【再会】
冒険者ギルドに行きメリンダに状況の確認をしたが大きな変更は無かった。
それならとギルドを出て街をぶらつくが店の大半が閉まっていた。そんな中でも健気に屋台は出ている。実に逞しい!
馴染みの串焼き屋で非常食用に50本購入するとボタンが早速食べたいというので広場の噴水の縁に腰を降ろしたところで声を掛けられた。
「シグレ様!シグレ様では無いですか!レンドンです!」
奴隷商のレンドンだ。
「ああ暫くです、レンドンさん。」
レンドン「いやー良かった!是非お会いしたいと思っていたんです。森膨れの緊急依頼でこちらに?」
「そうです。」
レンドン「やはりそうですか。とろろでその竜人は・・」
「サラケスでヘンウッド家の者から譲り受けました。今はボタンと名乗らせてます。」
ボタン「店主様。ボタンという名を頂きました。」
レンドン「そうかシグレ様のところに。うん。それは良かった。
ところでシグレ様。ルシエラ様を本当にありがとうございました!」
「レンドンさん。何のことか解らないんだが。」
レンドン「たしかにあの時諦めろと言われました。また、ルドリック様からも怒らせてしまったと聞いております。ですが、メイドが眠って目覚めたらルシエラ様が治っていた。
私が知る限りそんな事が出来るのは1人しかおりません。」
「俺には見当もつかないけどな。」
レンドン「それに、ルシエラ様が女神イサドラ様に感謝しろと言われたと。」
『アチャー!聞こえてたんだ。耳も火傷が酷かったから聞こえてないと思ってた。』
レンドン「ルシエラ様は、女神様が使わして下さった方は獣人族の綺麗な女性を連れていたとも仰っているそうですよ。」
レンドンの視線がそれとなくサクラに向く。
サクラ《シグレ様。私のために申し訳ありません。》
《サクラが謝る必要は無いよ。聞こえてたのも見えてたのも全部俺が迂闊だったんだ。すぐ眠らせるべきだったよ。》
「・・・俺は知らんが、もし伝えることが出来るなら余計なことは話すなと言った方が良い。女神様の使いが迷惑を被るんじゃないか。俺はそう思うが。」
レンドン「はい。私もそう思い既に鳥を飛ばしております。
シグレ様。このご恩、このレンドン必ず報いさせて頂きます。私に出来ることならどんな事でもお力になります。女神イサドラ様に誓ってお約束致します。」
「解った。イサドラ様の使いに会うことがあったら伝えておくよ。」
レンドンと別れ妖精の樹に向かおうとした時、南北を走る大通りを北から2台の馬車が走ってきた。
ナナイ「ギルドの馬車ね。サラケスからの援軍が付いたみたいよ。」
のんびり歩いてギルドの前に差し掛かかるとギルド前は到着した冒険者で溢れていた。
「この人数がたった2台の馬車に入ってたの?」
ナナイ「拡張馬車よシグレくん。6人パーティーが入れる部屋が6部屋有るの。トイレ付きでこういう時は宿泊施設としても使うのよ。」
「そうだよね・・・吃驚したよ、あの馬車に押し込められてきたのかと思っちゃった。」
サクラ「もしそうなったら・・・無理です。せめてシグレ様の膝の上なら我慢します。」
アカネ「ズルい!私もシグレ様の膝の上を希望します。」
ボタン「サク姉、アカ姉ズルい!私も!」
「えーと君たち。ギュウギュウ詰めの馬車に乗りたいの?ないからそういうの。」
ナナイ「えーないの?私も期待してたのに。」
ツバキ「残念・・・」
「シグレさん!」
名前を呼ばれ振り返った。
「ティナ・ヘンウッド?」
ティナ「はい。先日は大変失礼をしました。」
「ちょっと待て!お前達もしかして緊急依頼でここに来たのか?」
イデリナ「そうだ。」
「そうだってお前、俺が言ったことを何も解ってなかったのか!」
ついつい大声で叫んでしまった。
サクラ「シグレ様。落ち着いて下さい。」
イデリナ「な、何を・・・我らとてゴブリンやグリーンウルフに後れは取らん!」
「それだけならな。スタンビートで上位種が居ないわけがないだろ!そもそもどれだけの数が溢れるか解らないんだぞ!」
ティナ「シグレさんのご忠告はご尤もです。ですが私達にも色々と事情が・・」
ナナイ「シグレくん。ここじゃ何だから、兄さんのところで。」
ツバキ「みなさん、お昼の用意は?」
イデリナ「これから店を探すつもりだ。」
ツバキ「なら一緒に参りましょう。食事をしながらにしませんか?シグレ様。」
「・・・ああ、解ったよ。」
妖精の樹の1階で昼食を食べながら話を聞いた。
ボタン「ティナ様。シグ兄、シグレ様にボタンの名を頂きました。」
ティナ「それは良かった!あの時は心に余裕が無くて周りが見えていませんでした。本当にごめんなさいね。」
イデリナ「申し訳なかった・・ボタン。ティナ様の守りだけさせるつもりがボタンに助けられていた。」
「それだけ解っていながら、なんで緊急依頼を受けたんだ?」
ティナ「引けぬ事情と言うより、もはや意地なのです。」
「なんだそれ?」
ティナのヘンウッド家は領地を持たない法衣貴族だが、代々カールスブルク公王国の軍事関係の職に就く名家だそうだ。
武門の家らしく直系には剣や槍等物理攻撃のスキルが要求されるという。その為結婚相手も必然的に物理攻撃のスキル持ちが選ばれ家格を守ってきた。
今代の侯爵、ティナの父親は大恋愛をした。『あの無骨な父が。』とその時だけティナは笑っていた。
大恋愛の相手、ティナの母は宮廷で魔法師職をしていた。当然と言うか持っているのは魔法のスキルで物理系は持っていない。その為前侯爵でティナの祖父が大反対をした。それでもティナの父親は諦めず大揉めになったらしい。
話はティナの祖父が折れた形で収まるが、祖父が結婚を許した交換条件が自分が勧める女性を側室にすることだった。ティナの父も様々な状況を汲んでその条件を飲んだ。
面倒な話はまだ続く。先に子供が出来たのが側室だった。1つ上の双子の兄と姉の2人は【剣術】スキルを持ち、ティナが持って生まれたのは【水魔法】スキルだった。
「だから何で身の危険を感じても意地になる必要があるんだ?」
イデリナ「老候が・・・前侯爵様が、それ見たことかと剣術スキルを持たないティナ様を疎まれるのだ。」
「そんなの無視すれば良いじゃないか。」
ティナ「我が家を始め多くの貴族は12歳になると鑑定の儀を行います。私の12歳の鑑定で剣術スキルを持っていないことが解ってから、祖父は私ばかりか母にもあからさまに辛く当たるようになったんです。そして私の成人が近づくほど激しくなりました。」
「どういう事だ?・・・あーそうか!ティナのお母さんが居なくなればその側室を正妻に格上げ出来るか。そうなれば体裁も万事整うってことだ。」
サクラ「そう言うことですか。」
ティナ「母を力尽くで追い出すわけにもいかず、ネチネチと嫌がらせを繰り返したあげく私のレベルが低いことに目を付け成人の儀までにヘンウッド家に相応しいレベルになれと言い出したのです。」
イデリナ「それだって、剣術スキルが無ければ何をしても無駄と老候がティナ様のレベル上げを遅らせていたからで・・」
ティナ「今となっては何を言っても仕方ありません。私の成人の儀は9の月。それまでにレベルを最低15にしろと。それが出来なければヘンウッド家の直系から外すと言われています。そしてそのような無能を産んだ母も正妻から側室にすると。」
アカネ「失礼ですけど、今のレベルは?」
ティナ「レベル8です。」
ナナイ「倍にしろって事?微妙なところね。」
「クズだな。お前の祖父は。」
イデリナ「お前!老候をクズ呼ばわりとは――」
「クズはクズだ!もう一度言ってやる。王族だろうが貴族だろうがクズはクズだ!その爺がクズだから今のティナがある!違うのか?」
イデリナ「くっ・・・」
ティナ「シグレ様の言う通りです。私も、自分の祖父と思えばこそ敬っても来ましたが、もう身内と思うのも疲れました。」
イデリナ「ティナ様・・・」
ティナ「祖父に金は出してやるから好きなようにレベル上げをしてこいと言われ、イデリナと相談してセグルドを経由してネールへ来ました。」
イデリナ「ヨスの森でレベルを10に出来れば、その後サラケスのダンジョンへ行くつもりだったんだ。」
ティナ「私が待てなかったんです。イデリナから私の護衛を別に付けることを条件にサラケス行きの許可を貰って、その時にボタンさんを買ったんです。」
「聞けば聞くほどその爺はクズだな。上手いことティナを追い出して運良くティナが死ねば万々歳って言うのが本音だろうな。
いや、出来そうなレベル上げだ。出来ると思うから無理をするか・・・なるほど、クソ爺はティナが死ぬと思ってるわけだ。」
ナナイ「そこまで考えてたって事?」
イデリナ「そんな莫迦な!ティナ様が、自分の孫が死んでも良いなんて思うはずが無い!」
「お前それでもティナの側近か?ティナを守ろうと思うならお前は全てを疑え!お前が守るのはティナかヘンウッド家かどっちだ?選べ、イデリナ!」
イデリナ「そ・・・ティナ様だ。」
「ヘンウッド家に生まれた者として家のしきたりは守る。それが事情か。で、クソ爺に負けたくない。それが意地ってわけだ。
ギルドの依頼を正式に受けたなら今更だな。後は死ぬなとしか言いようがない。
はぁーー、宿はどうするんだ?」
イデリナ「拡張馬車の1室を使って良いことになってるが、宿は取りたいと思っている。さすがにシャワーも無いのは辛いのでな。」
「ここはナナイの兄さんがやってる宿だ。森膨れ騒ぎで客が少ないんだ。どこでも良いなら部屋を取ってやってくれ。」
ティナ「もちろんです。イデリナ、お部屋をお願いして。」
解散をして俺達は部屋に戻りパーティーボックスに入った。
「はぁー。やっぱり貴族は好きになれないな。そうだ、四の鐘の打ち合わせは俺とナナイで行こう。」
ナナイ「了解よ。」
打ち合わせに参加しようと下に降りると丁度ティナとイデリナも宿を出ようとしていた。
そのまま4人でギルドに向かうとギルドの1階は冒険者で一杯だった。
メリンダ「あっ!シグレさん2階の会議室です。」
「解った。」
2階の会議室に入り4人で席に腰掛けると丁度四の鐘が鳴った。
―― カチャ!
「あれ?マクシム?でも髪の毛があるな。」
髪の毛が有るマクシム似のおっさんが入ってきた。
「冒険者ギルドネール支部のギルドマスターをしてるオットマーだ。今回の森膨れの責任者だ。
状況を説明する。森膨れはいまだに進行中だ。こちらの調査では既にゴブリンは500匹、グリーンウルフも同数は居るようだ。過去の例から言ってスタンビードへ移行するのは明日の昼頃だ。」
冒険者「こっちは何人居るんだ?」
オットマー「こっちの陣容はネールの冒険者のうち、明日の戦闘参加はソロ、パーティー会わせて200人ほど。サラケスからの応援組が50人だ。
ネール冒険者のうちGとF級は明日の戦闘から外してある。リスクがでかすぎるからな。
そのGとF級に現在ヨスの森の手前に簡易の防護柵を作らせてる。明日はその防護柵を背にして戦って貰う。二の鐘の前には柵前に集合だ。良いな!」
冒険者「上位種はどうなんだ?」
オットマー「防護柵の建設現場に定期的に数匹のグループで妨害に来てるらしい。その内何匹かは戦闘を見てるだけで引き返すそうだ。つまり、そう指示してる奴がいる。」
冒険者「キングか?」
オットマー「間違いなくゴブリンキングだろうな。
明日の布陣は3隊にわけた。隊分けは下の掲示板に張り出してるから確認してってくれ。各隊のリーダーは3組居るB級のリーダーに頼んである。質問はあるか?」
確認したいことがあったので手を上げてみた。
「良いか?まず、この街の領主は何もしないのか?」
オットマー「スタンピードは初めてか?ギルドと国の約定があってな、街の城壁の外が冒険者ギルド、内側が領主の騎士隊って事になってる。」
つまり、スタンピードを最前線で受け止めるのは冒険者ギルドと言う事だ。
後で聞いた話だが、公王国と冒険者ギルドの約定とは、例えば公王国が隣国を攻めたり攻められても公王国は冒険者ギルドに兵員の強制動員を掛けられない。代わりに魔物に関する緊急事態には冒険者ギルドが先に対処する事が決められているそうだ。
ただし、冒険者ギルドに所属する冒険者が個人的に戦争に参加すことは禁じられていない。
冒険者ギルドは公王国だろうが貴族だろうが傭兵募集が正式な依頼として出されれば通常の依頼として処理をする。要するに、別組織なんだからちゃんと手数料を払えと言うことだ。
「解った。もう一つ、ゴブリンキングが居ると解ってるならゴブリンキングを手っ取り早く討ってしまえば良いんじゃないのか?」
「おいおい、何言ってるんだよ彼奴は。キングだぞ!」
「彼奴は女を侍らせてたハーレムパーティーの・・・」
「知らねえなら黙ってろよ!」
オットマー「名前は?」
「ヒイラギのシグレだ。」
オットマー「シグレが言う通り、出来ればキングを真っ先に潰したい。だが奴らも小狡くて中々キングを探すのが難しいんだ。そこに来て今回B級が3組しか居ない。この3組を効率よく使うには迎え撃つのが最善と判断した。」
「提案なんだが、その3組にもう1組ずつ付けて各々の隊の前面に食い入らせるのはどうだ?
こっちの最大火力が魔物の中に入り込んで暴れれば、キングも自分が1番の戦力だと自覚してれば派手に暴れてる場所を潰そうと現れるはずだ。」
オットマー「誘い出すと言うことか?」
「そうだ。それにB級が上位種を引きつければ他の魔物はランクの低い冒険者でも対処出来る。つまり効率がよくなる。
難点があるとすれば食い込んだB級達の体力だ。体力切れになる前にキングを誘い出して潰す必要がある。」
「おいおい、俺らB級に犠牲になれってか?」
「そうだ。」
「何だと!」
「どっちにしろ長期戦になればB級も俺達も同じなんだ。いずれ体力が切れる。そうなったらジリ貧だ。
数が少ない俺達が勝つには短期戦に勝機を見いだすしかない。その為にはいかに早く敵の頭を潰すかだ。」
マクシム「ガハハハ・・良いじゃないか!要するにキングを討つのは早い者勝ちって事だろ?自信が無いなら止めておけ。B級〈猛群狼〉はその策に乗るぞ。」
「B級の〈赤い連檄〉だ。あたしらも乗るよ。ダラダラ時間を掛けるのは好きじゃないんでね。」
「ちっ、解ったよ。〈漆黒の牙〉ものる。キングは譲んねえからな!」
オットマー「良し。話は決まった。一緒に組むパーティーはB級がそれぞれ交渉してくれ。
それとさっき言った妨害に出てくる魔物の駆除をGとF級にさせてるんだが、さすがに少し休ませたい。どこか2時間ほど変わってくれないか?」
「なら俺達が行く。」
オットマー「ヒイラギか。そうだなもう1組欲しい。」
「なら大丈夫だ。ここに居る。」
横を向いて隣のイデリナに小声で聞いた。
「おい、お前達のパーティー名は?」
イデリナ「そんなの無い。決めてない。」
「うちのヒイラギと隣の・・・〈紫蘭玉樹〉で行く。」
イデリナ「お、おい!勝手に・・・」
「良いから黙ってろ!」
オットマー「門を出れば場所は解る。宜しく頼む。」




