【セカンドハウス】
「此処だエリザ。この大池から大門ハウスを入れて真っ直ぐ500m先までだ。」
朝食を食べた後、俺達はツバキと初めて会った西の湖沼群最奥の大池に来ていた。
エリザ「この中の島がツバキの一族の繁殖地か。
なんじゃ、荒れとるではないか。」
「俺達が出会ったとき大きなウォーターリザードに荒らされてたんだ。」
ツバキ「そこを旦那様に助けていただいたんです。」
エリザ「・・・まずは此処じゃな。どれ!」
エリザが手を翳すと見る間に荒れた場所に草木が茂っていく。
ツバキ「ありがとうエリザ。これでまた一族が繁殖の時を迎えられます。」
エリザ「ふん。大したことはしておらん。」
一言いったエリザがみんなから顔を逸らしてしまった。
実は、この精霊の女王様は照れると顔を逸らす癖がある。どうやら、真っ赤になっているのを見られたくないらしい。
「さてエリザ、出来そうか?」
エリザ「やるのは簡単じゃが問題がある。」
「なんだ?」
エリザ「シグレ。500mはどのくらいじゃ?」
「ははは・・・どうやって測ろうか。そうだ、エリザ。この大池の向こう岸に余裕を持った感じで大門屋敷までを半径にしよう。どうせデランドも正確には測れないんだから。」
フジナ「そうですよ。あ、大池の向こうの岩がある辺りが良いじゃないですか。あそこまでにしましょう!私が文句を言わせませんから!」
「あそこだと大池の端から100mくらい先に見えるけど・・・良いか!」
シユナ「お願いします。エリザ」
エリザ「円を画く感じで良いんじゃな?まずは今ある木々を寄せて円を画くか。―― フン!」
エリザが大地に手を翳す。
―― ズ、ズズズ・・・
「「「「「「「キャ・・・」」」」」」」
地震のように大地が揺れた。揺れた原因は庭を造ったときのように大門屋敷を中心に半径500mの円周上にある木々が移動したからだ。
5分後、森の中に幅3mほどの石栗の木の通り道が円状に出来上がった。
エリザ「こんなものか。次じゃな、―― ほれ伸びろ!」
ニョキニョキと漫画の擬音がしそうな勢いで木の芽が顔を出し成長していく。
―― ニョキニョキ・・・ニョキニョキ・・・・
「「「「「「「キャ・・・」」」」」」」
再び大地が揺れる。芽吹いた木の成長があまりにも速いからだ。
あっと言う間に30mほどの大木が二重に隙間無く立ち上がり、改めて大地の豊饒を司るエリザの力のすごさを見せつけられた。
エリザ「んーー、こんなものか。」
石栗の木がこの辺りに自生しているどの木よりも背が高いおかげで、大門屋敷を中心に円形の木の壁が出来たことが俺達にはひと目でわかった。
「やっぱりエリザは凄いな!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
エリザ「ふふん!まあこんな物じゃ!」
いつもの絶壁アピールだ。
「エリザ。サラケスに戻ったらスイーツ食べ放題も追加して良いぞ。」
エリザ「ん?もう前払いで貰ったではないか。少し激しすぎたがな。」
「はは、それだけこの塀には価値があるよ。」
エリザ「なら遠慮無く行くとするかの。のう、ボタン!」
ボタン「何で私に言うの?」
エリザ「ボタンが1番食いしん坊じゃろうが!」
ボタン「え、エリザに言われたくないよ!」
「「「「「「「ハハハ・・」」」」」」」
エリザ「ところで今更じゃが、入り口はいらんのか?」
「ああ、今はいらない。俺達は全員転移のリングで来れるから。それに、なまじ入り口を付けると管理が面倒くさい。」
サクラ「それもそうですね。誰にも邪魔されたくないですから。」
エリザ「他にはいいのか?」
「随分協力的なんだな?」
エリザ「妾も気持ちよく暮らしたいしの。それに旦那様に貸しを作っておくのは悪くない。」
「そう言うことなら借りておくよ。この大池の周りをオウコとコハクの放牧地にしようと思ってるんだ。」
アカネ「それは良いですね!きっと喜びますよ。」
「エリザ。大池の周りにコハク達が喜ぶ草を頼む。それと此処から大門屋敷まで木を寄せて路を作ってくれないか。あの2頭が並んで走れるくらいが良い。」
シユナ「ではエリザ。お願いね。」
エリザ「容易い事じゃ!そら!」
出来上がった石栗の木の外周に沿って認識阻害を掛け、エリザが作った3m幅の道を通って大門屋敷に戻った。
サクラ「旦那様。何時に此処を出ますか?」
「そうだな、11時頃出てお昼はサラケスの街でどうかな?エリザに追加報酬を払わなきゃいけないし。俺はそれまで錬金部屋だな。」
サクラ「なら私は畑の手入れをします。」
エリザ「サクラ、妾も行こう。シユナ良いか?」
シユナ「構いませんよ。」
フジナ「じゃあ私とアカネは地下でアデラの葉の抽出をしてますね。」
「そうだ!だれか塀の中の様子を探ってきてくれないかな。おそらく魔物も取り囲んでると思うんだ。」
ナナイ「なら私が行ってくる。ボタン一緒に行く?」
ボタン「もちろん行くよ、ナナ姉!」
サクラ「ナナイ。西と北に反応があります。」
ナナイ「了解!ボタン行こうか。」
ボタン「はーい!」
ツバキ「では私は珈琲を淹れてきますね。」
「よーし!じゃあ時間まで自由行動で!」
「「「「「「「「はーい!じゃ!」」」」」」」」
ナナイ・ボタン「「ただいまー!」」
「お帰り。どうだった?」
ナナイ「これ見て!ソードボアが2匹にロックベアーが1匹いたわ。」
ソードボア レベル27
ロックベアー レベル38
ボタン「ナナ姉が言うにはソードボアはホーンボアのロックベアーはブルベアの上位種だって。」
ナナイ「流石ウリアスの大森と言ったところね。四つ足の森でも上位種は浅いところには出ないもの。まだ入り口でこんなのが平気で彷徨いてるんだから。」
「まだいそうか?」
ナナイ「もう大丈夫だと思うよ。あと北に池があってオーロックスとストライプチキンが水場にしてたの。
オーロックスはレベル40を超えるけど怒らせなければ暴れないし、美味しいミルクが取れるのよ。上手く飼えないかと思ってそのままにしてきたんだけど。」
「ストライプチキンも美味しいの?」
ボタン「シグ兄。いつも食べてる鶏肉と卵がそう。」
「おおーー!じゃあストライプチキンも上手く飼えれば卵が取り放題だ。」
ナナイ「そうなれば良いんだけどね。私とボタンで挑戦してみて良い?」
「良いに決まってるよ!」
エリザ「ナナイとボタンに契約魔法を使わせて従魔契約をさせるんじゃな。オーロックス共は1頭の雄に5・6頭の雌でシグレのようなハーレムを作っておる。雄と従魔契約をすれば雌は逆らわん。」
「俺と同じって・・・まあ否定はしないけどさ。オーロックスを飼う前にスライムを捕まえてこようか。大池の放牧地にも放しておきたいし。
スライムも百層宮で捕まえて来たら従魔契約をすれば良いのかな?」
エリザ「それで問題なかろう。」
「じゃあ時間を作って一つ一つやっていこう。今日はそろそろサラケスに行こうか?」
「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
デランド「俺の馬車の後を付いてこい。」
昨日の約束通り2時にレナスの疾風と紫蘭玉樹を馬車に乗せてデランドの屋敷に行くと、馬車を降りる前にポールが出てきてそのまま待つように告げられた。
まもなくデランドが出てきて彼が乗る馬車に付いていくことになった。
デランドの馬車が向かった場所はサラケス南西区の一角にあるサラケスの中では決して高級な住宅地ではないがそこそこ大きな屋敷も目立つ場所だ。
そしてデランドの馬車は南西区でもひときわ目を引く豪華な屋敷に入った。
デランド「着いたぞ!」
馬車から乗っていたメンバーがぞろぞろと降りてくる。
「此処は?」
デランド「地上2階地下1階建ての豪邸だ!此処をお前達にやる!」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
デランド「返品はきかん!やると言ったらやるから使え!良いな!」
「いやいや、もう持ってるから――」
デランド「そんな事解ってるわ!だからサラケスの拠点として使えと言っとるんだ。クランのセカンドハウスとしてな。ここならギルドも百層宮も歩いて行ける距離だ。使い勝手も良い。」
あらためてみると屋敷は2階建てだがこの世界では珍しい正方形に近い形をしている。その為、各階の面積が広い。
最近建てたのか修繕したのか随分綺麗な外観までしている。
敷地も広かった。屋敷の他に俺達の馬車が6台は入れても余裕がありそうな馬車蔵と立派な厩舎もある。それでいて敷地には庭まである。
デランド「立ち話もなんだ、中に入ろう。ポール。」
ポール「はい。鍵は開けております。」
煌びやかな玄関から中に入ると、良く言えば豪華な、素直に言えば趣味の悪いシャンデリアが出迎えた。
「なんて言うか、趣味がな・・・」
ロレン「そうだな・・・」
デランド「儂もそう思う。言っとくが儂の趣味じゃないからな。」
ポールの案内で入った部屋にまず驚いた。建物が大きな正方形なのでリビングの造りも正方形に近く広いんだが、その広いリビングの真ん中にポツンと、そうとしか表現できない感じで1人掛けのソファが2つ。小さなテーブルを間に挟んで置かれていた。
「他の物は何も無いんですか?」
デランド「ああ、手に入れたときのままだ。」
「じゃあ、これが前の持ち主の趣味ってことですか。なんともバランスが悪いですね?」
デランド「向こうを見てみろ。」
言われた先を見ると、ダイニングと思われるところにこれまたポツンと2人掛けのテーブルセットが置かれていた。
ロレン「何とも・・・気味が悪いな!」
デランド「さてと、見ての通り椅子が2脚しか無いから床にでも座るか。」
何も気にせずそのまま床に腰を下ろそうとする大貴族を手を差し出して止めた。
「待ってください、テーブルと椅子を持ち歩いてるから・・・」
収納から蠢く森でも使った6人掛けのテーブルと椅子を出すとロレンやクランのメンバーが並べていく。
デランド「巫山戯た収納だな。まあ良い。みんな座って話を聞いてくれ。」
ここで、椅子に座ろうとしたフジナに今更気づいたようにデランドが声を掛けた。
デランド「ああー・・フジナだったかな。元気そうだな。」
フジナ「はい。人生が、毎日が楽しくてしょうがありません。」
デランド「そうか・・・なによりだ。
あーシグレ、此処のこと何か察しが付くか?」
「ここもモーガン商会ですか?」
デランド「そうだ。ヴィリアムは店と本宅の他に別宅を2つ持ってた。本当ならサラケスに持てる家屋敷は商人なら屋敷1つに店だけなんだが、あいつは子供を独立させて1つ。奴の妻の実家を1つで2つの別宅を持っていたんだ。」
デランドの説明によると盗品やブルーポピが出てきたのはヴィリアムの奥さんの実家だったそうだ。
そして今俺達がやって来た屋敷はヴィリアムの長男アルーニの屋敷なのだという。
デランド「既に公王国内ではモーガン一族は全て犯罪者扱いになっててな、この屋敷も俺が接収したんだ。」
「売れば良いじゃないですか。こんなに大きくて豪華なんですから。」
デランド「売れ残ったんだよ。」
「えっ?何でですか?」
デランド「アルーニだ。こいつがおやじ以上に強欲なやつでな、数年前に王家の利権に手を出して捕まったんだが王都に送られる途中で逃げたんだ。」
ナナイ「思い出した!私がまだ冒険者を休む前ですね。商会の莫迦息子がとんでもないことをしでかしたって騒ぎになってたもの。」
デランド「ああそれだ。まあ細かいことは省くが、そのアルーニがゲスキア王国で商会主になってる。」
「ゲスキアって、公王国に戦争を仕掛けたって言う国ですね。」
デランド「その通りだ。敵対国だからな。犯罪者が逃げるには丁度良かったんだろ。
でだ、この辺の金を持ってる奴はアルーニのことを良く知ってる。あいつの異常な執着心もな。」
「あーはいはい。またですか。」
デランド「またですかって、どう言う意味だ?」
「セグルドの馬車置き場と一緒で俺に押しつけちゃえって事でしょ?この屋敷全体からプンプン漂うおかしな感覚。アルーニって男の異常性が伝わってきますよ。それが解るから誰もこの家を買わないんでしょ?
ゲスキアにいてもアルーニが何をしてくるか解らないから金持ちは手を出したくないって事ですね?」
デランド「その通り。シグレ、お前ならなんとかするだろ?」
「まあしますけどね。でもクランハウスを2つも構えて良いんですか?」
ナナイ「大丈夫よ。有力クランは大きな街にそれぞれ持ってるわ。」
デランド「ナナイの言う通りでな、王都が本拠ならセグルドやサラケスにもクランハウスを持ってることが多い。俺達貴族の了解事項も優先順位として3番目まで認め合ってる。だからここはセカンドハウスで儂の優先順位は2番目になる。
それで手を打ってやるからありがたく思えよ!」
「子供ですか・・・解りましたよ。使わせていただきますよ。はぁーまた余計な出費が掛かるな・・・」
デランド「何を言ってる。此処はあいつが捕まる前に大改修をして引っ越そうとした矢先に捕まったんだ、誰も使ってない新築と同じなんだぞ。」
「この趣味が嫌なんですよ!何なんですか無駄に装飾だけ派手で!そうかと思えばソファもろくに無い。みんなもこのまま使いたいか?」
「「「「「「「「「「嫌です!」」」」」」」」」」
デランド「速答かよ!・・・まあ気持ちはわかる。儂も嫌だ!」
「此処にある物はすべて接収したときのままなんですね?」
デランド「そのままだ。絵や調度品は盗品としては届けられてなかったんで全て競売に掛けたんだが、何一つ売れなかった。」
「どれ1つとってもアルーニに目を付けられたくないって事ですか。」
デランド「その通りだ。それに此処にも隠し部屋がないか探したんだが無かったよ。」
「了解です。調度品はどれ1つ趣味じゃないから全部廃棄だな。それとも誰か使う?」
グルッと視線をまわすと一斉に顔を横に振った。
ロレン「廃棄で良いだろ。売れもしないんだから。」
デランド「お前ら、言っとくが安い物は無いんだぞ?」
ティナ「値段じゃないんですよ、おじ様。なんて言うか、どれもこれも不快なんです。」
サクラ「あっ、それ!ティナちゃんが言うのがピッタリ!」
「「「「「「「「「「解る!」」」」」」」」」」
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