【紫蘭玉樹】
オットマーが解散を宣言した途端イデリナが詰め寄ってきた。
イデリナ「どういう事だ?私達は何も言ってなかったろ?」
「五月蠅い!良いから黙ってついてこい!」
イデリナ「な、なんでお前に命令されなければならないんだ!」
ティナ「シグレさん〈紫蘭玉樹〉と仰いましたが?」
真っ赤に爆発しているイデリナを無視してティナの質問に答える。
「ああ、咄嗟だったんですまんな。俺の国の言葉で紫蘭は花の名、玉樹は宝の樹って感じかな。才能がある者達のことを言うんだ。」
ティナ「才能のある・・・私には過ぎた名ですね。」
「今はな。才能は努力で咲かせれば良いんだ。」
「おい!ヒイラギのシグレと言ったな。」
声を掛けてきたのはマクシムに乗った赤い連檄のリーダーだ。
「〈赤い連檄〉のファビアナだ。明日あたい達と組んで貰うぞ。」
「良いんですか?俺達はD級のパーティーですよ。」
ファビアナ「知ってる。ハーレムパーティーヒイラギ。ナナイ姉さんがいるパーティーだろ?姉さん、暫くです。」
『ハーレムパーティーヒイラギ?なんでパーティー名に二つ名が付いてるんだ?それもハーレムって・・・』
ナナイ「暫くねファビアナ。貴方良いところに目を付けたわよ。私のシグレくんは頼りになるから。」
ファビアナ「シグレ。お前が言い出しっぺだ。姉さんの言葉は明日証明しろ。」
「了解です。宜しくお願いします。」
マクシム「シグレ!」
今度は誰だと思って振り向くとマクシムだった。
マクシム「残念だ。明日お前とは隊分けが違った。同じだったら組めたのにな。」
「さっき赤い連檄に頼まれたよ。」
マクシム「ファビアナか。そいつは手強いな。だがキングは譲らんからなガハハハ・・」
オットマー「シグレ、オットマーだ。」
影のようにマクシムの後ろにいた髪のあるマクシム、オットマーが姿を出した。
「ギルドマスター。ヒイラギのシグレです。」
マクシム「兄貴、此奴はサラケスの階膨れでオークジェネラルを倒したんだ。有望株だぞ。」
やっぱり兄弟だったか。しかし、兄はフサフサで弟は丸坊主。マクシムの方が兄貴に見えるな。
オットマー「ああ、ネールに居た時から目を付けてたよ。試しにウォーターリザード狩りを任せたらとんでもない数を納品したからな。」
「あれはギルマスの指示だったんですか?」
オットマー「ああ、あそこは俺がその年見込んだパーティーに行かせるんだ。あれでウォーターリザードの狩りは中々大変でな、良い判断材料になるんだ。ガハハハ・・・」
笑い方が双子だ。
オットマー「シグレ。すまんがこの後頼む。五の鐘の前には交代をやる。」
「大丈夫です。任せて下さい。」
オットマー「ティナ嬢・・・紫蘭玉樹も頼む。任せるぞ。」
顔見知りかな。
「了解です。任されました。」
宿に帰り、サクラ達と紫蘭玉樹のメンバーを連れて防護柵の作成地へときた。
「ヒイラギのシグレだ。ここの護衛を代わってくれと言われてきた。」
「ありがとうございます。4匹程のグループで時々出てきては柵を壊そうとしたり中に入ろうとしてきます。まあゴブリンやグリーンウルフなので問題ないんですが、必ず1匹は逃げていきます。」
「作業している場所に近づけなきゃ良いんだな。了解した。」
状況を聞き場所を確認してみんなを集めた。
「さてと、ナナイすまないがうちのみんなを指揮して魔物共を警戒してくれ。出来るだけ1匹も森に戻さないように頼む。俺は暫くティナ達とやることがある。」
ナナイ「了解。」
イデリナ「おい。お前は私達に何をさせようと言うんだ?」
「良いかお前達は1人ひとりが非力な上にパーティーとしてまとまりが無い。だからオークごときに後れを取るんだ。」
イデリナ「そんな事、お前に言われる筋合いは無い。」
「いい加減にしろ!今のままなら明日死ぬぞ!良いか!生き残る強さが必要なんだ。死にたくなきゃ身に付けろ!それがティナのレベルアップに繋がるんだ!」
イデリナ「ぐっ・・・どうしろというのだ?」
「そうだ。教えを請うのは恥ずかしいことじゃない。まず、お前達紫蘭玉樹の戦法を作る。ティナお前にこれを返す。」
収納からボタンが使っていた大盾を出した。
ティナ「〈黄銅の盾〉・・・」
「〈黄銅の盾〉?名前があったのか?」
ティナ「黄銅とは素材のことらしいです。なぜか光を浴びると黄金のように輝き決して壊れることが無いと言われています。」
イデリナ「そもそもこの盾は、ヘンウッド家の初代様に仕えていた竜人がもっていた盾だ。戦場で初代様を庇って亡くなってから侯爵家の秘蔵品となっていたんだ。」
黄銅の盾 分厚く重い黄銅製の盾。不壊。
『不壊属性がついてる!相当な代物だな。』
ティナ「家を出るとき、この盾を嫌っていたお爺さまが当て付けに押しつけてきたんです。私ならすっぽり隠れられるから丁度良いといって・・」
「まったく、聞けば聞くほどクズだな。まぁ良い、持ってみろ。」
ティナ「無理です。私1人では両手でも僅かに持ち上げるしか出来ません。」
「良いから、持つ!」
困った表情のティナが諦めたように大盾を手にする。
ティナ「嘘・・・持てる。」
「まだ重いかも知れないが持ててはいるな。重量軽減を付与して重さが4分の1になってる。」
重量軽減の魔法はダイモンの書で見つけた。この魔法は重量を4分の1軽くするか半分にするか、4分の1にするか選べる。
イデリナ「重量軽減を付与?付与魔法など聞いたことが無いが?」
「ティナから此処に横に並べ!」
並ばせた紫蘭玉樹全員のプレートメイルに重量軽減を付与して重さを4分の1にしていく。
ティナ「軽い!」
「「「「「凄い・・・」」」」」
「これでなんとかなるだろ。まったく騎士とは言えこんな鎧を着込んでるなんて効率が悪すぎだ。良いか、この事は誰にも言うなよ!」
イデリナ「あ、ああ・・」
「ティナ、お前はこの盾で自分自身とパーティーの後方を守るんだ。」
ティナ「私が後方をですか?」
「そうだ。紫蘭玉樹は魔法使いが1人に剣士が5人だ。バランスが良いパーティーじゃない。ならそれに合った戦法をとるしかない。
イデリナ。お前はティナの前。後の4人は2人ずつイデリナの左右に分かれろ。そしてティナを半円で囲むように立つんだ。
俺の意図がわかるかイデリナ?」
イデリナ「馬鹿にするな!後ろはティナ様に任せて私達には前に集中しろと言うんだろ?しかし、それではティナ様が心配だ。私の視界から外れてしまう。」
「莫迦か!ティナを守りたかったらお前がティナの盾になれ!ティナを傷つける剣をお前が受けなくてどうやって守るんだ!」
イデリナ「私がティナ様の盾・・・」
「ティナの前に陣を組んだら、良いか前の5人は絶えず連携しろ。1人が引きつけて隣が止めを刺すんだ。その連携を作るんだ。意図は解るか?」
イデリナ「・・・1対1になるなと言うんだな。」
「そうだ。ナナイ!」
近くに居たナナイに声を掛ける。
「ナナイ聞いてた?丁度良くゴブリンが近づいてくる。この5人にやらせてみてくれ。イデリナ、後ろをナナイに任せて今の陣形で戦え。実戦の指揮はお前が執るんだ。良いな!」
イデリナ「ああ、やってみる。」
イデリナ達が前に出て行った。
「次だな。ティナ。魔法を打ってみてくれ。」
ティナ「はい。―― ぶつぶつぶつ ―― 水よ珠となって敵を討て!」
―― ビューーーバシャ!
「やっぱり構築が長いな。良いかティナ。お前の周りには実は小さな水の粒が無数に浮いて漂ってるんだ。」
ティナ「水の粒?浮いてるのですか?そんな話は聞いたことが・・」
「俺を信じろ!【氷槍】。」
俺の掌の上に氷の槍を作り出して見せた。
ティナ「す、凄い!あっと言う間に。」
「この氷の槍を見ろ。俺はこれをその水の粒を凍らせて作っている。ティナ、この氷の槍を良く見て同じ物をイメージしろ。水に動くな止まれ!と念じながらこの槍をイメージするんだ。」
ティナ「水は漂ってる・・動くな・・止まれ・・水よ・・止まれ・・・はぁはぁ・・・出来ません。」
「1回で諦めるな!何も出来ないお嬢様で良いのか?クソ爺を思い出せ。クソ爺に氷の槍をブッ刺してやるんだ。良いな!」
ティナ「はい。水よ・・動くな・・・止まれ・・止まれ・・槍になれ!止まれ!・・・あっ?」
俺の氷の槍に比べれば小さな小さな氷の槍がティナの掌にのっていた。
「良し!それで良い。ティナ、それが【氷槍】だ。良いか今度は〈氷槍〉って言う言葉に全てを乗せて作るんだ。その言葉だけで良い。今のイメージを忘れるなよ。」
ティナ「言葉に?―― 【氷槍】 ―― キャ!」
ティナが吃驚したのはさっきとは比べようのない大きな氷の槍が掌の上に出現したからだ。
ティナ「凄い!でもどうして・・・」
「ティナ。俺達ヒイラギだけの秘密を教えてやる。魔法は個別に名前を付けるとイメージの具現化が強くなるんだ。そしてもう一つ利点がある。解るか?」
ティナ「はい。圧倒的に発動までの時間が短い。一瞬で構築出来ました。」
「正解だ。良し実戦だ。まずはその槍を堅く堅くイメージして魔物にぶつけるんだ。良いな?」
ティナ「はい!頑張ります!」
イデリナ達が陣取る場所に行き、ナナイとティナを入れ替えた。
暫くしてゴブリン達がやって来たので、サクラ達に誘導を頼みティナが氷の槍を放った。
ティナの氷の槍は1本だけだが、見事にゴブリンを貫いた。
4匹居たゴブリンはティナが1匹、残りをサクラ達が瞬殺した。
イデリナ「ティナ様!凄い!いつの間に氷の槍を?」
ティナ「シグレ様から指導を受けました。まだ未熟ですが水の玉より威力はあります。」
「ティナ。【水弾】だ。氷の槍と使い分けてみろ。」
ティナ「なるほど!ありがとうございます!」
それからティナの魔法と前衛組の連携、そしてティナを入れた6人の連係を工夫していった。
後方から魔物を削る為に、ティナには小さな氷の槍を無数に作らせることもさせた。
【氷針】と名付けた50に及ぶ3cmほどの槍とは言えない針はどんなに当たっても致命傷にはならないが広範囲に確実に魔物を捉える。その傷ついた魔物を剣持の前衛5人が待ち受け連係で止めを刺していく。
大事なのはティナと前衛組の距離だ。決して離れず時に前衛組は陣の中に魔物を引き入れて滅多刺しにする。迎え撃つ守りの戦法だが型にはまれば強い。
紫蘭玉樹の戦法の形が見えてきたところで交代の知らせが来た。
「良し戻ろう。みんなご苦労さん。」
サクラ「ゴブリンやグリーンウルフだけですから問題ありませんよ。」
ボタン「歯ごたえのあるのは出てこなかったねシグ兄。」
「まあ向こうも牽制のつもりだからな。しかし小賢しいな。魔物がこんな―― なんだ!」
背を向けていたヨスの森から強烈な視線を感じた。
咄嗟に振り返って森を見るが魔物は居ない。
アカネ「どうしたんですかシグレ様。」
「森の左側から強烈な視線を感じたんだ。」
ナナイ「視線?私は何も感じなかったけど。」
ツバキ「私も何も感じませんでしたが近くに強い魔物の気配を一瞬感じたと知らせがありました。」
「俺だけを見たって事か。」




