【鍵の門】
デランドから旧アルーニ邸をクランのセカンドハウスとして受け取った俺達は、セグルドのクランハウス同様屋敷の中を見て回っていた。
ロレン「シグレ。此処は執務室かな。」
「そうらしいな。」
1階にある執務室としては普通の大きさの部屋には大きな机に椅子、壁には執務机を取り囲むように書棚が付いていた。
執務室の中は机から書棚まで悪趣味な装飾が施されていたが、鍵が差し込まれたままの金庫には何も入っていなかった。
ロレン「しかし、本当にアルーニって奴の趣味が解らないな。何なんだこの大きな門の絵は?」
執務室に入ると左に机がある。その反対側、机の真向かいの壁に大きな幅1m半、高さ2mほどの木の門が書かれた絵が立てかけられていた。
「ああ、不思議な趣味だ。この木の門の絵の何が良いのか俺にもさっぱりだ。」
―― カチャ!
エリザ「シグレ!何か面白い物はあったか?」
執務室にエリザの元気な声が響いた。
「ご覧の通りだ。なにもない。」
エリザ「何じゃ。趣味の悪い飾りだけ・・・ここに有るではないか。珍しい物が。」
「えっ?」
エリザが見ているのは趣味の悪い木の門の絵だ。
「その絵って珍しい物なのか?」
エリザ「もう随分昔に見なくなったとおもっていたがな。これは〈鍵の門〉別名〈転移の絵〉じゃ。」
「転移?」
ロレン「おいおい、何か凄いのが出てきたな。」
エリザ「クランの者は妾の正体を知っておったな。なら使ってみるのが早かろう。どれ・・・」
エリザが絵に触れると絵の門の中に歪みが生まれた。
「魔力を流したのか?」
エリザ「この絵は2枚で1組でな、2枚の絵の門の中は繋がっておるんじゃ。
1万年前の帝国がこの世界を統一する前は普通に移動の手段として使っておったんじゃ。
あの皇帝が全て壊せと勅命を出したんじゃが残っていたんじゃろうな。」
「どんなに離れていても使えるのか?」
エリザ「ああ使える。ただし、転移の距離が伸びるほど門を開くのに魔力が必要なんじゃ。まあ妾やシグレならこの世界の何処にでも行けようが、そこらの魔法使い程度ではこの街の中で往復するのがやっとじゃろうな。
どれ、何処に繋がっておるか行って――」
「待て!待てエリザ!何があるか解らない。俺が先にはいる。」
エリザを1度絵から下がらせ、歪んだ門の中に手を入れてみた。
「壁があるのに手が入った・・・本物らしいな。」
―― スル・・
踏み込むとなんの抵抗もなく絵をすり抜けた。
―― パ、パ、パ・・・・
前に進むと魔石灯が点いていく。
「ここは・・・」
エリザ「何じゃ此処は?おお、色々置いてあるではないか。」
振り向くとエリザとシユナ、そしてロレンも入ってきていた。
ロレン「倉庫?のようだな。」
「多分地下室だ。俺の気配探知がこの上にさっきの屋敷を探知してる。屋敷は真上じゃないが敷地内なのは間違いない。」
20m四方の部屋の中には絵画や悪趣味な家具や調度品が並べられている。
「ん!金庫か?」
エリザ「大きな金庫じゃな!」
モーガンの時のように大きな金庫が壁に埋め込まれていた。金庫の扉は普通の扉程の大きさもある。
―― キン!キン! ゴト!
当然鍵はないので蝶番と鍵部分を骨喰で切った。
エリザ「上手いものじゃな。どれ今度こそ妾が1番じゃ!お、硬貨の山じゃぞ!」
中に入るとヴィリアムの屋敷に負けず劣らずの硬貨とインゴット、宝石が目に付いた。
「これは魔導石じゃないか?」
ロレン「えっ?」
エリザ「間違いない。魔導石じゃ。」
台座の上に魔導石が5つ。
エリザ「これも珍しいの。ガーゴイルの魔導機が3対、ウォーウルフの魔導機も1対有るではないか。」
シユナ「魔導機?・・・ミスリルの彫像ではないのですか?」
1体50cmほどの大きさでデザインの違うガーゴイル型が3組とどう見ても狛犬かシーサーの置物のような狼型の彫像が木組みの棚の中央に台座付きで置かれていた。
エリザ「その強欲な倅とやらもミスリルの塊ぐらいにしか思っておらんかったじゃろうな。
これは魔導機と言って与えられた目的だけをするんじゃ。言わば魔力で動く人形じゃ。
このガーゴイルもウォーウルフも家屋敷の守護をする。門や屋根に設置すれば不審者を排除するんじゃ。」
「まだ使えるのかな?」
エリザ「使えるじゃろ。動かすだけでかなりの魔力が要るがの。起動後の強さは与えた魔力でかわる。器がミスリルなのは魔力を取り込みやすいからじゃ。
これも今起動してそれなりのレベルに出来るのはシグレくらいじゃろ。」
「でも、敵味方の判断はどうやってるんだ?」
エリザ「起動した者と魔力が意識下で繋がっておるらしい。起動者が害があると思う相手を敵と見做すんじゃ。」
「へー、丁度いいや。後でこの屋敷に設置してみよう。」
エリザ「しかし強欲倅は墓荒らしでもやっとたのか?ここにある物はほとんどあの統一帝国以前の物じゃぞ。」
ロレン「遺跡から出てきた物じゃないのか?時々遺跡が発見されて中から古い魔道具とか出てくるらしい。もっともほとんど使えない物ばかりだと聞いたけど。」
エリザ「使える物も魔力が足りないから使えないんじゃ。あの絵は偶々操作できたんじゃろうな。」
「デランドさえ知らなかった絵だ。あの絵の秘密を守るためにアルーニは何人も殺してるかもな。」
エリザ「なんと、魔封石まであるぞ!」
「なんだその魔封石って?この虹色の・・・これ石なのか?」
エリザの前に丸いソフトボール程の大きさで6色の筋の入った光る石があった。
エリザ「これは帝国より遙か昔、強力な魔物を封じた物じゃ。魔封石と呼ばれておるが素材はわからん。しかし変じゃの。普通は1色なんじゃが。6色と言うのは知らんな。」
ロレン「ただの石なんじゃないの?」
エリザ「この魔力を漂わせている感じは間違いなく魔封石じゃ。」
「封印してるって事は復活するかも知れないのか?」
エリザ「解らん。封が破られたという話は聞いたことがないがな。」
この後みんなを呼びに行き全員を鍵の門から地下室に入れた。だれもが鍵の門に驚いていたのは当たり前か。
地下室に有った物は俺の収納に入れて屋敷に運んだが、金庫室の前に並べられていた調度品や家具はそれはもう評判が悪かった。
持ち出した硬貨は白金貨で5000枚分。白金、金銀銅のインゴットに宝石も相当な数があったがこっちの価値は正直良く解らない。
俺達はリビングでそれぞれが確認してきた屋敷のことを報告し合った。
「此の硬貨5000枚やインゴットはクランの金庫に入れよう。それでも、クラン運営資金の金貨月2枚は継続な!人間働かないとダメになるからな。」
ロレン「賛成だな。喰うための分は俺も自分で稼ぎたい。まあいざとなったらなんとかなると思えるだけで十分だ。」
カタリナ「私も賛成。そうだシグレくん。忘れないうちにセグルドで立て替えた分ここから精算してね。」
「そうさせて貰うよ。それと我が儘を言わせて欲しいんだけど?魔導石と魔導機、それと魔封石を預からせて欲しいんだ。それと鍵の門も。」
ロレン「何か錬金でも考えてるのか?」
「そうだ。まず魔導機はこの屋敷とセグルドのクランハウスに1対ずつ設置したい。残りは保管して仕組みを調べたいし、魔封石もどんな物か調べてみたいんだ。それと魔導石は鍵の門に使えないかと思ってる。」
アカネ「鍵の門に魔導石を組み合わせるんですね。」
「ああ。アクリフォンにも魔導石を使ってるよね。組み合わせればこことセグルドのクランハウスを誰でも行き来出来るようになると思うんだ。それに仕組みが解れば作れないかなって思ってる。」
ティナ「私はシグレ様が預かっても問題ありません。むしろクランに有効に使って貰えるなら有りがたいですから。」
ロレン「俺も問題ない。そもそも白金貨5000枚分のお金があるんだ。今更魔導石を売る必要も無いからな。」
シュゼ「それは間違いない。」
ナナイ「じゃあ、屋敷の中ね。キッチンは豪華よ。最新設備ばっかりだったわ。ただ、食器類は銀製品なんだけど全部2組ずつなの。数が微妙すぎるから全部買い換えね。」
ボタン「食料庫には塩しかなかったよ。」
アカネ「大きなお風呂がありましたけど何と言うか・・・」
カタリナ「そうなの、表現に困るんだけど、簡潔に言うと金ピカなのよ。」
「「「「「おおーー!」」」」」
ツバキ「目がチカチカして落ち着きません。気持ちをほぐすという意味では最悪のお風呂です。」
「そりゃいやだな。」
サクラ「2階は四隅の角に正方形の部屋が4つとその間に縦長の部屋が4部屋ですから全部で8部屋あります。ですが、寝室らしき部屋がなくて・・・」
ロレン「寝室がない?特別大きな部屋を作らなかったのかな。」
フジナ「そうだと思うんですが、気持ち悪いのが四つ角の全ての正方形の部屋の真ん中にベッドが1つ有るんですけど・・・」
アージア「あれは気持ち悪かったよね。」
ロレーヌ「そうそう。四つ角の部屋はどの扉を開けてもベッドしかないの。そのくせ縦長の部屋には何も無いの。空っぽなの。
なんだかドアを開ける度に背中がゾクッてして気持ち悪くなっちゃった。」
「もしかして、2階の角の部屋4部屋が全部アルーニの寝室なんじゃないのかな。気分で代えてたとか、順番に代えてたとか?何にしても相当な異常者だな。
あれ?そうなると使用人はどうしてたんだ?通いか?」
アカネ「地下です。地下に小さなダイニングとキッチン。トイレとシャワーが別になったベッドと小さな箪笥だけ置かれた部屋が20ほど・・・窓もないんですよ。」
「なんかもう・・・言葉が出ないよ。」
ロレン「さてどうするシグレ?」
「そうだな、取り敢えず寝泊まりは各自の馬車があるから2階は保留だな。リビングとダイニングの家具を揃えるくらいにしようか。造りのしっかりした馬車蔵と厩舎は使わせて貰おう。この後は家具屋から馬車溜まりを廻るって事でどう?」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
屋敷の外に出た俺達は門扉の前にいた。
「この門の支柱のところで良いか。エリザ左右に1体ずつ置いて魔力を流せば良いんだな?」
エリザ「そうじゃ。両方に魔力を流す必要はない。片方に流せば魔力は両方に行き渡るはずじゃ。」
収納から出したガーゴイルの魔導機を左右の支柱の上に置き、片方のガーゴイル像に両手を添え魔力を流した。
「ふん・・・・凄いな。どんどん魔力が吸い取られていく。」
思いのほか勢いよく魔力が吸い取られていく。しかしシユナがエリザを召喚したときに比べれば遥かに余裕がある。
そんなことを思っていたら突然像が光り出した。
エリザ「どうやら動き出したようじゃな。何処まで魔力を流すかはシグレ次第じゃ。」
「おっ?なんかゲージが出てきた!」
フジナ「ゲージ?」
「ああ、像の前に目盛りが現れたんだ。いまで半分らしい。どうせならメモリいっぱいにしてみるか。ほれ!吸い取れ!」
そのままゲージが一杯になるまで魔力を注ぎ込んでみた。
ミスリルゴーレム タイプガーゴイル レベル70
「ミスリルゴーレム・・・レベルが70になったそうだ。」
「「「「「「「「「70!」」」」」」」」」
ティナ「凄いですね。いつの間にか支柱にしっかり一体化してます。」
「「キ、キ、キーーーー!」」
―― バサッ!バサバサバサ・・・
突然2体のガーゴイル像が生き返ったように羽を広げ飛び立った。
ナナイ「なに?何処に行ったの?」
エリザ「確認じゃろ?屋敷と敷地の情報を集めに行ったんじゃ。」
「さあ俺達も出かけるか。」
家具屋でみんなが座れるだけのダイニングセットとリビング用のソファを買い、雑貨屋を廻って必要な物を揃えた。
それから馬車溜まりからロレンとティナの馬車を引き取ってセカンドハウスに戻ると、2体のガーゴイル像は支柱に戻っていて誰が見ても唯のオブジェになっていた。
女達が食事の用意を始めたので俺はロレンと落ち着かないと不評だったお風呂にいた。
「確かにこれは落ち着かないな。」
ロレン「ああ、俺も目がチカチカしてきたよ。」
「どうやってるんだこれは・・・金箔か?へー金箔の技術があるんだ。そうか、金箔なら上から張ってるだけだから剥がしても大丈夫だな。ロレン今から金を集めるから動かないでくれ。」
ロレン「えっ?ああ解った。」
壁に片手を当てて金だけを元に戻すイメージを送り込んだ。
―― ズ、ズ、ズズズ・・・・・ゴト!
俺の掌に金が集まりインゴットになって落ちた。
「これでどうだ?キンキラが無くなったぞ。」
ロレン「あ、ああそうだな。しかしシグレは無茶苦茶だな。」
「そりゃないだろ。錬金が出来れば誰でも出来ると思うぞ。でも誰にも言わないでくれよ。」
金ピカの煩わしさがなくなったお風呂は女達が1度に入れるほど湯船が大きい。
結局この日、夕食が終わると女達が一緒にセカンドハウスのお風呂に入ることになったので、俺とロレンはリビングで雑談に興じ、女達の後でお風呂に浸かって馬車に引き上げた。
んー男風呂も欲しいな。ロブランに出張して貰おうかな。
本日ブクマが400に到達しました。
少しずつブクマの数が増えていくのが非常に励みになっています。
ご愛読頂いてる皆様には大変感謝しております。
と言う事で、ブクマ400到達記念に本日は2話投稿です。
これからも宜しくお願いします。




