軍議
文字数稼ぎっぽい話となります。
驚きは双方の陣営で起こっていた。
片方は現在位置について驚いており、もう片方はその驚いている者らの正体を知って驚いている。
『あのジパングだと言うのか?』
フロイスの説明に信じられないという顔をした。
『この建物はどうやって作った?』
彼らが前回この辺りを通ったのは半月前らしい。
それからの短時間でこれだけの物をどうやって作るのか不思議に思った様だ。
『そういえば、今日は何年の何月何日ですか?』
フロイスが何か思いついたのか、今日の日付を尋ねた。
『1592年4月……日だ』
『成る程……。そうでしたら我々は、昨日まで日本、つまりジパングにいた事になります』
『何だと?!』
とても信じられる話ではあるまい。
フロイスに質問が殺到した。
「それでは軍議を始めたいのだが、小生は若輩の身ゆえこの場は小早川殿に任せたいと思う。如何だろうか?」
秀家が口にした。
名護屋城の大広間には蝋燭が灯り、真剣な顔をした諸侯が詰めかけている。
小早川隆景は秀吉の信任も篤く、実力も申し分ない。
諸侯にとってもその提案を否定する理由はなかった。
それを受け隆景が発言する。
「不肖の身なれどお受け致す。皆の衆も聞いたかもしれないが、ここはどうやら日の本ではないらしく、南蛮人によるとヌエバ・エスパーニャ副王領だそうだ。彼らの地図では日の本がここ、ヌエバ・エスパーニャがここだ」
隆景は西洋の地図を諸侯に回して説明していった。
武将達も大まかな事は聞いていたが、改めて現在地を地図で示されると衝撃は大きい。
普段であればとても受け入れられる話ではないが、雷が鳴るまでは朝であったのに今はすっかりと暗くなった外を見れば、おかしな事が起きている事は実感出来る。
城に来る間に景色がおかしい事にも気づいていたので、元居た場所でない事だけは確かであった。
なお、今回の軍勢は以下の通りで、主だった武将は軍議に参加している。
第一軍、朝鮮国先駆勢
一番隊
宗義智(24歳)5千、小西行長(34)7千、松浦鎮信3千、有馬晴信2千、大村喜前1千、五島純玄7百
二番隊
加藤清正(30)1万、鍋島直茂(54)1万2千、相良頼房8百
三番隊
黒田長政(24)5千、大友吉統6千
四番隊
毛利勝信2千、島津義弘(57)1万、高橋元種、秋月種長、伊東祐兵、島津豊久(22)ら2千
五番隊
福島正則(31)4千8百、戸田勝隆3千9百、長曾我部元親(53)3千、蜂須賀家政7千2百、生駒親正5千5百、来島通之、来島通総ら7百
六番隊
小早川隆景(59)、安国寺恵瓊(53)ら1万、毛利秀包1千5百、立花宗茂2千5百、立花直次8百、筑紫広門9百、毛利輝元(39)、吉川広家ら3万
第二軍朝鮮国都表出勢衆
七番隊
宇喜多秀家(総大将)(20)1万、軍監として黒田孝高(42)、増田長盛1千、石田三成(総奉行)(32)2千、大谷吉継(27)1千2百、前野長康2千、加藤光泰1千
八番隊
浅野幸長3千、宮部長房1千 南条元清1千5百、木下重堅8百、垣屋恒総4百、斎村政広8百、明石則実8百、別所吉治5百、中川秀政3千、稲葉貞通1千4百、服部春安8百、一柳可遊4百、竹中重利(軍目付)3百、谷出羽守4百、石川康勝3百
九番隊
豊臣秀勝8千、細川忠興(29)3千5百、長谷川秀一5千、木村重茲3千5百、太田一吉(軍目付)百、牧村利貞7百、岡本重政5百、糟屋武則2百、片桐且元2百、片桐貞隆2百、高田豊後守3百、藤掛三河守2百、小野木重勝1千、古田兵部少輔2百、新庄直定3百、早川長政2百、森重政3百、亀井茲矩1千
水軍
九鬼嘉隆(船大将)(50)1千5百、藤堂高虎(36)2千、脇坂安治1千5百、加藤嘉明(29)1千、菅平右衛門2百、桑山小藤太・桑山貞晴1千、堀内氏善8百、杉若伝三郎6百である。
どんよりとしている諸侯の中、清正が疑義を唱える。
「ここが名護屋ではない事は納得するが、南蛮人が嘘を言っているとは考えないのか?」
尤もな意見に諸侯が頷く。
行長がフロイスの説明を伝えた。
「南の空に十字になった星が見えると思う。あの星は我が国では琉球(沖縄)でしか見えないそうだ。ここが琉球でない事は義弘公がご存知の筈」
開け放った襖から星空が見え、空に大きな南十字星があった。
行長に問われ、義弘は首肯する。
「ここは琉球ではない」
これで少なくとも日本ではない事が確定した。
諸侯の顔が沈む。
そんな中で行長が言った。
「ここがヌエバ・エスパーニャだとして、実は簡単に日の本に帰る方法がある」
「何だと?!」
その言葉に一同は衝撃を受けた。
主な人物のみフリガナ、年齢を書きました。