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第二話 『渡良瀬純の古傷と現状』その1
桜の花びらが舞う。
あの女に出会った夜。
それは、幻のように儚く。
落としたら壊れてしまうガラス細工のように脆く。
懐かしい優しさに満ち溢れていた。
あの女の姿は今も鮮明に覚えている。
空を仰ぐ。
青空に浮かぶ重厚な入道雲。
愛用の自転車を漕ぎ出し坂道を滑るように走っていく。
雨上がりの匂いがした。
路面に溜まった水溜り。梅雨が終わり、本格的な夏がくる。
今日もぼくらは生きていく。
第二話 『渡良瀬純の古傷と現状』
派手な音がした。
堅い鉄の塊と、何かがぶつかる鈍い音。
ガソリンの匂いが辺りに漂う。
ガードレールの破片が自分の足元まで吹き飛んでいた。
横転したトラック。割れたガラス。
血まみれの手首。
そして視線の先には――変わり果てた肉塊。
「あああああああああああ!」
悲鳴。
まだ耳に残っている。