【ダンジョンの2】
ダンジョンの分岐を脳内マップが部屋を示している左に行く。
「行き止まり・・・だけどこの壁の奥に部屋が有るはずなんだ。」
壁を掌で触り、少し離れ全体を眺めると解析鑑定が〈スイッチ〉と表示した。
「ここにスイッチが有るみたいだ。」
サクラ「スイッチですか?」
壁の左下、視線から外れる位置。
〈スイッチ〉と表示が出た場所を手で触ると
―― ガコッ!
「引っ込んだ!」
―― ギ・・ギギ・・ギーーー。
扉のように壁の一部が開いた。
ナナイ「シグレくん気をつけて!モンスター部屋かも知れないわよ。」
サクラ「気配があります。臭いも漏れてきました。」
「ああ、居るね。20・・30かな。どうする?」
「「「「行きます!」」」」
「じゃあ、最初に俺が入って魔物を確認する。俺が呼んだらアカネから中に入って【炎渦】を。ツバキも【雷】を打てるように入ってきて。サクラとナナイはいつも通りだ。」
「「「「了解!です!」」」」
俺は中に飛び込みざま入り口横に移動した。暗かった部屋の中に光が灯り、目に飛び込んできた魔物はホブゴブリンだった。
「「「グギャギャギャーーーー!」」」
ホブゴブリン レベル17~20
「ホブゴブリンだ!レベルは問題ない。アカネ!」
アカネが中に入り真正面に【炎渦】を放つ。
続けて入ってきたツバキがホブゴブリンの多い右手に【雷】を放った。
サクラ、ナナイと続き全員はいると扉が閉まった。
ホブゴブリン程度なら瞬殺だった。
「ナナイ。この階にホブゴブリンは出るの?」
ナナイ「聞いたこと無いわね。この層階に居るようなレベルの低い冒険者達なら、この部屋に入ったらまず助からないわね。」
ツバキ「シグレ様。こちらに。」
ツバキに呼ばれた場所に行くといかにもと言った箱があった。
「宝箱か!ナナイ、開けたらガスが出るとかトラップはないの?」
ナナイ「たぶん大丈夫だと思うよ。」
「たぶん?どう言うこと?」
ナナイ「百層宮は30階層から下の階に行くと途端に難易度が上がるの。通路やフィールドにトラップが出てくるし、宝箱には鍵が掛かってたりミミックって言う魔物が宝箱に擬態してることも有るの。ここはまだ上層だから大丈夫だと思うよ。」
ナナイの説明を聞いて宝箱を開けてみる。
―― キィ・・・
「・・・鍵だ。古い鍵。【解析鑑定】でも鍵としか出てこないよ。」
サクラ「わざわざこんな部屋に隠してたんですから何かありそうですよね。」
「そうだね。これは収納に入れておこう。」
ホブゴブリンはゴブリンより大きめの魔石と牙、それと短剣が3本ドロップしていた。
「・・・なんで短剣?そう言えば棍棒の他に短剣を持ってた奴も居たね。」
ナナイ「何言ってるの!ホブゴブリンの短剣って超が付くレアなドロップ品よ!それが1度に3本も・・・なんかシグレくんといると常識がドンドン変わっていきそう。」
「まあまあ。さて、階段に向かって、宿部屋でお昼にしよう。」
「「「「了解!です!」」」」
隠し部屋を出てマップ探知を頼りに階段を探し、途中1度ゴブリン3匹と遭遇したが30分もせず6階層に降りる階段を発見した。
階段横に扉のない入り口があり、中に入ると結構な広さの部屋が有った。
中には既に6組30人ほどの冒険者がいた。大体がパーティーだが中にはソロも居る。
適当に空いている場所に腰を下ろし昼食にした。
「次は6階層か。魔物は何が出てくるの?」
ナナイ「6・7階層はコボルトよ。8・9階層がオークで、10階層が最初のボス部屋よ。」
「1桁層のボスか。」
ナナイ「ゴブリン、コボルト、オークの上位種がランダムで出てくるわ。ホブゴブリンやハイコボルトが出たらラッキーで、ハイオークが出たらハズレって言われてるわね。」
「ふーん。取り敢えず今日は初日だしオークが居る8階層まで降りたら終わりにしようか。」
ナナイ「そうね。あせる必要も無いから。」
ツバキ「シグレ様。最終的な目標は最下層ですか?」
「んー、81階層が最高到達階なんだろ?目立つのはいやなんだよな。様子を見ながらで良いんじゃないかな。」
サクラ「そうですね。ダンジョンの制覇が目標ってわけでもないですし。」
アカネ「時々他の街に行きながら気長に攻略で良いと思いますよ。」
「俺もそう思ってるんだ。そうだな20階層まで行ったら、次はセグルドに行ってみたいな。」
ナナイ「商業都市セグルドね。何か目的でもあるの?」
「珈琲を探したいんだ。この街で探して無かったら、商業都市なら有るかと思ってさ。」
サクラ「シグレ様は珈琲が大好きなんですね?」
「そう!朝、寝起きは珈琲が良いんだよ。」
アカネ「了解です。じゃあ20階層に行ったらセグルドに行きましょう。」
「何だ彼奴ら?20階層なんて簡単にいけるかよ!」
「今日は8階層に行ったらって舐めてるのか?」
《ブツブツ聞こえるね。》
サクラ《睨まれてますよ、シグレ様。》
《えっ?俺が睨まれてるの?》
「何だよ彼奴。メンバーみんな女じゃねえか。」
「しかもみんな良い女ばっかりだぞ・・」
「ハーレムってか・・気に入らねえ!」
「さて出発するか!」
居心地が悪いので宿部屋を退散し階段を6階層に降りた。
「上と造りは変わらないな。サクラ、階段に向かってそうな冒険者を見つけたら教えて。それまではマップ探知で探すから。」
サクラ「解りました。此処も冒険者の気配が多いですから多分いるとおもいますよ。」
マップ探知を頼りに進む。途中何度か冒険者がコボルトと戦闘をしていたが、先に進むために戦闘が終わるのを遠目に待つしかなかった。
俺達?俺達はコボルトとの戦闘も面倒なので避けている。
「良かった。階段があるよ。」
階段を降りて7階層に出る。7階層も冒険者が多いしコボルトなので唯通過することに専念する。
「良し!8階層への階段だ。これを降りたら今日は終わりにしよう。」
「「「「はーい!はい。」」」」
8階層に降りて階段横の転移門に手を触れると1から7の文字が目の前に浮かんだ。
『1』と念じると、1階層の初めの門の出口と言われた石碑に転送された。
「良く出来てるな。テンプレは偉大だ!」
ナナイ「何感心してるの?戻りましょ。」
ダンジョンを出てギルドに向かった。
ギルドに入るとジャネットと目があう。
ジャネット「こんにちはシグレさん。買い取りですか?」
「そう。ダンジョンの魔石とドロップ品の買い取りを頼むよ。」
ジャネット「では奥の素材カウンターにお願いします。」
素材専用のカウンターに行き魔石なんかを出していく。
ジャネット「これはスライムの魔石ですね。あと体液とゴブリンの魔石。これは・・ホブゴブリンの魔石ですか?シグレさん11層に行ったんですか?」
「いや。今日は8階層に入ったところで帰ってきたけど。これは5階層にあった魔物部屋に居たホブゴブリンだよ。」
ジャネット「5階層に魔物部屋!そんな報告はありませんよ?」
「5階層に魔物部屋だと?」
「そんなはずあるか!俺は随分あの階を調べたんだぞ!」
「お前のは調べたんじゃ無くてレベルが上がらなくて下に行けなかったんだろ。」
「うるせーよ!」
ジャネットが結構な大声で叫んだため、後ろの酒場から色んな声が聞こえてきた。
「突き当たりにぶつかって偶々触ったところがスイッチだったらしくて扉が開いたんだ。ああ、場所は良く解らない。あっちこっち歩いてたから。」
ジャネット「そうですか・・・すいません。5階層で新しい報告なんて何年も無かったので。」
「ああ気にしないで。素材がまだ有るんだ。ホブゴブリンから出た牙に短剣が3本。あとこの王冠も頼むよ。」
ジャネット「短剣?王冠?・・・キングスライムの王冠にホブゴブリンの短剣が3本も!凄い・・・」
「ブーーーー!キングスライムだと?」
「それも王冠って・・」
「それにホブゴブリンの短剣が3本だとよ!」
「あの野郎!メンバー全員女じゃねえか。ハーレムかよ!」
まただ・・ジャネット、声がデカいよ。
「あーー、査定を頼むよ。」
うん。サラケスのギルドも色々五月蠅そうだ。
査定が終わったのはわりとすぐだった。
まあ王冠や短剣があっても個数は少なかったからね。
ジャネット「シグレさん。査定ですがスライムとゴブリンの魔石が14個で銀貨28枚。ホブゴブリンの魔石が17個で銀貨34枚。スライムの体液が7個で銀貨14枚。ホブゴブリンの牙が10本で銀貨50枚。短剣が3本で金貨6枚。そしてキングスライムの王冠が白金貨1枚になります。宜しいですか?」
「ああそれで良いよ。硬貨で下さい。」
ジャネットから白金貨1枚、金貨9枚、大銀貨2枚と銀貨3枚を受け取って鞄から収納に入れた。
「ありがとう。ああそうだ、商業ギルドって何処に有るのかな?」
ジャネット「商業ギルドですか?前の通りを右に真っ直ぐ行って大通りの交差点を越えてすぐの所です。大きな建物ですから解ると思いますよ。」
俺達は冒険者ギルドを出て教えられた商業ギルドに向かって歩いていた。
サクラ「商業ギルドに行くんですか?」
「ああ、まず紙を売ってみようと思ってね。」
アカネ「紙ですか・・・」
「ん?どうしたアカネ。何か気になることがあるの?」
アカネ「・・・この世界で流通している紙は、ほぼセレゴスが作っているんです。」
「セレゴスが?」
アカネの話によると、元々セレゴス王国の興った場所がこの世界で紙の生産をになっていた場所だった。
そこでセレゴス王国と言うかあの莫迦親子の一族が紙の生産技術を独占して今に至るらしい。
アカネ「セレゴスで紙の生産は王家が管理して奴隷が行っているんです。ですからどんなに紙が売れてもセレゴス国民には何の恩恵もありません。すべて王家の財産にしかならないんです。」
「なら遠慮無く売れるな。実はダイモンの所に紙の試作品が有ったんだ。それがどの程度の価値か興味があってね。」
ダイモンが造った紙は商品にしなかった棚にあった。
紙の質としては日本の物には及ばないが、それでもこの世界で流通している紙に比べれば白く薄く目も細かい。ひと目見れば上質であることはわかる。
ダイモンがこの紙を売り出さなかったのは原料から作り出せる枚数が少なすぎたらしい。材料と生産の工程と結果が書かれた台帳に走り書きで割が合わないと書かれていたくらいだ。
その紙はヘパイストス様に教えて貰った通り【次元収納】で増やせた。さすがヘパイストス様の傑作!これこそチートだ!




