【野営】
ナナイの指示に従って野営の準備を始める。
俺達には【パーティーボックス】と言う何処でも使える風呂付き空間があるが、今回はテントを使った野営をすると決めていた。
最近は日本製のテントも設営が楽だが、この世界のテントは遥かに楽だ。
魔道具の1つと数えられるテントは、取りだして手を添え魔力を送るだけで勝手に骨を張り自立してくれる。
事前に買いそろえた毛布などはテントに入れておけばそのまま使える便利さだ。うん。ファンタジーだ!
テントを設置し焚火台を置き火を付ける。焚火用の木は森で拾ってくるものらしいが、面倒くさいので実は買い込んできた。収納に詰め込んである。
さて、後は夕食作りだ。
「夕食はどうしようか?」
ナナイ「3人で作るわよ。アカネも料理を覚えるって言うから期待してて。」
「覚える?」
アカネ「あの・・・メイドがいたので自分で作ったことがなくて。」
「気にするなよ。これから覚えれば良いんだから。それに沢山やることがあった方が人生楽しいじゃないか。」
アカネ「はい!頑張ります!」
うん。良い返事だ。
「じゃあ俺はどうしようか?」
ナナイ「シグレくんはそこでのんびりしてて。私達の旦那様なんだから、だまって私達に任せれば良いのよ。」
「「キャ・・旦那様・・」」
『旦那様って・・・』
ナナイ「ああそうだ。結界を張って貰えるかな。魔石に魔力を込めてからテントと馬車を囲むように10m四方で設置してね。」
「了解!」
ナナイの指導で出来上がった夕食は美味しかった。
ナナイが言うには、冒険者ならこれ位当たり前らしい。
ナナイ「結界は張ってるけど盗賊には意味がないから見張りは必要よ。そこで順番なんだけど2人ずつ2班に分けましょう。」
「じゃあ俺とアカネ、ナナイとサクラにしよう。ああ、気配探知持ちをわけたんだ。良いか?」
ナナイ「考えてるじゃないシグレくん。」
「ナナイ、最初と後どっちが楽なんだ?」
ナナイ「基本は最初ね。途中で起こされるのって辛いものよ。」
「了解だ。アカネ、俺達が後だ。すまないが良いか?」
アカネ「はい。お任せします。」
ナナイ「うん。良いね。決断が早いのは冒険者として大事よ。」
決断が早いのは前の世界からの習性だな。
「はは、ナナイに褒められるのは悪くないな。アカネ、先に休もう。ナナイ、サクラ。何かあったら起こしてくれ。」
「「了解。です。」」
テントの中は広かった。いやホント、見た目の3倍はある。
おまけにナナイが言うように中の温度も心地良い。
横になり毛布を被るとアカネが隣にくっついてきた。
こんなに広いのに。でも可愛いから良いか。
意外にしっかり寝付いていたらしい。
ナナイに体を揺すられて目が覚めた。
「ナナイおはよう。今何時だろ?」
ナナイ「1時ね。」
アカネは既に起きてテントの外にいるようだ。
「ナナイ。引き継ぎはある?」
ナナイ「特別無いわね。魔物が何匹か近づいてきたから狩ったの。シグレくん収納に入れておいてくれるかな。」
「了解。サクラもご苦労さん。代わるからゆっくり休んで。」
サクラ「はい。それじゃ休みます。」
交代してからは気配探知に引っかかって近づいてくる魔物だけを数匹狩っていると朝を迎えた。
「アカネ。眠くないか?」
アカネ「大丈夫ですよ。」
「そうか。ああー珈琲が飲みたい。」
アカネ「珈琲ですか?」
「ああ、俺の世界の飲み物なんだ。この世界には紅茶はあるけどまだ珈琲は見てないからな。サラケスに行けばあるのかな。」
ナナイ「残念だけど聞いたこと無いわね。おはようシグレくん。アカネ。」
「おはようナナイ。」
アカネ「ナナイ。おはよう。」
アカネ「そうだ。シグレ様。ん・・おはようございます。」
ナナイ「あっ私も。ん・・」
サクラ「シグレ様。ん・・おはようございます。アカネもおはよう。」
「おはようサクラ。」
そう、どんな時も朝はキスから始まる。
「サクラもおはよう。みんな朝のキスは忘れないんだね。」
「「「もちろん。です。」」」
朝食をとり、各々セルフボックスで顔や歯を磨いて用意を整え俺達は湖沼群へと入っていった。
ナナイ「そろそろよ。」
「ナナイはここには来たことあるんだよね?」
ナナイ「昔ね。多少地形が変わってるけど大きな変化は無いかな。ほら最初の沼が見えた。」
「気配探知の範囲内だけどウォーターリザードはいないようだ。サクラ!何か引っかかってるか?」
サクラ「シグレ様。この先の沼まで魔物の気配は有りません。」
「ナナイ。こんなものなのか?」
ナナイ「おかしいわね。沼があれば必ずいたんだけど。まあ良いわ、もっと奥に進みましょう。」
それから場所を奥へ奥へと進んだが、10個ほど有ると言う沼や池を8つほど進んでもウォーターリザードを見つけられなかった。
ナナイ「おかしいわね。此処にウォーターリザードが居ないなんて事は無いんだけど・・嫌な予感がするわね。」
ナナイの言葉がフラグだったのか、9つ目の池一面にウォーターリザードが蠢いていた。
「何だこれは?何匹居るんだ?」
ナナイ「ざっと見て・・・100や200じゃ無いわね。どうする?」
「これ全部狩り尽くしたら拙いの?」
ナナイ「問題ないわよ。魔物は交尾で繁殖もするけど、狩り尽くしたつもりでもどこからか湧いてくる物なの。」
おーファンタジーだ!
「なら、狩れるだけ狩っちゃおう。サクラ、アカネ、ナナイ。用意しようか。」
「「「はい!」」」
それから4人でウォーターリザードを狩りまくった。
ちなみにナナイの得物は斧だ。両手持ちの斧を軽々と振る。
ナナイ曰く、剣は折れるけど斧はそうそう壊れないから良いんだそうだ。
ウォーターリザードの魔物ランクはDらしいが、動きはグリーンウルフより遅く尻尾の一撃さえ気をつければ問題なく狩りが出来た。
「ウォーターリザードってごついコモドオオトカゲだな。しかしまだ半分くらいなのに150は狩ったぞ。」
ナナイ「シグレくん。ここまで狩った奴なんだけど、みんな雌ね。」
「どういう事?」
ナナイ「普通はこんなに雌ばかり居ないのよ。やっぱり何かおかしいわね。」
サクラ「シグレ様。池の中、泥の中から時々臭いがしてきます。気配探知にも大きな反応が幾つもあります。」
「アカネ。見張りの時に話し合った魔法を試してみてくれ。」
アカネ「良いんですか?もしかしたら素材の買い取りが出来なくなりますよ?」
「もう150匹くらいは倒してるからね。やっちゃって!」
アカネ「では。【火壁】【風渦】」
アカネがやったのは火魔法と風魔法の合体技だ。
火の壁を竜巻に吸収させ炎の竜巻を作り出す。
ナナイ「す、凄い!ウォーターリザードが炎の渦に飲まれていく・・」
炎の渦の通り道にはなにも無くなり、暫くして焼け焦げたウォーターリザードがボトボトと落ちてきた。
直後池の下、泥の中から雌とは二回りも大きさの違うウォーターリザードが数十匹姿を現した。
ウォーターリザード レベル24
ナナイ「雄ね。シグレくん、ちょっと手強いかもよ。」
「雄は鰐だな。ナナイ問題ない。サクラ、アカネも大丈夫だろ?」
「「はい。」」
雄も体は大きいが動きが特段速いわけではなく問題にならない。
結局、雄と残っていた雌も狩り尽くし収納に入れると雌が258匹雄が23匹だった。
「いやいや、こりゃ凄い数だな。―― ん?」
ナナイ「ちょっとこの状況は異常ね。」
「ナナイ。この先にも池があるのか?」
ナナイ「かなり離れてるけど大きな池が1個有るわ。でも、ウォーターリザードが住み着いてるのは此処が最後だったはずよ。」
「ナナイ、この先に行ってみよう。何か感じるんだ。行かないと拙い気がする。」
ナナイ「シグレくんが言うなら行ってみましょうか。」
馬車で奥へ奥へと向かっていった。
ナナイ「此処が最後よ。此処では1番大きな池だけどウォーターリザードは居ないはずよ。」
「この大池変わった形をしてるな。」
大池の中に大きな島があり、水面はその島を囲むようにドーナツ状になっている。
そして、良く見ると島のあちこちが荒らされていた。
「島に何か居るな。」
サクラ「ウォーターリザードです。数は多く有りませんが大きいのがいます。えーと1匹さっきの雄の倍くらいのが居るようです。」
ナナイ「倍の大きさ?変異種かもしれないわね。どうする?」
「そうだな。なんにしてもあの島に渡れないと話にならないな。」
大池に沿って廻ると、反対側に人がひとり通れる位の道とも言えない道があった。
「ここから入るか。みんな警戒を怠らないように。」
「「「了解。です。」」」
馬車を降り中に入っていくと10匹ほどの雄とその倍もデカいウォーターリザードが鳥の集団を襲っていた。
ナナイ「シグレくん。やっぱり変異種よ。あの大きさだと魔物レベルはC。背中の皮が厚くてなかなか頑丈そうよ。気をつけてね。」
ウォーターリザード(変異種) レベル33
「ナナイ。あの鳥は?」
灰色で日本の雀より少し大きな鳥がウォーターリザードに追い立てられていた。
ナナイ「あれはグレイパッセルね。魔物の中でも最弱って言われてる魔物よ。街の中にいても無害だから何処の街にも沢山いるわよ。見たことない?」
そう言われればネールの街でも良く見る鳥だ。
1匹、ちょっと大きいのがウォーターリザードに立ち向かってるように見える。
「仲間を庇ってるのか。しかし、なんで彼奴らあの鳥を襲ってるんだ?」
ナナイ「さあ?もしかして此処に入り込んで住み着こうとしたら先住が居て排除してるんじゃない?」
「有り得るね。何にしてもあのデカいのは仕留めよう。サクラ、アカネ、ナナイ。廻りの雄を頼む。あのデカいのは俺がやる。」
ナナイ「大丈夫なの?」
「まあ、旦那様を信じなさい。チュ!」
勢いでナナイにキスをした。
「「あっ!ズルい!1人だけ!」」
サクラとアカネの大声でウォーターリザードたちが気づいた。
そんな事を気にせず2人にキスをして満足して貰う。
軽挙はいけません。やるなら公平にです。
「さてやるか!」
「「「はい。」」」
俺の得物は三十郎だ。ウォーターリザードをここまで狩ってきたがまるで豆腐を切るように頭を落とせた。おそらく変異種と言っても問題ないだろう。
だけど、俺は此処で魔法を使う。
ここ数日創り上げてきた魔法だ。
「さて、ゴブリンやグリーンウルフ以外にも効くのか実験台になって貰おうか。」
まず変異種の気を引き、奴らが荒らして広くなった場所に誘導して発動した。
「【細氷】!」
【細氷】は大気の水素と酸素からダスト(塵)程の微細な水滴をイメージして、そのダストを極限まで(イメージは絶対零度)まで凍らせ大気中に散布する魔法だ。
この【細氷】こそ、フォレストウルフ戦で学んだ初手で完全優位に立つ為に考え出した魔法だ。
この【細氷】には2つのバージョンがある。
まずは、このダストを吸わせ肺の中で極低温になる、【細氷】を考えた始まりのイメージがver.1だ。
この世界の魔物も人も呼吸をしている。なら、肺に到達して絶対零度にまでなるダストを取り込めばどうなるか?当然肺が凍り呼吸が阻害され死にいたると俺は考えた。この考えはヨスの森でゴブリンやグリーンウルフ相手に実証して正しかったと確信した。
実はこのイメージを魔法として構築することは簡単にできた。しかし、当然のように制約が付いた。
1つは絶対零度に近づけるほど魔力が必要になる。現状散布する広さでダストをどこまで絶対零度に近づけられるか決まってしまう。
もう1つは簡単な話で、取り込んでから極低温になるまでの時間だ。こちらも極低温になるまでの時間とそこから肺に影響を与えるまでの時間差がどうしても発生する。と言っても、個体差はあるが30秒程度なのでなんとでもなるだろうと言う結論に達している。
因みに取り込まれなかったダストは30秒も経たずに霧散して効果を無くす。
ver.2はどうせならと大気を極低温のダストで覆うタイプだ。こっちは単純に極低温のダストが地表まで降下する間に触れた物全てから熱を奪い凍らせる。
これも散布する範囲と温度で魔力の制約を受けるが、最大の問題は術者の俺以外敵も味方も巻き込まれれば凍りつくことだ。特に絶対零度に近いほど凍った物に触るだけでも凍りつく二次災害が起こるから注意が必要になる。
ウォーターリザード変異種の廻りがキラキラと光り輝く。
作り出した微細な氷のダストが陽の光で光っている。
ダイヤモンドダストの名の由来だ。
僅かに時間をおいて変異種の動きが止まった。
俺は余裕で近づき、三十郎で首を落とした。
ナナイ「シグレくん何をしたの?」
「えーと、彼奴の廻りに氷のダスト、塵を作ったんだ。呼吸して中に取り込むと体の中が凍り付くようなのをね。」
ナナイ「そんな事出来るの・・・でもやったのよね?やっぱりシグレくんを選んで間違いなかったわ。」
「はは・・みんなも終わったんだね。」
ウォーターリザードを収納しながら、襲われていたグレイパッセルの方に行ってみた。
かなり警戒され威嚇されている。当然だな。
少し大きなグレイパッセルが目に付いた。あの大きな変異種に挑みかかり傷つき地面に横になっている。
「あんな姿を見せられちゃな。【ヒール】」
傷がなくなったグレイパッセルが立ち上がり僅かに俺を見て木の枝に飛んでいった。
「サクラ。今何時だ?」
サクラ「三の鐘が鳴る頃です。」
「おーまだ半日だったんだ。馬車に戻ってお昼にしようか。」
「「「はーい!」」」




