君は?シグレくん?」
「D級です。」
デランド「D級?ティナの話を聞いたが、儂はゴブリンロードを単騎で倒すD級は知らんな。」
「まぐれですよ。」
ナナイ「デランド・・さん。シグレくんは冒険者ランクにあまり興味が無いんです。」
デランド「そうなのか。普通冒険者は少しでも上に行きたいと思うもんだが。」
「上に行くと色々面倒くさそうだからです。それでもナナイに聞いていずれB級にはなろうって思ってますけどね。一番気楽らしいから。」
デランド「ははそうか!気楽が良いか。
ところで、シグレくんは何処の出身なんだ?」
「俺は渡り人ですよ。ラディス辺境伯。」
デランドが和やかにしていた表情を一変させた。
デランド・ラディス 辺境伯 レベル46 43歳
デランド「・・・知ってたのか?」
「いえ。イデリナが畏まり、侯爵家のティナを呼び捨てに出来るティナの父親の友人。それとナナイと辺境伯が顔見知りだったことですね。ナナイはB級冒険者ですから顔を合わせていても不思議がない。」
ナナイ「やっぱりばれてた?指名依頼を受けたことがあるのよ。」
デランド「なるほど、素晴らしい観察眼だな。ティナが顔を赤くして褒めちぎるのも頷ける。」
ティナ「おじさま!顔を赤くなど・・褒めてはいましたけど・・」
デランド「そうか君は渡り人か。」
デランドの視線が俺を刺す。
「予想は当たりましたか?」
デランド「ふふ、あははは・・・当たった!ルドリック、レンドンから話を聞きもしやと思っていた。」
「レンドンさんは何と?」
デランド「詳しくは勘弁して欲しいが信用に値する人物だと。レンドンがその命に掛けて保証すると。」
イデリナ「命を掛ける?」
「買い被りすぎですよ。俺は召喚された渡り人ですが、召喚した張本人は俺を無能と罵ってましたから。」
デランド「召喚?召喚されて今ここに居るのか!ははは、君を無能と罵った奴に見る目がなかったな!
しかし、なぜ儂にそこまで話す?」
「面倒事が嫌いなんです。俺を調べ上げようと付きまとわれるのもいやですし。」
デランド「いきなり胸襟を開かれるのも返って恐いものだ。若いのに思慮深いのだな。」
「これでも苦労人なんですよ。」
デランド「なるほど。ところで、偶々なんだが明後日我が家で妻の全快祝いのパーティーが有るんだが出席せんかね?」
「謹んでお断りします。俺は一介の冒険者です。辺境伯家には縁もゆかりもありませんから。」
デランド「そうか・・・残念だ。妻が、ルシエラが喜ぶと思ったんだがな。諦めよう。君には無理強いはしない方が良さそうだ。」
「そうして貰えると助かります。」
その時俺達の席の側に執事らしき男が立った。
デランドがその男と視線を合わせ頷き合う。
デランド「さて、儂はそろそろ行かねばならんようだ。シグレくん。3つ礼を言わせてくれ。
まず一つ目。ティナへの指導。ライナー、ティナの父親に代わって礼を言う。ライナーも自分の父親と争ってる最中でな、ティナのことが気がかりでも表に出すことも出きんのだ。
二つ目はマッフェオのことだ。親として君に掛けた無礼を心から詫びたい。奴についてはこれ以上の言葉が無い。
三つ目は――」
「気持ちは頂きました。それ以上お礼を言われることは何も。」
デランド「・・・そうだったな。さて、儂は行こう。ティナ。好きなだけデザートを食べて帰りなさい。ヒイラギの女性を見てご覧。お前はもう少しふくよかになった方が良いぞ!」
ティナ「ど、どういう意味ですかおじさま!」
デランド「ははは・・・それじゃシグレくんまた会おう!」
デランドが店を出るとすまなそうにティナが話しかけてくる。
ティナ「シグレ様、すいませんでした。せっかくみなさんで寛いでいたのに邪魔をしてしまって・・・」
「気にしなくて良いよ。それよりせっかくああ言ってくれたんだからデザートを食べて帰ろう。
サクラ達も遠慮無く追加して良いぞ。どうせ辺境伯の奢りなんだから。」
ナナイ「そうね。じゃあさっき悩んだあれにしようかな。」
サクラ「あ、私も!」
「ほらティナも!イデリナも遠慮するなよ。お前も少しふくよかになった方が良いぞ。」
イデリナ「よっ、余計なお世話だ!」
―― デランド・ラディス辺境伯 馬車内 ――
デランドが馭者をしている執事に話しかけていた。
デランド「ポール。あれがヒイラギのシグレだ。」
ポール「左様でしたか。」
デランド「やっぱり渡り人だった。それもセレゴス王国の勇者召喚で渡ってきたな。」
ポール「それは本当なのですか?」
デランド「本人が言っていた。召喚された渡り人だとな。セレゴスの王が無能と罵ったそうだ。」
ポール「無能・・・では勇者ではなかったと?そのようなこと有り得ないのでは?」
デランド「そうだ。有り得ない。セレゴスの召喚は勇者しか召喚しない。故に奴らは勇者召喚と呼ぶ。当然奴らは鑑定もしているはずだ。それでも勇者ではなかったと言うことになる。」
ポール「どうされるのですか?」
デランド「どうも出来んよ。セレゴス王を欺きあの王宮から逃れる力を持っている者だ。下手に手を出して敵対されるのは拙い。」
ポール「では、手の者は引かせて宜しいですか?」
デランド「そうしてくれ。」
ポール「ところで、ルシエラ様の件は本当に宜しいのですか?」
デランド「仕方なかろう。儂には何も言う資格は無い。無理矢理ルシエラを妻にして20年。妻にしてからルシエラの笑った顔を見ていない。おまけにその内の半分はあの火傷だ・・・恨まれて当たり前だろ?」
ポール「・・・お館様のお心のままに。」
せっかくの良い雰囲気を邪魔された腹いせに、スイーツは別腹の女子達に気の向くままに食べさせて馬車に戻った。
「さあて、パーティボックスに入ってお風呂にしよう。」
「「「「「はい。はーい。」」」」」
馬車に入りパーティボックスの扉を開けて驚いた。
「あれ?また広くなってる。」
サクラ「本当ですね。」
以前拡張になった時は2階に3部屋増えていた。それに会わせてトイレの数も増えていたのには感心させられた。今回は一つ一つの部屋が拡張されている。
リビング、ダイニング、キッチンがそれぞれ倍になっている。食料庫に行ったツバキの報告では食料庫も倍に広がっているそうだ。
2階に行くと寝室は倍以上の広さになっていた。
「一気に2.5倍くらいになったな。トリプルキングサイズがちっちゃく見える。早めに替えるか。」
アカネ「シグレ様。部屋数が増えてます。2階は寝室以外に8部屋有りますよ。」
「こうなるとお風呂が気になるな。」
階段を駆け下りお風呂に行く。更衣室の扉を開けお風呂場を見て驚いた。
「うぉ!なんだこれ?」
お風呂の造りががらりと変わっていた。
洗い場の先の壁が無くなり、その先に15m×10mほどの木組みの湯船が岩や石に囲まれている。更にその周りを2mほどの木の塀が囲んでいた。
洗い場から湯船の半分ほどに木の庇も掛かっていた。
「スッゲー!露天風呂じゃないか!それも野趣情緒満載だ!」
そうなのだ!露天風呂なのだ!
何処に繋がっているのか塀の向こうには樹が生い茂っている。
「どう見てもサラケスの中とは思えないな。」
この露天風呂、使って解ったことは塀と木々の間に境界が有るらしく雨が降っても湯船には落ちてこない。当然というか開けっぱなし状態でも寒くもならない。実に気の利いた露天風呂だ。
早速湯船にお湯を張りサクラ達を呼びに行った。
「みんな!お風呂が凄いんだ!お風呂に入ろう!早く早く!」
サクラ「シグレ様。落ち着いて下さい。」
アカネ「そうですよ。すぐ行きますので先に入っていて下さい。」
ナナイ「シグレくん。良い子だから先に入って待ってて!」
ツバキ「着替えを用意していきます。お風呂でお待ち下さいね。」
「はーーーい!」
ボタン「シグ兄、子供みたい。」
サクラ「わぁ、凄い!」
アカネ「何ですかこれ・・・」
「露天風呂だよ。」
ナナイ「露天風呂?」
ツバキ「湯船が外にあるなんて・・・」
ボタン「これ覗かれないのかな?」
サクラの体を洗い、他の4人の洗い残しが無いことを確認しながら露天風呂の湯船に浸かった。
「はぁー良いね!最高だ!」
サクラ「本当ですね。気持ちいいです。」
アカネ「しかし、外は何処なんでしょうね。」
ナナイ「ボタンどう?」
ボタン「どこかの森の中かな?何も見えないよナナ姉。」
木の塀の上からボタンが外を覗っている。
ボタン!可愛いお尻が丸見えだよ!
「そうだ。明日は休みにしよう。探したい物があるから市場に行こう。」
サクラ「捜し物ですか?」
ナナイ「ああ解った!お醤油とお味噌ね!」
「ピンポン!俺は醤油と味噌が欲しくてサラケスに来たようなもんだからね。」
アカネ「なら、市場で珍しい食材を買っても良いですか?」
「ああ色々買ってみよう!」
ナナイ「じゃあ寝室に行くわよ。今日はゆっくりサービスしてあげるからね!フフ。」




