調査兵団 ★
名護屋では朝だった。
ここにいた時は夕方で、既に夜は更け空は暗い。
しかし、疲れてもいなければ異常事態に心は高揚し、誰も眠気など覚えなかった。
南蛮人との交渉役に選ばれた行長とは別に、探索役として派遣軍第一隊である松浦鎮信、有馬晴信、第二隊の加藤清正と鍋島直茂が選ばれている。
合わせれば数万を超える軍勢であるが、探索にその人数は必要無い。
精鋭だけを連れ、周囲を調べに行く。
やがて空が白み始めた。
清正らは先に天守閣に登り、周りを確かめる。
「昨日は気づかなったが、じっくり見ると何という広さだ……」
周囲を眺めた清正が嘆息した。
「山が遠く、川に挟まれているのだな……」
「この広さで米を作れば何万石になるのだ?」
直茂らは唸る。
眼前に広がる大地には高低差があるものの、全体的に平らで山は無い。
城があるのは川に挟まれた土地で、水田にするにはもってこいに思われた。
ここまでの広さの平野など、日本でも見た事もない。
日本で一番大きい平野は関東平野で1万7千平方キロであるが、彼らが見ているベラクルスだけで7万平方キロある。
それもメキシコ湾に面して広がる平野の一部であり、彼らが愕然とするのも無理はなかった。
「この土地を治めればどうなるのだ?」
何気ない清正の言葉に直茂らの目が光る。
全員が鼻息荒く出発していった。
同時に城の点検、修理も始められる。
また、今回の異変には将兵だけではなく、近隣に住んでいた民衆も巻き込まれている。
思い思いに煮炊きの水、薪がないか近くを探しに行った。
「何なのだここは?」
城の北に流れていた川を渡り、対岸を調べに出た清正が不思議な顔をする。
「まるで開墾がされていない?」
行けども行けども田んぼはおろか畑すらない。
道がある訳でもなく、茂る草を掻き分けて進む。
「ここの統治はどうなっているのだ!」
怒りの声を上げた。
「肥えた土地ではないか!」
城から南に向かった直茂が驚く。
行く先々の大地は草に覆われていた。
「こんな場所で何も作られていないのか?」
平原にも拘わらず、耕作している様子が感じられない。
自分の領地であれば真っ先に開墾し、田を作るだろう。
「何と勿体ない……」
直茂は知らずに溜息を漏らした。
「直茂様!」
呆けた様に景色を眺める直茂に配下より報告が入る。
「どうした?」
「集落らしき物を見つけました!」
「何?!」
早速その場に向かう。
その集落は小さな丘の上にあった。
「人は?」
「はっ! 探しましたが誰もおりません!」
成る程、見た所その集落には人気が無い。
家らしき空間の周りも草が茂っている。
長年、誰も足を踏み入れていない様子であった。
「直茂様、骸骨がありました!」
「どこだ?」
「こちらです!」
それは木を組んで作った家らしき建物の中だった。
「これは寝かされているのか?」
確かに骸骨が地面の上に横たわっていた。
白骨が数体、等間隔で並んでいる。
「病だろうな」
調べた所、骨に刀傷といった類はない。
体の大きさもまちまちである。
戦乱に巻き込まれて亡くなったとは思えない。
「直茂様、他の場所にもありました!」
「成る程」
他の場所にも地面に横たわったままの骸骨があった。
「流行り病か……」
直茂は呟いた。
病気が蔓延して村が滅びたのだろう。
「しかし、何も無いな……」
遠く名護屋城はあったが、他に人工物は見えなかった。
※調査の方向