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【バトルホース】

 レンドン商会に入ると店の2階の応接室に案内された。

 店のメイドがノックをして中に入るとレンドンとラディス辺境伯家の次男ルドリックがいた。


レンドン「急にお呼びして申し訳ありませんでしたシグレ様。昨日戻られたと聞きどうしても今日中にご紹介したい方がいたものですから。」


「それは構わないが前に話していたラディス家の使者というのはルドリック殿ですか?」


レンドン「そうですが、もうお会いになっていたのですか?」

ルドリック「あなたが母上を・・本当に治せるのですか?」


「あらためて。シグレだ。」

ルドリック「すみません。ラディス家のルドリックです。」

レンドン「まあ、まずはお座りください。」


「質問に答えるなら、必ず治せるとは言えない。ただ可能性は高い。」


ルドリック「どうやって?」

「それは聞かない約束だったはずだが?」


ルドリック「確かに・・・ですが今まで何度もそれでかなわなかったのです。考えられる手は全てやったといってもいいくらいに。」


「そんな事俺には関係ない話だ。此処の店主と俺を信じるかどうかだ。出した条件を変えるつもりはない。」


ルドリック「・・・そうですよね。どんな者がどうやって治すのか、いてもたってもいられずここまでやって来てしまいました。

 治せるのなら、治して欲しい・・・」


「・・・すまないが条件を変える。」


ルドリック、レンドン「「えっ?」」


レンドン「シグレ様。どういう事でしょう?」


「店主にはすまないと思ってる。サクラとアカネの差額は払う。それでも引けない理由が出来たんだ。」


レンドン「それは何故?どんな理由なんですか?」


「俺達は昨日西の湖沼群から戻ってきた。そこでお前の兄貴に雇われた奴らに襲われた。」


ルドリック「な、なんで・・・」


「お前も知ってるだろ?サクラとうちの女達を攫うつもりだったらしい。もちろん俺は殺してな。」


ルドリック「そ、そんな・・兄の指示だという証拠は?」


「ない。だがあの時市場で俺の前に立っていた男がいた。もう死んでるけどな。莫迦兄貴の家に行ってみれば良い。そいつがいるかどうか見て来いよ。」


ルドリック「・・・・・・」


「条件を変える話だったな。あの莫迦兄貴を今後一切俺と俺の仲間に関わらせるな。一切だ!

 お前に出来ないならおやじの辺境伯にやらせろ。辺境伯夫人を取るかあの莫迦兄貴を取るか選ばせろ。

 言っておく、俺は怒ってる!

 この条件が飲めないなら俺には最初から治せなかったと諦めろ。始からこんな話がなかったと思えば痛くも痒くもないだろ。

 店主すまないな。白金貨10枚で良いか?」


レンドン「それは・・・シグレ様頂けません。私は諦められません。たとえ辺境伯がマッフェオを選んだとしてもです。」


ルドリック「それだけ治せる自信が有るんですね?」


「お前が判断しろ。どう考えるかはお前の自由だ。」

 ルドリックの視線が俺から離れない。


「1週間やる。その間に結果を出せ。どうするかの報告はいらない。欲しいのは結果だ。

 1週間経って彼奴が何も変わらずこの街にいたらこの話は無しだ。その間にあの莫迦がまた俺達を襲っても無しだ。全て忘れろ。帰るぞ。」


 俺は白金貨10枚をテーブルに置いて席を立った。

 


 俺達はレンドン商会から宿に向かって歩いていた。


ナナイ「あの子どうするかな。」

「さてどうかな。ちょっと演出が過ぎたかな?」


サクラ「良いんじゃないですか。実際私達は襲われたんですから。」

アカネ「私もあれくらい構わないと思いますよ。」


「そうだツバキ――」

ツバキ「ルドリックにも見張りを付けました。」


「さすがだね。ありがとう。」

ツバキ「お礼はお止めください。そろそろ怒りますよ。」

「・・・はい。」


「ナナイ。申し訳ないが妖精の樹を出よう。」


ナナイ「どうしたの急に?」


「あの莫迦が妖精の樹を襲撃しないとも限らない。エバンスさん達に迷惑を掛けたくないからな。」


ナナイ「ああそうか。仕方ないね。大丈夫、兄貴の宿は評判が良くてお客は来るから。」


「じゃあこれからの行動だけど、戻ってエバンスさんに詫びて宿を出よう。その足で馬を調達しに行きたいんだけど、何処に行けば良いのかな?」


ナナイ「それなら、東門を出てすぐに扱ってるところがあるわ。馬だけじゃなく馬車を引く魔物なんかもいるのよ。」


「それは楽しみだね。良し!行動開始だ。」



 妖精の樹に戻りエバンスさんにお詫びをして俺達は宿を引き払った。

 その足で東門に向かい門を出ると左手に大きな牧場があった。


「馬が結構いるな。繁殖もやってるのか。」


 事務所のような一軒家に入ると髭面になぜかカウボーイハットの中年おやじが現れた。


「いらっしゃい!用件は?」


「馬車を引く馬が欲しいんだが。」

「うちには馬の他にも魔牛やバトルホースもいるぞ。どんなのが良い?」


「特徴が解らないんだが、力が強くて丈夫でとにかく速い奴かな。」


「まあ馬は解るか。魔牛はオーロックスって言う牛の魔物だ。丈夫で力は有るがスピードに難がある。荷運びに使うなら最高なんだが。

 兄さんの要望ならやっぱりバトルホースか。普通の馬より大きな体をした魔物だ。丈夫だし力は有るし速い。難点は手懐けるのが難しいことだ。」


「此処で調教してるんじゃないのか?」


「馬や魔牛は出来るんだが、バトルホースは買い主次第だ。偶にあるんだが気に入らない買い主には着いてさえ行かないからな。」


「見て回ることは出来るのか?」

「もちろんだ。こっちだ。」


 カウボーイハットに連れて行かれたところは大きな屋根付きの厩舎だった。

 高校の体育館ほどの建物の扉を開けると、三分の二程に綺麗な砂が敷かれ鉄製の柵が回されていた。その中に俺が知っている馬より大きく四肢がサラブレッドより太い見た目は馬がいた。


「今バトルホースは此処にいるのが全部だ。」


「お薦めは?」

「ああ、こっちの茶色の雄の二頭かな。どっちも買って損はないな。」


「奥に真っ黒のが居るな?」

「ああ、あれか・・・あれはバトルホースとしては最高なんだが、ちょっと問題有りでな。」


「問題?怪我でもしてるのか?」

「そうじゃないんだが。側に栗色のが居るだろ。雌なんだが、あれにぞっこんでな。あれから離れない。黒毛は頭抜けて強くてな、こっちの茶色が栗色に近づこうもんなら蹴り殺そうとするんだ。1度売ろうとしたらうちの従業員も3人ほど死にかけた。」


「なら、一緒に買えば良いんだろ?」

「そうなんだが、栗色が客を選ぶんだ。兄さん試しに栗色を見て手招きしてみなよ。尻を向けられるぜ。」


 カウボーイハットに言われ栗色を見てオイデオイデをしてみた。

 すると栗色の雌がゆっくりカッポカッポと近づいてくる。


「お、おい!兄さん何もんだ?俺達でも無視されるのに・・」


 鉄柵の所に来た栗色に手を伸ばすと大きくザラついた舌で舐められた。

「なんだ可愛いじゃないか。」

サクラ「ホント可愛いですね。」

 キャッキャと差し出すサクラ達の手を栗色が舐めていた。


「こりゃ驚いた・・」


 ただ、俺にとんでもない殺気を放つ奴がいた。


「黒毛がとんでもなく睨んでるな。おっさん、彼奴と話してくる。」

「えっおい、何やってる。柵の中に入るな!死にたいのか!」


 俺は柵の中に入り、黒毛の後ろに回った。

 黒毛は俺から目を離さずフーフーと片足で地面を蹴って威嚇をしている。


バトルホース(黒毛) レベル42


『スゲーな此奴。レベルが42も有るじゃないか。』


「お、おいあんた、あの兄さん止めてくれよ!」

ナナイ「良いんじゃない。男同士話を付けないと収まらないんでしょ。」

「いやいや、あれ魔物だから、話通じないから。」


 威嚇している黒毛が何度か体当たりの姿勢を繰り返してきた。

 それにタイミングを合わせ大きな馬体の横に廻り何とか鬣を掴み黒毛の背に攀じ登った。

「ヒヒーン!・・・」


 それからが死闘だった。

 まあ暴れる暴れる!ロデオ大会の映像を見たことがあるが、あの状態のもっと凄いのだと思えば良い。それが30分は続いた。

 格好良く『話を付ける』と言った自分に後悔し、そろそろ限界かな諦めようかなと思った時、黒毛が先に諦めた。


「フーフーフー・・・」

「どうどうどう・・・」


 黒毛から降りると俺は限界だった。

「ウッ・・ピー自粛ー!・・」


ツバキ「シグレ様。ご苦労様でした。」

「気持ち悪い・・みんなは?」

ツバキ「栗毛と戯れてます。」


 サクラ達はずっと栗毛と遊んでいたらしい。


「兄さんスゲーな。どうするあの2頭?」

「もちろん引き取るよウッ・・幾らだ?」


「あの黒毛と栗毛はバトルホースでも最高の奴なんだ。合わせて白金貨15枚だ。」


「買った。ウッ・・馬車を引かせるんだが、単騎で乗るかもしれない。鞍は有るか?」


「ああ有るぞ。さっき良い物見せて貰ったからサービスしてやるよ。」

「そいつは助かる・・・気持ち悪い・・」


「こっちに来てくれ。従魔契約をして貰う必要がある。そうしないと魔物は街には入れないからな。それに、従魔契約をすれば兄さんの言うことを利くし、馬の預かり所でも問題を起こさないからな。」


「じゃあ頼む・・・ウッ・・」


 事務所に戻り白金貨を払って鞍を受け取った。

「その鞍もサラケス周辺にいるブルベアの革を使ってる良い物だ。」

「そうか。悪いな。」


「従魔契約に名前が必要なんだ。あの2頭の名前どうする?」


「じゃあ・・・黒毛がオウコ。栗毛がコハクだ。」

アカネ「シグレ様。可愛い名前ですね。」

サクラ「コハクちゃん。良いですね。」

ナナイ「良かった、栗子にならなくて。」

「雄は?黒毛は?」

「「「コハクちゃん・・・」」」


「どうせ雄なんて・・・」

ツバキ「オウコも良い名前ですよ。」

「うう・・ありがとうツバキ。」


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