表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

食事の神髄~至高の炒飯編~

作者: 戸越伸夫

「はぁ…。」今日も残業続きのT氏はため息をつきながら、夏の蒸し暑さを紛らわすために全開にしている窓の外をぼんやり眺めている。今週は様子がおかしい。多種多様な角度から細かい仕事が降りかかっている。授業参観からの保護者会の準備、期末テストの答え合わせと成績表の作成。どの職種でも繁忙期があると思うが、T氏にとっては今がそうなのかもしれない。特に教師にとって成績表と保護者の組み合わせは天麩羅と西瓜並みに人体に悪影響が出る組み合わせだ。「うちの子がなんで成績悪いのですか。」と言われても世の中の全ての事に理由がありますとだけ答えさせて欲しい。一方でそのあと成績が良くなったら、言えば変わるとでも勘違いされそうでそちらも無駄に気を遣う。単純にその子自身が頑張ったかどうかだけなのである。今日も今日とてそんな悩みを抱えながら眠りにつくのであった。

 そして準備もままならないまま保護者会当日を迎える。いざ保護者会が開かれたものの、ふたを開ければ、それぞれ家庭の教育方針の自慢大会となり、それとはまったく異なる方向に育っている子供に対して何を考えているのやらと半ばあきれながら話を聞いていた。無論、家庭での教育方針はとても重要だが、一方で一番大事なことは素晴らしい教育方針を作り上げることではなく、実態と方針のギャップを正確に理解すること、それに対してどのように修正をかけていくことだ。つまり本当にやらなければならない事は、「うちの教育方針は○○です。でもP子は××なところもあるので、そこは自由に伸ばしてあげたいと思っています。」という分析であるのだが…。ようやく保護者会も終盤にかかり、「皆様の素晴らしい教育方針をサポートできるように尽力します。引き続きよろしくお願いいたします。」と自分でもどこから思いついたのかわからないような言葉で結び保護者会を終えた。

 終わったら終わったで、そのまとめの仕事にとりかかる。気が付いたら夜になり、仕事もひと段落し、ようやく暑さのピークも過ぎたのでT氏は帰路につく決心をした。満身創痍の状況でT氏はようやく家に着いた。興味のない話を無理矢理聞かされる事ほど苦痛はない。校長先生の話が長いのは、つまらない長話はこんなに苦痛だと教えるためのものと信じているし、みな苦い経験をしているはずだが、大人になると忘れがちだ。こんな長い話で疲れ果てたときは、時短メニューで就寝までの最短ルートを突き進むのみだ。時短メニューの中で最もボリュームがある料理が炒飯である。しかもごちゃごちゃの意見を敷き詰められた現状ではそれを炒飯同様に混ぜ合わせて強引に1つにまとめてしましたい気分なのだから、今のT氏にもってこいのメニューである。ちょうど冷蔵庫には早く処理したいピーマンと玉ねぎとベーコンと長ネギ・卵が用意できている。まずは白ご飯をレンジでしっかりと温める。鍋に油をたっぷりと注ぎそこに溶き卵を入れる。少し固まってきたらご飯を入れ、ピーマン・玉ねぎの順番で加えていく。味付けは塩コショウと味付け調味料を加え、仕上げにニンニク醤油で風味をつける。最後に長ネギをいれ少し炒めたところで完成だ。この炒飯が美味しくない訳がない、うまいうまいとどんどん食べ進め気が付いたら完食していた。

 T氏はここから布団に入るまでの記憶が朧気だ。おそらく惰性で皿を洗い、歯を磨き、風呂に入り、布団に飛び込んだのだろうが、何も考えていないときは記憶にも残らない。ようやく布団に入り安心して眠りにつくが寝付けない。昼間の情報量の多さとそれを整理できていないストレスで目が覚めてしまっている。「なんでまた色々な教育方針ばかり振りかざすのか。こればかりはなかなかまとまらない。」とぼんやり考えだす。そもそも炒飯がまとまるのはなぜだろうか。炒飯ではピーマンは火が通りにくいから先に入れる、ねぎは風味を残したいから最後に少し炒めるだけ、こういった食材に合わせた調理方法の組み合わせが至高の炒飯を作り上げているのではないか。その点に気が付きT氏にまたしても衝撃が走る。そうかそうかとようやく腑に落ちる。T氏も保護者も食材の研究が甘いのである。どのように調理したら一番おいしいのか、風味を残すべきか、しっかり火を通すべきか、学校でいえばきちんと叱ったほうが良いのか、みんなに向けて注意するほうが良いのか、これらはやってみないとわからないが、味見は意図してやらないと意味がない。早速明日からはクラスで味見の開始だと少し楽しそうに笑いT氏はようやく眠りにつけるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仕事ができる分、T氏は日々忙しそうですね。 炒飯は味が薄くても美味しいですもんね。戸越さんの得意料理なのでしょうか。 [気になる点] 料理のシーンにもう少し描写が多いといいかもしれませんね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ