【次の街へ】
大門屋敷の地下に造られた錬金部屋は、何故か俺には居心地の良い部屋だった。
ダイモンはこの部屋に入ると食事を取らないことも多かったらしいと聞いて妙に納得してしまった。
ツバキ「シグレ様。この部屋を使うのは構いませんが、約束して頂きます。」
「約束?どんな?」
ツバキ「この部屋を使うのは朝食後から昼食までと昼食後から夕食までです。食事が出来たら必ずこの部屋を出て食卓に来ること。そして夕食後は一切入室禁止です。宜しいですね?」
「えっ?あ、はい。」
サクラ「あーそうか。シグレ様も熱中しそうだもんね。」
アカネ「そうそう。絶対食事の時間なんて無視しそう。」
ナナイ「そうね。今でも考え込むと人の話が聞こえなくなるからね。」
ツバキ「そうです。必ず約束は守ること。守らなかった時は。
昨日の1人お風呂はいかがでした?シグレ様。」
「・・・ゴクッ!はい。肝に銘じて、守ります!」
こ、恐い!ツバキの圧が、みんなの視線が・・・
大門屋敷で昼食を食べてからネールの街に戻ることにして俺は錬金部屋で本に目を通す。
サクラ達は隣の倉庫部屋で下着類の再チェックと、3階に個人部屋を造るらしく部屋決めなどをしていた。
ちなみに、大門屋敷の2階にはダイモンの部屋を挟んで2部屋づつ4部屋、3階には寝室の他に4部屋ある。
ダイモンの部屋と寝室以外は各々が10m×10mほどの広さがあり家具類も揃ってる。階段を3階に上ってすぐの部屋をツバキは使っていたらしく2階と3階の部屋を3人で話し合っていた。
昼食を食べ転移でネールの街に戻り、明日からの移動に備え食料と足りない物の買い出しに行った。
市場を歩いてあらためて思ったが、なろうの定番で内陸の街では海の魚がほとんど流通していない。流通しているのは川魚と湖沼で取れる淡水魚だ。
淡水魚も悪くはないがやっぱり海の魚が食べたい。そして、焼き魚も良いが日本人の俺は刺身が食べたい。となると次の街は港町トントが良かったかなと考えてしまうが、1つ片付けたい事が有ったので此処は諦めよう。
それにサラケスで醤油と味噌を仕入れるのが先かな。それだけでステーキの味付けも断然幅が出る。後は米だな。
買い物を終え、馬車に戻る途中でギルドに寄った。
メリンダ「シグレさん。素材の換金ですか?」
「いや、明日此処を離れることにしたんだ。それで一応挨拶しておこうと思って。」
メリンダ「そうなんですか・・・寂しくなりますね。」
「まあまた戻ってくると思うからその時は宜しくお願いします。」
メリンダ「はい・・・どちらに行くんですか?」
「まずはサラケスかな。」
メリンダ「わざわざありがとうございます。・・・くれぐれも死なないように気をつけて下さいね。メンバーのみなさんも気をつけて頑張って下さい。」
「「「「はい。ありがとうございます。」」」」
「それじゃお元気で。」
ナナイ「メリンダちゃんまたね。」
ギルドを出るとナナイが俺の腕を取って大きな胸を密着させてきた。
ナナイ「メリンダちゃん、シグレくんに気があった見たいね?」
「えっ?それはないでしょ。」
「「「・・・・・」」」
「なに?みんなのその視線は?」
サクラ「やっぱり、シグレ様は女心が解ってませんね。」
アカネ「そうだとは思ってましたけど。」
ナナイ「シグレくんらしいけどね。」
ツバキ「私でさえ気づきましたけど。」
「なに?俺なんかしたの?」
ナナイ「まあでも気づかなくても良い時もあるわね。可哀想だけどメリンダはメンバーには厳しそうだから。」
サクラ「私もそう思います。ナナイやツバキの時のような感じがしなかったし。」
アカネ「あっ、私もそう思ってた。シグレ様に勧めようと思わなかったな。」
ツバキ「シグレ様の気持ちが動いてませんでした。」
「えーーと君たち、帰ろうか。」
意外にうちの女子達はシビアなんだなーと思ったのは俺だけだろうか?
夕食を食べ一緒にお風呂に入り2日分念入りにサクラ達の体を洗ってやった。
いつも以上にフーフー言ってるのは気のせいだな。
みんなで湯船に浸かっている時ツバキから報告があった。
ツバキ「シグレ様。マッフェオが死にました。」
「「「えっ?」」」
「死因は?」
ツバキ「サラケスから連れ戻しに来た騎士に殺されました。サラケスに向う野営中、森の奥に連れて行かれ殺されました。」
「そうか。移送中に魔物に襲われ逃げ切れずって言ったとこかな。」
サクラ「シグレ様。どういう事ですか?」
アカネ「もしかして知ってたんですか?」
ナナイ「想定でもしてたの?ツバキに監視を頼んでたんでしょ?」
「あいつの母親が毒杯を飲んだって聞いてね。マッフェオの母親だよ?あいつが頼りにしてた様な人だよ?自分から毒を飲むと思える?」
サクラ「では母親も殺されたと?」
「俺はそう思ってるよ。貴族としての体裁を保つためには自害して貰わないといけなかったんだろ。」
アカネ「それでマッフェオも殺されると思ったんですね。」
「母親は自害。息子は魔物に襲われて不運の死ってやつかな。」
ナナイ「ルドリックは知ってたのかしら?」
「さあどうだろ。聞かされて無くても辺境伯家を継ぐなら思い描くべきだろうね。そうだみんなに言っておこうと思うんだけど、サラケスに行く理由の1つはルドリックの母親ルシエラを治す為だ。」
サクラ「可哀想と思ったんですか?」
「いや。ルドリックもルシエラにも何の感情も無いよ。
理由はイサドラ様を嘘つきにしたくない。イサドラ様はレンドンに願いが叶うと言ったんだ。治さなきゃイサドラ様が嘘をついたことになる。」
アカネ「そうですね。イサドラ様にはシグレ様に引き合わせて頂いた恩があります。イサドラ様の名誉は守ってあげて下さい。」
「「「賛成!です。」」」
ツバキのキスで起こされた。
普段控え目だと思っていたツバキのキスが激しかった。寝てると思ったからかな?
ツバキ「おはようございます。シグレ様。朝食の用意が出来てますよ。」
「おはようツバキ。ねえツバキ。今のキス凄く情熱的だったね?いつもこうでも良いのに。」
―― ボッ!
音が聞こえるくらいの勢いでツバキが真っ赤になった。
ツバキ「な、何を・・・気のせいです。」
逃げるようにツバキが寝室から出て行った。
朝食を終え、オウコとコハクを繋いで俺達はネールの街の北門を出た。
ネールからサラケスまでの街道はしっかり整備されている。おかげでサスペンションにタイヤ付きのダイモン特製馬車に乗っていると揺れを感じない。
サラケスまでは普通の馬車で3日、馬車で1日毎に村があり宿屋がある。
オウコとコハクがその気になればサラケスまでは1日で着くが急ぐ必要も無いのでオウコとコハクの早足程度で進んでいる。
「2つ目の村の手前で野営しようと思うんだけど?認識阻害の魔法を掛ければ見張りもいらないだろ。」
ナナイ「良いんじゃない?わざわざ宿に泊まる必要は無いでしょ。」
街道に出て半日。昼ご飯も終わり俺はずっと本を読んでいる。
サクラ『シグレ様は本が読めますけど、私達は馭者でもしないとやることがないんです。』
と言われ俺は馭者のローテーションから外された。
でもなー、本を読んでるだけだと眠くなるんだよね。ならばと、此処は聞き取りに専念することにした。
「ナナイ。迷宮のことを教えてくれないか?」
ナナイ「そうね、まず迷宮は管理されている物から野良の迷宮まで結構な数があるのよ。」
「どうして全部管理しないんだ?」
ナナイ「手間が掛かるのよ。小さな迷宮は実入りが少ないわりに手間だけ掛かるから、儲けが出ない迷宮には手を出したくないのよ。」
ナナイの話を纏めると、迷宮は管理しないとスタンピードを引き起こす。その為実入りの見込める迷宮だけを残すそうだ。
じゃあ野良の小さな迷宮は勝手に処分して良いかと言うとその土地の領主に報告する事になってる。ただし上位の冒険者は面倒くさがって勝手にやってしまうことも多いらしい。
迷宮はある日突然出来る。と言うか発見される。迷宮を作り出してるのは階層の最深部にある〈迷宮核〉だ。この迷宮核を壊せばその迷宮は死ぬと言われている。
何故迷宮が死ぬのか?迷宮は生き物だという説が有るからだ。
迷宮で発生する魔物は倒されると魔石とドロップアイテムを残して体は迷宮に吸収される。これは迷宮が魔物を食べてるからだ。だから迷宮は生き物だという説だ。その魔物も迷宮が作り出してるんだけどね。
まあその辺はどうでも良い。大事なことは、最低10層もあれば迷宮がお金になると言うことだ。
探索の終わった上層階では魔物の残す魔石かドロップアイテムしか期待できないが、魔物のレベルが上がる階層や未探索の階層に潜れば宝箱なんて言う物もある。うん。この辺は良く知ったゲームと同じだ。
ナナイの迷宮レクチャーを受けていると馭者のサクラが報告してきた。
サクラ「シグレ様。左手の森からオークが覗ってます。」
「何匹居るんだ?」
サクラ「10匹ですね。」
「旅費稼ぎに狩っちゃおう。」
「「「「はい。はーい。」」」」
そこからは早かった。
ツバキが雷でオークを麻痺させ、アカネがゲドの弓で顔を出していたオークを仕留める。サクラとナナイは既に走り出しオークの群れに飛び込んでいた。
「5分かかってない。うん。俺って要らないな・・・」
時々顔を出すオークを狩りながら、ネールから2つ目の村の手前で馬車を止め野営をすることにした。
野営と言ってもオウコとコハクを馬車から外し水と餌を与え馬車を中心に半径50mほどに認識阻害の魔法を掛ける。これで終わりだ。
パーティーボックスの中に入るとナナイとツバキが食事の準備を始めサクラとアカネは洗濯を始めていた。俺達はネールの街で馬車生活をしていた時と何も変わらない。
夕食を食べた後はいつも通りサクラ達とお風呂に入り、当たり前のように念入りに4人を洗った。
そしていつも通りイチャイチャ楽しい夜を過す。
朝はサクラのキスで起こされ、朝食は馬車の外にテーブルを出して食べた。
馬車を走らせ1時間ほどでサラケス側の村を通過し、今日も時々現れるオークを狩りながら進んでいる。
馬車の中で暇な俺はレベルアップについて考えていた。
「ナナイ。やっぱり高レベルになるとレベルも上がりにくくなるんだよね?」
ナナイ「そうよ。高レベルになるとレベルアップするためには魔物も高レベルが要求されるからよ。私も暫くレベルアップしてなかったけど、それがゴブリンやオークを狩ってレベルが上がるなんてシグレくんのおかげね。」
「俺達だとサラケスの何階層ぐらいから適正になるのかな?」
ナナイ「そうね。少なくとも7層まではゴブリンやコボルトだからそれより下ね。」
「なるほど。でも7階層とか潜っても帰ってくるのがしんどそうだな。ああ、転移を使えば良いか。」
ナナイ「大丈夫よ。サラケスのダンジョンは1階層目が〈始まりの層〉って言う魔物の出てこない層なの。そこに転移門があって各層の階段の横にある転移門と行き来出来るわ。もっとも行ったことの有る層にしか行けないけど。
そうそう、その転移門はダンジョンが造ってるのよ。ギルドが解析をしてるみたいだけど未だに転移の理屈が解ってないみたいよ。」
これもなろうの定番だな。1度行けば途中を飛ばせるわけだ。
「始まりの層か。」
ナナイ「そう言われてるわね。始まりの層はどのダンジョンも同じで草原に川が流れてるわ。大きなダンジョンには必ずこの始まりの層があって、この層の広さがダンジョンの大きさを示す基準でもあるの。」
「と言うことは、始まりの層があって広ければ広いほど深いダンジョンってわけだ。」
ナナイ「そう言うこと。」
そんな事を話したりオークを狩ったりしていたら馭者をしていたツバキがサラケスが見えてきたと教えてくれた。
馬車の窓から顔を出して驚いた。
「デカいな!」
街がデカいと入場門で待たされる時間も長くなる。
軽く1時間は待たされた。待っている間に三の鐘が鳴ったので買い置きしていたサンドイッチで昼食を済ませてしまった。
「此処は南門か。ナナイ何処に馬車を止めたら良いと思う?」
ナナイ「迷宮は西門を出たところだけど冒険者も多いし此処の馬車溜まりで良いと思うわ。買い物にも便利だし。」
ナナイによればギルドも西門寄りにあるらしく、必然的に冒険者を相手にした安宿や酒場も西門周辺に多くなっている。その為サラケスでは騒がしく治安の悪い街区らしい。なのでお金を稼げる冒険者達は西門付近を避けるそうだ。
「了解。」
入り口でチェックを受けた後、ナナイのアドバイスに従い門を入ってすぐの馬車溜まりに6日分の硬貨を払って馬車置き場とオウコとコハクの厩舎を確保した。




