【女神イサドラ】
テンプレ満載の異世界転移物語です。
こった設定無し。ストレスフリーがお好みの方むきです。
長い説明を省きたい、繰り返したくないと思ったら会話メインになってしまいました。
ひんやりとした感覚で眼が覚めた。
『・・・此処は?』
真っ白い柱に真っ白な壁の部屋の中。天井が高い。
見回すと俺の他に横たわっているのが2人。その廻り、壁に並ぶように金属の鎧を着たような兵士?といかにもなローブを着た者が数人。
『・・宮殿か?・・・やっぱりあれは夢じゃなかったのか・・』
誰にも聞かれないように小声で呟いてみた。
「ステータス。ステータスオープン。」
ステータス
名前:霜月 重吾
種族:人族
年齢:17
レベル:1
称号:異世界から召喚された者
スキル:【多言語理解】
▼
『出たよ!』
俺は孤児院に棄てられていたらしい。身元がわかる物は無く、ただ殴り書きのように生年月日だけが書かれた紙があったそうだ。
迎え入れた院長が付けた名前が霜月 重吾。由来は、メモに書かれていた誕生日が11月15日だから。11月の霜月と15日で重吾らしい。まあ、今となってはどうでもいい話だ。
物心がつくと、わりと早く自分の境遇を理解したと思う。それからは1人で生き抜くことを考え続けた。そんな覚めた、冷え切ったガキだった。
周りを見る。観察する。自分にとっての最適解を探り、答えを出すまで時間を掛けない。長く考え込んでも良いことは何もない。躊躇は行動を阻害し、自分を窮地に陥れる。
これが俺の、1人で生き抜く為に言い聞かせてきたルールだ。
俺達のような孤児は苛めの対象になりやすい。そのすべて捻じ伏せてきた。どんな苛めにも引けば負けと抗い続け、気づけば相手が気味悪がって踵を返していた。
孤児の俺でも高校までは行かせて貰える。だが大学に進みたかった。だから学校の図書館に籠もり本を読み、知識を増やし頭を鍛え、私立の学費免除の特待生枠を勝ち取った。大学も学費免除を勝ち取るはずだった。
そんな高校3年生のいつも変わらない何でもない朝。普通に学校に行って教室に入ったところで視界が揺らいだ。教室にはクラスメートもいた。
『教室から転移したのは・・・俺だけか。』
「此処はどこだ?」
突然声を出したのは俺から見て左端に倒れていた男。他の学校の制服を着ている。
―― ギー!
ドアが開いた。
入ってきたのは、40過ぎだろう王冠らしき物を頭に乗せた男と、その後ろに20代らしい女。更に、後ろにはお約束の中世騎士のような集団と杖を持った奴らだ。
『王と妃?王女?・・・まいったな。なろうのテンプレ通りだ。』
俺達の前。一段高くなったステージ?石造りの壇上で女が話し始めた。
「勇者様。此度は召喚に応じて頂きありがとうございます。私はセレゴス王国王女メーベラと申します。そして、隣にいるのが私の父、この国のルーロフ王です。
そしてこの大地、この世界と言った方が良いですね。この世界はエギンバラと言います。皆様からは異世界となります。」
「「・・・・・・・」」
『出たよ〈異世界〉。テンプレ通りの台詞だな。絶対異世界から戻った奴がなろうに書き込んでるだろ!ってくらいのド定番だ。それにしても、横の2人も何も言わねーな。戸惑ってる素振りも無いし、凄いな。』
王女「皆様。今、我が国セレゴス王国は、敵対国により戦争を仕掛けられております。我が国は非力な小国。敵対国の攻勢にさらされ否応なく召喚の儀を取り行いました。どうかこの国の民のため、皆様のお力をお貸し下さい。」
「異世界召喚ですか。」
「だから普通の高校生に頼む話じゃねーよな。」
俺と一緒に召喚された奴らの声だ。
『おーぉー、冷めた返しだ。王様が睨んでるぞ。』
一瞬訝しんだ表情を見せた王女が、気を取り直したように話し始めた。
王女「皆様。取り敢えずステータスと唱えて、ご自分のステータスを確認して頂けますか?
そのなかに称号というのが有ります。そこに勇者とは書かれていませんか?」
「「ステータス!」」
「ああ、有る。」
「・・・俺もだ。」
「ははは、全くのテンプレだ!」
「まあ、お約束だな。」
王「ほう、2人も。なら・・」
『ん?今王様は、“2人”と言ったな・・・』
王女「お名前を教えて頂けますか?勇者様方。」
「神田俊英。高校3年生だ。」
「船本始。高2だ。」
この時、不意に周りの様子に違和感を覚えた。
『あれ?周り騎士達の反応が薄いな。テンプレならここで“おおー、やっぱり勇者様!”なんて声が聞こえてきても良さそうなもんだけど。
それにしても、神田と船本と言ったか?2人は満更でもなさそうだ。』
そして、周囲の注目が俺に集まった。
「いや、俺のステータスには勇者とは書かれていない。【異世界から召喚された者】と書かれている。」
王「何だと・・・」
王様の顔がみるみる険しくなる。どうやら、俺のステータスは想定外だったらしい。
王「おい!」
騎士A「はい。」
―― スッ!
王様の一言で騎士が動こうとしたその時、王女の手が騎士達を止めた。
そして王女が何やら王様に耳打ちを始める。
王「ふん、任せる。」
『露骨に不機嫌だな。名前も聞きやしない。何より躊躇無く俺を排除しようとしやがった。そして、騎士はそれに疑問も抱かず動こうとした。
此処はヤバイ!それだけはハッキリわかる。』
王女「まずは皆様のステータスを、この〈開示の宝玉〉で確かめさせてください。」
『まあ当然ステータスを見るアイテムくらい有るよな。なにせテンプレだし。』
魔道士?のローブを纏った男が1人づつ宝玉に手を乗せさせステータスを確認していく。
ローブ男「おい、ここに手を置け。」
『扱いがぞんざいだな。』
宝玉に手を置くとローブ男の顔が歪んだ。
ローブ男「王女様!確認しました。二人は間違いなく勇者。この者は違います!」
『そんなデカい声で言わなくても、違うのは解ってるんだよ!』
さて、此処からかな。
「あー、ちょっと良いかな?」
王女「何でしょう?えーとお名前を教えて頂けますか?」
「重吾だ。どうやら俺は間違ってここに来た気がするんだけど?俺は勇者じゃない。つまり、俺は使い物にならないと思うんだが?そこでどうだろう、俺は此処から出て行きたいと思うんだが?」
神田「君は巻き込まれ型かな?」
「そうとも言えないだろ?そもそも俺は、俺の学校の教室に入る寸前で召喚されたけど、2人とは通ってる高校が違うだろ?」
船本「俺も教室からだし、側にあんたらは居なかったぜ。」
神田「と言う事は条件が違ってたって事か。でも良いのかい?レベリングくらいはさせてくれるんじゃないの?」
「そんな風に見えるか?」
そう言って僅かに王様の方に顎を動かすと2人の視線が王を捉えて“ああー”と言いたげな表情に変わった。
しかし、異世界に召喚されたというのに何とも冷めた会話の高校生3人だな。
王女「勇者様。先ほどから何を話しているんでしょう?」
神田「ああすいません。こちらの事情です。」
「俺には戦えそうなスキルって言うのか?それがないって話だよ。」
王女「残念ですが、仰る通り戦闘には向かないと思います。」
「ところで、元の世界に帰れるのか?」
この一言に王女の目の鋭さが増した。
王女「申し訳ありませんが、今は返すことが出来ません。」
神田「今は?やっぱり返す方法は魔王が知ってるとか言い出すの?」
王女「魔王?」
船本「いや、さっき魔王とは言ってない。隣の国に攻められてるって言ってたはずだ。なら帰る条件は違うのか?」
王女「なにか誤解をされているようですが、今返せないのは最低でも2年は星の位置が悪いからです。ただお約束します。星が整った時は、必ずお返しします。それまでお力添え下さい。」
「だそうだ。その2年、2人が勇者として活躍してる間、俺は此処で何をする?それに俺には元の世界に身内がいない。いえば何処で野垂れ死んでも良い。身にあった仕事を見つけてやっていくさ。
王女様。提案なんだが、1ヶ月?30日ほど生活できるお金と、古い物で良いから剣を貰えないか。それだけあれば、後はなんとかするよ。」
しかし、さっきから王様の視線に殺されそうだ。よっぽど、俺が嫌いらしい。
王「ふん。無能が物乞いか。」
『物乞いと来たか。』
「無能でも物乞いでも好きに呼んで良い。その無能が視界から消えると言ってるんだ。悪い話じゃないだろ?」
騎士A「貴様!王に向かってその口のききよう。その命で――」
再び騎士を王女が制した。
王女「そうですね。確かに勝手に召喚した責任は取らねばなりませんね。わかりました。少しお待ち頂けますか。」
そう言うと、王女が厳つい髭面の騎士に何やら耳打ちをした。
王女「それでは、お二方は私に付いてきてください。そちらの方はこの騎士団長の後にお願いします。」
王女が言うと、再び扉が開かれた。
まず、王がステージを降り扉に歩く。もちろん俺に一瞥をくれることを忘れていない。
『ああ、俺もお前のことは忘れない。』
王の後に王女が続く。その後を神田と船本が付いていく。
既に俺のことはどうでも良さそうだ。
「付いてこい。」
『さてさて、すんなり此処から出してくれるのかな。』
―― 宮殿で目覚める5分前 ――
「此処は?」
目覚めたら白い空間にいた。は、嘘だった。
薄らと僅かに光のある空間。前後左右も上下も、自分が立っているのか漂っているのかさえわからない。
わかるのは全ての感覚がおかしなことだけ。
「良かった目覚めてくれて。」
「だれだ?どこに居る。」
声はするが姿が見えない。いや、ボーッと薄白い影のような物だけが視界にある。
「私は、エギンバラを管理する女神イサドラ。霜月重吾。あなたはこれからエギンバラに召喚されます。」
「召喚?異世界召喚ってやつですか?」
女神「そうです。あなたを召喚しようとしているのは、エギンバラのセレゴス王国です。」
「女神様じゃないんですか?」
女神「違います。召喚を行っているのは、セレゴス王家です。私は僅かな隙間を使ってこうしてあなたに会いに来ました。」
「はあ・・そうですか。」
女神「しかし、すんなり私の話を信じるのですね?なろうのテンプレなら“これは夢だ。女神?嘘くせー!”になると思っていたんですが。」
「女神?嘘くせー!これで良いですか?
って言うか廻りを観察すれば此処が普通の場所じゃないのは解りますよ。余計な説明で行数を稼ぐ必要も感じませんから。」
女神「ふふふ。私も話が早い方が助かります。霜月重吾、お願いがあります。」
「お願い?」
女神「あなたへの願いは二つ。是非の願いが一つと、二つ目は、まあついでで構いません。
私は制約上直接手を出すことが出来ません。テンプレ仕様ってやつです。ふふふ。」
『女神がテンプレって・・』
女神「ですから、あなたにお願いしたいのです。」
「えーと、なぜ俺なんでしょう?」
女神「あなたの魂が何者にも左右されない誠実で強い魂だったからです。
セレゴスの召喚に乗じて会いに来ましたが、あなたに会えて良かった。セレゴスにはあなたを含めて3人が召喚されましたが、私の願いを託せるのはあなただけなのです。」
「俺が選ばれた事情は良く解らないですけど、でも俺に出来るんですか?俺は唯の高校生ですよ。」
女神「あら嬉しい!その突っ込みもテンプレですね!」
「いやいや、あんまりはっちゃけられても・・」
女神「ふふ、もちろん私が出来る範囲で助力します。」
「それは助かりますが・・・地球には戻れるんですか?」
女神「・・・・戻れません。それも問題なのです。」
「なるほど・・・その願いをかなえるまでと後は、俺の好きなようにして良いんですか?」
女神「もちろんです。エギンバラでしたいことはありますか?」
「戻れないなら・・・家族が欲しいかな。俺は地球では孤児だったから。」
女神「それなら大丈夫です。最初の是非の願いがあなたのその望みを叶えてくれます。ああ・・その為にも強い体にしておきましょう。きっと役に立ちます。」
「強い体・・まあ、強い分にはありがたいかな。」
女神「霜月重吾。申し訳ありませんが時間が来てしまいます。これから話すことを忘れないでください。
まずは時間が無いのでこのスキルを・・・・」
早口?高速で綴られた女神イサドラの言葉を聞き終え、重吾は離れていく白い影に向けて「頑張ってみます。」と伝えた。
新連載も始めてます。
「埒外のものは王道を歩みたかった」https://ncode.syosetu.com/n0693jj/
不定期更新になると思いますが、宜しくお願いします。